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帰村宣言

夕暮れネットワーク

NHKの夕方の番組が生中継に来てくれました。オトコはいらんと言われてぼくは横で見ている

 この1月に、川内村は帰村宣言というのを出した。天皇さまの人間宣言みたいなたいそうなタイトルだから、マスコミはこれまで以上に川内村に注目しちゃって、今、その帰村するという4月1日を前に、村はなかなかのマスコミ銀座になっている。
 それでもやっぱり、なんだか空虚な感じがする。言葉の独り歩きっていうのかな。村が思ってる帰村、国が思ってる帰村、マスコミが思ってる帰村。そして、日本中のみんなが思っている帰村と、たとえばぼくが思ってる帰村。それぞれみんなちがうような気がする。

 朝日ジャーナルという雑誌がある。1959年創刊で学生運動の隆盛とともに発行部数を増加させ、1992年に休刊となった雑誌とウィッキペディアにある。その名前は知ってたけど、休刊になったのは知らなかった。92年といったら、ぼく自身が雑誌メディアに飽きていた時代だったですね、そういえば。
 そんな朝日ジャーナルは、以後、ときどき増刊号として世に出ているらしい。東日本大震災のあとは、2011年3月15日号で「知の逆襲 第2弾」というのが出ているけど、これは地震が逆襲という意味ではなくて、地震とは直接関係ない(地震の後の発行日だけど、それはたまたまだ)。2ヶ月後、5月24日号で「原発と人間」というタイトルの1冊が出ている。今回はそれから1年後「わたしたちと原発」というタイトルの1冊が出た。3月9日発売。震災1周年を前に出したかったということだ。そこに4ページ、原稿を書かせてもらった。
 帰村宣言をした川内村のレポートを、村の中からの視点で書けという依頼だった。もともとこのお仕事は、都路で田舎暮らしライターをやっている山本一典さんのところにやってきたのだけど、川内のレポートなら川内村に物書きが住んでるから、と話を回してくれたのだった。担当の佐藤さん(奥付けを見たら編集キャップさんだった)とは地震以来ときどき電話で様子を聞かれたりしていたのだけど、原稿書きの仕事をしたことはなかったから、なかなか冒険をされたんじゃないかと思われる。知らなかったけど、届いた雑誌を見ると執筆陣は著名人がぞろぞろといて、雑魚はぼくだけだ。「名のある人の書いたものが多い中で、村からの視点は貴重なレポートになる」とヨイショされて書いてみた。
 中央の人々(内閣も議会もマスコミもみんなも)との意識や見解のギャップ、村人同士の意識や見解のギャップ。そんなのが今はそこここにある。そんなギャップを語ってみたいと思った。この1年、ずっと感じてきたことが温度差というキーワードで、それは縮まるどころか、きのうまで同じ温度を保っていた人が、いつの間にか大きな温度差を作っていることに気がつかされたりもしたもんだ。
 温度差というのは、客観的にはすべての人に生じるもので、誰が基準なんかない。だけどぼく個人はぼくが基準だから、ぼく以外の温度を持っている人にはそれぞれの温度差を感じる。原稿書いてるうちに、自分が考えている温度差が正しい温度差なのか、みんなに共感してもらえる温度差なのか、不安になってきた。村長にはインタビューを申し入れて話を聞かせてもらったけど、それ以外に、村人の何人かとゆっくりお話ができたのは貴重だった。そんなこんなで自分の温度差に彼らの温度差を加えていくと、だんだん温度が混ざり合って、ふつうの温度になってしまっていく気がした。
 Tさんはお酒が入ると地域について熱く語ってくれる人だけれど、Tさん曰く、ほんとうのことは国会やなんかの委員会にはなくて、こういう酒飲みの話の中にあるのだという。ぼくもそんな気がする。
 朝日ジャーナルの原稿書きは、編集側からの修正要請なんかほとんどなくて、だいたいそのまんま掲載してもらった。ただ事実関係があいまいなところは、しっかりチェックしてもらった。ページになる前の校正紙をじっくり見ることなんか最近とんとごぶさただったけど、校閲のチェックの入った校正紙というのはプロの仕事というニオイがぷんぷんしていて気持ちがいい。校閲さんというのは、誤字脱字をチェックするのは当然で、出てくる数字にも神経をとがらせて、まちがいがないかどうか調べあげる。事実を追っていくうちに内容に矛盾が出てくると、そこもチェックが入る。場合によってはおせっかいな印象にもなるけど、ぼくにはたいへんありがたかった。編集さんにそういう感想を告げたら「手前みそだけど、うちの校閲はたいへん優秀です。編集はともかく……」という返事が返ってきた。自他共に認める優秀な校閲さん。ぼくの人生にも校閲さんがほしいところだけど。
 そんで、校閲さんのおかげで、ぼくの原稿の不正確さはだいぶ是正されたと思うんだけど、一方、Tさん言うところの本当の話というのは、校閲さんなんかいっさいいない酒の席にあるらしい。本当の話は実は不正確なことばかりで、正確性を求めていくと、だんだん本当ではなくなっていく……のだろうか。

1203酒を飲む

酒の席にて。それはマイクでなくて焼き鳥だ、なんて突っ込みは無用だし、個人の特定も無用

 できるだけ真実を伝えていきたいと思うけれど、もしかするとそれは無理なのかもしれない。真実を伝える、ような顔をした各種マスコミが、いかに上っ面の、ときに大嘘としか思えない報道を流し続けるかを思うと、うそをつかないという人たちはうそつきで、正直者はでたらめばかり話している、という、なんだか禅問答みたいな結論になってきた。
 ほんとは、朝日ジャーナルに原稿書いたので、それに合わせて、もう少し本音の部分を書いてみようと思ったのだけど、うそつきの話を書いたら、それだけでとりあえず満足してしまったので、本音の部分はまた後日にさせてくださいまし。
 震災1年になろうとしているけど、真実は遠し。半減期で減っていく放射性物質が理論上は何兆年たっても消えないように、真実もまた、何兆年追究しても得られないものなのかもしれない。

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