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【2006年06月11日】

アクセルストッパー物語

 突然ですが、伊藤のトライアル入門「フロントアップ道場」特製アクセルストッパー、その誕生物語をお届けします。

 先頃自然山通信よりリリースしたDVD、伊藤のトライアル入門「フロントアップ道場」には、特別製のアクセルストッパーが付属しています。非常に地味なものですが、トライアルのフロントアップを完璧に近づけるためには、非常に有効な道具であります。
 フロントアップ道場について、ぽつりぽつりと世間の評価をいただいていますが、アクセルストッパーについての反響がほとんどない。もしかすると、お買い上げいただいたかたがたの中にも、このストッパーが付属しているのに気がついていない人がいるんじゃないかと心配になってみました。
 さてでは、このアクセルストッパーはどうやって誕生したのか。はじまりはじまり。




 フロントアップは、これができるとトライアルがたいへんに楽しくなる技術であり、いわば基本テクニックのひとつですが、だけどちゃんとできているかどうかの見きわめがとってもむずかしいテクニックでもあります。
 フロントアップということば通り、前輪が宙に浮けば成功とするならば、スーパーカブだってエンジンを思いきり吹かしておいて、クラッチをどかんとつなげば(スーパーカブにもクラッチはあってどかんとつなぐことは可能です。でもこの話はテーマちがいなので、機会があったら別のところで)ちょっとは前輪を持ち上げることが可能です。同じようなアクションをトライアルマシンでおこなえば、もともと前輪を浮かせやすいようにできているのですから、さらに簡単に浮いてきます。でも、これじゃまともなフロントアップとはいえないぞというのが、フロントアップ道場のテーマとなっています。
 このフロントアップ道場は、元全日本チャンピオン伊藤敦志さんがつきっきりで生徒さんにフロントアップを伝授する構成となっていますが、実はこれより1年だか2年前、同じようにつきっきりで教えてもらっていたぜいたく者がいました。ニシマキです。この生徒の特徴として、先生の言うことを素直に聞かない。楽をしようとする。たいへんに教えがいのない生徒です。一方先生は、たてつく生徒に対して、こつこつとその理論を解説してくれる。話が長くなって、日が暮れて夜が明けることもしょっちゅうです。
 そこそこニシマキ劣等生のフロントがあがるようになってきた頃、しかし伊藤先生は合格点をくれません。何度やっても「まだまだアクセルに頼ってあげているぞ」と採点は渋い。進歩のない自分に、だんだん腹が立ってくる。その裏には、今自分がやっているフロントアップが、アクセルに頼っているのかどうだか、自分では把握できていないというもどかしさもありました。しかし、単刀直入にいって、思っちゃったのであります。
「もう、伊藤先生、何度もおんなじことばっかり言って、うるさい!」
 生徒が先生に、うるさいなどと言ってはいけません。たいへん申し訳ない。しかし伊藤先生は「先生に向かってなにをぬかすか、腹を切れ」とは言わなかった。だから、話はその先につながるわけです。
「うるさいなぁ。ぼくはアクセルに頼っているという実感がないんだ。そんなにおれがアクセルに頼ってるというなら、アクセルに頼らないように、たとえばアクセルが開かないようにしちゃってくれないかねー」
 伊藤先生は、怒りださずに、しばし思案。そして工場にこもってものの1分。できてきたのが、このパーツでありました。


アクセルストッパーはここに入ってます

“なんじゃこりゃ”というようなパーツです。しかもこれを組んでみると、アクセルがほとんど動かない。これじゃ走れないじゃないかというくらいに、アクセルが開きません。これではたしてフロントアップができるのかどうか、最初に見せられた時には、これは失敗作だと思いました。
 そしてテスト試乗です。教えてもらったとおりに、フロントを上げてみます。ところがね、アクセルがほんのちょっとしか開かないもんだから、なかなかうまくフロントがあがりません。こんだけしか開かないもんなー、フロントあがらなくてもしょうがないよなーと思っていると、伊藤先生がマシンを横取りして、まくれあがらんばかりのフロントアップを披露してくれました。なんだ、フロントはあがるんだ。アクセルがこれっぽっちしか開かなくても、大丈夫なんだ。
 で、しょうがないから、アクセルが開かないマシンでせっせと練習するわけです。そうするっていうと、苦節たったの数時間で、アクセルに頼ったフロントアップのくせはどこかへ消え去ってくれた(と自分では思っている)のです。
 伊藤家のご主人も、最初はこのストッパーについて、あんまり評価をしていないようでした。そりゃ、なんといっても本来あるべき性能を殺しているのですから、こんなものが総合的にいいわけはないのです。でも、訓練中の身の上としては、これはとても心強い存在でした。ぼくはこれを、フロントアップ養成ギプスと呼んでました。これをつけると、将来巨人の星として輝く星飛雄馬が、ぎしぎし音を立てるギプスを装着して投球に励む姿を自分に重ねて、ひそかにむふふと思うのでした。どちらもギプスも外からは見得ないという点で共通しています。
 でも効果があったのはフロントアップのテクニックだけじゃなかった。坂道を登っている。わ、登れないと思った時、ワラをもすがるというか、わりとふつうの感覚として、よくアクセルを開けてしまいます。でも実際には、アクセル開けるもんだからよけいに登らない。わかっちゃいるけど、ワラはつかんでしまうわけです。
 ところがギプスが着いていると、そのワラがないもんだから、強制的にグリップを確かめながら走る感覚に導かされる。つけたらすぐに効果があるってもんでもないけど、確実にこんな効果はあるわけです。
 伊藤先生の地元である妙楽寺トライアル場では、これを「お子さまチップ」と名付けていました。たぶん、トライアルを始めたばかりの初心者が、こぞってこれをつけたのでしょう。「アクセルが開いちゃったらどうしよう」という漠然とした不安から開放されるだけでも、この小さなパーツは効果てきめんです。
 今回、フロントアップ道場にこのパーツを添付するにあたって「養成ギプス」も「お子さまチップ」もマニアックすぎると思って、ふつうに「アクセルストッパー」という名前に改名しました。同時に、テスト品はスチール製無処理だったのですが、DVD添付品はステンレス製。いつまでもさびることなく、美しく暴走をストップします。
 最初は、こんなものつくって、またみんなにバカにされるんだろうなぁと思っていたけど、意外にみなさん、トライアル初心者の暴走には腐心されているようで、木村治男さんや河合紀之さん、村岡力さんなんかにも興味を持っていただき、ちょっとほめていただきました。へへへ。
 ただしこのストッパー。装着すると、よくも悪くもアクセルが開かなくなります。暴走を食い止めるという点ではアクセルが開かないのはよいことですが、ただでさえアクセルの開け方が足りない初心者が、いよいよアクセルを開けなくなるので、チャンバーやサイレンサーの中は不完全燃焼の燃えかすでもやもやしてます。転んだりして、アクセル全開で始動したい時にもアクセルは開きません。アクセル開かないなりにセッティングしてしまうとか、アクセルワイヤー持ってときどき強制的に全開にしてあげるとか、対処方法はあるわけですが、この点は気をつけてくださいまし。もちろん、装着方法をまちがえると、アクセルがひっかかって危険があぶない。装着には、充分ご注意ください。
 さて、ギプスをつけた状態の走破性能ですが、伊藤先生によると、ギプスをつけたままでも(伊藤先生が乗れば)国際B級のセクションの8割以上はクリーンできるということでした。これなんじゃパワーがなくて走れないという人も、話の種につけてみると、新しい発見があるかもしれません。


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投稿 : 2006年06月11日 16:58

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