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2011年3月11日の自動販売機

4年目の3月11日

 そろそろ四月ばかのネタを考えないといけない季節だなぁと思っていたら、その前に3月11日がやってきた。
 おそらく今日は新聞やテレビがこぞって震災4年目の悲哀を訴えるのだろうけれど、まぁせっかくこういうところに住んでいるので、ぼくはぼくで4年目の思いを書いておこうと思います。ほかにやりたいことがつまっているので、殴り書きです。すいません。

2011年3月11日午後の雪地震のあと、横なぐりの雪が降り始めた。なんだか地球滅亡みたいな気がした。3月11日午後3時56分撮影

 日本と東北全体にとってはともかく、ぼくらにとって、3月11日は、ひどい地震があったという、それだけの日だ。屋根が崩れた家はあったし、かわらがクルマに落ちてかわいそうなことになった人もいた。でもそれだけだった(冒頭の自動販売機は、地震で見本の缶が倒れた鈴木商店の自動販売機)。家の中はぐっちゃぐちゃになったけど、まぁ余震がおさまってからのんびりやろうと思っていた。一部の先進的な人はすぐに原発の心配をしたんだろうけど、ほとんどの人は、原発のことは忘れていた。だって、原発は安全なもののはずだったから。
 なのでぼくらにとって、祈りを捧げるというか、恨みを新たにする日は、3月11日ではない。富岡町の人たちが大挙して避難し、1号機の建屋が吹っ飛んだ12日か、村長がみんなで自主的に避難しましょうと宣言をした15日か、実際に村を出ることになった16日かになると思う。でも世の中の趨勢に対してつまんない反発をしていてもしようがないかなとも思う。ほんとに反発しなければいけないことは、まだ別にありそうだから。

2011年3月11日瓦が落ちた家瓦が落ちた村の集落の家。このへんでは、こんなのが最大の被害だった

 放射能の被害には、最初はとても神経質だった。でも今となっては、ずいぶん鷹揚になった。いい意味ではぼくらはみんな放射線被害について猛勉強をさせられたからであり、空気や食品の放射線計測もそこそこに(完璧とは思えない)やっているから、今の危険がどれくらいで、どれくらい安心していられるか、それぞれがそれぞれの基準をもてているのだと思う。でもその反面、放射線被害について無頓着になっているのかもしれない一面もあって、それはこわい。
 この地域で暮らしていくには、放射線被害はないものと思って暮らしたほうが楽だ。将来どんな病気になろうとも、それは放射線被害ではなく、運命なのだと思ったほうが楽だ。それはたまたま国の判断と合致しているけれど、国の判断に賛成しているのではなく、そうでなければ住めない、住みにくいからだ。いまは米も食品も、ありとあらるものを計測しながら生活している。それが日常にもなりつつあるが、自分で作った野菜などを食品検査に持っていくだけで悲しいところに住んでいるのだと思い出してしまう人も多い。だからたいてい、そういう人は村に帰ってきていない。
 当初、ぼくが放射線被害についてこわかったのは、安全と思える数値が世の中にたくさんあったからだ。まず放射線管理区域というやつ。この数値に照らし合わせると、今人が住んでいるところで管理区域に該当するところはいっぱいあるんだということで、こりゃ困ったもんだと思った。
 しかし一方、日本で100Bq/kg(1kgあたりの放射性物質の量。ベクレル)以下と規制されている食品の出荷基準は、当初は500Bq/kgだった。500では高すぎて不安だという声に押されて、100という数字に落ち着いた経緯があるんだけど、では500は危険だったのか、100なら安全なのかという検証はない。今、100Bq/kgぴったりの食品は流通できるはずなのだが、実際にはそんなのは流通していない。検査機でND(低すぎて測れない、もしくは機械がぼろくてそんなに細かい数字は出てこない)となっても、それでも不安に思う人はいるし、まして10Bq/kgなんて数字が出たら、汚染食品ということにされてしまう。
 おそらく、多くの消費者にとって、放射能はあってはならないもので、100Bq/kgがだめで50Bq/kgならよしということではなく、30でも10でも5でも1でもだめなんだろう。
 ぼくら子どもの頃には、あちこちで原爆実験が行なわれていて、雨に濡れると髪の毛が抜けるぞと脅かされていた。そして実際に、多くの放射性物質にまみれて暮らしていた。いまさら放射能がこわいもないもんだ。こんなに放射能がこわい人が世の中にあふれているのは、それにも理由があるんじゃないかと思う。
 広島、長崎とその後に続く第5福竜丸に象徴される核実験は核に対する負のイメージだ。それを未来の明るいエネルギーに変えて、日本のあちこちに原子力発電所を作る必要があった。核爆弾は危険きわまりないが、核発電所は絶対に安全だという事実を作らなければいけなかった。でも事実なんか作れないから、イメージばっかり作った。放射能はひとっつも漏れていません、なにがあっても事故は起こしません。
 そういうイメージ作りは、原子力発電所自身にとっても不幸だったと思う。よくある事故でも会社からいじめられ、世間からいじめられた。毎度毎度あんなにいじめられたら、組織防衛のための隠微体質とは別に、細かいことは黙ってようと思うようになるんじゃないのか。
 放射能はひとっつもあってほしくないという思いはぼくも持っている。でも世の中のほとんどの人は、直接間接に原子力発電を推進し、その恩恵にあずかってきた。ひとっつも、というのはわがままな願いだから、安全な領域をしっかり見極めて暮らすべきだと思う。アメリカやソ連の核実験の汚染は黙って受け入れたくせに、日本人が日本人のために作った原発から出た核汚染をこんなにも受け入れないなんて、日本人はなんとわがままな連中なんだろうと思ってしまう。

 震災の後、避難の後、再び村役場が元の役場に帰ってきて、いわゆる復興が始まった。最初はみんな様子をうかがっていて動きは遅かったが、国から復興予算が出て、その使い方の指針ができると、いわゆる復興はぐんぐん進んでいった。
 ここで「いわゆる復興」だなんて注釈つきで言ってるのは、すくなくともぼくは、復興予算でやっている事業が、復興にはちっとも結びついていないと思うからだ。
 たとえば除染。汚染されたものを洗って放射線濃度を下げる除染は絶対に必要なアクションだと思うけど、除染が必要でないところもがしがし除染する。やるとなったら公平に、ってやつだ。しかもなんだかんだと、繰り返しやっている。一方で安全だといいながら、現地へ行ってみれば除染の嵐である。なんだ、安全だなんてウソじゃないかと思われたったしょうがない。
 いっぽうで、山の中は除染をしていない。山裾に建っている家に住んでいる人にしてみたら(山村だからたいていの家がそうだ)、雨が降るたびに山の上の方からいろんなものが流れてくるんだから、山を除染してくれないと心配はつきない。でもやんない。そのうちやるっていってるけど、山はでっかすぎて手に負えないからだ。
 でもぼくは、山の除染なんてやるべきじゃないと思っている。へたに除染工事をして、山崩れを起こしたり、そのための防護壁を作らなきゃいけなくなったり、つまんない結果になりそうな気がするのと、そんなことをするまでには、放射線地は充分に下がっちゃうんじゃないかと思うからだ。
 まだ、山の中には放射線地が高いところがある。たとえば杉の森なんかは高い。杉は放射性物質をたくわえるのが得意で、その葉は毎年落ちるわけじゃないんだそうだ。でも逆に、何年かしたら、葉っぱが入れ替わって、その葉をていねいに拾って処理をすれば、それで山はずいぶん放射線地を下げると思うんだけど、このへんは素人がとやかく言うことではない。

2011年3月12日朝の集会所3月12日、富岡の人が避難してくるというので、集会所を開いて準備した

 素人が、というけれど、なんとなくそんな気がするんだけどなぁということかあたることはよくある。たとえば薪ストーブだ。
 薪ストーブの燃料は、ほとんどが汚染された。特にうちの薪なんて、薪棚が地震で崩れてしまったそのままだったから、一番濃いときの雨をたっぷり吸っている。線量計を手に入れて、ストーブの焼却灰を測ってみたときにはびっくりした。家の中が0.4μSv/hくらいだったあの頃、焼却灰は3μSv/hとか5μSv/hとか、一桁以上高い数値を示した。
 焼却灰をきちんと計測すると、一番高いのは10万Bq/kgくらいあった。こうなると、さすがに食べても大丈夫だとは思えない。灰がなんで高い放射線地を示すのかというと、ストーブで薪を燃やして、重さがけたちがいに軽くなってしまうからだ。
 つまりもともとそこに放射性物質は存在した。100Bq/kgの薪が1トンあったとする。合計10万Bqになる。これが燃やすことによって1kgに減量してしまうと、100Bq/kgの薪は10万Bq/kgの灰になる。
 放射能は濃縮されると、よくいわれる。セシウムは金属だから、重たくてたいていはそこに残る。一部の学者は放射能は飛んでいかないなんてウソついちゃったらしいけど、正しくは、たいていは飛ばない。でも爆発事故起こっちゃったらその限りじゃないわけだ。
 薪ストーブの燃焼温度はごく低い。その程度の温度ではセシウムは溶けない。なので煙には混ざらず、全部家の中のストーブの底に溜まっている。
 一応、線量計を持って屋根の上に上って、煙の線量を測ってみた。煙なんて重さがないものだから、ちゃんと測るにはどうしたらいいのかわかんないけど、煙に線量計を当ててもまともな計測にはならないのはわかる。
 しかしそれでも、煙に当てたときとあてないときと線量が変わらないのを確認して、煙には放射性物質が含まれないと納得している。
 今、村の内外でつくる焼却炉についても、低温で燃している限りは煙が汚染を拡散することはないと思うんだけど、でも実際にでき上がった焼却炉を見ると、まず第一印象は不気味であり、安全とはほど遠い。これは科学的な検証ではないから、いわゆる風評になるんだろうけど、焼却炉がある川内村は安全ではない、という印象を持つ人はいるような気がする。

 世の中には、原発反対運動を熱心に行なっている人が少なくない。最初は、そういう人たちはぼくらの味方だと思っていた。だってぼくらは、原発事故被害者なんだから。
 ところが、ぼくらが元の村に戻って住んでいるということは、原発事故がたいしたことないという証明にもなるらしく、原発再稼働を推進したい国策の後押しをしているという意見がある。
 うもー、この村の人たちが、どんな思いで、どんな覚悟で、どんな配慮をしながら戻ってきたのか、戻ってきて、あっさり元の暮らしができていると思うのか。そういう連中の首根っこをつかんで村に連れてきて、飲み明かしてやりたいと思うのだけど、そういう連中って、あんまり来ないんだよね。おっかないんでしょうね、放射能が。
 ぼくは選挙に行かないやつを認めない。自然山通信の相棒の杉谷は選挙にいったことがないというので、一時は自然山通信解体の危機があったけど、最近は行ってくれている。でも選挙もむずかしいなと思う。
 ぼく自身は選挙権をとって以来、自民党にいれたことは一度もないけど、直近の選挙では、自民党にいれた村人は少なくなかった。あれだけいじめられて、それでも自民党に投票するんだから、福島は自分で原発事故を選んだのだと声を上げている人もいる。まぁそのとおりかもしれない。
 ぼくらにとって、実は原発再稼働は直接の利益不利益ではない。だってぼくらの近くにある原発は、みんなぶっこわれちゃって(第二原発も再稼働ができるかどうかという状態ではないとぼくは思っている。物理的にも政治的にも)再稼働の心配はない。原発事故収束作業に100%の国力を注いでほしいという願いはあるけど、それでは国が止まってしまう。
 国が歩みを止めずに、原発事故もまるくおさめて、うまくことを進めてくれるのはどこの誰かというと、民主党にはまかせられないのは明らかになっちゃったし、自民党が一番仕事をしてくれる、という実感があるのだろう。
 自民党は原発に頼らない未来、とか言ってたから、だまされて投票しちゃったのかもしれないけど、いやいや、住民は直感として、意外に投票すべき人に投票してる気がする。原発をやめるかやめないか、ではなくて、いかに仕事ができるのか、というのが選挙のものさしだとすれば、今の民意は、ある程度正しかったのではないかと思う。

「震災で失ったものはなんですか?」と取材に来た人は聞きたがる。震災後もぼくらは今まで同様に楽しい暮らしをめざしているし、実際に楽しいことも多いんだが、なにを失ったかと聞かれたら「失わなかったものはなにもない」と答えることにしている。
 でも実はこうも思う。ほんとうは、震災前と震災後、変わったこともなにもなかったのではないのではないかと。
 あと何年生きていられるかわからないけど、この村が近い将来(遠い将来は見届けられない)どんな運命をたどっていくのか、見届けてやるのが、村に残ったぼくのライフワークです。

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