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トライアル事始

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今どきのトライアル

30年前にトライアル遊びをされて、その後ずっと二輪とは遠ざかっていたNさんとメールのやりとりをしました。Nさんはすっかり浦島太郎で、現在のトライアルについて、なんにもご存知ではない。

解説をさせていただいたのですが、自動車雑誌関係の仕事をされているNさんがご存知ないのだから、一般の人にトライアルの現状なんてわかるはずがないよなと思い、Nさんへのお手紙をこちらにも転載です。

Nさんへの手紙

Nさんがトライアルバイクで早戸川を遊んでいた時代は、オートバイにしろ自動車にしろ、今から思えば黄金時代でしたね。石原慎太郎さんが青春を謳歌していた時代。いま、石原さんが三宅島でマン島TTみたいなことをやろうとして二輪界を困惑させているように、30年前のことを現代にスライドすると、いろいろ通じないことがあります。

ホンダTL、ヤマハTY、スズキRL、カワサキKTのラインアップは、ぼくは高校生の頃に雑誌で見るくらいしか接触はないけど、現代では、日本のメーカーはトライアルマシンを作っていません。

例外的にTLM220Rという2ストロークのモデルがあって、ホンダのカタログからはもうなくなっているけど、警察が白バイ訓練用にトライアルマシンを必要とするってんで、このTLMのみが、ときどき生産されて警察関係に納入されています。いっしょに、鈴鹿やもてぎのトレーニングセンターも注文を出せるみたいで、ごく一部の機関が新車の国産トライアルマシンを購入できるしくみになってます。

ただし、84年に発表されたTLMは公道走行用のモデルでしたが、今警察関係に納入されているのは登録用書類のないマシンです。

国際トライアルマシンで、もっとも設計が新しいのはヤマハのTYZスコティッシュというやつで、水冷250ccアルミフレーム。設計が90年初頭のもので、発表は1994年。これを最後に、トライアルモデルが日本のメーカーから発表されることはなくなりました。

まず、車両の規定がたいへん厳しくなった。キーをオンにしたらライトがつかなければいけないとか、追い越し騒音はこれこれ以下でならないとか、もちろん排気ガス規制もある。小さな排気量で、しかもトルクの山を低速に振っているトライアルマシンは、ふつうの基準で騒音測定されると、とてもうるさいオートバイになっちゃいます。だってほとんど全開だから。

でもこういう技術的な問題は、がんばればなんとかなるのだそうです。なんとかならないのは営業的な問題。つくったって売れないものは作れないというのが、今のメーカーの姿勢です。

でもヨーロッパのメーカーは作ってるんだから、売れないってこともないんじゃないの?と思う人は多いです。でもトライアルってニッチな世界だから、ユーザーはメーカーに対しても基本的に寛容です。モデルチェンジしたばっかりのマシンを買うと、スイングアームが折れたりポンポン焼きついたりすることがあるけど、こういうこともあるさと納得できる人が多いわけ。日本のメーカーのような作り方をしていたら、きっと採算が取れないんじゃないかと思います。まぁ、日本のメーカーは大きくなりすぎたから、小さな市場に向けては興味がないというのが正直なところなんでしょう。

今、トライアルマシンはスペインとフランスとイタリアで作られています。

スペインにはモンテッサとガスガスとシェルコがあります。モンテッサ以外は聞いたことないでしょ。ガスガスは80年代に、シェルコは90年代末にできたメーカーです。モンテッサはホンダの子会社だから、日本でもHRCからモンテッサのマシンを購入できます。でもメーカーの母体はスペインです。設計は朝霞研究所だけど。

フランスはスコルパというメーカーがあります。ここは日本のメーカーとの資本関係はないけど、直訴してヤマハエンジンの購入契約を結びました。今、スコルパにはヤマハのDOHC5バルブエンジンとか、先のTYZエンジンとか、ブラジルで作った125ccエンジンとかが積まれています。ヤマハはトライアルチームを持っていますが、走らせているのはヤマハ製のマシンではなく、このスコルパです。

イタリアにはベータというメーカーがあります。工具のベータとは関係なし。社長自らがトライアルチームの一員として仕事したりしてます。ヨーロッパのメーカーは、会社のえらい人が、みんな泥だらけになってトライアル会場にいるのがふつう。HRCのえらい人が世界選手権に足を運んだとなると、ニュースになります。ベータの社長の場合は「今回の世界選手権はラポ(社長)がいないね」というのがニュースになります。

ただ、こういったヨーロッパのメーカーのトライアルマシンは、どれもが競技を前提に作られていて、ガソリンタンクは3リットルもはいりません。シートはついてない。オートバイとしては、たいへん乗りにくい代物です。唯一、スコルパだけがシートがついて、5リットル弱の大きな(!)タンクをつけたものを市販しています。TY-S125Fというんですが、これが今、なんとか町中も走れてトライアルもできるマシンとしてお勧めできる機種です。といってもフランス製ですから、日本製みたいに乗りっぱなしにしていては機嫌をこわします。ぼくも持ってますが、ブレーキパッドはあっという間に消耗する、エアクリーナーエレメントにアフターファイヤで軽く着火して煙が出る、付属のスピードメーターは50km走ると動かなくなる、などのトラブルが発生しました。でも、こんなもんなわけです。スコルパが、特にひどいマシンを作っているわけではありません。

というわけで、日本のメーカーはトライアルにほとんどタッチしていません。でもそれでいいじゃないかとも思います。自国製の道具がないとスポーツが発展しないなんて、他の国の人が聞いたら首をかしげちゃいます。日本のモータースポーツがメーカー主導で始まったところが悲劇の始まりなんですが、今、たまさかメーカーの傘から外にでているのが、トライアルってわけです。

乗る場所がないというのはご指摘の通り。特に30年前の極楽時代を知っている人には、例外なくそう指摘されます。でもそうなっちゃったんだから、しょうがない。たとえはうんと悪いけど、昔は談合やり放題、リベートや裏金でいい思いをしていたというのと同じじゃないでしょうか。今は時代がちがうから、そのへんの野山を勝手に走って遊ぶわけにはいかんのです。

だからみんな、けっこう遠くまで走りにいってます。東京の人だったら、トライアルやるのに1時間走るのはふつうです。中には自宅の近所で乗りたいからといって、自転車トライアルを始める人もいます。これなら、近所の公園でできるからって。ほんとに許されるかどうかは、よくわかんないけど。

ほんとは東京のど真ん中にもトライアルパークがほしいところだけど、今のように市場が小さかったら、成り立ちません。今のところは、それでもなんとなく昔からの慣例で走ってもよいとされている場所があるので、そういうところをこっそり維持していくためには、あんまり仲間が増えないほうがよいという考え方が支配的です。

でもそれじゃ、新しい仲間は増えようがない。いまどき、口コミのみが新規参入の広報主題というのはものすごい時代錯誤です。しかし現状ではしょうがないというところです。Nさんの時代錯誤を指摘しようと思って書きはじめたけど、結局は自分たちの時代錯誤に行き着いて終わりました。

それでもトライアルはおもしろい。昔のトライアルを知っている人も、最近復活しておもしろがっている人は多いし、今までトライアルを知らなかった人も、始めたとたんにはまったりしています。トライアルがおもしろいということだけは、確かなことのようです。

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