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ロストバゲジ

0904ひつじ
アイルランドのひつじ

 はじめて海外旅行をしたのは、あー、もうかれこれ28年も前になる。1981年に、イギリスへ行ったのだった。1ヶ月近く滞在して、マン島TTを見て、オランダのアッセンではじめて世界GPを見て帰ってきた。以来、年に2度くらいは海外取材をしてきたけど、いつも、まぁ大事なく旅をしてきた。
 旅の大事件といえばまず事故だけど、幸い、エジプトでロバの荷馬車につっこんだ(運転は井原直人という、当時世界GPでメカニックをやってたやつで、ぼくは横で道案内をしていた。道案内は、運転手と同罪)のと、ボローニャでベスパの四輪車と接触して相手をひっくり返したくらいで、大きな事故は、まぁなかった(それぞれ、現場ではけっこう青くなった)。事故の次の事件は、病気。これも、2度ほど白ワインでひっくり返ったのと(以来、ワインは赤に限る)、サハラ砂漠で風邪を引いた以外は大きな故障なくすごしてきた。その次くらいに問題なのは、盗難とか荷物の紛失。これも、まぁ今までなんとなく無事に過ごしてきた。ベッドにおいてあっためがねを踏んづけて曲げちゃったりしたくらいだ。
 ところがこの1年に、2度荷物が行方不明になった。今回は、ちょっとへこんだ。丸2日間、仕事にならなかったからだ。


 飛行機に乗ったら、ロストバゲジはそんなに珍しいことじゃない。特に、成田を出て、どこかを経由して目的地に着くなんて時は、無事に荷物が到着するのがラッキーだと思ったほうがいい。
 というのは建前ってやつで、これまで30年近く、飛行機に荷物を預けたのは100回や200回じゃきかないはずだけど、なくなったことなんか一度もなかった。ぼろぼろの、口が開きそうなバッグを預けたこともあったけど、いつもちゃんと荷物室から出てきて、ぼくの元に返ってきた。そうなると、だんだんこっちも甘えてきて、荷物は必ずぼくの元に返ってくるものだと思い込む。こういうのを、平和ボケっていうんですね。
 ところが去年のルクセンブルクで、はじめて荷物が出てこないという事件が起こった。このときは杉谷と二人で、二人とも荷物が出てこなかった。でもまぁ、会場は飛行場にも近かったから、次の日に飛行場へ行って、無事に荷物を受け取ってことなきを得た。予定は少し遅れたけど、半日ほど遅れただけで、やるべきことはできたから、日記には問題なしと書いておくレベルだ。
 今回、またしてもひとりででかけることになって、バッグはいよいよ口が開きそうになっている。カメラやビデオカメラにコンピュータ、それぞれが充電器や電源を持ち、荷物は複雑になってきている。どうしようかな、バッグが壊れて飛行機の荷物室でばらばらになるかもしれないから、成田まで行く道中でスーツケースを買っていくかな、荷物が届かないかもしれないから、大事なものは機内持ち込みにしたほうがいいかなと、いろいろ考えながら成田に向かった。

0903東横イン成田
使用前

 でも途中のショッピングセンターではあんまり気に入ったバックがなくて、まぁなんとかなるだろう(これがぼくの悪いクセだ)とガムテープなど補修用品を買って成田に。成田では、いつも民間駐車場にクルマを預けるんだけど、今回は東横インに停めてみた。一泊すると、帰ってくるまで駐車場無料というびっくりサービスをやっていたからだ。民間駐車場にはだいたい4000〜5000円払っていた。東横インは5140円だった。一泊タダみたいなもんだ。
 しかも泊まってびっくり。シングルを頼んだのに、ダブル並のベッドで、部屋も広い。東横インといえば、安い、ネットが使える、よく新聞沙汰になる、部屋が狭い、などの特徴があるけど、ここはどうもその例にあてはまらないらしい。建物も、らしくない。裏に回ると、プールの残骸もある。そこの看板を見たら、昔ここはホテル日航だったんだね。納得。かつてはJALの機上職員のお姉様方が闊歩したロビーは、安い東横インだけあって、アジアや中近東のお客様に人気である。朝ご飯に、軽い夕食までついてるんだから、ぼくら貧乏人にはありがたいのであった。

0903東横イン使用後
使用後

 なんで東横インの話になったんだっけ? あーそうだ。出発の前の晩、東横インで旅行カバンを修理した。広い室内は、あっという間に荷物がばらまかれた。で思ったんだけど、荷物には、大事なものしか入ってない。パンツや靴下なんて、コンビニ袋に入るくらいしか持ってない。大事なものを機内持ち込みにすると、全部機内持ち込みになってしまって、預け荷物はコンビニ袋ひとつになってしまうではないか。
 結局ぼくは、機内で仕事する用に(結果映画を見たり寝くさっているだけだとしても、搭乗前は機内で仕事する気になっている)コンピュータと、荷物に入りきらなかったサブのカメラだけ持って、機上の人となった。クレジットカードを持ってると使えるラウンジで最後のネット接続をして、今回はスマートな出張になるかなと思ったものだったけど……。
 安いエコノミー席だってのに、イヤホンがよく聞こえないとパーサーにくだをまくおばあさんの隣の席をあてがわれ、退屈しない12時間が過ぎた。北アイルランドへ行くんだからまっすぐいけば10時間くらいだけど、今回は、一番安いチケットがJALだった。で、乗ってみたらアリタリアとの共同運行便で、降りたところはローマだった。そこからまた3時間ほど。ずいぶん寄り道をするものだけど、寄り道だけならまだいいのだった。

0904アイルランド車窓
レンタカーの車窓から

 パスポートコントロールでいろいろ聞かれ(外国人には厳しいみたいだ)、藤波の話などして外へ出てみると、待てど暮らせてど荷物が出てこない。税会荷物が出てこなかったときには、ぼくらだけじゃなくて仲間がたくさんいたけど、東京からローマ経由でベルファストへやってきたのはどうやらぼくだけだった。
 あーなんてこった。歯ブラシがない、着替えがない、それより、ビデオカメラがないから、撮影ができない。ふつうのカメラはあるけど、ついてるのは超広角レンズが一本きり。さらにコンピュータは、日本用の電源プラグがついていて、イギリスのコンセントには差し込めない。そのアダプターも荷物の中だ。今回は、練習風景だけにビデオをまわして、恒例の「練習」DVDを作ろうと思っていたのだけど、それができない。「練習」DVDをお待ちのみなさんにはたいへん申し訳ないことをしたけど、ぼくらも実入りが少なくなって、未曾有の経済危機に陥りそうだ。
 やっぱり、最低限の仕事道具は肌身離さず持っていなくちゃだめだなぁと再認識する。もちろん、昔はそうしていたんだ。でもいつもいつも安全なんで、だんだん油断するんですね。そんなときに前回はじめてロストバゲジにあって、30年近くではじめてだから、次にロストするのはまた30年先かなと思ってしまった。完全に甘かった。
 そういえば、前回のデ・ナシオンのときには、バルセロナからパリまでの飛行機が遅れて乗り継ぎができなくなって、帰りがまるまる1日遅くなったのだった。これで3回連続で旅のトラブルだ。みなさん、安全ぼけはろくなことがないです。起こりそうな事件は、必ず起きる。足をつきそうなセクションでは必ず足をつくし、転びそうだと思ったら必ず転ぶ。
 愛しの我が荷物は、結局2日遅れで無事に手元に届いた。泣きそうなぼくをかまってくれたのは、2日前にもぼくの悩みを聞いてくれたおねえさんふたり。ガテン系の黄色い作業服をまとっての肉体労働、しかも深夜勤務なのに、おねえさんふたりで切り盛りする。彼女たちの親切な笑顔には癒されました。
 さて問題は、次の海外出張のときに、この教訓を覚えているかどうか、だなぁ。彼女たちの笑顔にはもう一度出会ってもいいけど、ロストバゲジで悩むのは、もうごめんだ。

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