【2009年03月08日】
復活小川友幸
3月8日、茨城県桜川市真壁トライアルランドでいよいよ2009年全日本選手権が開幕した。
井内将太郎や田中太一など、有力ライダーが不参加を表明した今年の全日本選手権。しかし今大会は小川毅士の大躍進の走りで、これまでとはちがった勢力図が見られて興味深い戦いとなった。
勝利は、その小川を逆転し、最後はライバルをつきはなして好調を保った小川友幸。07年最終戦で優勝して以来の勝利となった。
2位は黒山健一。一時はトップを走った小川毅士は、最後は体力切れで3位に甘んじた。しかし自身初めての表彰台獲得だ。
2007年全日本チャンピオンの小川友幸には、2009年のシリーズを迎えるにあたって、いい材料はほとんど見つけられなかった。シーズンオフにホンダが発表したモータースポーツからのあいつぐ撤退の影響が大きい。もともと小川は、ホンダのワークスライダーではない。小川は、あくまでもユーザーのひとりとして、チーム三谷から全日本選手権に出場している。
一方、小川や三谷英明は、HRCのテストの仕事もしている。トニー・ボウや藤波貴久、古くはドギー・ランプキンが乗ったモンテッサは、彼らがセットアップして方向性を模索していったものだ。このテストの延長線として、小川はエンジンだけ当初からワークスのものを使っていた。ちょっと見た目には、材質くらいしかその差には気がつかないかもしれない。ところがワークスエンジンは、見れば見るほど別物だというのがわかる。小川がスタンダードのエンジンに乗って試合に参加したのは、2ストローク時代も含め、2004年の日本大会でのRTL250Fプロト(ワークスではないが、市販でもない)と、2005年の開幕戦と第2戦の、全部で3戦だけだという。
その小川が、今年は市販車ベースのマシンで出場することになった。市販車ベースというのは、つまり誰でも買えるマシンで、ということだ。細かく見れば、サスペンションとホイールにはワークスのものが使われているが、これは今までの流れを継続して使用を許してもらったものだ。サスペンションは、性能問題より、自分の感覚にあったものかどうかが重要なので、その点で使い続けていたサスを使えるメリットが大きいということだろう。
対するライバルのヤマハは、あちらも市販車ベースとはいえ、メーカーの力が惜しみなく投入されている。今年の小川は、市販マシンをこつこつとセットアップし、あるいは改造していく。世のサンデーライダーと、同じ方法でマシン作りをしていくことになった。チーム三谷には、世のサンデーライダーとは比較にならないマシンに対するノウハウはあれど、しょせんはワークスと比べるべくもない。
黒山健一に奪われたゼッケン1を奪還する。その使命を果たすには、ちょっと不安の多いスタートとなった。はたして第1セクションでは、小川毅士が1点で抜けた難所に飛びつくこともできずに5点となっている。市販車ベースでの小川は、もうだめなのか。
しかし全選手のトライを見てみれば、このセクションについては小川毅士が特別にできがよかったというのがわかる。1ラップ2ラップを通じて、ここを1点なりクリーンで通過したのは、小川毅士ひとりだけなのだ。黒山健一も野崎史高も、小川と同様に、なすすべなく5点となっている。
小川毅士は、このシーズンオフに、茨城県に引っ越した。真壁トライアルランドの近くにである。真壁での練習時間を増すためというより、トライアル環境を変えて、よりトライアルに専念するためだという。その効果が発揮されたか、この日の毅士は、気合いの入ったライディングを見せた。
「第1で稼いだものを、第2で放出して、その繰り返し」
と試合を振り返って苦笑する毅士だが、減点が多い第3セクションまでを終えて、毅士は9点。黒山の10点、小川友幸の11点、野崎の13点に対して、わずかながらアドバンテージをとっていた。そう、開幕戦、リードをとったのは、小川毅士だったのだ。
黒山健一のライディングは、あきらかにいつもとはちがった。クリーンに対する執念が見られない。難関に向かって及び腰のような雰囲気がある。いつもの黒山だったら、目の前にたちはだかる難関は、眼力だけで破壊していくような圧倒的迫力があるものだったが、今回の黒山はふつうの人に近かった。
実は黒山は、ライディングの改造中なのだという。黒山も30歳になる。若手ライダーとしての円熟期は、そろそろすぎさろうとしている。それで、黒山はライディングを改造した。若さでぶつかる走り方ではなく、今ある運動能力と経験を生かして、確実にセクションを走破し結果に結びつけるような走り方なのだという。そしてその新黒山乗りは、充分に完成していたはずだった。
ところが実戦での参加は今回がはじめてだった。それはそうだ。全日本選手権は今回が開幕戦で、それ以前には試合がない。草大会や地方選手権では、やはり黒山の予行演習としては役不足だ。
「もう完成していたはずなんですが、やはり練習と試合はちがいました。それを今回は学びました。次の大会まで約2ヶ月ありますから、もう一度徹底的に仕込みなおします」
黒山は不調の理由をわかっていた。その不調は、今すぐに根本的に改善することはできない。不調の自分を早くつかんで少しでも成績を上げようとする一方、焦りはなかった。原因がすっかり判明していて、それに対する処置療法も明らかだったからだ。
こんな中では、野崎の不調は原因不明で、深刻だった。ライディングの場面場面では光るものを持ちながら、セクションを走り終えると大きな減点となっている。悪い癖の、テープを切ってしまったりの5点も出てしまった。08年終盤、中国大会で勝利し、東北大会で優勝争いをしたあの野崎はどこへいってしまったかというスコアが続いた。
1ラップめ、試合のリードをとったのはやはり小川毅士だった。わずかなリードだが、トップはトップ。毅士のマシンは、市販ベースとなった友幸のマシンと基本的には同じポテンシャルを持っている。今までのようには負けられないという気持ちも大きかった。
しかし最終的に1ラップめのトップとなったのは、小川友幸の方だった。序盤、小川の減点はかさんだが、小川はすぐに原因を特定して、改善した。開幕戦だけあって、ライバルの動向は気になる。それで、黒山についてトライをするようにしたところが、小川のペースにはあわなかった。やはり自分のペースでトライを進めていくのが一番だ。小川はそれ以降、ライバルの時間配分にとらわれることなく、自分のペースで先へ進んだ。それで、走りのペースも取り戻せてきた。
小川友幸は、けっして終わっていなかった。それどころか、ワークスエンジンを走らせた去年の走りっぷりより、あきらかに強い小川を演出していた。足をつきたくない執念が、ライディングに現れる。そしてそれが、結果に現れる。4セクション以降、小川のスコアカードには0が並び、7セクションまでをクリーンした。8セクションと最終セクションで1点ずつ加えたが、それでも毅士が最終セクションで5点をとったことで、小川にトップの座が転がり込んできた。“市販車の小川”に、流れが呼び込まれてきた。
2ラップめ、黒山が、今日の自分の走りを分析したのか、減点が減ってきた。とはいえ、やはりまだ黒山らしからぬ減点はある。5点となった第3セクションではクリーンするも、1ラップめにクリーンしていた第4セクションで5点になるなど、不安定さは根本的には解決していない。それでも経験の浅い小川毅士を追いつめるには充分だった。1ラップめ最終セクションを1点で抜けた黒山は、小川毅士に同点に追いついた(クリーン数は毅士の方が多いので、順位は小川2位黒山3位)。トップの小川とは6点差だ。ちょっと差は開いているが、まだ結果はわからない。
そして3ラップめ、小川友幸がようやく第1セクションを3点で抜け出ると、黒山がクリーンで通過した。失敗に対する学習能力が高いのも、トライアルライダーに必要な性能でもある。
対して小川毅士が第1セクションで5点。3ラップめ、小川毅士はセクションを通過するので精一杯で、成績をあげるための努力ができる状況ではなかった。体力の消耗が激しく、もはやトップ争いができるような状況ではなかったという。住まいを移しての心機一転、その緒戦にして全日本選手権初優勝、あるいは黒山健一を下して2位に入るという青写真は、夢と消えた。
小川は、好調に勝利に向かって突っ走った。もはや勝負の相手は黒山ではなく、自分自身になっていた。ひとつひとつのセクションを確実に走破していく。その結果、3ラップめの小川は、3点ひとつと1点ひとつの、たったの4点だった。これでは、黒山の追い上げも届かない。
ワークスエンジンを使って1年間勝ちあぐんだ小川友幸、その同じ小川が、市販車ベース(改造パーツも含めて、ほとんどの仕様が三谷モータースポーツで手入る)で黒山健一に圧勝した。小川自身、市販車ベースで勝利したのは初めてだし、全日本の歴史の中でも、ホンダの市販車が勝利したのは、20年前の成田匠(TLM250R改)以来ではないかということだ。
それにしても、ホンダのサポートが縮小した今年、もっともダメージを受けたはずのチーム三谷のふたりが、そろって表彰台に上がった。ふたりの小川は同じチームに所属し、同じ三谷製300ccキットを使用し、そういえば二人のマインダーを務めるのは、田中裕人(小川毅士)と小川裕大(小川友幸)の兄弟A級である。ちなみに、友幸と毅士、二人の小川の間には、血縁関係は、ない。
4位には、ついに1日、本調子を発揮することなく終わった野崎。5位には、またまたチーム三谷の三谷英明が入った。スーパークラス挑戦をいったんはあきらめて、A級の勝負に楽しみを見いだしていた三谷だが、ここへきて、安全にスーパークラスにトライする術を身につけてきたそうだ。圧倒的練習不足ゆえ、体力と相談しつつ、誰よりも豊富な経験が、今の三谷のライディングを支えている。今年、チーム三谷ではスーパークラスに5名のライダーを参加させている。若手の参戦で、三谷にもよい刺激が生まれているという。
6位には、これまたチーム三谷の柴田暁が入った。今年昇格した西元良太(08年A級チャンピオン)、斎藤晶夫を下しての6位は快挙。しかも尾西和博、田中善弘、坂田匠太をも下してのこの成績だから、得るものは多かったにちがいない。
ベータにマシンをスイッチした田中善弘、スコルパにマシンをスイッチした坂田匠太は、A級チャンピオンのルーキー西元をはさんで、9位と11位のポジションを得た。ポイント獲得は10位までである。
国際A級スーパークラス、1位から11位までの各選手(ポイント獲得は10位まで)。1位小川友幸、2位黒山健一、3位小川毅士、4位野崎史高、5位三谷英明、6位柴田暁、7位尾西和博、8位斎藤晶夫、9位田中善弘、10位西元良太、11位坂田匠太
【国際A級】
小森文彦は、2008年1年間スーパークラスを戦い、今年は再びA級で戦うことにした。チームも変わった。今度のチームFUJIWARAは、小森のトライアル活動によくマッチした姿勢をとっているという。小森は大器だが、今では自分のできるレベルのトライアルを精一杯戦うことに主眼を置いているようだ。
体制が変わった第1戦での勝利は、だから小森にとってもチームにとってもうれしいものだった。でも試合がスタートした頃には、緊張でガチガチになった小森にはミスもめだち、とても勝利が得られるような感じではなかった。小森にとって、A級のセクションは1点を争う神経戦だ。それが、第1セクションから2点の減点を喫してしまった。これは致命的ともいえる減点になる。しかし逆に、小森はこれでふっきれて、この日一日をのびのび走ることができたという。
1ラップめのトップは野本佳章だった。去年の九州大会での勝利以来の快挙となるか、しかし同ポイントで、若き藤巻耕太がつけていた。A級3年め、いよいよ藤巻が、A級でもトップグループに食い込んできた。
しかし藤巻は、3ラップめの3セクションでの5点が決定的となって、小森に逆転を許してしまった。わずか1点差で、初優勝を逃した藤巻。それでも、初の表彰台を得たのは、シーズンオフの練習の成果が、きちんと発揮された結果でもあった。
3位となったのは、スコルパ250FからホンダRTLにマシンをスイッチした岡村将敏。関東では、若手のリーダー的ポジションの岡村だが、まだまだトップライダーとしても忘れてはいけない存在だ。
国際A級2位から15位までの各選手。2位藤巻耕太、3位岡村将敏、4位本多元治、5位野本佳章、6位成田亮、7位宮崎航、8位小野貴史、9位砂田真彦、10位徳丸新伍、11位佃大輔、12位滝口輝、13位村田慎示、14位日下達也、15位小野田理智
【国際B級】
毎年、開幕戦あたりではベテランライダーが威力を発揮する。それがシーズン中盤になると若手が台頭してきて、終盤戦では明らかに若手の天下となるというのが、国際B級の1年間の流れだった。
今年は年の初めから若手が台頭した。
山本直樹は、かつて全日本トライアルでゼッケン2をつけたこともある山本弘之選手の愛息。自転車トライアルをやっていてオートバイに転向。まだ1年ほどしかたっていない。しかしその走りっぷりは、若さあり、老練なテクニックも備わっているという感じで、死角がない。
2位には、エキシビジョン125から国際B級にステップアップして、去年中大会では2位に入って気を吐いた松岡一樹が入った。松岡にしたら、今年はB級チャンピオンをとるための大事な1年だから(松岡は関東のB級チャンピオンだから、A級昇格はできた)、山本の存在は目の上のたんこぶと言ったところだ。今年は、このふたりの争いがおもしろくなりそうだ。ベテラン同士の一騎打ちだった2008年とはだいぶ様相が異なっている。
国際B級2位から15位までの各選手。2位松岡一樹、3位米田悟、4位真田啓行、5位椎根弘守、6位薄井修、7位原嶌明男、8位茂木一、9位益子宏和、10位新井佑典、11位中田幸佑、12位吉平正男、13位安岡護、14位吉良裕哉、15位松本龍二
【エキシビジョン125】
3年めを迎えた全日本選手権に併催のエキシビション125。今回もまた、参加は1名のみ。
全日本選手権予備軍の若手にとって、このクラスの誕生は意義深いはずなのに、ちっとも盛り上がらない。このクラス一期生の松岡一樹は今回IBクラスで2位となっているのに。
もっともこのクラスを提唱したMFJ側も、クラスを設営しただけで、なんの発展も見せていないし、現状では、くやしいが盛り上がらないのもしかたがない。
このクラスに参加することで、若手がNBやNAをスキップしてIA昇格のチャンスを得られるとか、現状は公認車両となっていない多くの125ccマシンの参加を容認するとか(そのためもあって、現状は全日本選手権に組み込まれず、エキシビジョンとなっている)、協会側にできる普及対策はあるはず。なんとももったいないエキシビジョンクラスである。せめて、このおいしいクラスに参加して経験を積んだ数少ない若手が、どんどん得をして将来に羽ばたいてほしいと思う。
*リザルトの詳細は自然山リザルトページをどうぞ
投稿 : 2009年03月08日 07:31

