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200711/12

サイドバルブ〜

07ガスガス4T右

07ガスガス4T左ガスガスエンジンを左右から見る
Photo Santi Diaz (SoloMoto)

 4ストローク化の流れに、最後まで知らん顔を決め込んでいたガスガスが、ミラノショーでついに4ストロークマシンを発表した。まだプロトタイプというからこれから変更もあるかもしれないけど、開発方針が180度変わっちゃうこともないだろう。


 登場したガスガス4ストロークマシンは、なんとサイドバルブだった。サイドバルブってのは、その名の通りバルブがシリンダーの横についてるからこういう名前なんだが、いまどき、ライトバンだってDOHCエンジンを積んでいるから、サイドバルブエンジンの登場は、ちょっとびっくりだ。
 4ストロークエンジンの歴史を思いきりどんぶりで振り返ると、最初にサイドバルブエンジンあり。しかし燃料室形状などに制約が多いので、バルブをピストンと向きあうように配置したオーバーヘッドバルブエンジンが高性能を絞り出す切り札となった。これを略してOHV。その時代はチェーンの信頼性があやしかったので、クランクのそばに配置したカムシャフトとバルブの連結には、プッシュロッドが使われた。今ではプッシュロッドを使ったエンジンのことをなんとなくOHVというけど、本来はバルブがてっぺんにあるエンジンのことを意味するわけだ。昔のBMWとか、ぼくが持っているトライアンフ・タイガーカブはこのエンジン形式です。
 しばらくして、重たい金属の棒をしこしこ動かしているのがおっくうになった。往復運動は両端で折り返すときに慣性が発生する。プッシュロッドをやめて、カムシャフトもシリンダヘッドのてっぺんに持ってきた。オーバーヘッドカムシャフト。略してOHC。バイアルスもRTL250Sも250Fも、スコルパ125Fも、みんなこのOHC形式だ。カムシャフトの駆動はチェーンを使っている。チェーンは一方向に動き続けるから、往復運動の慣性の心配はなくなった。
 でも欲はつきない。1本のカムで吸気と排気の2本のバルブを動かすには、ロッカーアームというシーソーみたいなパーツがいる。こいつの慣性を排除したくて、OHCはDOHCになった。Dはダブル。よくダブルをWと略す人がいるけど、あれは何語なのかしらん? 英語圏の人にも通じるのかなぁ。
 さて給排気それぞれのバルブに1本ずつカムシャフトを置いて、ロッカーアームを使わずにカムがバルブが直接押すシステムだ。昔は一部のレーシングエンジンにしか使われなかった高嶺の花のメカニズムだったが、自動車でもオートバイでも、いまどきはわりとふつうのメカになっている。トライアルでは、スコルパSY250Fが、DOHCの5バルブエンジンを積んでデビューした。
 商用自動車にDOHCの必要があるのかどうかはさておき、トライアルマシンはどうだろう。スコルパ250Fがデビューするとき「トライアルは、とっくの昔の遅乗り競争の時代を卒業した。これからのトライアルはDOHCのパワーが必要になる」という説があった。事実、高い高いヒルクライムなどで、2ストローク勢やホンダ4ストロークが登りあえぐところをスコルパDOHCがあっさり登った衝撃のシーンは少なくなかった。
 スコルパ250Fは、もともとのエンジンはエンデューロマシンのWR250Fだ。たいしてモンテッサのためにホンダが用意したのは、CRF250Rのエンジンを大改造したものだった。大改造というより新設計に近い。ユニカムと呼ばれる高回転高出力用のご自慢のシステムを放棄して、ふつうのOHCに作り替えた。ユニカムは、シリンダヘッドが大きくて、トライアルには不向きという判断でもある。DOHCをそのまま積んだスコルパは、ホンダのやり方とは対照的だった。
 しかしトライアルマシンにとって、軽量コンパクトは至上命令だ。シェルコは吸入効率のことを考えたらやりたくないだろうに、キャブレターからシリンダヘッドまで、ぐにゃりと曲がったインシュレーターを用意した。大胆。キャブレターがシート高を高くするのをきらったためだ。
 みんな、それぞれ独特の技術と想像力でトライアルマシンを仕上げてきたが、スコルパのDOHC以外は、いずれもOHC(SOHC=シングルオーバーヘッドカム)を採用した。軽量コンパクトと高回転高出力の両方を満たすには、OHCが順当な選択だったのだろう。
 というところに、サイドバルブの登場だ。もっとも新しいサイドバルブエンジンがいつ登場したのか、なんてのはエンジン史探究家におたずねしないとわかんないが、戦後、小さなオートバイメーカーが乱立していた時代はともかく、ホンダがマン島TTで一旗揚げようという時代には、サイドバルブを積んだオートバイなんて、見向きもされない傾向になっていた。サイドバルブは、いかにも遅いという代名詞みたいになっちゃっていた。
 トライアルマシンが4ストローク化されるにあたって「トライアルなんてたいしたパワーはいらないんだから、サイドバルブにでもして小さなエンジンを作ったらいいのができるんじゃないのかなぁ」なんて冗談をいっていた覚えがありますが、手前の場合はまったく技術的根拠がない酔っぱらいの戯言です。しかしそんな戯言をいっている間に、スペインの技術者は、おおまじめにサイドバルブエンジンを開発していたのだった。しかもこのサイドバルブときたらフューエルインジェクション装備である。新しい技術と古来の技術の融合という点でも、おもしろい。
 はたしてどんな性能が発揮されるのだろう。どんなトライアルができるんだろう。元祖インジェクションのホンダエンジンや、DOHCのヤマハエンジンとはどんな戦いを演じるんだろう。
 ともあれこれで、現存するすべてのメーカーから世界選手権に参戦するための4ストロークエンジンが出そろった。2ストローク時代にはどれも同じようなスペックだったけど、4ストロークは見事にさまざまなスペックが並んだ。それでも最終的にトライアルの成績を左右するのはライダーのテクニックなんだろうけど、しばらくはマシンを(エンジンを)眺めているだけでも楽しい日々が続きそうだ。

メーカー 車名 バルブ装置 バルブ数 冷却 発表年
スコルパ 125F SOHC 2 空冷 2004
モンテッサ Cota4RT SOHC 4 水冷 2004
シェルコ 3.2 4T SOHC 4 水冷 2004
スコルパ 250F DOHC 5 水冷 2005
ベータ 4T SOHC 4 水冷 2007
ガスガス 4T SV 2 水冷 2007

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