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ネットワーク日照り

セストリエーレのジャンプ台


またまた本文と関係ないけど、デ・ナシオンが
開催されたセストリエーレの隣の町のホテルの
窓から見たジャンプ台。ここからならぬくぬく
ジャンプ競技を観戦できるけど、宿もさぞ
この冬に開催されるオリンピックの際には
高いんだろうなぁ。ちなみに高橋摩耶一行と
同じ宿だった。偶然。朝ご飯を食べに行ったら
日本人がいたので、びっくりした。

最近のヨーロッパ取材旅行は、ネットワーク環境に恵まれていることが多い。世界選手権のプレスルームはLAN環境が整備されているのがふつうになって、さらに最近では無線LANも当然になった。1本の電話回線を、次はおれに回せ、あと3分待ってくれとやりくりしながら原稿を送っていた時代を考えると、隔世の感がある。そいっても、ほんの2年ほど前はこんな感じだったんだけど。それに当時は、デジタルカメラの性能もそんなによろしくなくて、取材陣はみんなフィルムカメラを使っていた。だから送るべきデータ量も、今とは比較にならないほど小さかったんだね。
てなわけで、一応七つ道具の中には一応電話回線用のモジュラージャックは持ってるけど、各国のモジュラーの形状に変換するアダプターは、去年あたりから持たなくなった。フランスの電話回線モジュラーはコンセントと見まがうばかりに巨大だから、アダプター一式を持つとけっこうでかい荷物になるのだ(もっと大昔は、ニッパと電線とわに口クリップを持って、ホテルの電話回線に直接配線をつないで回線ジャックをしていたネットワーカーもいたもんだけど)。


さて今回、すっかりぬるま湯につかったネットワーク環境に慣れた状態でベルギーとイタリアへやってきたら、これがなかなか厳しい状態だった。
ベルギーでは、まずスパ・フランコルシャンサーキット。前の週にF1グランプリが開催されたばかりだから、ネットワーク環境がないわけはないんだけど、トライアルのプレス担当者がうといのか、なかなか開通しない。担当者の話では、おかしいなぁ、無線LANが通じてるはずなんだけどなぁという。日本人二人とイギリス人3人が雁首を集めて通じない通じないと悩んでいる。これが、試合を日曜日に控えた土曜日のことだ。とそのとき、ぼくの無線LANが反応しはじめた。ためしにWebにアクセスしてみたら、ちゃんと見える。メールの送受信もできる。「おーい、ぼくはネットワークをつかんだよー、BELGICOM2ってネットワークだ」と自慢したら、イギリス人たちが浮き足だった。どうもこの無線LANをつかまえたのはぼくだけのようだ。小太りのイギリス人のジェイクが、自分のコンピュータを持ってそそそとぼくの真となりまでやって来る。ぼくのところで無線が届くんだから、近くまで来れば届くという算段らしい。でもだめでした。
結局、プレスルームの拠点を移動することになった。要するに無線LANを発信している基地がある部屋が、我々のプレスルームになったわけだ。みんなしてコンピュータを両手にかかえてぞろぞろ移動する。「キミは動かなくていいんだ。キミだけはネットワークが通じるんだからね」と言われたけど、電波は弱いし、第一さびしいじゃないか。
とまぁ、結果はオーライで、ベルギーの週末は、結果的には快適なネットワーク環境が手に入った。ついでにこの無線LANは、大会が終わって月曜日になっても動作したままだったから、試合の晩もパドックに泊まって、翌日メールのチェックなどをして、それから移動を開始した。
移動中は、当然ネットワーク環境はない。サービスエリアではときどき無線LANの看板を見ることがあるけど、こちらはまだためしたことがない。そういえば、10年ほど前、パソコン通信が流行しはじめた当時は、杉谷などは公衆電話の受話器にモジュラージャックをかぶせてアクセスしていた。ほんの数百キロバイトのファイルを送受信するだけで、何分も電話から離れられなかったという。
今、ぼくらは携帯電話で簡単なメールチェックをしている。世界で通じる(日本ではあまり通じない)Vodafoneは、メールの最初の50文字くらいならヨーロッパにいても無料で受信できる。便利になったものである。そのかわり、メールを受信すると、1通100円かかってしまう。ミニマムチャージが100円だから、どうしようもない。
で、結局はコンピュータとつないで、携帯電話をモデム代わりに使っている。これも以前は、ヨーロッパの携帯電話とマッキントッシュのコンピュータをつなぐのは、ドライバーが用意されていなくて至難だったけど、今はBluetoothなる無線ツールがあって、あらよっとネットワークが確立する。でっかいメールを読んだら通信費で破産するけど、小さなメールだけよりわけて読んでいけば、多少の通信費は便利さには変えられない。今のぼくらは、インターネットにおんぶにだっこで仕事してますから。
で、オランダはブリュッセルからイタリアのトリノまで飛んで、レンタカーを借りてデ・ナシオン会場へ。うかつだったけど、イタリアはレンタカーが高いのだ。保険料がめちゃめちゃ高額らしい。藤田秀二さんは、あんまり考えなくパリマで飛行機で飛んできて、パリからベルギー、そしてイタリアとレンタカーでの旅を選択した。そうとう長距離の運転になるし、フランス国内は高速道路がけっこう高いけど(それでも日本と比べたらびっくりするほど安い)、あんがいぼくよりフジシュウのレンタカー代のほうが安かったのかもしれない。こういう旅のノウハウは、ときどき新鮮な情報を仕入れないと役に立たない。そうそう、イタリアでは、去年あたりから街の中以外では昼間でもヘッドライトをつけることになった。田舎道でライトをつけていないと、お巡りさんにつかまっちゃうから、トリノオリンピックへ行こうという人は気をつけてね。
さてイタリアのデ・ナシオン会場。木曜日にプレスルームへ出かけて、ネットワークを使いたいんだけどとお願いすると「あしたまで待ってね」とつれないお返事。最後には「10分後に開通します」なんて言ってたけど、ラテンの人のこういう約束はあてにならない。結局、ネットワークが開通したのは、金曜日の午後になってからだった。金曜日といったら、女性世界選手権の当日だから、なんとものんびりしたものだ。それも、プレスルームにはついぞネットワークはつながらなくて、すでにネットワークがつながっているオフィスまで出かけていってつないでこいという話だ。
そこは大会本部で、ゼッケンの整理やらリザルトの発行やら、いろんなことをおこなっている。ぼくらはそこの3階のベンチに座って、ファイルを送信したりしたわけだ。しかもこのオフィス、パドックからは遠くて、ライダーとお話しをしているとネットワークに入れず、ネットワークにかじりついていると取材ができず、なんともとほほな状態だった。
日曜日の晩、珍しくフジシュウが9時頃にさっさと仕事を終えて、残ったのはぼくとソロモトのチリの二人だけになった。だいたい世界選手権では、チリとぼくとフジシュウの3人が仕事の遅い常連で、たいていフジシュウ一人を残してさらならする。今回はフジシュウにやられた。チリとぼくの仕事が終わったのはほぼ同時で、そしたらチリが晩飯を食いに行こうと言う。FIMの公式ビデオを撮っているロベルト、モトチクリスモのカメラマンのホアン(ソロモトのチリとはライバル)、トライアルマガジンのレイモン・張夫婦の3人が待つビザ屋さんに行くと、ちょうど渋谷ら日本勢が夕食が終わって出てくるところだった。張さんは韓国出身。アジア人は若く見られるという話題で、やっぱり年長者はぼくだった。ロベルトは黒山健一と同い年で、おっさんっぽいホアンも30代なかばだった。いいおじいさん風のタレスやミショーが、ぼくらよりはるかに若いのだから、今さらこんなことでは驚かない。でも、チリやロベルトはぼくとは親子ほどの年の差があるのに、だからといって態度はまるで変わんない。年上には敬語を使いましょうなんてのは、日本の風習なんでしょう。だいたい、やつら、敬語を使うなんて概念があるのかな?
みんなと楽しくピザを食べていたら、デ・ナシオン会場を離れるのが遅くなった。この日は、そのままマリオ・カンデローネの家におじゃまする。マリオは、女性世界選手権の第2戦の主催スタッフだ。大会前の1週間は仕事を休んで準備に専念するといっていたけど、用意していたホテルがストライキをはじめただのなんだのと、トラブルつづき。
「トラブルは、月曜日になったら降ってわいたように現れる。でも来週の月曜日になったら、すべて終わっているから、別にいいんだ」
マリオは困った困ったといいながら、なんだか楽しそうに見える。こういうところは、やっぱりイタリア人だ。
さてネットワークのお話の続き。マリオは、最近ようやくADSLモデムを手に入れた。2年前におじゃましたときには、アナログ回線でピーガーとつないでいたから、ようやくマリオの家でも高速ネットワークが享受できると思ったら、なんとマリオの家のADSLは常時接続ではなかった。常時接続は高いからと、使うときだけ接続している。しかも困ったことに、マリオはそのパスワードをコンピュータに記憶させていて、覚えていないという。つまりぼくはアクセスできない。Webメールが使えるなら、ぼくのコンピュータを使えばいいとマリオは言うけど、日本語が書けないコンピュータでメールを送らせてもらっても、あんまり意味がない。
ときは締め切り。日本では、杉谷がぼくから原稿が届くのを、首を長くして待っている(はずだ)。すでにデ・ナシオンの会場で、杉谷からは作りかけのページがどんどん送られてきている。あとはこれに、じゃんじゃん原稿を貼り込んで送り返すだけなのだけど、さて困った。
結局、できたファイルをマリオに渡して、マリオから杉谷にメールしてもらった。マッキントッシュ専用のソフトで作られたファイルは、Windowsを経由したところで少々こわれかけたけど、杉谷に電話で修復のし方を指示して、事無きを得る。でも、この電話ってのは国際電話だから、安くない。ネットワークがつながらないばっかりに、いきなり不便だし、いきなり小さくない代償を支払うことになる。
しかしマリオは、大会の準備で不在がちだ。しょうがないから、緊急用の携帯電話からアクセスして、ファイルを送っちまうことにする。ところがなんと、マリオんちは携帯電話がつながりにくいではないか。今ヨーロッパには、昔ながらのGSMネットワークと、新しい3Gネットワークが混在している。3Gネットワークは、ドコモのFOMAやVodafone3Gと同じシステムで、通信速度はうんと早い。マリオの家は、けっこう田舎で、しかもさらに山の上に引っ込んでいる。ぼくのVodafoneとローミングしているのはイタリアでもVodafoneだけど、マリオの家では3Gはまったく届かず、GSMの電波がなんとか届く。でも使えるのはTIMとI WINDというキャリア。TIMはVodafoneとはローミング契約がないみたいで、I WINDにアクセスするしかないんだけど、これがまた、データ通信があんまりうまくいかない。Vodafone ITは、風向きの関係か(?)、ときどきアンテナが立つけど、しばらくすると、圏外になってしまう。
それで、飯を食いにいくときにコンピュータを持っていって、飯屋さんの机の上からファイルを送信してみた。田舎町の飯屋さんだけど、マリオの家よりはだいぶ下界なので、ここではVodafone ITの3Gネットワークがつながった。飯屋さんは3時をすぎるとお店を閉めて、ご主人と奥さんがご飯を食べはじめたけど、原稿を書きつつときどき携帯経由で原稿を送るぼくをいないかのように扱ってくれる。「出て行け」でもなければ「お仕事たいへんですね」でもない。一度だけ奥さんと目があったんでへらへらと笑ってみたら「キーボード打つのが早いのね」とお世辞をいわれただけでした。ちなみに奥さんはポーランド人で、ずいぶん昔にこっちへやってきたらしい。この街では数少ない英語を話す人なので、そういう意味でもぼくには居心地がよい。このお店は2年ぶりだけど、ご主人には「イタリア語は覚えたか」と聞かれた。ことばがしゃべれないと、やっぱり仲間じゃないんだなぁ。
今回のデ・ナシオンではそういうのはなかったけど、イタリア大会では、イタリアジャーナリストの親分肌のマウリさんが、ジャーナリストを集めてディナーパーティをする。今年はイタリア大会に取材にいかなかったので、あの集まりに参加できなかったのがくやしい。フジシュウは参加したのだ。ちぇ。
で、集まるのはイタリア人とスペイン人が大半。イギリス人はこういうのにはやってこない。イギリス人はわりとイギリス人同士で固まる傾向がある。日本人(この場合の日本人は、ぼくらとフジシュウくらいだけど)は、ことばがわからないくせに、こういうのに顔を出したがる。イタリアンディナーはおいしいから、はずすわけにはいかないのだ。
スペイン人といっても、彼らの多くはバルセロナ近郊に住んでいる。あのへんのことばはスペイン語とはちょっとちがって、カタルニア語という別の言語が流通している。もともとカタルニアは、戦争に負けたんでスペインに吸収されたという歴史を持っている。カタルニアの人たちは、誇りをこめてカタルニアの国旗を掲げ、カタルニア語を話す。藤波がマインダーと交わしているスペイン語も、実はカタルニア語だったりするわけだ。
そしてこのカタルニア語というのが、イタリア語にとってもよく似ている。あいさつはボンジョルノではなくてボンディアだしありがとうはグラッチェではなくてグラシアスだけど、アクセントとか合いの手とか、兄弟言語みたいに聞こえる。だもんで、イタリア人とカタルニア人は、あんまり不自由なくお話ができる。こうなると、ようやく英語が話せるだけの日本人なんかは、すっかり蚊帳の外になってしまう。困ったものだ。
ジャーナリストには、英語を話さない者はほとんどいないけど、フレイシャやボウ、ライアなんかは、あんまり英語が得意ではないようだ。恥ずかしがっているだけかもしれないけど。日本人では、藤波のスペイン語(カタルニア語)は有名だけど、黒山健一はイタリア語を少し話すし、田中太一はもっとイタリア語がうまい。小谷徹も成田匠も、上手にイタリア語を話す。その土地に長くいれば、その土地のことばを話すのは自然なことなんでしょうね。福原愛ちゃんの中国語や中田英寿のイタリア語なんかを見ても、彼らは現地語をしゃべるのがごく自然のことのようだ。田中真紀子元外相は「あたしはアメリカの要人と英語でしゃべったんですよ」と自慢していたけど、もうそういう時代じゃないと思うのだ。
マリオのパートナーのアニエーゼは、年齢的にぼくらと変わりないが、日本語を勉強している。この年になっても外国語が覚えられるんだね。彼女は日本に来たとき、看板のカタカナを読み上げて理解する。ぼくらもびっくりの日本語習得能力を発揮している。日本人が現地の言語をもっと話すようになって、向こうの人がもうちょっと日本語を話すようになって、そしたらそれが、ほんとの国際化の一歩かなぁと、漠然と思ったりした。

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