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板取世界選手権バイクトライアル

カニャス

 板取村は、平成の大合併で、関市板取になった。その関市板取では、この13回にわたって(一度だけ、SARSの影響で中止に追い込まれたが、基本的には毎年)バイクトライアル世界選手権が開催されている。
 8月20〜21日、今年もこの大会は開催された。しかし折りからの低気圧で、日曜日には大雨直撃。地元の人も見たことがないと言う板取川の増水で、セクションが次々に閉鎖になるという大荒れの中、ダニ・コマスがついにチャンピオン。寺井一希は2位表彰台を獲得。宮岡啓太もセニアクラスでチャンピオンとなった。
◆板取世界選手権
◆バイクトライアル連盟
◆世界選手権速報


 ちなみにバイクトライアルとは自転車トライアルのことだ。日本では、バイクといえばオートバイのことだが、実は『オートバイ』は日本語で、英語ではモーターサイクルという。モーターサイクルを意味するバイクは和製英語で、フランス人などはモーターサイクルのことを『モトバイク』などという。バイクトライアルが自転車トライアルだというのは、日本でこそわかりにくいが、日本人がへんてこなカタカナ英語を使っているのが悪いのだ(記憶の範囲では「バイクという単語を使いはじめたのは私」と、辻司さんに解説されたことがありますが、辻さんが犯人か?)
 バイクトライアルは、トップライダーに限らず、まだ小さな子どもまで、どのライダー(バイクトライアルでは、なぜかパイロットという)を見ても、感心することしきりのテクニックを見せてくれる。もてぎのトライアル世界選手権も相当に感動ものだけど、ある意味、バイクトライアルの世界選手権は、それ以上の驚愕と感動を与えてくれるもの。なかなか告知活動がスムーズでなくて、いまだバイクトライアルが一部のマニアのものになっているのが残念でならない。
 さて、バイクトライアルのそんな背景はともかく、今回は個人的な感想。ニシマキは、10年ほど前に板取村のバイクトライアルに、少しかかわらせていただいた。板取村の世界選手権は、よくも悪くも手作りで、これに関るということは、自分の能力がおおいに試されることでもあって、そらぁもうたいへんだったけど、おもしろいこともたくさんあった(そのあたりの顛末は、トライアルジャーナルに昔書いたものがある。こちらへ)
 ただ、そんな仕事をさせてもらう一方、最初に世界選手権を見たときのレポートを、やはりトライアルジャーナルに書かせてもらったのだけど(たぶん95年だったと思う)、採点がしっかりしてなくてもったいない、なんてえらそうなことを書いてしまった。若気の至りというか、板取村のみなさんには申し訳ないことをしました。でもあの時は、確かにそういうのがいたるところで目について、せっかくの世界選手権なのになぁと思ったのは事実だった。

寺井

 バイクトライアル事務局の三嶋鋳二(こども社。元トライアルジャーナル編集部員)によると、あの記事で板取村のみなさんはいたくショックを受けていたということ。ふつうなら「なにを書きやがる、ばかやろう」みたいな反応が来るものだけど、板取村からはそういう反応はなかった。次に聞いたのは、翌年の世界選手権シーズンに、板取村の方々が視察にでかけるというニュースだった。ヨーロッパの世界選手権が、必ずしも見本になるような運営や採点をしているわけではないのだけど、もしかして、ぼくが書いた失礼なレポートが、こういう活動につながったのだと思えば、ぼくも少し救われた思いがしたものだ。
 あれから10年弱。今回、最初のセクションを観た瞬間に、ぴりりとした空気を感じた。オブザーバーが、とてもすばらしい。きびきびしている。みんな、大きな声で採点をしている。自分の仕事に、自信を持っている。そういえば、10年前にぼくが感じた“採点のなさけなさ”は、採点が正しいかまちがっているかもともかく、採点に自信がなく、自信がないまま次の選手の採点をし、どんどんドツボにはまっていくシーンを少なからず見たことだった。今でも、採点には多少のまちがいはあるんじゃないかと思う。人間がやるのだから、100%正確にするというのも、なかなかむずかしいものがある。しかし、自信を持った採点はちゃんとできるのだということを、板取のみなさんはぼくに教えてくれた。バイクトライアルパイロットの技術にも感動させられたけど、こちらの感動が、ぼくにはなにより大きかった。
 さらにすばらしいと思ったのは、オブザーバーに、若い女の子がすごく多いことだ。それもお手伝いではなく、とても重要なポストを、きちんきちんとやってのけている(熱心のあまり、濁流流れる板取川に転落してしまったオブザーバーもいらした。セクション閉鎖が決定した、まさにそのときに起こったアクシデントだった。無事でよかった)。
 板取のバイクトライアルへの取り組みは非常に熱心だ。オブザーバーへも、技術的なこと、やるべきことを、きちんきちんと教育されているんだろう。そのうえで、彼らには13年間世界選手権を開催しているという経験がある。そしてよく考えてみれば、現在オブザーバーをやっている多くのみなさんは、物心ついたときには、すでにバイクトライアルは板取村の国技(村技?)たるものになっていた。バイクトライアルが当然そこにある環境に育ったものがオブザーバーをやる。板取の少年少女たちにとって、バイクトライアルをやるかオブザーバーをやるというのは、人生の当然の選択になっているようだった。

濁流

 彼らの生まれ育った板取というところは、バイクトライアルに熱心であるがゆえに、大きな特徴も持っている。世界選手権では、海外から多くの選手がやってくる。ところが板取には、宿がそんなに多くない。そこで海外選手は、住民のおうちに、ホームステイして試合を戦う。岐阜県の山奥の山村の家々に、突然日本語を話さない外人選手が訪れる。若きオブザーバーたちは、生まれた頃から、1年に1度、わが家に外人選手がやってくる環境で育っている。しかもそれが、世界のトップライダーである。
 人が育つとき、教育はとても大事だが、それ以上に環境が人に与える影響は大きい。板取の子どもたちは、生まれたときからそこにバイクトライアルがあり、年に一度ではあるが、外国語が家の中でふつうに話される環境に育った。10年前は、オブザーバーがセクションの残り時間をカウントする「ワン・ミニッツ、サーティ・セコンズ」のコールも、なんとなくたどたどしく恥ずかしげだった。今はそんなことはない。すべてのオフィシャルが(といっても、ある程度年齢のいった方々は今さら変われないけど)、外人選手と気軽に会話を交わしている。中には、ホームステイした選手のマインダーを買って出ている子もいる。
 自治体をあげてのイベントといううたい文句はあちこちでよく聞くけれど、板取村は、13年前から、着実に村をあげてのバイクトライアル世界選手権を育ててきた。今板取村は関市板取になって、大きな流れは変わらないものの、細かい部分はいろいろ変わってきている。バイクトライアルの普及を考えると、板取村以外での世界選手権開催も期待したいところだけど、板取の取り組みの火は消えてほしくない。
 何年日ぶりに板取を訪れて、かつて暴言レポートを掲載したことを少し反省しつつ、新たに育ったバイクトライアルを支える人々の活躍に、心底感動した板取の世界選手権だった。

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