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復活の米の末路

10月3日の田んぼ

収穫した米を破棄して田んぼをならしているところ

 ぶっこわれた原子力発電所から半径30km圏内では、お米の作付けが禁止された。土壌が汚染されているし、食べたらあぶないお米ができるにちがいないという判断だ。なので、川内村の田んぼには、稲がない。今年の田んぼには、田植えも稲刈りもなかった。でも、反骨の農家もいた。村に一枚だけ、稲穂が育った。

田植え

田植えをしたのは5月のことだった

 地震災害が発生したときは、季節が冬からそろそろ春になろうというときで、ということは稲作の準備にかかろうかという頃だった。
 田んぼに肥やしを入れて、土を作り、お米の種をまいて、苗を作る。そういう作業は、地震のドタバタと、原発事故からの避難で、すっかりどこかへ吹き飛んでしまった。
 そうこうしているうちに、お国から米をつくってはならぬというおふれが出た。残念だけど、しかたがない。それに、米を作れなかった分は、きちんと補償されるという。まぁいいかと、あきらめられた。中には、米を作らなくて、楽ができると思った人もいるかもしれない。
 そんな中、村で数少ない専業農家のおっさんは思った。米を作れないなんて、さびしいじゃないか。農家にとって、米を作るのは商いではなく、人生だという。今、60歳ほどの農家のおっさんは、ざっと20歳になる前に米を作り始めた。もう40年も米をつくっている。しかし逆にいえば、まだ40回しか米づくりができていない。この先あと何回米づくりができることか。そのうちの貴重な一回が、今年の米づくりだった。
 つくろう、コメを。もしかすると、汚染が高くて食べられないかもしれない。それでも、作らなければデータさえもとれない。とにかく作らなければ……。
 避難民のお世話をしながら、自分たちが避難しながら、去年のお米を消毒して芽を出させて、種まきをした。種まきには、むらのことが好きな、東京からのお手伝いもやってきた。いや、プロの農家のおっさんにとって、お手伝いなぞ不要だし、たぶん足でまといなんだけど、今年のコメづくりの経験は(いつでもそうなんだけど)今年しかできない。みんなに体験してもらおうって、思ったのだ。

田植え

東京から来たかわうちファンも、いっしょに田植えをした

 種まきをして、そして田植えをやった。いつもは無農薬農法でがんばっている農家のおっさんも、今年はそれほどこだわりがない。だって放射能が降ってきちゃってるんだから。
 たった田んぼ一枚の田植えは、あっという間に終わった。いつもなら、朝から晩まで、毎日毎日、田植えをしなきゃいけないのだけれど。
 東京からきたみんなが植えた稲は、くねくねひん曲がって植えられていて、 ちょっとかっこ悪かった。トンビがやってきて、植えた稲を食いつまんでいったりもした。田んぼはどこも空っぽだから、村で一枚の作付けされた田んぼは、トンビの集中砲火を受けてしまった。仲間がいない田んぼは、なかなか苦労も多い。
 しかしほんとうの天敵は、トンビでも放射能でもなかった。イナカには人の目というものがある。えー、今年は田んぼはつくれないはずなのに、Aさんところはつくってるなんて、ずるい。お国が決めたきまりに違反してるんじゃないでしょうか? 村から造反者が出ると、補償をもらうときに不利になるんじゃないだろうか……。などなど、一理あることからなにも理がないことまで、いろんなことがささやかれる。なんせイナカですから。
 春がすぎ、夏が来て、やがて涼しくなって、稲はすくすくと育っていった。放射能をどれだけ浴びているのかはよくわからないけれど、人が心配するほど稲にとって放射能は問題のあるものではないのか、あるいは問題は問題として、どんな状況になろうとも種を残すのに一生懸命なのか、自然の摂理はよくわからないけれど、今年もお米はできそうだった。
 やがて、稲刈りの時期になった。また村のことを好きな人たちが集まってきて、稲刈りが実施された。でもそこには、ちょっと毛色のちがうお客さんもいた。どうもそこには、あんたは作っちゃいけないお米を作ったんだよと、言い渡しに来たお役人さんがいたみたいなんだね。種まきをした時点から、なんだかんだとあったみたいだけど、いよいよ稲刈りになっちゃったから、最終宣告ってなもんですね。
 つくった米は、なに、とても商売ベースになるような量にあらず。検査に出して、結果が問題なければ、あるいは自分らで食べてもいいかなとは考えていた。でもお役者としては、出荷も摂取もできないことになっている地域だから、作付けをしたって事実を抹消したかったのかもしれないね。全部廃棄処分を命じられた。ていねいに刈り取った稲は、そのまま育った田んぼにばらまかれ、耕運機で土とまぜっかえして、なかったことになった。半年をかけた実験だから、収穫したコメはきちんと測って結果を出したいという農家の願いは、没収していったコメをしかるべき機関に届けて計測することで、一応かなえられる運びとなった。でも手元にはなんにも残っていないから、別の検査機関にも渡したいという望みは絶たれてしまった。
 なんだかさ、今の時代に、そんなこことが起こるのかね。いじめられたのは原発事故被害者で、いじめていたのは被害者を守るべき村であり県であり国だった。
 いやさ、もちろん。このお米が万一にでも市場に出回ったとしたら、食の安全は維持できないと、お役人さんは考えたのだろう。そのとおりだと思う。日本の国は、善良な消費者の安全を守るため、精いっぱいの努力をしております、ということなんだと思う。
 それでもだ。ぼくらは憤りと不安を思う。原発30kmだってことで、問答無用でお米を廃棄させ、でも30km外のお米は安全というお印をつけて出荷している。そのやり方に、ぼくらはうんと疑念を感じている。出荷している農作物は、けっして安全なものばかりでなく、手続きにのっとってお役人の安全印をもらったというだけのものだ。
 こういう住みにくさ、権力に押さえつけられる抑圧感って、お侍さんの時代か、太平洋戦争前か、さもなくば北朝鮮にでもいかないと味わえないのではないかなぁ。
 半年の間、このお米はぼくらの希望だった。田んぼの水温と気温と、それから地表の空気線量を測りながら、このコメにどれだけ放射能がくっついているのか、 はたして食えるのか食えないのか、考えてきた。いい結末も悪い結末もあるのかもしれないけれど、それが農に生きるこの村の新たな一歩の始まりだと信じてきた。
 たかがコメ、されどコメ。ぼくらは、貴重なコメを失った。
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田植えから稲刈りまで、気温、水温、地上1cmの空気線量を計測しました。
2011年かわうちのお米への鎮魂としていくつかを抜粋して一覧します。

5月24日の田んぼ

5月24日/気温14℃/水温19℃/線量0.41μSv/h
6月10日の田んぼ

6月10日/気温24℃/水温33℃/線量0.31μSv/h
6月21日の田んぼ

6月21日/気温19℃/水温23℃(曇り)
7月8日の田んぼ

7月8日/気温24℃/水温28℃/線量0.3μSv/h
7月19日の田んぼ

7月19日/気温23℃/水温19℃/線量0.38μSv/h
7月30日の田んぼ

7月30日/気温20℃/水温23℃/線量0.29μSv/h
8月4日の田んぼ

8月4日/水温25℃/線量0.26μSv/h
8月12日の田んぼ

8月12日/計測なし
8月17日の田んぼ

8月17日/気温27℃/線量0.33μSv/h
9月12日の田んぼ

9月12日/計測なし
9月29日の田んぼ

9月29日/計測なし

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