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5ユーロの昼食

08_5ユーロの昼食
 世界選手権最終戦のスペイン大会のあと、自然山通信の締め切りなどあって、バルセロナに滞在。
 お友だちには、みんなから「いいなぁ」と言われる。バルセロナはガウディとピカソの街。日本からの観光客もいっぱいいる。バルセロナへ向こう飛行機も、1/3は日本人だった。日本人パワー、すごい。


 初めてバルセロナに来たときには、ぼくもガウディのサクラダ・ファミリアに登り、動物園で白いゴリラに会い(2003年に絶命した)、ピカソが好んだという喫茶店でコーヒーを飲んだりしたもんだけど、何度も出かけるようになると、だんだん観光名所にはいかなくなってきた。そういえば、長らく東京暮らしをしていたのに、東京タワーは1回しか行ったことがない。エッフェル塔も凱旋門も1回いったから、ヨーロッパは観光はもういいやと思ってる。
 でも、ヨーロッパに飽きたわけじゃなくて、ヨーロッパといわず、外国に出かけるのはとても興味深い。高級レストランでお食事したりするのはどうでもいい(大きな問題は、お金がないということだけど)。スーパーマーケットで売ってる2ユーロのワインがとてもおいしいのを発見したり、なーんでもない横町を、犬のうんちをよけながら歩いているとき、自分が外国にいるんだなと実感できると、より強く実感できるようになってしまった。へそ曲がりだからだけど、かっこよくいえば、外国のふつうの暮らしに近づくことで、外国の文化というか、においを感じられるような気がする。日本人のガイドさんに連れられて、ガイドブック通りの観光名所を訪れていると、それは日本文化の様式に従って、外国の景色をながめているだけじゃないかと思っちゃうわけだ。
 いつものとおり、へりくつの前置きが長くなりました。本日は、とある街(なんていう街なのかも覚えていない)のとあるバー(Bar。日本のいわゆるバーって感じじゃなくて、まぁ、喫茶店かな?)でお昼ご飯を食べたという、とてもとてもなんでもないお話。
 外国でご飯を食べるのはむずかしい。特におしゃれに決めようと思うと、むずかしい。メニューが読めないからだ。英語なら大丈夫かといえば、それもなかなかむずかしい。外国のメニューには、日本のファミリーレストランみたいに、写真入りの親切なやつなんてまずないから、度胸とばくちでメニューを決めるしかない。
 でも、どうせわかんないんだからメニューなんて見ないで、直談判したほうが結果がいいことが多いってことが、だんだんわかってきた。コミュニケーションの道具は、片言の英語でけっこう。どうせ相手だって、たいていの場合片言の英語しかしゃべれない。
「こんにちは。英語しゃべれますか? 飯食えますか?」
 返事はイエスじゃなくてシーだったから、たいした英語は話せないはず。あんまりむずかしい注文をするつもりはないから、そのほうが好都合だ。なんでもいいから、てきとうに持ってきてちょうだい。英語が話せるおねーさんから話はおばさんにトスされて「本日の定食」という看板が示された。直訳すると「本日のお皿」って書いてあるのかな? メニューの中身がなんだかはわかんない。おねーさんがやってきて「卵となんとかとなんとかでよろしい?」とたずねなさる。よくわかんなかったけど、それでいいです。
 彼女、エキスキューズミーのかわりに「ソーリー」と言って話しかけてくる。外国人は、あんまりあやまらない。日本人は、あやまるべきところでないのに、へこへた頭を下げてあやまることが多い。日本ではそのほうが話がスムーズなんだけど、外国ではそうじゃないんですね。おねーさんにやってこられて「ソーリー」と言われると、本日のお食事はもう終わったとか、日本人に食わせる食べ物はないとか、よからぬ申し出を想像してしまってびびる。2回びっくりしたけど、この人のソーリーは日本人的「すいません」と同義なのだと気がついた。スペイン語でも、日本語の「すいません」みたいな使い方があるのかな?
本日のお皿
「本日のお皿」は、5ユーロだった。最近のヨーロッパ昼食調査によると(ニシマキ調べ。よって、あやしい)昼食は10ユーロを切れば、まぁ安い。10ユーロぽっきりでコーヒーつきだったら、やっぱり安いという感じ。5ユーロはお皿だけだけど、これならお安い部類。
 スペイン大会の会場で、サンドイッチを買った。フランスパンに薄い薄いステーキをはさんだだけで、ちょっとだけタマネギが添えられている。それで5ユーロだった。だから、本日のお皿の5ユーロはとってもとっても安い。今、ユーロはひところよりも少しだけ安くなって、1ユーロが155円後半だそうだ。ちょっと前は、160円オーバーだった。5ユーロといえば、ざっと800円弱になる。でも、こういう計算をしてはいけない。5ユーロは安いけど、800円の昼飯は安くないからだ。
 お金の価値感覚と、為替レートには少しちがいがある。1ユーロは、だいたい100円。為替レートの関係で、ユーロが200円になっても50円になっても、感覚的には1ユーロ100円と信じている。そうじゃないと、ユーロが高い(というか、円が安い)いまどきは、とてもじゃないけどご飯なんか食べられない。ビールも飲めないし、ガソリンスタンドでガソリンも入れられない。1ユーロが100円の価値なのに、銀行で換金すると160円もとられちゃうのは、それだけ日本のお金に力がないということだ。輸出産業は、円が安いとお得。ぼくは経済はとんとうとくて素人だけど、世界の相場的には「日本は経済が貧弱だから、円は160円もらっても1ユーロくらい与えるのがお似合いだ。そのかわり、輸出産業がお得のはずだから、それでがんばって貧弱な経済をなんとかしてね」てな動向になってるんじゃないかと思う。飯が高い、宿が高いということは、こんなふうな経済活動の結果であって、日本の経済政策の結実が、ヨーロッパにいるぼくのお財布に影響を及ぼしているのであった。
「ソーリー」
 またおねーさんがやってきた。もうびっくりしない。お飲物はなににしましょうというから、ついビールを頼む。ときどきおばさんが通るだけの街の風景を見ながら飲むビールがおいしいと思うようになったら、あなたも立派なへそ曲がりです。おめでとうございます。ビールを飲みつつ、ポケットに突っ込んできた司馬遼太郎など読む。こちらの人は、バカンスに来てなにをするかといえば、たいてい本を読んでいる。気持ちがいいと思える空間に身を置いて本を読むのは、きっと幸せなのだ。なのでぼくもまねをしてみる。満員電車の中で読むのと変わんない気もするが、幸せ度がうんと高い気もしないでもない。
 司馬遼太郎を10ページほど読んだら、5ユーロのお皿が出てきた。5ユーロが800円じゃなくて500円だとしても、ガストあたりのランチが食べられる。ご飯は大盛り、スープつき。でも日本のファミリーレストランのご飯は、どうも工場で一気に作られた気配が濃厚。農薬が混ざってたりしてるとは思わないことにしてるけど、大きな企業ってのは、食材を作る人、そろばんをはじく人、安全を考える人、安全を宣伝する人、それぞれ別の人であることが多くて、どうも信用しきれない。ヨーロッパには、いまだに大きなチェーン店はあんまりない(マクドナルドはある。味はほぼ世界共通だけど、お値段がなかなか高い)。それぞれのメニューは、それぞれのお店がこつこつとつくっている。おばちゃんの衛生観念や安全に対する正義のポリシーはよくわかんないけど、少なくとも顔が見えない大手ファミリーレストランチェーンの正義より、スペインのおばちゃんのほうがわかりやすいってもんだ。
 食い終わったら、おばちゃんがやってきて「コーヒーはいかが?」というから、ちょうだいなとお返事する。おねーさんは、ぼくが食べている間に、スクーターでどこかへ出かけていった。お昼のアルバイト時間が終わったのかもしれない。おばちゃんは英語は話せないみたいだけど、大きな問題じゃない。コーヒーは「ソロ」。スペイン語の「ソロ」は辞書ひくとアローン(ひとり)なんて出てくるけど、意味合いとしてはシングルだったりオンリーだったりするみたいで、コーヒーのソロといえばエスプレッソが出てくる。こういうのは、スペイン人と1日2日いっしょに遊んでいれば、なんとなく様子が分かるようになってくる。コーヒー飲むだけだから、スペイン語の勉強って感じじゃありません。
 5ユーロのお昼ご飯は、ビールとコーヒーが混ざって、7ユーロ55になった。ビールが1ユーロ55、コーヒーが1ユーロ。ビールもコーヒーも良心的なお値段でうれしい。安いとうれしくなる自分のせこさもなさけないけど、ともあれうきうきしてお昼を過ごし、さて、今計算したみたら、7ユーロ55は1200円弱だった。やっぱり、外国での出費は、日本円に換算してはいけない。

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