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先進の逆風

07成田匠北海道にて

 成田匠の、2008年の去就が気になっている。
 気になったので、電話してみた。そういえば、あけましておめでとうのごあいさつもまだだったし、お互いに引っ越ししたのに、そういうごあいさつもまだだったので、そういうごあいさつかたがた、今年はどうするの?と聞いてみた。そしたら、今の時点でははっきりしたことが答えられないということだった。その言い方からすると、話が決まっていないのではなくて、もう大筋で決まっているのだけど、発表まではないしょね、という感じ。いずれにしても、小排気量での普及活動を推進することと、トライアル・アカデミーで後進を育成する活動については、2007年同様に進めていくということだ。


 今ははっきりしたことがいえないというのは、全日本選手権への参戦体制ではないかと想像する。聞きたかったのも、そのへんだ。
 2007年、成田は国際A級クラスのチャンピオンになった。それも、ヤマハTYS125F(スコルパSY125F)で250cc以上のライバルに挑んでの勝利だった。直接のライバルは小森文彦で、小森との最終戦での緊張感ある、それでいてさわやかな一騎打ちは印象深かった。そしてわずかの差で、タイトルを決定したのだった。
 当初成田は、125ccで国際A級に参戦することが重要で、結果については多くを求めていなかったようだ。ところがいざ参戦を表明すれば、目標を聞かれる(ぼくらも聞いた)。メーカーや関係者からも、期待される。そしてその期待通りの結果を、成田は実現した。
 ところが一方、国際A級スーパークラスという特別枠のライダーは、参加者の減少傾向に歯止めがかからない。もともと、成田をはじめとする世界選手権に挑戦しているライダーが全日本に出場した場合、国際A級の多くのライダーとのレベル差が大きくて、同じ土俵で競うのがむずかしい、それなら別枠を作って、世界で活躍するライダーがしのぎを削るクラスを作ろうじゃないかというのが、スーパークラス誕生のいきさつだった(と理解している)。
 しかし今、藤波貴久はヨーロッパにい続け、全日本に帰ってくることはなくなった。世界選手権に挑戦しているのは、藤波以外には小川毅士だけで、黒山健一も小川友幸も田中太一も野崎史高も、みんな日本に帰ってきた。彼らの力量は今も世界レベルではあるが、世界に挑戦しているライダーは、いまやこの中にはいない。そして残念ながら、これから世界に挑戦するような若手も、今のところは見あたらない。国際A級で上位を占めたライダーも、スーパークラスでは土俵が厳しすぎて、またふつうのA級に降格して走ることが多い。スーパークラスの維持のために、A級上位のライダーはスーパークラスへの昇格を義務づけるべきという委員会の決定がされたのは、2007年初頭のことだった。その規約に最初に該当するのが、2007年国際A級チャンピオンの成田だった。

07成田匠北海道にての走り

 もちろん、成田はスーパークラスにふさわしいライダーであることはまちがいない。しかし今、成田は125ccの普及に精力を注いでいる。125ccでスーパークラスに参戦は、さすがに無理がある。2004年に成田はTYS125F改でスーパークラスに参戦したことがあるが、ベースマシンは125Fだったけれど、あれは排気量がざっと200ccのスペシャルマシンだった。国際A級スーパークラスは、125ccのままのTYS125Fで挑めるクラスではない。
 成田は規則を承知で、国際A級クラスへの残留を申請したが、これはトライアル委員会で否定されている。事情は重々理解できるも、制定されたばかりの規則を初年度にして特別処置で覆していては、ルールの意味がなくなってしまう。
 最悪、成田は2008年は選手権は浪人か、というところで、話は振出しに戻って、今は成田サイドからの正式発表(おそらくヤマハ発動機からの発表になるのだろう)を待つことになっている。
 この一件については、国際A級に残留して125ccで可能性を示しつつ、250ccマシンに乗る若手ライダーの目標になるという成田の意図はとても素晴らしいものだと思えるし、同時にスーパークラスを盛んにするために、A級の上位はきちんと昇格してほしいという委員会側の意向もたいへんに理解できる。どちらがいい悪いという問題ではなく、成田はチャンピオンになったタイミングが悪くて、スーパークラスへの昇格を強いられる結果となった(2007年ランキング2位の小森文彦と3位の三谷英明もスーパークラスへの昇格をしているが、彼らはスーパーとA級残留を選べる権利を持っていて、チャンピオンの成田はスーパー昇格以外に選択肢はないのが今年決まった規約だ)。
 成田匠は、近代日本トライアルの先駆者である。山本昌也世代と藤波貴久時代の間にあって、どちらの世代とも約5年のギャップがある。その中で、成田が切り開いた新しいトライアルの世界は数多いのだが、しかし、少なくとも当時のトライアルは、成田のその業績を認めてこなかった。そればかりか、ときには成田に逆風を送ったりもした。それはけっして成田にいじわるをしたわけではなく、当時のルールが、そういうふうになっていたからだ。ちょうど今回の昇格問題は、それらのまるで再来のようなできごとだった。
 成田の時代は、MFJの選手権に出場するには、運転免許証が必須だった。つまり16歳以下のライダーは、どんなに努力をしても試合にでられなかった。だから成田も、16歳になってからMFJの選手権に参加した。
 成田の実積があって、これからは免許のない若手の中にも優秀な人材が育つ可能性が実証された。それで、運転免許証が必要ないジュニアクラスというクラスが新設された。黒山健一や藤波貴久など、その後に世界へ羽ばたいていく逸材は、みなこの制度にのっとって免許のない時分から選手権に参加した。道は、成田匠のあとにできた。
 1989年に、成田は国際A級に昇格する。国際A級ライダーには、世界選手権挑戦の権利がある。ところが、成田の場合はそれができなかった。A級昇格1年目は、修業のために全日本に専念しなさい、世界に出ていくのは、2年目以降にしなさいという規則が、その当時はきっちり生きていた。なんともおせっかいな規則だが、規則は規則だ。A級1年目で世界に挑戦したかった成田は、89年はきっちり全日本を走り、全日本チャンピオンを獲得した。
 その後、藤波貴久は15歳のうちに全日本チャンピオンとなって世界へ挑戦したが、黒山健一は全日本選手権を走る以前に世界選手権に旅立った。ここでも、道は成田のあとにできている。
 1990年のことだった。成田匠が世界選手権に参戦中、日本チームがトライアル・デ・ナシオンに参戦した。成田は世界選手権で上位入賞のきっかけをつかんでいて、世界の舞台でも周囲に脅威を与えはじめていた時期だった。日本のトップライダーであることは、誰もが認める。
 ところがデ・ナシオンにやってきた日本代表は、成田を除いて構成されていた。ヨーロッパのトライアル人たちには、その理屈がさっぱりわからない。しかしこれも、理屈はしっかりしていた。当時のデ・ナシオンの日本代表は、全日本選手権の上位のライダーから選出すると、きちんと定められていた。全日本選手権に参戦実積のない成田は、この条件をクリアできなかった。
 しかし、世界のトップを争っている選手が、日本代表選手として日本のために貢献できないのは、ヨーロッパの人のみならず、誰が考えてもおかしい規則だ。ヨーロッパだと、規則がどうあれ、結果オーライの方向で実行に移すことが多い。しかし日本は、ルールを尊重したのだった。
 今では、デ・ナシオンの代表選手の選考は、世界選手権と全日本選手権の成績を鑑みて決定するようになっている。今のルールなら、あのときの成田は、デ・ナシオンに参戦できた。事実、1991年には、成田は日本代表としてデ・ナシオンを戦い、日本チームとして最上位の7位を獲得している。
 1995年。成田に加えて、黒山健一と小川友幸が世界選手権挑戦を開始した。この年、ヨーロッパでは、この3人による日本チームが、デ・ナシオンで何位に入るだろうかという予想で盛り上がった。世界選手権にフル参戦しているメンバーが揃う日本代表チームは、これが初めてだったからだ。この時期、MFJは資金難をはじめ、もろもろの理由からトライアル・デ・ナシオンへの選手派遣を見送っていた。しかし選手は、今現在ヨーロッパにいる。派遣費用は、最低限ですむはずだ。そこで、有志がMFJを動かし、デ・ナシオン参戦の準備が始まった。しかし、デ・ナシオン当日は全日本選手権が開催されている日でもあった。
 黒山と小川は、全日本にはフル参戦していないから、全日本を見送っても、実質的に痛手はない。しかし成田は、あと1戦好成績をおさめれば、全日本チャンピオンの可能性があった。当時はパスカル・クトゥリエがゼッケン1をつけ全日本のトップに君臨し、藤波貴久がこれに挑戦していた。藤波はまだ成田の敵ではなかったし、クトゥリエはもはや成田の敵ではなかった。しかし欠席してしまえば、彼らには勝てない。しかしデ・ナシオンも、成田抜き、黒山と小川ではチームとして成立しないのだ。

07シーズン前の成田匠

 成田は悩んだ末、デ・ナシオンを選んだ。その結果、日本はスペインとイギリスに次いで、堂々3位を獲得した。その一方、成田は全日本チャンピオンの座を失うことになった。その結果、成田は日本での名誉ばかりではなく、契約金や賞金なども失うことになった。そして、デ・ナシオン3位入賞に対しては、期待していたほどの反響がなかった。報酬や反響がほしくて選択したデ・ナシオン参戦ではなかったが、成田がここで失った全日本チャンピオンの座は藤波が手中とし、その後の世界挑戦へのジャンプボードとした。
 成田匠のやることは、いつも新しい。ワンピースのライディングウェアを全日本の場で本格的に着用したのも成田が先駆者だった。そしてまた、そのワンピースに相反するように、カジュアルなパンツを着用して物議を醸したのも、成田が先頭を切っていた。
 間もなくでる、2008年の成田匠の選んだ道。成田は、いつでも逆風の吹く中を新たな世界に挑戦している。今度もまた、そんな選択をするのだろうか。

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