トライアルを始めるのって、敷き居が高いという人がたくさんいらっしゃいます。でも、もしかしらその敷き居って、ご自身が築いてしまっているものかもしれなくて。オートバイは楽しくも自由な乗り物です。そこを忘れちゃおもしろくないってもんであります。
ぼくらが子どもの頃には考えられなかったけど、最近は子どもをオートバイに乗せるというおうちが少なからずある。英才教育というのかもしれないけど、放課後に校庭で野球をやっている程度のレクリエーションとしてのオートバイ教育でもいい。なんにしたって、いまどき親子がいっしょに遊ぶのは貴重だから。
黒山健一、成田匠はお父さんも立派なトライアルライダーで、藤波貴久パパも素人ではなかった。だけど一方、お父さんがライダーでも、子どもがさっぱり興味を示さない場合もある。小さいときに乗せたけど、とってもこわい思いをして、以後頑として乗らないなんてのが、よくあるケースだ。
実はぼくも、3人目の娘のときに、ようやくライダーのお父さんになれた。上の二人はいまいちその気になってくれなかった。性格や趣味の問題だと思ってたけど、どうもちがいました。
最初、TLM50の中古を手に入れた。でも、これに乗るのはむずかしかったらしい。次に、クラッチつきのTY80を手に入れた。トライアルやるなら、クラッチつきじゃないとという思いがあったからだ。このTYはいささかポンコツにすぎたのもあって、お気に召さなかったようだ。
三人目の時、こんなんじゃトライアルはできないなぁと思いながら、QR50を買ってあげた。そしたら、これがおもしろかったらしい。クラッチ操作もなく、簡単に走るし、足は充分届く。トライアル場に出かけていって、みんなの走る横を延々と走っているうち、彼女はすっかりオートバイが好きになった。
トライアルをやっているお父さんは、ついつい背伸びをしてしまう。中学生時代の藤波貴久はこのくらいのオートバイに乗っていたから、うちの子どもにも同じようなのを与えて、そしたらこのくらいのセクションは走れるんじゃないか、なんてね。当の子どもの気持ちは考えちゃいないわけだ。
三つ子の魂百までという。世界チャンピオン藤波貴久になぞえると、この時代の藤波は、英才教育なんてどこ吹く風、るんるんと楽しくオートバイで走り回っていた。子どもはあっという間にうまくなるから、楽しい中にも課題は出てくるわけだけれど、課題ありきじゃなく、楽しく走るための道具がテーマであり目標だった。
ここからが今回のお題だ。今回のお話は、子どもをトライアルライダーに仕立てましょう、というお題目じゃない。読者のみなさんがトライアルを始めるにはどうしたらいいか、どうして始めないかという点について、子どもを酒の肴に考察してみたいのである。
こわい思いをして二度とオートバイに乗らないトップライダー氏のお子さんは、最初が楽しくなかった。一方楽しいオートバイ遊びを小さい頃にたっぷり仕込まれた藤波貴久は、今だにオートバイに乗っていれば機嫌がよくて、その勢いで世界チャンピオンになった。トライアルがおもしろくてためになるモータースポーツだとしても、オートバイ本来の楽しさを感じられなかったらおもしろくもなんともないし、続けられない。続けないとうまくなるものもならないから、さらに楽しくない。
つまり、トライアルで上達するには、まずなによりも楽しくトライアルやりましょうと、ご提案したい。
あったりまえじゃないの、と思う人多いですね。楽しいことはいいことだなんて、いまさら言われなくてもわかってる。でもトライアルを始めると、岩とか坂とか、具体的な目標が目前にあるもんだから、ついそれに向かって突進してしまい、もんどりうって落ちてくるなど“玉砕”したりするのです。玉砕が楽しい人もいるので止めはしませんが、玉砕する練習は趣味じゃないとトライアルから去っていく人もいるってことに気がついた。みんながみんな、あたってくだけろ精神じゃないわけだ。
小さい子どもが自分の身の丈にあったオートバイで、ぐるぐる走り回っているのが楽しいように、トライアル入門も「まずあれをする、次にこれをする」というメニューにしばられないで、お気軽に野山を走るところから始められたら、きっと楽しくトライアルが上達するにちがいない。さぁ、あなたも子どもに返って、もう一度オートバイをやりなおしてみませんか。
子どもには、小さな石も大きく見えるかもしれないけど、それより、広く大きく自由なオートバイの世界を満喫しているのです、たぶん。そして、あなたも。
次からは、不幸にして近所にお気軽に走れる野山がない人がトライアルに親しむための、都会でできるトライアル入門について考えます。トライアルは頭の体操でもあります。どこででもできるから、ご安心を!
大人用の3割の大きさをめざしてつくったら、できあがったトラッパーちびは、ベータミニとほぼ同じディメンションになったという。ちなみに、大人用のトラッパーはガスガスTXT Proから寸法を採って作ったということだ。
子どもは、トラッパーで遊ぶのが好きだ。転がしておくと、またがったり手を離したりして遊んでいる。しかしいざフロントをあげてみようということになると、ぜんぜんできない。もちろんこつがわかんないのもあるんだけど、大人用のトラッパーはハンドルが遠くて、手が伸びきってしまってまともなアクションができないのだ。ハンドルは短くできるけど、その他の寸法がでっかいからいかんともしがたい。
靴でも道具でも、からだにあったものを使うのが一番。子ども用トラッパーちびは、オートバイに乗りたくても乗れなくてトラッパーに夢を託す大人たち同様、子どもに新たな夢を与えてくれるにちがいない。
価格:23,940円(税込)
カラー:ブラック、レッド、ブルー
トラッパーII同様、宮岡啓太主演のテクニカルDVDも付属する。
ガスガスの意欲作、80カデットが日本に上陸。全日本中国大会、中部大会、最終戦と、パドックにひっそり置かれていましたが、あんまり注目を集めてはいなかったみたい。カデットが注目を集めるマシンでないということではなくて、どうもみなさん、このマシンがなんなのかを知らないみたい。とてももったいないので、もう一度ご案内します。
このマシンは、19インチ17インチのホイール径を持つ、72ccのちょっとかわいいトライアルマシンです。万人にとはいいませんが、入門用としてはなかなかお勧めです。
写真は、カデット80とTXT Pro 250とを並べてみたもの。大きさのちがいは、わかってもらえるでしょうか?
ガスガスにはこれまで、ルーキーとボーイという入門マシンが用意されていた。ボーイは50ccで遠心クラッチ採用(ただしクラッチレバーを装備していて、マニュアルでの半クラッチ操作はできる)、こちらは16インチ14インチのホイール径を持つかわいいかわいいマシン。ルーキーは、21インチ18インチの大人サイズ。エンジンは72ccのマニュアルミッションで、エンジンが小さい以外は大人マシンと同じ仕様を持っている。フレームの寸法も、基本的には兄貴分の250ccなどと同等。
ガスガスは、ほかのメーカーにもまして入門カテゴリーが充実している。それでも、欲を言えばきりがないから、ボーイを卒業したけど、ルーキーにはまだ早いという少年のために登場したのが、このカデットというわけだ。
エンジンはルーキーと同じ72ccを使う。6速ミッションを装備したマニュアルクラッチ装備と本格的。ただしトライアル専用のエンジンではないので、ちょっと低速トルクに物足りないところあり。それでも、軽量な子どもが乗るのだと割り切れば、大人を運ぶほどのトルクは必要ないかもしれないし、足りないパワーをクラッチを使ってどんどん引き出すテクニックを学習できるかもしれないから、入門・訓練用マシンとしてはこれでもいいのかもしれない。亜路欧の黒田さんによると、きちんとキャブレターセッティングを出せば、もう少しは低速トルクが出るようには調教できるはずということだ(つまり現状、試乗車はちゃんとセッティングが出ていない状態。試乗車からして需要がない、お客さんにも情報が届かない、買う人がいないから、輸入も及び腰になるという悪循環。なんとかならないか!)。
カタログスペックでは、車重は57kgとなっている。軽量化に腐心したTXT Proからしても、まだ10kgほど軽量だ。エンジンも軽いしホイールサイズも小さいから当然かもしれないが、この車重は文句なしにすごい。
マシンが軽いと、なんでもできるような気がする。実際にはテクニックがなければなにもできないのは変わらないのだが、できないと思ってトライするときに、できるようになることはほとんどない。なせばなる、というように、できると思わなければできるものもできない。
そういう点で、できるようになるには軽いマシンに乗るのがよろしい。250ccのトップマシンも充分に軽いのだが、トップマシンに乗ったからといって、トップレベルのセクションが走れないのは自明の理。自分のレベルの範囲のセクションをきちんといけるかどうか、という点では、この車格のマシンを最初の1台に選んでみるのは、子どもだけでなく、大人の入門者にとっても悪くない選択だと思われる。
重さだけじゃない。ホイールサイズが小さいのも、入門者にとっては大きな魅力だ。これ、トライアルをやっている人に言わせると、魅力だと思っている人がごく少ない。トライアルでは、長年にわたって21インチと18インチのホイール径による絶対支配が続いてきた。それ以外のホイール径によるトライアルは、ごくごく少数派で、主流ではなかった。逆に言えば、それだけ21インチと18インチのホイール径の走破力の高さが魅力だったということだろう。
一方、初心者の視点にたつと、この走破力を生かして最初からがんがん走れる初心者など、ほとんどいない。岩の手前でアクセルを戻しブレーキをかけ、大径ホイールが自然に持っている走破姓をわざわざ殺してしまうテクニックを持っているのが、初心者というものだ。
こういう人にとって、大径ホイールは威圧感を与えるだけということもある。どう計算してもその心理状況を数式で表すことはできないのだが、フロントタイヤが30cmの段差に乗り上げたときは、21インチであろうが17インチであろうが、平地にいるよりも30cm高くなるという点では変わらないはず。それでも、ホイールが大きいと自分ではコントロールできない圧迫感を感じるし、小さなホイールならなんとかなるという安心感を感じるのは事実だ。
あまり小さなホイールでは石や岩に引っかかってまともに悪路を走れないが、それでも小さく軽いマシンなら、悪路に引っかかるたびに持ち上げればなんとかなるという気持ちの余裕も生まれる。カデットは、そういう意味で大人のための入門マシンとしても、ずいぶんと優れたマシンだと断言できる。
そうそう。大事なことがある。このマシンは、21インチ18インチのサイズでないマシンでは珍しく、ちゃんとしたトライアルタイヤを装着しているのだ。16/14インチホイールを採用したボーイでは、チェンシン(台湾)製タイヤを採用していた。小さなホイールのトライアルタイヤは、かつてはTY50/TY80/TL50などで使われていたが、当時のタイヤは今は絶版で、どちらにしても、いまどきのラジアル主流のトライアルタイヤとは性能面での格差は大きすぎる(でも子どもが乗ると、大人ほどにはタイヤの性能差を感じさせない走りを見せたりする。体重の軽さは、もしかしたら大きな武器かもしれない)。
そこでこのカデット。19/17のタイヤは、タイのVee Rubberという会社のものを装着している。これが実は、ミシュランやダンロップなどの世界的主流のトライアルタイヤを徹底研究して作られたタイヤで、つまりこのサイズのタイヤとしては、圧倒的高性能を誇るものなのだ。このマシンの大きな特徴が、このタイヤにあるといってもいいかもしれない。
新車価格は541,800円。一般的には高いマシンということになるのだろうが、新車でこのお値段だから、250マシンに比べればだいぶ安い。この手のマシンが20万円台になればあなたも私も大喜びだが、新車が20万円台というのはありえない。かくなるは、まず新車にたくさん売れてもらって、その中古車が順調に流通するのを待つしかない(50万円のマシンが20万円になるには、ていねいに乗られたマシンなら、5年くらいはかかりそう)。
将来、世界チャンピオンを目指したい子どもたち。あるいは、大きなマシンに威圧感に感じるおっかながりの初心者の皆さんには、このマシンにもっと注目をしてもらいたい。10年、20年後も世界制覇を目指すスペインが、若手養成のために用意したマシンである。これを無視して、日本がスペインに追いつき追い越せるわけはない。
*2010年追記:2010年はガスガスはこのマシンを生産しないという発表がインポーターからあり。ガスガスの公式ページにはまだラインナップがあるが、残念!