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川内村(西)

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2012例大祭

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 春の例大祭がとりおこなわれた。諏訪神社と八幡神社、ふたつの神社にお参りする。こんな時期だから、お祭りなんてどうなのよという感情だってないことはないけど、どっこい、ぼくの住む高田島って集落は、去年の春からお祭りをやっていた。去年の春は15人の参列者だった。今年は何人集まるやら、さて!?
 集落のお祭りだから、あんまりヨソ者は混ざらない。だけど混ざっちゃいけないのかといえば、そんなことはない。区長さんにおうかがいしてみたら、大歓迎だってことなんで、お誘いしたのが、山下和正先生だ。

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投げ餅。みんな子どもみたいに餅をとりあう。ぼくも議員さまの目の前で餅をひとつ奪ってやった

 山下先生は建築家で、今検索して知ったのだけど、銀座の数寄屋橋の三角屋根の交番も設計されたらしい。先生はうちの集落の外れの、村の中心地に一番近いところの山奥に、すてきな別荘をお持ちである。将来、隠居したらこちらに定住する予定らしいけど、なかなかお仕事が片づかなくて隠居ができない(見た目はおじいさんだけど、実はまだ若いんだろうな、お元気だし、なんて思っていたら、10年前に隠居されてもいいお年だった。お若い!)。
 先生のところには何度かお呼ばれして、ご自慢のおうちで快適な時を過ごさせてもらった。亜鉛閣というその別荘は、冬暖かくて夏涼しい。冬は昼間のうちに暖かい空気を床下にためて家の中に循環させる。夏は夜間の涼しい空気をたくわえて家の中を冷やす。あったかい空気は室外に排気する。先進のエコハウスだ。去年、そういう話を聞いたとき「ベントするんですね」と聞いてみたら「そうそうベントですよ」とにこりともせずにお答えになった。くわしい機構はともかく、そんなこんなで1年中快適で、1年中少量の電気を使うかわりに、暖房や冷房をがんがん使うということはない。
 初めてお訪ねしたのは夏だった。そのときは、たまたま村に到着したときに先生と出会って、そのままおうちにおじゃますることになったので、先生にとっては久しぶりに別荘の扉を開けることになったのだけど、エアコンが入っているのかと思った。ひんやりと涼しい。すごいなと思った。
 週末、先生からSOSが入った。テレビが映らないという。以前、テレビを動かして配線をしなおしてさしあげたことがあったから、そのときになんか失敗しちゃったかなと罪滅ぼしのつもりででかけていったのだけど、そしたらなんとまぁ、先生んちのテレビは地デジじゃなかった。東北地方はまだ地デジになってないと思っておられたそうで、そりゃ映らないわと話は終わった。久しぶりの先生の家は、実は漏電ブレーカーが落ちていて、停電していたそうだ。電気がつかずに、一時はロウソクで一晩明かさなければと覚悟したとき、ブレーカーの存在を思い出してことなきを得た。でも自慢の循環システムも止まっていて、その晩はちょっと寒かった。教訓は、電気は大切です、なのか、家はなるべく空けちゃいけない、なのか、さて。

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山から下りてきます。お祭りらしいシーン

 さてさて、その晩は、ぼくがなぜこんな片田舎から逃げずに暮らしているのかというところを、山下先生に聞かれたので、あーだこーだとご説明申し上げた。いろんな理由はあるけど、一番大きいのは人間の存在だ。ここの人間、ぼくにとっては国宝級にすてきなひとばかりだから、原発が爆発しようとなにがあろうと、この人たちがいる限り、ぼくはここにいると。これは、しばらく腰を据えて滞在して、土地の人と話をし、酒を飲んで一緒に酔っぱらわないとなかなかわからない。
 そうそう、ちょうどあしたお祭りがある。このご時世、村ではすっかりお祭りどころではないのだけど、村の外れのぼくらの集落だけは、去年から欠かさずお祭りをやっているのだ。去年の春は、たった15人の参加だった。秋には50人以上が集まったはずだ。川内村の中心地からクルマで10分ほどかかるぼくらの集落は、川内村の中でもイナカで山奥とされている。でもそれだけ、この地域の団結は強い。日常的には「あそこんちの誰それは性格が悪い」「あいつにはひどい目にあった」と悪口ばっかり言っているが、それはそれ、これはこれ。少なくとも、民主党よりははるかにまとまっている。
 で、山下先生をお祭りにお誘いした。先生、集落の外れに別荘があって、これまでは(当然だけど)常磐高速富岡インターから別荘入りしていたので、あんまりぼくらの集落にやって来る用事がない。集落のみんなにもあんまり会ったことがないというから、せっかくここに高いお金を出して別荘を建てておきながら、それはたいへんもったいないと思ったのだった。
 もっとも、イナカのおっさんおばさんの魅力というのは、誰にでも通じるものじゃないから、はずすこともある。山下先生に「なんてところに連れて行ったんだ」と責められるリスクもあるし、村人からは「おまえの連れてくるセンセーはろくなもんじゃねー」とつるし上げられるリスクもある。紹介しちゃったから、ままよ、という感じではある。もちろん、そんなことならない自信は、ぼくにだってある。

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神楽さまに食べてもらうと、いいことがあるらしい。場違いに色っぽい娘がいるけど、中身は根性の入ったムラビトなのだ。見習う点は数多い

 朝9時、お祭りがスタートする頃、先生のご一家がやってきた。いつもなら笛を吹きながら行列をして山のてっぺんまで登っていくのだけど、今日は神官様も呼んでないので、お祭りとしてはいたって略式でおこなう。でも山登りが好きな先生の奥様と息子さんは、参道から登るというんで、登山口までお送りして、ぼくと先生は裏口へまわった。横着したい人のために、5年ほど前に草地から最短距離で登るルートをつくって、そこに階段が設置してあるのだった。
 出発前にビールで乾杯しちゃったし、階段を登った頂上の八幡様ではお神酒と称してまた乾杯だし、朝10時にして、すっかり酔っ払いなのである。「お祭りといっても酒飲みみたいなもんだから」というのは本音でもあるし、しかし酒飲みこそお祭りの本懐ではないかという気もする。
 
 集落には、大きな神社がふたつある。いつもは午前中にこっち、午後にあっちの神社にお参りをするのだけど、今回はあっさり、午前中のうちに両方のお参りが完了した。ということは、お昼からはずっと、酒を飲むことになる。しかも朝いちでちょっぴりビールで準備体操しているし、なかなかハードな一日となりそう。お参りというより修業です。
 この日は、先生のご一家の他に、最近この集落がお気に入りの「トテチータ・チキチータ」の映画スタッフのお嬢さんふたりもやってきた。遅れてやってきたので、八幡様についていきなり駆けつけ参拝、みんな挨拶したから、おまえも自己紹介しなさいと挨拶させたら、なんの疑いもなく挨拶してくれた。素直な若者のことは、少し意地悪なおっさんたちも大好きだ。なに、意地悪をするのは愛である。
 山下先生のことは、そこに東京の先生が住んでいるというのはみんな知っている。でも集落のみんなの前に出てくることはあんまりなかったから、どんな顔をしているのかは知らない人が多かった。山下先生の別荘には、昔そこに住んでいたとか、山を所有していたとか、そういう人もいる。そんなみんなが次々に先生に話しかけてきて、盛り上がっている。お誘いして、よかったみたいだ。
 八幡様の参拝のあと、そのまんま山を下って諏訪神社へ回り、神楽が舞う。神楽は代替わりしてキンちゃんが踊っていたのだけど、本日はご都合がつかず、本日は師匠のマスさんの舞いが見られた。地震の後、今回で3回目のお祭り。参列者は、それでも少しずつ増えている。元通りになるには子どもが帰ってこなくちゃいけないけど、それまではがまんだ。
 いつもは1日がかりのお祭りだけど、今日は半日で終わってしまったので、以後は酒の席になった。お昼っからだから、なかなか過酷な酒の席だ。このあたりの人は本当に酒が好きだ。酒の味が好きなのか、酔っぱらうのが好きなのか、それとも近所のみんなとわいわいやるのが好きなのか、なんだかわからない。でもこの酒の輪の中に入れれば、こりゃなかなか楽しいと思われる。

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はじまりはじまり。宴の時間

 それでもちょっと気になるのは、酒が弱くなった人が多いってことだ。そりゃ、みんなそれなりにお年だから、そろそろお酒も控えたほうがいいのだけど、震災以来、なんとなーくテンションが上がらない結果だとしたらいかんなぁと思うのでありました。ぼくの私見ではね、避難所では禁酒のお達しがあって、酒飲み友だちがばらばらになって飲むチャンスがなくなって、お酒も練習してないと下手になるんじゃないかと思ったりして。お祭り復活を機に、ちょっとずつお酒も復活してくるといいなぁと思う。いや、ほどほどに。ほどほどのレベルが、ちょっとちがうけど。
 山下先生は、いつのまにかいなくなっておられた。空気があわなかったかな、申し訳ないことしたかなと思ったら、ご飯食べているうち、山下先生の土地に思い出のあるばあちゃんとかと出会って、何人かを引き連れて山の別荘にお連れしていたそうだ。こんな出会いがあるのも、ムラの祭りならではだと思う。
 実はそういう話は、翌日先生から電話をもらって知った。ぼくはといえば、みんなよりはるかに練習が足りなくて、すっかり寝入ってしまっていた。起きたら、50人以上の宴は、たった5人ほどになっていた。集会所をざっと片づけて鍵を返しにいったら、誰よりも酒が強いタカちゃんも早々と寝てしまったという。これだけ急速に酒が弱くなっているのはこの集落的には大問題だ。個人的には放射能の除染より、こっちの方が急務かも、と思ったりして。

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愛すべきマスさんの演目。これを見ないと祭りは終わらん

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