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2010年ルールのお話

 2010年、アウトドアのルールがノーストップになるという話題があった。イギリス人の間では大賛成と盛り上がっていたようだが、話はそうそう簡単ではないようだ。
 インドア世界選手権のルール変更によって、もっとも貧乏くじを引いてしまった感のある我が藤波貴久選手に、2010年のアウトドア世界選手権のルールについての現況を聞いてみた。


 ノーストップルールというのは、停止を即5点とするものだ。停止については、現在はまったく減点をとらなくなっているが、いろいろ紆余曲折があった。
 1990年代まで、長く定着していたルールでは、停止は減点をとらず、停止しかつ足をついたときに減点5となっていた。この当時は、足をつかなければバックするのも自由だった(バックする概念がなく、ルールが追いついていなかったという背景もある)。
 1997年、1年だけ世界選手権で採用されたルールは、奇想天外だった。ほとんどなにをしてもよくて、登り損ねたらそのままバックで降りてきて(向きを変えてきてはダメ)何度でもやりなおせる。サブフレームを持って向きを変えてトライすることもできた。今思い出しても、かなりみっともないトライアルだった。
 そのテストケース(だったのかどうだかわからないが)を経て、停止を1点とするルールが採用された。しかし今度は、なにを停止とするのかが論争の種になった。
 そして現在のルールに落ち着いている。簡単に言えば、転倒やセクション外に飛び出る以外では、5点になるのはバックだけ。止まるも自由(足をつかなければ減点ゼロ、足をつけばその減点)。ただし世界選手権や全日本選手権ではセクション走破時間の制限がある。途中で一休みしていると、時間が足りなくなる。
 今でも、バックしたのしないの、あるいは自分のわだちを踏むのはご法度なのだが、わだちを踏んだかどうかは、はっきり跡が残っているわけでもなし、けっこう問題になったりもする。トライアルの採点は、いろいろむずかしいのだ。
 とはいえ、停止1点でも問題になった経緯があるのに、なぜ今また停止5点のルールが出てきたのか。ライダーの間では、当然疑問と反対の声が上がった。賛成しているのはイギリス人くらいのもので、たいていのトライアルライダーや関係者からは、賛成の声はまったくといっていいほどあがらなかったようだ。
 どうしてイギリス人が賛成かというと、イギリスのセクションは滑るところが多い。晴れても降っても滑る。しかもめちゃめちゃに滑る。一度止まると、再スタートはまず不可能なところが多い。なのでイギリス人は、止まらずに走るのがうまい。逆に一度止まってためをつくって大きな障害を越えたりするのは、苦手なライダーが多い。つまりイギリス人は、ノーストップルールが採用されると、ちょっと有利。自分たちに有利だから賛成するという魂胆も見え隠れする(表向きには、止まらずに走るのがトライアルの伝統であるというのが理由だ)。
 もうひとつ、FIMがルールに手を入れたい背景には、トップのふたりか3人以外に勝つチャンスがない現代の世界選手権はいかがなものかという発想もある。停止に減点をとるようにしたのも、技量の格差を減らしたいという思惑があった。
 しかし停止1点をとったときのことを思い返せば、この発想はアホ丸出しだった。どんなルールにしても、うまいライダーがへたになることはない。そしてへたっぴは、体制を整えられないまま次のポイントに向かっていって、悲惨な玉砕をすることが多くなった。
 おそらく今ノーストップルールを採用すると、きっとこのときの再現になるのではないか。止まらないからテンポが早い。マインダーを数多く(あるいは足腰の強いマインダーを)用意できるライダーが安心してトライできて、ライダーに追いつかないマインダーのいるライダーは、マインダーなしでポイントにトライせざるを得なくなり、中途半端にトライして失敗してけがをする。ご愁傷さまだ。
 こういう予想は、日本でしているよりもヨーロッパの方がはるかに現実的な危機感を持って語られる。だいたい、ルールが変わってもセクションには変化がない。ノーストップだから簡単にしましょうなんて、通達があったとしてもなにも変わらないのが今までのヨーロッパだった。フランス大会など、10年かけてセクションを作っていたりするのだから(10年前から開催地が決まっていて、10年かけて準備したりする)今年ルールが変わったからといって、急にセクションを簡単にするなんてやなこったなのだ。
 こうまでしてルールを変えたいのは、やっぱりいろんなライダーに勝ってほしいというFIMの思惑がある。インドア世界選手権では、オブザベーションセクションを減らして競争ばかりにして、イギリスのルーキー、ジェイムス・ダビルが表彰台に上った。この結末にFIM関係者はご満悦らしいが、トライアル本来のところで勝負がつかないからそれ以外の要素を加えるというのは、草大会で同点の場合に順位をじゃんけんで決めるというのと変わらない。FIMも、そこまでトライアルがきらいだったのかと問いたいところだ。
 そんなこんなで、ライダー関係者から反発を食らったあげく、今では、今年のアウトドアの世界選手権は去年のままのルールで運用されるのではないかということになっている。藤波も、シーズンオフにはいった直後にはノーストップ対応の練習を繰り返していたが、今年にはいってからは、その練習をまったくやっていないという。藤波がノーストップの練習をしていたのは、ノーストップに歓迎だからじゃない。そうなったときに困らないための準備だ。今藤波がノーストップの練習をやめたということは、練習しなくても困らない事態になったということである。
 しかし一方、今ヨーロッパでは、現状のルールに変わる、別のルールが取りざたされているという。ノーストップよりは、こちらの方がはるかに有力ということだ。これがすごい。
 冒頭にあるへたくそないたずら書きは、このルールの概念図だ。ところどころにゲートマーカーがある。このマーカーは、なにクラスはどこを走りなさいと指定されているわけではなくて、どこを走ってもいい。走りたくなかったら、通らなくてもいい。マーカーには数字が書いてある。これが点数になる。50点マーカーを通過すれば50点。3点だったら3点。
 これまでのトライアルは(おそらく)トライアル誕生以来減点法だった。ここではじめて、トライアルが加算法になる。減点法とは、いわば失敗をねちねち責められるルールだから、なんとなく爽快じゃないと思ったりもしていたので、難所を通過すればポイントがもらえるというルールはとりあえず歓迎したい。
 転んだりすると、そこでトライはおしまい。そこまでに通過したマーカーのポイントをトータルしたものが、そのライダーのそこでのポイントになる。だからインに難所があって、そこで5点になってしまったら0点。同じような難所で転倒しても、それが最後だと、そこまでにポイントを集めておけるから、被害は少ないということになる。
 しかし、このルールが採用になると、大きな問題点がある。ひとつのセクションでのポイントだけでも100点とかになるので、1日トライアルをすると何千点という気が遠くなるポイントになる。1と2と3と5の足し算でさえむずかしいというのに、そんな数字になると(少なくとも自然山通信には)お手上げである。ライダーも、電卓を片手に下見をするようになるかもしれない。
 藤波選手は、すでにこのルールで模擬大会を経験したということだ。セクション作りそのものはこれまでと変わらないが、マーカーに課するポイントの振り方は重要だ。リスクが高いものを低いポイントにしておくと誰もトライしないし、大物をひとつ失敗してその日の勝ち目がなくなってしまうような設定でもうまくない。これはなかなかむずかしそうだ。
 しかしそれにもまして、このルールのよいところがあるという。それは、藤波選手ときのうトライアルを始めたばかりのライダー(というのは極端化もしれないが)が、同じセクション、同じクラスにトライできるということだ。今でも、世界選手権では3つのカテゴリーが同じセクションを走っているが、勝者は3人現れる。しかしこのルールなら、すべて簡単なところばかり走ってポイントを集めた初級者ライダーが、むずかしいポイントでことごとく失敗したカベスタニー(誰でもいいのだけど、カベスタニーはときどきこういうことがある)に勝っちゃうという可能性もある。三谷英明さんと藤波選手が、ではなく、ぼくと藤波選手が同じセクションで勝負ができるというところが、このルールのすごいところである。
 遠い日本の常識から考えると、このルールが2010年のトライアルに採用されることはほとんどないと思われるも、トライアルの現状打開のために、こんなことまで考えているという、ヨーロッパの頭の柔らかさは、ちょっと脱帽するところではある。
 さて、2010年はどんなルールになるのやら。いや、もう間もなくなんですが。

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