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川内村(西)

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原発事故の思い出[村を出る]

村長が防災無線で避難を呼びかけたのは15日の夜のことだった。富岡の人も含めてみんなで村を出ることにしたのが16日の午前中だった。

ぼくらは、ちょっとだけそれに先がけて、16日の朝一番で、西郷村のお家に身を寄せることにして、村を出た。

その朝、出がけにひと仕事があった。自分のクルマのガソリンが残り少なくなっていた。ガソリンが手に入らないという情報はテレビでもさんざん言われていたので、自分のクルマは温存して、お隣のクルマを拝借してご近所に出かけていた。お隣はその頃すでに避難してしまっていて誰もいなかったのだけど、ガソリンがほぼ空になったクルマが、鍵がついたまま置いてあったから、一応「吸いません、お借りします」と心でお礼をしてから、勝手に拝借していたのだった。

今日、とりあえずいったん村を出ていくよと報告にTさんのところへ行くと、ぼくがちがうクルマに乗っているのを見て、なんだ、どうした? という。かくかくしかじかというと、おー、その手があったか、ちょっと乗せてけと、どこへやらか連れて行かれた。そこはTさんの親戚の家があって、そこんちはやっぱり前の日だかその前の日に村を出ていたのだけど、クルマが1台残っていた。それを拝借するんだという。こちらは親戚だから、ぼくよりはまだ罪が軽い。クルマにはちゃんと鍵がかかっていたけど、合い鍵のある場所もわかっていて、ほどなくミッションは完了した。

この日の朝は、クルマにまつわるそんな顛末より、雪が降ったというのに、車が通った形跡がまったくない道ばかりだったのが不気味だった。あぁ、もう人がいないのだなぁ。

2011年3月16日の朝

それから、何人かと別れのあいさつをした。二度と会わないつもりなんかなかったけど、二度と会えないかのように涙を流してくれる人もいた。村を離れていくというのは、悲しいことなのだとあらためて思ったものだった。

一応、仕事をするつもりでノートパソコンを持って、あとは自分ちのウサギと、なぜか仕事場の避難で行かなきゃいけないからこれを頼むと置いていかれた避難ウサギもいっしょに出発した。

村を出て峠を越え、そのあたりはもともと人がいないから、地震や原発事故の影響は感じられない。ふたつほど山を越して、麓の町まで降りてきた時、人がいなのだと思い知らされた。

小野と矢吹を結ぶあぶくま高原道は、まもなく全線開通を祝うはずだったのだけど、震災で全線開通の式典がぶっ飛んだだけではなく、作ったばかりの道路がぼよんぼよんに波打っていた。小野まではあぶくま高地の背骨に位置するところで、そこから降りると地面が変わる。あぶくま高地は、うんと固い地盤に守られていたんだなぁと痛感する。そういえば、いっとき、浜からお隣に避難してきていた人たちは、余震で家が揺さぶられるたび、ちょっとおびえながらも、浜の揺れ方とは揺れの質がぜんぜんちがう。こっちのほうが安心感があると言っていたものだった。

村を出る時、残った部落のみんながどこかに避難できるところがないか、探してみるよと安請け合いをしてあった。心当たりの、広いガッシュ苦情があるようなところをいくつかあたりながら、そして通信手段を失った村のために短波無線とか用意できないかなと画策しながら、まずは白河市の役場へ向かった。

その頃、知り合いの新聞社の記者から電話が入る。どうしてますか? とこっちの様子を尋ねるから、知りたきゃ来ればいいのにというと、行くなって言われてるんですよ、という。取材というのはしつこいほどにやってきていろいろ聞きまくるのがふつうだけど、そんな記者さんが来ない。そういえば、震災翌日には届いていた新聞が、2日目だか3日目だかにはさっぱり届かなくなっていた。ぼくらの土地は、新聞も新聞記者にも見捨てられちゃっていたのだった。

白河市の役場についた頃、朝方別れた人から電話。午後になって、役場のバスでみんなは郡山へ向かった。だから避難先を探すことはない。誰と誰は避難せずに残った。では元気で、と用件のみ言って電話は切れた。残る数人とバスに乗るみんなとの間に、涙の別れが会ったという話は、ちょっとあとになって、ゆっくり聞いた。

2011年3月スクリーニング

白河の役場について、川内村からやってきたといったら、まずスクリーニングを受けてこいといわれた。それはぼくらの安心のためでもあるんだけど、そうじゃない印象を受けもする。川内村の避難所では、外へ出た人が「放射能計られて、強く出ると中に入れてもらえないんだ。人のこと、なんだと思ってるんだ」と怒っていたのを覚えている。確か1万CPMだったか10万CPMだったかが基準値だったと思うのだけど、それはけっこうな数値で、それを超える人なんかめったにいないと思うんだけど、皆無ではなかったということだ。

そのときは、なにをどう計っているのかよくわからなかったけど、足の裏と頭のてっぺんとノドとを集中的に計られた。そういう計測方法をなるほど、そういうことだったのね、と思えるようになった頃には、ぼくらはみんないっぱしの放射能博士になった気でいたっけね。

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