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1607和寒

全日本のトップ争い、それぞれの戦い

2016年シーズン、国際Aスーパークラスの表彰台は、いつもこの3人で占められている。小川友幸、黒山健一、野崎史高。ゼッケン1、ゼッケン2、ゼッケン3の面々だ。

成績を見れば、チャンピオン、小川が4勝、2位1回。ゼッケン2の黒山が優勝1回、2位2回、3位2回。ゼッケン3野崎は2位2回、3位3回。ゼッケン順に強さを発揮しているということになるが、その戦い方は、それぞれだ。

1607和寒の小川友幸

7月17日、北海道大会では、とにかく小川の絶好調ぶりが光った。SSを含めての22セクションをたった2点で回ってきた。2位の野崎が17点だから、圧勝だ。

小川は、土曜日にセクションを下見した時から、日曜日の戦いはオールクリーン勝負になるともくろんでいた。もしかすると、オールクリーンが何人かいるか、同点勝負になるのではないか、最後にはタイム競争になるのではないかと考え、ペースを速めるために、どこで勝負をかけたらいいか、などの作戦も考えていた。

しかしオールクリーンの可能性があるというのと、実際にオールクリーンをするのとは、大きな隔たりがある。何度か練習をしてクリーンできるというなら、その資格を持つ者はけっこう多くなるだろう。

トップの何人か、少なくともここに登場するトップ3は、確実にすべてのセクションをクリーンする実力があるライダーだ。これが試合ではなかったら、そして練習セクションとしてこのセクション群が現われたら、おそらくあっさりクリーンしてくることだろう。

でも実際には、試合ならではのミスが出る。試合だからという緊張もあれば、勝たなければというプレッシャーもある。あるいは、勝負に勝つため、クリーンを狙わず足をついていくこともある。そういうもろもろの事情で、オールクリーンの達成は遠くなる。オールクリーンは、試合に勝つための目的ではないが、オールクリーンをすれば勝利は限りなく近づいてくる。

結果、オールクリーン勝負らしい走りを貫いたのは小川だけだった。野崎が17点、黒山が22点。ひとつミスが出れば5点になりやすい設定ということもあって、ここに技術の差があるというより、この日の小川の試合っぷりがそれだけ完璧だということだったのだろう。

ここまで、5戦中4勝をあげている小川にしても、ここまでの勝ちっぷりはこれが初めてだ。4連覇に向けて、開幕2連勝を飾った小川は、この勢いで一気にタイトル争いを決着すべく、3連勝、4連勝を狙った。ところがそう思って気負えば、反対の結果が出る。3戦目の中国鳥取では黒山に敗し、九州でも最後の最後に逆転勝利。強いチャンピオンぶりを示すには、ちょっと勢いが足りなかった。

鳥取で小川に勝利したのは黒山だった。熊本で小川を苦しめたのは野崎だった。どちらもヤマハとの契約があるが、黒山はヤマハファクトリーレーシングチーム所属で、マシンもヤマハとなっている。一方野崎はYSP京葉 X KEN OKUYAMA所属で(Xは英語でバイと読むのが正しいらしい)マシンはスコルパだ。

1607和寒の野崎

野崎は去年2015年からマシンを2ストロークのスコルパにスイッチした。2015年シーズンはヤマハブランドとしての参戦だったが、2016年からはスコルパ銘での参戦となった。トップ3では、唯一の2ストロークに乗るライダー、ということになる。

小川の乗るRTL300Rは、その実スパークプラグが2本ついている、ばりばりのファクトリーマシンだ。小川がこのマシンに乗っているのは2013年の世界選手権茂手木大会から。第2戦を市販車改造のミタニ300で2位となり、 第3戦から以降はこのファクトリーマシンだ。小川がこのマシンに乗るのは、世界選手権用マシンのテストのためだ。トニー・ボウ、藤波貴久、ハイメ・ブスト(2013年はブストはまだチームにはいなかったが)のため、小川は全日本で実戦テストをしながらデータを蓄積している。

テストが第一目的で、レースに勝利するためにマシンが提供されているわけではない。勝ちに行くためには、ちょっとモチベーションが上がりきらなそうな待遇ではある。実際のところ、何年か前の最終戦では「全日本活動を続けるかどうかを含めて、シーズンオフにはじっくり考える」とのコメントをしていたこともある。

ところが2013年に接戦でタイトルをもぎ取った以降、小川はどんどん強くなっている。2013年まで、小川は2度タイトルを獲得している。ライディングのうまさは天下一品だが、強いかどうかというと、いまひとつのところがあった。その点、強いといえば、やはり黒山だ。

この3年、小川に負け続けている黒山は、ちょっと悩みに入っている。なにをやっても勝てない。今まで右から攻めるのをセオリーにしていたとしたら、左から攻めてみるとか、いろいろやり方を変えてみたが、さらにそれが裏目に出たりもする。

しかしそれも小川に言わせれば、小川はそういう苦しい戦いをこれまでにやまほどしてきた。黒山は勝ちパターンばかりで、負け試合の経験が少ない。いわば、負ける練習が足りない、というわけだ。

1607和寒の黒山(第10)

勝っている時の黒山は、なにをやっても勝てたという。あらぬ失敗をしても、ライバルがそれ以上の失敗をしてくれれば、結局は勝利する。勝ち続けるコツは、勝ち続けることだ。勝っているうちに、どんどん強くなる。強くなると、手がつけられなくなる。一時の黒山は、実際、そんな状況だった。

そういう点で、まだ勝つ練習が不足しているのが、野崎だ。九州では、SSに入るまでトップにいながら、たった1点差で逆転負けをした。これまで5勝を飾っている野崎だが、小川や黒山に比べれば、まだまだ勝つ練習が足りない、ということになる。

それでも、2016年シーズン中盤に来て、黒山と野崎の勢力図に少し異変が生じてきたような印象もある。もとは同じヤマハチームで、同じマシンに乗っていた二人。おととし、スコルパの2ストロークマシンを戦力に加えるにあたって、そちらを選んだのが野崎で、今まで通りヤマハの4ストロークエンジンのマシンと戦い続ける道を選んだのが、黒山だった。

黒山とヤマハの4ストロークマシンとの関係は2006年に始まった。黒山は世界選手権に11年間参戦を続けた。それと同じ時間だけ、同じマシンに乗り続けていることになる(正しくは、2006年の最初の何戦かは2ストロークのSY250Rに乗った)。DOHCの5バルブエンジンは、その驚異的パワーがヒルクライムなどで威力を発揮した。しかし10年が経って、最近ではとりたててパワー的に有利な印象はなくなってしまった。ツインカムエンジンだから、重量的にはやや不利なのは否めない。それでもこの10年で5回のタイトル獲得を果たしているから、このマシンと黒山のパッケージの強さは、やはり圧倒的だった。

1607和寒の黒山(第4)

黒山の戦いっぷりを見ると、つくづくトライアルはライダー次第なのだと痛感させられる。エンジンがぶすぶすいっていても(このエンジンのデビュー直後は、特にそういうことが多かった)、大出血するような負傷をしていても、勝つ時にはきっちり勝つ。

それでも黒山は、小川や野崎に比べて、トライアル環境には利がある。コンビを組むマインダーとはフルタイムでいっしょに行動ができる。小川と田中裕大のコンビは、ほとんど試合の鴇にしかいっしょに行動ができない。チームプレーの要素が大きくなっている現在のトライアルでは、このハンディはけっこう大きい。

体制に分がある黒山と、マシンに分がある小川という戦力図は、徐々に差が開いてきている印象がある。それに加えて、今の小川には、かつてない勝負強さが備わってきている。

北海道大会の第2セクション。3つある巨大コンクリートブロックの二つ目。小川は勢いよく飛びすぎて、大きくバランスを崩してしまった。しかし間一髪でこらえて、足つきの一つもなくここを抜け出している。

かつて黒山が「なにをしても勝てた」というのは、こういうシーンの積み重ねだ。いまや黒山のお株は、すっかり小川に奪われてしまっている。

1607和寒の小川(第4出口)

黒山がフロントを岩に上げることができずに5点になった第3セクションのあとの第4セクション、黒山が1点で抜けたあとの小川のトライは2点だった。オールクリーンができなかったと小川がくやしがる、その現場がこの第4セクションだったのだが、あの現場では、ヒューム管から墜落して5点という結末となっても不思議ではなかった。そこが2点でおさまるところが、今の小川の強さだ。

しかしふたりのランキング争いを尻目に、今、勢いをつけているのが野崎だ。新しいマシンとのコンビネーションも2年目、スコルパTwenty 300を自分のものにしてきた野崎に今必要なのは、勝つ練習、勝ち続ける練習だ。この練習だけは、実戦経験を積む以外にはなく、だからこそ、勝利はむずかしい目標になる。

野崎のスコルパでは、ダイヤフラム型のクラッチが装着されたり、いろいろなトライが続いている。ダイヤフラム型クラッチは2017年モデルのシェルコに採用が決まっているが、野崎号ではほかにもいろいろなトライが続けられている。こういった環境が、が野崎はいたくお気に入り。小川がファクトリーマシンを手に入れて調子を上げたように、このマシンが野崎のラッキー・マシンとなるのか。そのためには、黒山との2位対決に勝利するだけではなく、横綱小川に立ち向かう強さも身につける必要がある。

1607和寒の野崎(第3)

黒山が2度5点となった第3セクション。誰もが一度止まって挑む前半の大岩ポイントで、野崎は下から一気に大岩の上まで飛びきった。黒山も小川も、それをやるのはむずかしくないのだろうが、失敗が許されない実戦では、リスクを避けてセクションを刻んでトライしていく選択をする。野崎とてリスクを好んでいるわけではない。そこには、野崎の絶対の自信が感じられる。この強さが、すべてのセクションで発揮された時、野崎は小川と黒山にとって、こわい存在に進化することだろう。

15点差のぶっちぎりで勝利した小川は、しかし開口一番「くやしい」と言った。小川は、全日本選手権でまだ一度もオールクリーンをしたことがない。オールクリーンは狙ってできるものではないというが、セクションがむずかしければチャンスはないから、今回はおおいにチャンスのあるところだったのだが、それはできなかった。今シーズン、小川は全勝優勝ももくろんでいた。これも、すでに夢破れている。

1607和寒の小川(第4)

4連覇という大きな目標の達成を目前にして、小川の視線の先にはさらに高い目標が見据えられている。

「まだまだやめられない」

完璧な勝ちっぷりを見せながら、そこに納得していない小川。この強さは圧倒的にさえ思える。しかし残り2戦。チャンピオンの最右翼は小川で疑う余地はないが、次に完璧な走りを見せるのは、はたしてまたも小川なのか、それとも??

1607和寒の野崎と小川

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