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    2017.11.04

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    2017.08.17

    9/3寅吉カップ

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隆之さん

遠藤隆之さん

 遠藤隆之さんが亡くなられた。
 それまで誰よりも元気に仕事をしていて、2月の上旬に突然入院されて、3月1日の未明に急逝された。白血病だった。入院するまで、そんな病気だなんてこれっぽっちも感じさせなかったから、みんな驚きだった。
 といっても、川内村関係の人以外には、隆之さんが誰なのかわかんないだろうけど、ぼくには、川内の人にとっては、そしてもしかすると、地球上のあらゆる人にとって、とっても大きな損失ではなかったかと思う。それはどういうことかというと、隆之さんが、こんな人だからだ。


 隆之さんは、常磐道富岡インターから村に入ってしばしのところに、山の幸直売所の親方だ。もっともこの直売所は、比較的最近はじめたもので、それまでは土木関係の仕事をしていた。だから重機の操作は手慣れたもので、トラックの運転もお手のもの。頼もしい。最初の商売は、ダンプの運転をやっていたらしい。
 そんな隆之さんが、土木業のかたわら、直売所を開いた。土木業の未来が明るくないという先見の明もあったけれど、山に囲まれた村に暮らす隆之さんにとって、山々の恵みを生かして、山々の恵みに生かされる人生を送りたくなったというのも大きな理由だった。隆之さんの会社の屋号は、山遊舎という。
 隆之さんは、それまで土木一本だったから、田畑が広がるこの村にあって、農業はあんまり縁がなかった。川内村は炭焼きが地場産業で、炭焼きはかつては村の財政の柱でもあったのだけど、これも隆之さんには縁がないことだった。でも、直売所を開いてから、隆之さんはそれまで縁のなかったこれらの分野に、積極的にどんどんと進出していった。今、50歳を過ぎてみると、新しいことに挑戦するのはなかなかおっくうで気が重くて、そしてたいていうまくいかない。悪循環で、いよいよ消極的になっていく。そんな自分と比べてみては申し訳ないのだけれど、その積極性にはほんとうに脱帽だ。
 そのうち、ツリーハウスというものの存在を知らされた。ツリーハウスってのは、木の幹に家を作り付けてしまった構造の家だけど、ツリーハウスの本を見せられて「おー、これだ」と思ってしまった。直売所は、富岡方面からくると、山を下りてきたところにある。その川向こうに、ちょっとした斜面があって、隆之さんはそこの柏の木にツリーハウスを作ることにした。工事は、大工さんにお願いした。大工さんたちも、隆之さんのこの夢物語を聞いて、おもしろそうだと大喜びで作業にかかってくれた。ツリーハウスを教えられてから着工まで、あっという間だった。隆之さんは、なんでもあっという間に実行して、あっという間にかたちにしてしまう。ただし、隆之さんの発想に、まわりの人がついていくのはなかなかたいへんだ。だからツリーハウスも、不思議なものが建っているねぇという意味では周知にはなったけれど、それがなんなのか、理解できている人はほとんどいないようだった。隆之さん自身も、ツリーハウスを上手に活用するのは、きっと今後の課題だったのだ。
 村に住みついて、隆之さんの会社で仕事をさせてもらったことがある人がいる。隆之さんと仕事をするのは、とてもとてもたいへんそうだったけど、1分1秒とて退屈することがなさそうだった。あるとき、田んぼの用水路のU字溝を埋める工事のお仕事が入った。いってみて、U字溝を埋めるための溝を掘り始めると、そこはドジョウの宝庫だった。U字溝のない用水路は、ドジョウにとって最高の環境らしい。ここでU字溝を埋めることの是非を考えだすと先へ進まなくなるので、とりあえず工事の様子を追ってみると、土壌が出てきてさぁたいへん、U字溝どころではなくなって、その日はいきなりドジョウすくいになった。収穫したドジョウは、何日かあとに、鍋にして食べさせてもらった。たいへんおいしかった。
 隆之さんの直売所には、炭焼き釜がある。あるときは日曜出勤で炭焼きの火の番を命じられた。ところがいってみると、突然直売所で焼き鳥を始めることになって、炭を焼くつもりで出かけていったのに、日がな一日鳥を焼いていたこともあったという。アクションが早いから、本当に、まわりの人はついていけなかった。無理についていこうとすると、ケガしてしまいそうだ。
 炭焼き釜も、すごいのを作った。直売所にある炭焼き釜は、いいかたちのいい釜なのだけど、隆之さんは、どうもじれったくなったらしい。もっと大量に、もっと簡単に炭を焼けないものか。とりあえず、場所はあるから、でっかいのを作ってみよう。でっかければ、狭い釜に腰をかがめて潜り込まなくても、立ったまま炭になる木をセットできるんじゃないか。

炭窯と隆之さん1

炭窯ができたとき。お幸せ

 さっそくやってみた。ちょっとしたガレージくらいありそうな盛り土が、隆之さんの炭窯だった。ふつう、こんな炭窯はない。これだけ大きな炭窯で、いっぺんに炭が焼ければ、炭焼きの効率は格段に向上するにちがいない。はじめてこの炭窯に火を入れるときの隆之さんは、とっても楽しそうだった。効率のいい炭窯を作った企業人としての顔というより、おもちゃを組み立てて試運転する子どもの顔みたいだった。そしてそんな隆之さんが、一番隆之さんらしい隆之さんだった。
 しかして、炭窯の方はうまくいったかどうかといえば、とりあえず失敗した。炭ができるはずが、みんな灰になっちゃった。大きな炭窯は、入り口をふさぐのがたいへんだ。念入りにふたをしたつもりだったけど、ちょっとだけ空気が漏れ入ってしまって、火が消えることなく最後まで燃え続けちゃったらしい。
 隆之さんは、二度三度と火を入れてみた。一度くらいであきらめるようじゃ、隆之さんの名がすたるってもんだ。釜には、立派な屋根もついた。でも、なかなか炭はできなかった。結論から言えば、今までにこんな大きな炭窯を作る人がいないってことは、炭窯が大きくていいことはあんまりないようだ。

炭窯と隆之さん

その炭窯に火を入れたとき

 されど、そんなことをいっていたら新しいことは始められない。当初、どうやら近所の人たちからは、タカユキは炭窯じゃなくて、焼却炉を作ったと言われていたらしい。入れたが最後、炭にしたい木まで根こそぎ燃やしてしまうのだから、なまじの焼却炉より性能がいい。
 もちろん、隆之さんはこの炭窯でゴミを燃そうなんて思ったわけじゃなくて、真剣に炭を焼きたかったのだ。何度か炭にならない炭焼きをやって、そのうち竹炭や竹酸液をつくるのには、この釜がなかなかいいということが判明した。転んでもただじゃ起きない。というか、なんとかして起き上がらなければ困ってしまうくらいの大きな釜を作ってしまったのだから、ちょっとだけ、ひと安心だ。
 仕事は早かったし、じっとしているのができない人だった。薪ストーブを玄関に置いたら、家中があたたかくなって、どこでも寝られるようになった。隆之さんがうれしかったのは、ストーブの横で寝ていて、太陽が登るか昇らないうちから仕事に飛び出せるようになったことだった。太陽が昇るのが、隆之さんは毎日待ち遠しかった。日が高いうちには、とにかく仕事をしていた。走り回っていた。愛用していたのはauの携帯電話だったけど、隆之さんに電話をして電話が通じなかったときには、隆之さんはどこかの山の中で、ばりばり仕事をしているということだった。
 山の中で仕事をするから、いろんなものを見つけてくる。朝日や夕日の絶景ビューポイントも、隆之さんならではのとっておきがあった。あるとき、久々に村を訪れた親戚を、きれいな夕日を見せてやると山の上まで連れて行ったことがあったそうだ。夕日を見るのも、隆之さんは真剣だ。
「日が沈むのは一瞬だ。刻一刻景色が変わるから、絶対に見逃すんじゃないぞ、まばたきなんかしてちゃだめだ」
 隆之さんと夕日を見るのは、楽じゃない。
 村の便利屋さんとして、スズメバチの退治も隆之さんの仕事だった。昼間のうちに巣の偵察に出かけ、ハチが寝静まった夜になって、退治にでかける。無鉄砲にハチに向かっていくわけじゃなく、自分の抗体価などもちゃんと調べていた。確か、スズメバチは大丈夫で、アシナガバチの抗体があったから、アシナガバチの退治にはいかないんだという話を聞いた気がする。尿に糖が出たからと、食事にも気を使っていた。隆之さんは大食漢で、食べないと元気が出ないとこぼしていたが、奥さんやお嫁さんの厳命だったから、食事制限はきちんと守っていたようだ。
 そんな隆之さんだったが、慢性から突然急性に変化した病気の前には勝てなかった。人の3倍も4倍も仕事をしていて、人の何倍も仕事が早い人だったから、病気の勢いも早かったのかもしれない。
 川内村には、おもしろい、魅力ある人がいっぱいいる。そんな中でも、隆之さんはぼくが最初に出会ったかわうちのおもしろい人で、こんな人がいるのなら、この村で暮らすのはきっとおもしろいにちがいないと思ったのだった。
 隆之さんの仕事っぷりには逆立ちしてもおいつけないけど、おもしろいことを求めて猪突猛進の隆之さんスピリットは、もうずっと忘れられない。

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