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若者たちの冬休み

0902若者たちのジャンプ

 ちょっと旧聞ですが、2月の初旬、1年で思いきり寒くなるこの季節に、酔狂にも若者たちが6人やってきた。娘がアルバイト仲間の友だちを連れてやってきたというだけなのだけど、いまどきの都会の男の子女の子が、山の中の寒村に遊びにきてなにを思うか、それは迎える大人としても、なかなか楽しみなことではあった。
 写真は、もう帰るよというときになってあぜ道で撮った記念写真。八幡さまが奉られている糠馬喰山をバックに。ちょっと飛んでみなといったら、やっぱり若い者たちはジャンプ力もたっぷりだった。

 この冬はあったかだった。あったかいといっても、去年や例年に比べてということで、ハワイになったわけじゃない。でもあったかいから、今年の雪はイマイチだった。さらさらふかふかじゃなくて、いくぶんじっとりしている。そんな雪も、あったかい日が数日続くと、見える範囲からは消えてなくなってしまう。彼らは雪に出会いたくて来るわけじゃないからいいんだけど、行く先に雪があるのかないのかは、ちょっと気になるようだった。でも申し訳ない、彼らの出発の4日前までは、ぽかぽかととてもあったかく、2日前になっていきなり雪が降って、集落は真っ白になった。レンタカーで来るというから、あらためてスタッドレスつきを借りなきゃだめだよと念を押さなきゃいけなくなった。
 彼らのバイト先は、ちょっと著名な中華料理屋さんらしい。でもまぁ、そんなのはどうでもよろしい。平日に6人もまとめて旅行に出かけてしまってもなんとかなるんだから、でっかい中華料理屋さんなんだろう。そうそう、彼らは日曜日の夜、アルバイトが終わってから集結して、クルマ1台に乗り合わせてやってきた。6人のうち、免許を持っているのが4人いて、運転にそれなりに自信があるのがふたり。都会では、自動車があっても駐車場に困るし酒は飲めないし、お金がかかるだけの厄介者だから、免許とる人も少なくなりつつあるのかもしれませんね。ちなみに彼らの年の頃は、20歳から23歳くらいまでだった。
 日曜日の夜、埼玉方面を出発して、当地に到着したのは午前4時ちょっと前だった。ほんとは朝6時過ぎに到着していただくとよかったのだけど、まぁしょうがない。集落の入り口で待ち合わせて、そのまま山の中に連れていくことにした。その日は、お天気がよくって、お星さまがきれいだったからだ。
 はじめましてのあいさつもそこそこに山奥に連れられて、凍るくらい寒い(わけでもないんだけど、都会っこ的には、きっととっても寒かったと思われる)屋外に引っ張りだされて空を見上げれば、そこにはほんとうの空がある。智恵子さんの空とはちょっと地域がちがうけど、同じ福島県の空だ。2月だというのに、冬の星々はもう西の空に沈んでいて、そろそろ夏の星空が広がり始めていた。早起き(もしくはものすごい夜更かし)をすると、季節を先取りすることができる。
 一眠りさせて、朝7時には叩き起こしてみる。段取りのへたなニシマキだけど、なんとなく一泊二日の予定くらいはたててみたのだ。まず、村の中心にあるカフェに行ってみる。この村にカフェができるってだけでちょっとびっくりだったんだけど、このカフェ、朝6時半からやっている。なんたってそんな朝早くからと思うけど、仕込みを始めるのがその時間だから、どうせならと店を開けちゃうことにしたらしい。すると、ときどきこんな客がやってくるわけだ。早朝ドライブやツーリングにやってきて、朝のコーヒー飲んでみるのもよろしいかと思います。

0902ダノニー

 お店はダノニー。「かわうちむら」のページの右側にリンクあります。地元の食材をふんだんに使って、手作りのパンもおいしい。お値段もリーズナブルだし、実はこのお店、無線LANも使えます。お仕事だってできるのだ。
 さて朝ご飯をいただいたあと、今度は山のてっぺんに向かう。山の上から回り込む道を選んだので、道には雪があった。自動車が滑って横を向く体験コーナーとなった。あんまり体験しすぎると谷底に落ちちゃうけど、安全運転講習はちょっと危険なことを体験させて、そういう事態に陥ってもうろたえないようにすべきというのが持論です。でもうちの娘ときたら、クルマに乗ると酔っぱらっちゃうくせがある。滑るクルマに興味津々のやつがいるかと思えば、気持ち悪いよーとうなっている我が娘あり。ちぇ。
 山のてっぺんには、佐藤先生の山小屋がある。かつて学校の先生で、かわうちでも校長先生を勤めた。外国の日本語学校にも赴任経験がある。経験と知識の幅広さは天下一品。学校の先生だったから先生と呼んでいるけど、もう先生業は引退されている。でもぼくより早く生まれたから、先生であることには変わりない。今日は先生の山小屋で、ピザを焼かせてもらう。朝ご飯を食べていきなり、お昼ご飯の準備だ。

0902ピザ釜

 ピザ釜に火を入れ、ピザの生地を寝かしておく間に、先生の山をひとまわり。山小屋の裏山にはかわいい散歩道があって、そのてっぺんにはターザンロープがしかけてある。えいやと飛んでみました。木の上には小学生の子どもたちと作ったツリーハウスもあるし、この山は遊び心満載だ。山がというか、そもそも先生が遊ぶのが大好きだから、山もこうなる。

0902雪上の昼寝

 動物の足跡やうんちの観察をしながら山から下りてきて、そり滑りなどしているうちにピザの準備ができてきた。じゃ、お昼にしましょう。ピザ生地を伸ばす者、トッピングをのせる者、火の番をする者、そり滑りをする者、雪だるまをつくる者、それぞれに忙しい。そして、なかなか美味なピザができあがった。ピザを作る以前に、薪割りもしたことがなかった連中だから(実はぼくだって、こんなところに来るまではほんの何回かしか薪割りをしたことがない)、このピザは印象深いお昼ご飯になったにちがいない。

0902サックスの響き

 先生はサクソフォーンを演奏する。若者の中には、音楽を専攻している者がいて、山にトランペットの音色を響かせてみたりもした。そのうち、はるか彼方に太平洋が見えるのを発見して、若者たちは海が見たくなった。それで、海に出て、しばらく波しぶきなど浴びてみる。海の町は、ほんの30分の距離だけど、気候もぜんぜんちがって感じられる。海の町に出て、自分だけ妙に厚着をしていて恥ずかしくなったことが何回かあるけど、季節感はそれくらいちがう。30分の距離は、季節をテレポートできると思えば、あっという間だ。サーフィンをやっている人もけっこういるような波の高いところだから、そっちの筋の趣味の人も、そのうち遊びにきてください。漁港があるくらいだから、魚だって釣れるはず。とりあえず、釣りをしている人はいっぱいいるのだ。

0902海岸

 ほんとは入っちゃいけないところで記念写真。高い波が来て、みんなで波をかぶるくらいになったらシャッターを押すから、それまでがまんしろと立たせ続けて撮った1枚。
 さて、ほどよく夕方になってきた。次のご予定は、牛の乳搾りだ。
 酪農をやってるのは、集落の副区長さん。人見知りしない牛が、トーシローに乳を搾らせてくれるのだという。乳を搾るといっても、とても飲めるような量は搾れない。お乳をきゅっきゅっとやって、ちょっとだけでもぴゅっぴゅっとお乳が飛んでくれれば大喜びだ。牛のおっぱいって、あったかいんだーと、当たり前のような素朴な感想が若者たちから発せられる。牛乳ってのは、冷蔵庫に入っているものだから、彼らの常識的には冷たいものなのかもしれないですね。こういうのは理屈じゃなくて、出てきたときの牛乳はあたたかいのだと、体が感じることが大事なんだと思う。えらそうに案内したけど、実はぼくも乳を搾ったのははじめてでした。

0902搾乳

 ひととおり手作業で乳を搾らせてもらったあと、機械作業の乳搾りを見学。で、搾りたてのお乳をいただいて帰る。熱殺菌を自分らでやらなければいけない、搾りたて。これはおいしいとみんなに大好評だった。きっと、自分の手で牛のおっぱい搾ったんで、感情移入してるにちがいない。
 帰り道、集落の一軒しかない魚屋さん(かつては何軒かの魚屋さんがあって、しのぎを削って商売をしていた)に寄って、頼んでいたお鍋を受け取ってくる。今晩の夕食は、みんなで鍋を囲むのだ。なぜ魚屋さんで鍋を作ってもらったかというのは、疑問に思ってはいけません。この魚屋さんは、なんでもやる。新しい集会所ができたときには、くす玉も作った。これで何万円も経費が浮いた。魚屋さんは、集落の会計ご担当でもある。

0902なべ

 鍋は、いつもそうなのだけど、たいそう豪勢だ。お酒もいただいておいたのだけど、最近の若者は、オートバイにも乗らないし酒もあんまり飲まないんだね。カクテルをちょいとたしなんでおしまいみたいだ。こういうのは環境と習慣と訓練の問題だから、夏休みにずっとこっちに住み込んで修行すれば、ちゃんとした酒飲みが誕生するやもしれぬ。今日のところは、ぼくだけが飲んでおしまいだった。
 寝るのも早いが部屋も寒いってんで、テーブルに布団を数枚かけて、ファンヒーターの熱風をパイプで送り込む。こちらのほうでは、こたつはもっぱらファンヒーターを熱源とする。そのほうが、どうやら効率がいいみたいなんだな。こたつの中も外も、いっしょにあったまる。
 でっかいこたつを作って、トランプなどとりおこなう。大貧民や七並べや神経衰弱など、そういえばぼくも若かりし頃にグループ旅行なんぞやって、こんなことをやったもんだ。気持ちだけは若いので、若者たちとトランプをやるのも楽しいんだけど、問題は記憶回路の消耗で神経衰弱はめっぽうつらかった。
 彼らは、学校も年齢も住んでいるところも、それぞれ微妙に異なる連中だ。共通するのは、たまたまアルバイトでいっしょになっただけという、それだけなんだけど、考えてみたら世の中の出会いなんてのは、たまたまどこかでいっしょになっただけの、偶然の連続であることが多い。さらに今、こんな村でこんな出会いがあって、これもまた偶然のつづきだ。
 朝。若者は朝が遅い。まぁ特に早起きしてもらってやることもないので、ぐずぐずと起きだして、きのうの鍋の残りにご飯など放り込んで雑炊の朝飯を食す。鍋の残りは雑炊で食ってほしいぞというのが、シェフのご希望なのだ。どう食べてもお客の勝手だけど、シェフの言うとおりにすれば、結果もよろしいことが多い。
 朝飯を食い終わった頃、昼飯を食いにでかける。なんだか、きのうと同じ展開で、食うこと以外はやってないような気がするけど、食うこと以外のことを始めるには、一泊二日は短すぎる。赤ん坊だって、1年くらいは食べて出して寝るだけに人生のすべてをかけているではないか。
 昼飯は、集落を出て、村の中心を抜けたところにあるイワナ屋さん。もともと大工さんで、年齢的なこともあって職をたたみ、もともと好きだった魚釣りを生かして川魚料理屋さんを始めたのが川魚「宮坂」。宮坂さんがやってるんじゃなくて、それはこのへんの地名。ご主人は馬場さんという。民家を改装して料理屋さんにしたのだけど、工事は自分のお仕事。囲炉裏や竹の湯のみなど、馬場さんの洒落心があちこちに光っている。
 ところがだな、馬場さんの店にいくと、食べるより先に、遊ぶものもいっぱいあって、そこで時間が過ぎていく。フラフープに輪投げ、お魚釣りにダーツ。全部手作り。川に落ちいていた枝を丸めて作ったフラフープは圧巻だ。川魚の刺身や鯉の洗いなど、ちょっと食べられないものをいただくのと同時に、ちょっと遊べないもので遊んで、彼らのつかの間の休日は完了。
 お店の前で若者たちを見送って、ぼくのツアコン2日間も完了した。気をつけておかえりなさい。そして今度は、できればもっと長いこといらっしゃい。きっとなにか、収穫があるはずだから。

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