2017年11月
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    2017.11.04

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  22. イベント(大会)
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  28. Honda秋の祭典
  29. イベント(大会)
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  33. イベント(その他)
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  41. リザルト関東

    2017.10.15

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  46. イベント(大会)
  47. イベント(大会)
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    2017.08.17

    9/3寅吉カップ

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すけさん

12409すけさん

 助平のすけに、売春の春。
 すけさんを初めて誰かに会わせるとき、ぼくはこうやって紹介した。それを聞くと、相手の目が驚いて見開く。そんな失礼なこと言って、このあとすけさんがぼくに殴りかかってくるんじゃないかという心配の目だ。びくびくした目が、そーっとすけさんのほうに向く。
「助平のすけに、売春のシュンで、助春っつうだ」
 復唱するように自分から名乗って、わっはっはっは、と豪快に笑う。それがすけさんだ。初対面の主は、あっけにとられている。ぼくのひそかな楽しみだった。

 助平のすけに、という口上は、ぼくのネタじゃない。初めて会ったとき、すけさんはぼくにそう言って自己紹介したのだ。
 そんな名前をつけやがってと、親に恨みでもあるんだろうかと一瞬は思ったけれど、どうやらすけさんは自分の名前がお気に入りみたいだった。だからみんなに、必ず一発で覚える自己紹介をしたんだろうと思う。
 すけさんに助春と名づけた親は、その半年ほど前に亡くなった。大正生まれで、この界隈では数少ない太平洋戦争の生き残りだった。すけさんは神楽の舞の重要な持ちてだったけれど、すけさんのお父さんも獅子舞や神楽の舞では重鎮だった。芸能親子だったのだ。
 以前、高田島の三匹獅子舞のことを調べていてインターネットサーフィンをしていたら、すけさんの写真が出てきた。高田島の三匹獅子舞を、本家の諏訪神社に奉納しにいったときの写真だ。高田島のみんなもいっしょに出かけているはずだけど、こういうとき、すけさんはひときわ人目を引く風貌を持っていた。単に見た目だけの問題ではなくて、きっと内面からなにかがにじみ出ているんだと思う。

1409すけさんの田植え

 高田島に住んでしばらく、ここの人たちがたいへんにおもしろいことを知った。冗談を言うとか、おもしろさにはいろいろあると思うけど、ぼくが舌を巻いたのは、豊富な人材があとからあとから出てくることだ。一軒に遊びに行くと、友だちの誰かがいる。このおっさんもおもしろいなぁと思いつつ、また別のところに遊びに行くと、また別の個性派のおっさんが出てくる。この地域にはほんとうにエキストラがいない。住民全員が、ちゃんとエンドロールに役名つきで名前が出てくる大事なキャストだ。
 その中でもすけさんは、きわだって印象に残る役者だった。ガンコで、かつ、べらんめえ口調だから、知らない人でも一発で記憶に残ってしまう。テレビでちょっろっと観ただけなのに、もう一生忘れられないような役者って、いるものだ。すけさんは、そんなひとだった。
 すけさんの職業は、電気屋だった。電気屋といっても、ラジオをなおしたりテレビを売ったりする電気屋さんではない。街灯をつけたりする、もうちょっと大物の電気を担当する。仕事場はいろいろだったけど、浜へ降りて原子力発電所の敷地内に入るのも、すけさんたちの仕事だった。
 仕事が終わって帰ってくると、まず酒になる。すけさんは日本酒が大好きだった。このへんでは、二本松の大七と、会津の花春が主流だ。すけさんは、花春を好んで飲んでたような気がするけど、そういえば助春と花春はよく似ている。
 酒を飲んだすけさんは、よく鼻水を垂らしていた。それが気にならないくらいに気持ちよくなってしまうのだろうけど、すけさんが鼻水を垂らし始めたら、酔っぱらいだから要注意。と同時に、そんなすけさんを見て、なんだか安心な気持ちになった自分もいた。鼻水は、すけさんが楽しいってことだから、こっちも楽しい。垂れなければよしだが垂れてもよしが、すけさんの鼻水だった。

1409すけさんの神楽

 諏訪神社に天井画を描くプロジェクトをやったときには、高田島にまつわる植物にどんなものがあるか、すけさんに教えてもらった。そういうの、すけさんは詳しそうで、そして楽しそうにお話してくれるかと思ったからだ。頃合いを測っていたら、道を歩いているすけさんをみつけた。酒を買いにいたら、お店が閉まっていると悲しそうな顔をしていたので、そのまま連れてきて、一升瓶を開けて話を聞き始めた。
 すけさんの花の話は、ひとつひとつが楽しかった。たぶん、このへんの人は誰でも知っていることなのかもしれないけど、すけさんはぼくみたいな素人に、自慢するでもなくばかにするでもなく、どこか遠くを見るように、淡々と、そして熱っぽく(ぜんぜん真反対の形容詞だけど、でもそうなのだからしかたない)語ってくれたものだった。今となっては「田植え花が咲いたら苗を植えなさいっつーことだ」と話してくれたことくらいしか覚えていない。ちゃんと録音しておけばよかった。すけさんの楽しい話は、みんなぼくの心の中におさまってしまった。
 すけさんにはまた、三度ご注進されたことがある。最初は、神社の参道をトライアルバイクで登らせてもらったときだ。バイクで上がるもんじゃないんだぞ、と少したってから真顔で言われたので、ちょっとこわかった。あのときは、歩いて上がるつもりだったんだけど、上がれるものなら上がったみろとあがってみた。初めての道だし、転んで助けてもらうのもかっこわるいし、参道を荒らしたら一目瞭然だし、いつものトライアルよりずっと神経を使って走った覚えがある。参道を上がろうなんてそれっきり思わないし、たぶん、なんの問題もなかったはずだけど、中にはなんか思っている人もいるはずだぞ、という忠告だったのだと思ってる。
 次は山菜の季節に、カゴを背負って山を走っていたのを目撃されたときだ。カゴの中には、のこぎりとかセクションマーカーとか、トライアルで遊ぶ道具しかはいっていなかったのだけど、そんなもの背負って山へはいったら、山菜泥棒にしか見えないぞ、というわけだ。もっともぼくがここへ来てもう何年にもなるから、ぼくの、山菜だの茸を見つける能力については、すっかり見切られてしまっていることと思う。
 3回目は、みんなのお楽しみの焼肉広場に、ピザ窯を持ってきたときだった。ピザ窯は耐火れんがとキャスティングと呼ばれるセメントみたいなので作ったのだけど、このへんは土壁を使うことになっているんだとすけさんはおっしゃる。ピザ窯だから土壁でなくてもいいんじゃないかとぼくは思ったのだけど、気候や風土との関係もあって土壁以外はすぐ崩れちゃうのかもしれない。ピザ窯はもらってきたものだったから「まぁ見ててください」とお願いすると「どんなものができるのかなぁと思って見ているぞ」と、少し酔っぱらって話してくれた。でも、ついぞすけさんにはピザを食べさせてあげられなかった。
 すけさんの奥さんはフィリッピンの人で、ミンダナオ島が実家だった。助兵衛の助に加えて、おれはガイシャに乗ってるんだ、も口癖だった。下ネタばっかりのようだったけど、実はあんまり下ネタを言う人じゃない。習字をさせても達筆だったし、すけさんはその実、文化に長けた人物だった。こんなすけさんの意外な面は、いなくなってから聞くことになった。子どもたちは、ちょっとダルビッシュに似て、ふたりともなかなかかっこよかった。しかしまだ、二人とも高校生だった。
 ぼくが高田島にやってきたとき、二人はまだ小学生だった。コンピュータがうまく動かないから見に来てくれと、すけさんがうちにやってくることもあった。わかんないことを人に頼める父親を、小さい子どもたちはどんなふうに感じていただろうか。なんでもできるすけさんだったけど、パソコンのことはさっぱりだった。わからないことをわからないと言えて助けを求められる父親は、なんでもできる頼もしい父親とおんなじくらい、頼もしい存在だったんじゃないかと思う。

1409すけさんの田植え

 すけさんは、舌ガンで亡くなった。今年(2014年)の1月のある日、すけさんの家の隣にある井戸の調子が悪くていったりきたりしていると、すけさんがとことこと出てきて、少しお話をした。あしたから入院するんだ、福島中央病院へ行ってくる、ちょっくら舌を切ってくるから、という話をしてくれた。悪さがすぎたから、舌を抜かれちゃうんだねと言ったかもしれないし、もしかしたら言うつもりで言えなかったかもしれない。
 一度退院してきて、すぐに悪くなって、それで帰ってこれなくなった。1月に手術をして、4月に再入院して、5月に亡くなった。あっという間だったけど、近しい人によれば、ずいぶん前から痛いと訴えていたというから、処置が早ければどうだったのかと、くやまれる。でもすけさんも医者がきらいなひとだったから、それがすけさんの人生だったのかもしれない。
 地震の後、原発の構内に仕事に行ったときには、誰もとろうとしないタラノメを摂ってきて、喜んで食べていたという。そんなもの食べているから病気になったと言う人もいるし、なんぼ原発の構内のタラノメを食べたって、そんなにすぐ病気になるわけがないという人もいる。真相はわかんないけど、すけさんは、安全と信じて食べていたのか、おいしいからがまんができなかったのか、それとも人がびっくりするのを見て喜んでいたのか、ほんとはなんだったろうか。まぁそもそも、ほんとに原発の構内で採取したタラノメだったのかどうかも、今となってはよくわかんない。
 すけさんの乗っていた軽トラは、運転席の屋根にキャリアがついてて、ちょっと見ればすぐわかった。仕事に出てているときには仕事場の駐車場にそのトラックは止まっていたし、今日はここに立ち寄っている、今日はここに立ち寄っているというのは一目瞭然だった。酔っぱらったすけさんを、送り届ける役目を仰せつかったこともある。すけさんちに行くには、最後に狭い橋を渡らなきゃいけなくて、落っこちそうでおっかない。酔っぱらったすけさんは、だいじょぶだ、おれはどんなに酔っぱらってても、ここから落ちたことはないぞ、とうそぶいていたもんだ。
 キャリアのついた軽トラを見ると、すけさんがいる! とちょっと心躍る自分がいる。すけさんの勤め先だった仕事場を通るたび、すけさんのあの軽トラを探してしまう自分がいる。そしてお風呂に出かけて、頭に手ぬぐいを巻いているひとがいると(風呂では眼鏡をかけていないからという理由が大きいけれど)、あぁ、すけさんがいるなぁと思ってしまう自分がいる。
 すけさんは主役というわけではなかったかもしれないけれど、高田島にあっては名脇役、それも主役をまるごと食ってしまうような名役者だった。こんな名優、これからの世の中に、はたして再び現れてくれるのだろうか。

1409すけさんのカラオケ

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