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原発見学

福島原発を、見る

原発見学に行ってきた。

うちから25km弱のところにある二つの原子力発電所施設。でもそこは、なかなか見に行ったりすることができないところだけれど、機会があって、二つの施設を見学することができた。

今回のお誘いは、ひょんなところから飛び込んできたものでありがたかったけれど、地元では数年前から原発を見学できるように段取りしてくれる人がいて、人づてに見にいかないか、というお誘いは受けていたのだけど、なかなか日程があわずに残念つづきだった。今回もなかなか厳しい日程だったんだけど、ようやく入ることができるようになった。

政治家の先生とか、村の議員さんたちも2012年くらいの、けっこう早い時期から視察に入っていて、必至で続けられる収束作業を確認してきた人はけっこう多い。でも一般人が見学に行くのは、なかなかむずかしいものだった。一般の人が見学に行けるようになったのは、まだこの2年ほどのことだ。

すでに何万人という人が原発視察に出かけていて、その間に収束作業も進んで、もう今となっては見るべきものも多くないのではないかという疑問もあったのだけど、一度は行っておくべきところだと思い、原発へ向かった。

この村に引っ越してくるとき、近くに原子力発電所が建っていることは承知していたのだけれど、行ったこともなければどこにあるのか、正確な場所も知らなかった。ただ、近所のいろんな人が原発を仕事場に通っているのはだんだん知らされてきた。いろいろ複雑な思いはあるんだけど、それが土地の宿命ってやつなのだと思う。

今回の見学は、第二原発(二エフ)と第一原発(いちエフ)の両方でおこなった。両方見ることによって、より得られることは多いだろうという今回の世話人さんの思惑だ。ちなみにいちエフ、二エフ、というのは現地の作業員による原発の呼称で、ふくいちとかわいく呼んでいるのは東電による愛称らしい。現場では、もっぱらいちエフと呼ばれていて、いちエフ作業員向けのお知らせのタイトルも「いちえふ。」となっている。

二エフは、地震と津波で、いちエフと同じような被害を受けながら、ぎりぎりのところで電源の供給が間に合ってあそこまでの事故にはならずにすんだ。いちエフは燃料がおっこっちゃったり建屋が爆発したりして、放射線量も高い。建屋に入るどころか、近寄るのも不気味な線量ではある。でも二エフは、建屋は健在だし施設に入って見学することができる。壊れていない原子力発電の仕組みも(なんとなく)理解できるというものだ。

そんなわけで(話はそんなに簡単じゃないだろうけど)今の二エフは廃炉収束がむずかしいいちエフのバックアップとして存在していて、原子力発電所の理解を広めるための、ぼくらみたいな視察を受け入れる教材としての役割も担っている気がする。

二エフは、いちエフと比べるとずいぶん小さくて、その分、発電所のしくみなどもわかりやすい気がする。そして二エフは格納容器などに致命的な損傷がなかったから、建屋内に人間が入ることもできる。ぼくらも、格納容器の中、ペデスタルと呼ばれるエリアに入った。核燃料が入っているべき圧力容器の真下。いちエフで燃料デブリが落ちているといわれていて、カメラが入って600Sv/hを記録したとかとセンセーショナルに報道されたあのエリアだ。いちエフならここに入ったら死んでしまうし、稼働している格納容器なんかに入ることは逆立ちしても許してもらえそうにないから、これはたいへんに貴重な経験だった。

第二原発圧力容器下見学者の部分は見えなくしました。ぶら下がってるのが制御棒を制御する配線とからしい。

なんせ核反応を止めるための制御棒が出入りするところだから、多少の線量はあって、このエリアはだいたい1mSv/hくらいあった。日ごろ、線量が高いのなんのと騒いでいるところが0.5μSv/hくらいだから、その2000倍ほどの線量だ。でもこの日ここに来ている人は、それが人体にとって甚大な影響を与える線量ではないことを知っている。ましてここに入れてもらえるのはせいぜい5分少々だったから、その被曝量は屁みたいなもんだ。

二エフでは、他にも建屋6階のオペレーションフロアから燃料プールを見下ろさせてもらった。いちエフでは2号機以外、6階は吹き飛んでなくなってしまっている。そのオペレーションフロアというのは、燃料プールのある高さのフロアで、入れてもらったのは原子炉から燃料プールに燃料を移したりするときのクレーンを操作する部屋らしい。こんなところに入れてもらっていいのかと思ったけど、机の上には操作盤とかハンドルとかは見当たらなかったから、作業するときにはそれ用にセットアップするんだろうなと納得した。

中央制御室のシミュレーションをおこなう研修センターもすごかった。ここでは3月11日のいちエフで起こったことを10分くらいに凝縮して見せてくれたけど、電源が次々に落ちて全電源を喪失して部屋が暗くなるというところまでを再現してくれた。本当にそんなことになったらびびりまくっちゃいそうだけど、刻々と襲う異常事態に対して、冷静に対応していくスタッフたちの姿勢は頼もしくもありちょっと不気味でもあり、複雑な印象だったのが正直なところだった。訓練だから、かもしれないけど、2011年には実在したシーンだと思うと、より複雑だ。

第二原発制御室シミュレーション室で、3月11日の制御室の様子を再現してもらった。次々に電源が落ちて、制御室が真っ暗になった。

二エフは、外から見ると健全を保っているから、再稼働するんじゃないかとか、再稼働されたらたまらないからさっさと廃炉にしろとか、いろいろ言われている。発電してなんぼの財産なのだから、営利企業としては運転して発電してほしいにちがいないのだが、見る限り、核燃料を安全に保持する以外の、電気を起こすための施設は錆びたままになっているものも多く、少なくとも二エフが再稼働に向けて準備中という雰囲気はまったくなかった。

東電は二エフの廃炉宣言をなかなかしないけれど、手続きやなんかで、いろんな都合があるんじゃないかと勝手に想像しています。きっといろんなことで、今はまだ原子力発電所であり続けるほうが都合がいいんだと思うけど、それが再稼働を目指していると誤解されることもあるだろう(あくまでも誤解であってほしいけど)。

二エフまで1時間で来られる川内村住民としては、自分の家に帰ることも可能だったけど、遠くから来た人もいてみんなで泊まるというので、ごいっしょさせていただいた。なんせ、いっしょに見学した仲間の素性を知るためにも、一晩一緒に過ごして、生態を観察しなければいけない。

されども、マニアックな皆様の素性は、そうとうに濃い方々だというくらいしかわからなかった。大学の先生やら研究者やら、それぞれの分野の専門家であるのはまちがい。見学を終えてからの質疑では、たいへんにマニアックな質問が飛び交って、発電所のスタッフが答に窮する場面もあった。記憶にございませんとか、立場上答えられないとかじゃなくて、それは調べたことがなかった、気にしたことがなかったなぁ、というような質問で、もちろんぼくにはその質問になんの意味があるのかさっぱりわからない種類のものだったけれど、質問主には重要な意味を持っていたにちがいない。そして、答を得られなかった問いについては、あとからちゃんと答が返ってきていた。巷での評判とはちがって、その誠実な対応に感心したもんだった。

さて翌日、いちエフ見学は富岡の双葉警察署前の旧エネルギー館から出発する。エネルギー館は原発のPRセンターみたいなもので、一度だけ震災前に行ったことがある。ジブリのキャラクターを無許可で使ったとかで問題になった前後の時期だったから、もしかするとジブリのキャラクターもいたかもしれないんだけど、安全性をうたうばっかりで逆に心配な印象の強かった施設という覚えがある。

今はもっぱら第一原発の視察集合場所として使われているようだけど、富岡町でも住み始めた人がいるようなので、ちがう使われ方をされ始めるかもしれない。ちなみにこのエネルギー館は二エフのPRセンター。いちエフにはそういう施設はなかったのだそうだ。

二エフには直接自分の車で出かけて、旧エネルギー館からはみんなでバスに乗っていちエフに向かう。自分の車で何度も通った道のりも、見学用のバスで向かうと印象もちょっとちがう。もちろん、国道6号線を原発方面に右折した先は、ぼくは見たことがない光景だ。

いちエフは、あらゆる点で二エフよりもでかい。二エフには原子炉は4つしかないけど、いちエフには6つある。それだけでもでかいんだけど、敷地自体ももともとでかい。昔は野鳥が飛び交う森だったところが、今は汚水タンクが林立している。敷地がぎりぎりだったら、タンクを立てる場所がなくて大弱りになっていたところだった。自然の森が汚水タンク広場になってしまったのは残念だけど、原子力事故なんだから当然の結果のような気もするし、原子力事故が起きなくても、各地の開発によって自然の森はじゃんじゃん破壊されているのだから、人間という動物はつくづくあほなことをするもんだなぁという気がする。

免許証など、写真入りの身分証明書を提出して、一時立ち入りをするためのIDカードを作ってもらう仕組みは、二エフと変わらない。身分証明書のコピーをとられることに拒否反応を示してごねた見学希望者もいたということだけど、丁寧にご説明して納得していただいた、ということだった。同行していた東電の復興本社のスタッフもぼくらと同様に身分証を提出してカードを作ってもらっていたから、こういう儀式を経て、原子力施設のセキュリティは厳しいという当たり前のことを再確認することになる。

二エフでは原子炉建屋にも原子炉内にも入ったのに対し、いちエフではそんなところには入れない。見学の多くは、別のバスに乗り換えて、バスの中からおこなうことになる。前もって構内の地図はもらっているけど(公開しないほうがいい地図なのだろうけど、グーグルマップであらかた見えてしまうから、機密保持もむずかしくなったものだ)これまでにニュースになったいろんな事象をちゃんと理解して覚えておくと、見学もさらに有意義になるだろうと思う。

津波のあと津波ライン。観光客向けではない。ここで働く人たち自身がこれを見てなにかを思い起こすのだろう。

放射性物質を取り除くALPSという施設の横を抜け(建屋の外からではどんな機械なのかはわからないけど)バス停みたいなものが津波で現れたままになっている感じの丘の上で、大事故には至らなかった5号機、6号機をながめ、別の丘の上に上がると1号機建屋の目の前に出る。

1号機は最近までカバーがかけられていて、今はそのカバーが外されて、燃料プールからの使用済み燃料取り出しや溶けた燃料などを回収する(まだまだ先の話だろうと思われるけど)次の段取りにかかろうというところみたいだ。

建屋の外観は東電のサイトでもある程度リアルタイムで見ることができるので、自分の目で見てもそんなに感動はしないかと思ったが、それでも実際に見たこわれた原子炉建屋には迫力があった。今回の視察は放射線計測の専門家たちの集いだったので、線量計の持ち込みが許可されていた(これは特別らしい)。だもんで、原子炉建屋にバスが近づくと、メンバーが持ち込んだ計測器が、あちこちで線量警告のアラート音を発する。最初はちょっとした緊張感を醸し出していたが、そのうちうるさいような、ちょっとこっけいなように思えてきた。

構内の線量計構内のそこここに立っている線量モニターのひとつ。46.2μSv/hは、壊れた原発的にはまだまだ高くない数値だと思う。

一番高線量のところで50μSv/h前後だったと思うのだけど(持ち込みの線量計は30μSv/hくらいだったけど、モニタリングポストが50μSv/h弱の数字を示していたのは確認できた)それは見学コースの線量であるわけで、作業現場はもっと汚染されたところであることも多い(必ずしもいちエフ敷地内のどこもかしこも、というわけではないのだけれど)。ぼくらが浴びる放射線量など、アラーとが鳴ろうが鳴るまいが、微々たるもののはず。バスの外では、線量管理をしながら廃炉作業に従事している人が何千人といらっしゃる。放射線は浴びないに越したことはないけれど、線量管理をしながら仕事をしている人がたくさんいて、それはぼくらが日常的に線量が高い低いという数値とは二ケタくらいちがう環境だということは、もっと知られていいと思う。

線量地図構内の線量地図。作業員のみんながつい近寄ることがないように、このあたりの周知は気を使われている(当然だ)。

1号機建屋を見下ろす丘から、ぐるっと回って次は4号機から3号機へ。4号機の原子炉はこわれていないし、3号機も1号機と2号機よりは線量が低いのだろう、こちらはすぐ前の道から、建屋を見上げることができた。建屋入口にはコンクリートの鉄筋がむき出しになっているところがあって、作業上壊したのかと思ったら建屋の爆発で吹き飛んだままだということだった。

4号機はすでにすべての使用済み燃料を取り出したので、もはや管理をする必要もほとんどなくなっている。燃料プールにはがれきが山ほど落ちていて使用済み燃料も破損しているのではないかとかいろいろ心配している人はいたけれど、案内してくれた人によると、引っぱり上げるフックが少しひしゃげていたりするのはあったけど、取り出しに困るようなものがあったという話は聞いていない、という感じだった。でも1号機2号機が、同じようにスムーズかどうかはわからない。

この、建屋を見上げるあたりでの線量も、1号機を見下ろす丘と同じく、50μSv/h弱くらいだった。距離がうんと近いから、こっちはずいぶん線量が低い。

倒れた鉄塔確か、バスツアーの最後に通った道の横には、倒れた鉄塔がそのままになっていた。これで(これもあって)原発は電源を喪失した。

建屋まわりの見学を終え、中に入れるかどうかは最後まで約束できないといわれていた重要免震棟にも立ち寄らせてもらった。2011年当時には、亡くなられた吉田所長が陣頭指揮をとっていたそのものの場所ということで、なにやら深く複雑なものを感じるところだけど、そこでお仕事している人は静かに黙々とパソコンに向かいあっている。廃炉作業は通常作業とはほど遠いには違いないけど、ここのみなさんにとっては、廃炉作業が通常作業となっているのかもしれないと思ったものだった。

免震棟にはカメラがあって、テレビ電話のシステムもある。こちらの映像は本店や官邸にも届いているということで、ならば今ぼくらが写っているこの映像も、官邸の人が見ているんですか? としょうもない質問をすると、見る気があれば見れる状況ではあります、と答えてもらった。

食堂のメニュー食堂のメニューがこちらです。

最後に、作業員の待遇改善のために最近建てられた大型休憩所に立ち寄って、作業員のみんなとおんなじお昼ご飯を食べさせてもらう。ご飯はプリペイドカードで食べるようになっていて、お値段は一律380円。プリペイドカードは保証金500円をとられるのだけれど、払い戻しができるということだった。でももったいなくて、払い戻す気にはなれなかった。それにもしもう一度来るチャンスがあれば、そのときにはまたこのプリペイドカードが使えるわけだ。

本日の定食本日の定食。ふつうにおいしい。手前がプリペイドカード。

お食事は、まずまずだった。欲を言えばきりがないが、2011年の春、大熊、富岡地区に仕事に入る人はJビレッジでお昼ご飯を持たされていた。レトルトのご飯とカレーかなんかで、化学的に一気にあたためる袋とのセット。それを原発に近いどこかであたためて食べていたことを思えば、食堂であたたかいものが食べられる環境は、その当時とは雲泥の差ということになるだろう。

ローソンの看板特別な人しか買い物ができない特別なローソン。でも店舗の中は一部の品揃えが特徴的な他は、いたってふつうのローソン

食堂の隣には、ローソンもある。こちらはプリペイドカードではなくて現金でお買い物をする。福島県に住んでいる人間には珍しくもなんともないが、今回の視察仲間は日本全国から来ているので、福島産の酪農牛乳をローソンの原発大型休憩所店で購入するのは、廃炉の行方を見守る彼らにとっては、なかなか特別な買い物らしかった。

ひとりひとりに渡されていた個人積算線量計は、0.01mSvの人と0.00mSvの人がいた。個人で持ち込んだ線量計によると7.4μSvだったということだから、人によって、10μSvを超える数値を記録したということだろう。このあたりは誤差の範囲で、誰も気にしているふうではなかったし、3時間弱の滞在で10μSv(=0.01mSv)というのは、たいした数量ではないなと思う。

線量計ひとりひとりに持たされた積算計。この線量計は、0.1mSvを示している。

2011年のあの頃、初めて線量計を手に入れて家の周囲を測ったときには、雨樋の下で15μSv/hほどあったものだった。今回のいちエフ見物ルートは、平均するとそれより低いということになる(雨樋の下に3時間寝ていることはないだろうし、こういう比較はあんまり意味がない)。まだまだ手のつけられないところは多いだろうけれど、6年を経て、3発も爆発した原子力発電所をなんとかここまでにしたというのは、やっぱりすごいことなんだろうと思うのだった。それにいったいいくら使ったのかとか、失った自然の森はどうしてくれるとか、そういう思いはないではないけれど、今はまず、壊れた原発に日々向き合っている人々のことに敬意を表したいと思う。

いまさらと思いつつ訪れた原子力発電所だったけれど、原発に反対の人にも賛成の人にも、ちゃんと見てもらったほうがいいなと、いまさら思った2日間だった。

そして、見学してから半年も経ってからのご報告となりました。「いいか、ここで見たことは外ではしゃべってはいけないぞ」なんていわれたわけではなくて、たださぼってただけです。すいません。

写真は、担当の方に撮っていただいた。自分のカメラで撮影ができるのはごくごくごくごく特別の場合だけだ(篠山紀信はここで撮影している)。バスの中から「シマウマ1号」を見つけた参加者が、その担当の方に「あれを撮ってちょうだい」とお願いしたのだが、シマウマ1号は塀にそって止められていて、規則で塀はとってはいけないことになっている。保安上の問題なのでしょうがない(攻撃をしようと思えばグーグルマップである程度あたりがつけられてしまうぞ、というつっこみはさておく)。でも担当の方は、塀が写らないようにちゃんとシマウマ1号を撮ってくれた。ちなみにシマウマとかゾウさんとかは、2011年3月のたいへんなときにいちエフにやってきて、吹き飛んだ建屋に水を注ぎ込んでくれた。日本を救った立役者たちなのだけど、被曝してしまったので外に出すことはできず、構内でひっそりと余生を送っているというわけだ。

作業車こちら、シマウマくん

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