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持ち時間の不思議

雷雨の新宿

 持ち時間5時間30分というのは、一体何秒のことなのか、という禅問答みたいな論争(というほどのこともなく、ただの雑談だけど)を、山本昌也さんとしました。


 全日本選手権近畿大会、そのゴール地点にいて、1ラップ目の持ち時間ぎりぎりの各ライダーのゴールを待っていたときのこと、田中太一選手だけが、持ち時間を20秒すぎてチェックポイントに入ってきました。1ラップ目の持ち時間は3時間。田中選手のスタートは○時○分だから、○時○分がタイムオーバーとなるべき時刻田中選手がはいってきたのは○時○分○秒でした。
「1分オーバーです」と告げられた田中選手は「59秒まではオンタイムなんじゃないの?」と質問していましたが「いいえ、ダメです」といわれてちょん。一般論として、ライダーは判定についてはダメ元で聞いてみるのが習慣化していますから、この田中選手の場合もそうかもしれない。
 でもぼくは昔々のことを思い出します。そのときぼくは、たまたま板取村の自転車世界選手権の本部席に座っていて、スペイン選手から「タイムオーバーの計算の仕方がおかしい」とさんざんごねられて、四苦八苦しながら対応したのを思い出し、それからヨーロッパの世界選手権に出かけるようになって、時間の数え方についても日本とヨーロッパではちがうんだなぁと思い知ったのでした。
 田中選手のいう、59秒まではオンタイムという考え方は、田中選手がヨーロッパで戦っていたときになじんでいた数え方です。今回の場合なら○時○分をすぎて、○時○分○秒までは減点ゼロ。○時○分となったらはじめて減点1点が課せられるというしくみです。
「そんなの、どう考えてもおかしいやん」
 と、昌也さんは言います。ぼくも、少し違和感があります。でもヨーロッパに通ってるうちに、なんとなくそういうものかと思ってしまうようになった。習慣の問題ですから、なんでと言われても答えようがない。無理やり理由をつけるとすれば、分以下の単位を切り捨てると考えれば、ヨーロッパ的時間の数え方も、納得できます。秒針がなくて、00秒になった瞬間に分針が1分進む時計を公式時計にしていたとしたら、秒単位のタイムオーバーはとりようがない。○時○分までオンタイムということは実質○時○分○秒までオンタイムということになります。
 たとえば、これはフランスGPの結果表。13位のクリストフ・ブリオンは5時間33分15秒かかってゴールしてます。持ち時間は5時間半だから、3分15秒タイムオーバー。日本だったら、4点の減点。でもFIMのリザルトでは、タイムオーバー減点は3点ってなってます。
 ぼくも日本人だから、石原慎太郎と同じく、フランス人の数字の数え方はへんてこだよなぁとは思います(でも、フランス人の数字の数え方のほうが、オブジェクト指向ではないかと思いこそすれ数字を数えられないとは思わない)。だけど彼らの数え方を否定するには、フランス人の育つ環境や教育やひょっとしたら宗教など、いろんなことを研究しないと結論が出ないと思われる。ブッシュがやったみたいに、アメリカの論理でイスラム圏を統治しようとすると無理がでる。時間の数え方も、もしかするとこんなのに通じるんじゃないかと思うわけです。
 と、これがいつものニシマキへ理屈です。昌也さんは、瞬時にする直感的な判断が適確でステキ。でなければ、5年も続けて全日本チャンピオンにはなれない。へ理屈並べるニシマキに、昌也さんはこう言いました。
「じゃ、ヨーロッパじゃ、セクションの持ち時間は、たとえば1分だったら1分59秒までいいわけ?」

07フランスのリザルトフランス大会でのベシュンのリザルト
3分15秒オーバーなのにタイム減点は3点

 ごもっともです。ヨーロッパのセクションの持ち時間は1分30秒だけど、セクションの持ち時間については、1分30秒になったとたんにピーッと笛を吹かれるわけだから、ヨーロッパの時間の数え方が宗教上の理由だという(?)ぼくのへ理屈は破綻しました。
 往々にして、トライアルにはヨーロッパの古い習慣が残っています。古いかどうかわかんないけど、日本人には不思議な習慣がいっぱいある。最近になって少しずつそれに気がついたのか、たとえば免許のないライダーは公道を走らせないようにしよう(当然だ!)とか、だれでも彼でもがライダーのヘルプをするのはやめようとか、日本人にとってはどうしてそんなのが改革になるんだというような見直しがおこなわれています。
 ニシマキの記憶の範囲では、たとえば停止1点というルールが使われたとき、日本GPでは厳格に停止を1点と採点しました。ルールブックに停止1点と書いてあるんだから、止まったら1点とられるのがあたりまえ。あと、ゲートマーカーの中を走れと書いてあるから、ゲートマーカーにタイヤが触れたら中を走ったことにはならないんで5点減点。これもごく当然の判定です。
 そのどちらも、ヨーロッパの連中に言わせると、ありえない判定ってことになる(ヨーロッパの連中というくくりの中には、藤波貴久や黒山健一ら、ヨーロッパを走っている日本人も含まれる)。とあるセクションでラガがこれにぜんぜん納得できなくて「あとで抗議するからちゃんと覚えててくれ」とオブザーバーに言いたいんだけど通じない(ラガが日本語が話せればよかったんだけどね)。そこにいたニシマキを見つけて通訳させられたってことがありました。試合が終わってから「あの判定はどうした?」とラガに聞いたら「今日の成績はあそこの判定がひっくり返っても関係ないレベルだから、もういいの」という答だった。その判定次第で優勝が手に入るようだったら、きちんと抗議をするつもりだったのかもしれません。
 ラガの話じゃないんだ。かように、ものの判断については日本人とヨーロッパ人と、いろいろ基準がちがいます。一口にヨーロッパ人というけど、イギリス人とスペイン人が同じ価値観を持っているとも思えないんで、彼ら同士でもいろいろあるにちがいない。
 でも判定については、最初は「日本人はへんてこな判定をしやがる」という反応だったけど、そのうち「どうやら日本人の判定のほうが正しいんじゃないか」ということになって、そしたら停止1点なんてルールはトライアルをつまらなくするから、やめちゃおう」ということになった(と、流れを見ていてニシマキは強く感じる)。日本人は思うのである。「ほれ見ろ、日本人の判断は正確なのだ。最初から日本人の言うことを聞いておればよいのだ」と。
 でも、不幸にしてトライアルの中心地は、やっぱりヨーロッパにある。そしてヨーロッパに出向いていかなければ、どんなにすぐれたトライアル選手も世界チャンピオンに慣れないように、正しい価値判断もまな板に乗らない。昌也さんのいうことはたいへん説得力があると思うけど、猪名川サーキットで言っていても世界は変わらない。ジュネーブだかブラッセルだかで開催されるFIMのトライアル委員会に、日本からも委員が出席しなければ、日本の存在はいつまでたってもお客さまで、正しかろうが正しくなかろうが、日本がやることは異端児のやることとして受け止められる。
 今、世界の舞台に存在する日本人は、藤波貴久と小川毅士しかいない。藤田秀二さんやぼくらもときどき取材に出かけるけど、年に数回じゃ、出席率が悪すぎる。ヨーロッパの人たちは、毎週のように試合の現場で顔を合わせて、いろんなことを話している。そういう中から、トライアルの未来も形成されている。正しい判断も、主張すべきところにいて主張をしないことには、なんにも変わりゃしないのだ。
(セクションの持ち時間は90秒で切り捨て、試合の持ち時間は330分で切り捨てという規則なら、91秒と331分でタイムアウトという解釈もありですね。日本人的には違和感もあるけど、世界にはいろんな考え方のいろんな人種があるということを、島国の人にはもっと知ってほしいけど、報道の中でもそこんところが一番むずかしい)
トップの写真は、大雨が降る直前に首都高を見上げて。最近、東京のこういう光景が珍しく見えるようになった。

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