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黒山健一、2年ぶりに真壁で勝利
2015年3月8日、真壁トライアルランドで、全日本選手権第1戦が開催。2015年の開幕戦だ。
結果的に、黒山健一と小川友幸の争いは、2ラップを終えてたったの2点という接戦だった。しかし内容的には、この大会での黒山健一はベストに近いものだった。
去年は小川友幸が勝利し、その前年は関東大会は中止になってしまっていた。黒山が真壁で勝利したのは2012年以来のことになる。その2012年の黒山は全戦全勝。強い黒山が、戻ってきたか。2015年シーズンは、開幕から手に汗を握る展開だった。
2015年、黒山健一のマシンは、これまでと同じ4ストロークのTYS250F。同じヤマハ音叉マークをつけるマシンに乗る野崎史高がシェルコ製TYS300Rに乗り換えたのに対し、黒山のチョイスは頑固だった。
昨シーズン終了直後、ヤマハは2015年の活動に向けて、シェルコの2ストロークマシンでの参戦を具体化させた。野崎は軽い2ストロークモデルに新しいシーズンの運命を託したが、黒山は2年間苦戦した相棒である4ストロークモデルを選んだ。負けたままこのマシンと別れるのがいやだった、と黒山は言う。意地のようなもの、かもしれない。
黒山は2012年にこのマシンで全戦全勝の圧勝ぶりを見せているから、勝てないマシンのはずがない。けれども黒山が苦戦を強いられるようになったのは、最大のライバル小川友幸がワークスマシンに乗り換えてからだ。軽量でおいしいハイパワーを発揮するワークスマシン。小川のテクニックもさることながら、マシンのポテンシャルが小川のモチベーションを高めているのはまちがいない。
この小川友幸に対し、黒山はこのマシンで勝てるのか。ひきつづき4ストロークを選択した黒山に対し、正直なところ、こんな不安を感じたものだった。
今回のセクションは、むずかしさはなかなかのものだったが、関門の高さよりも、ラインどりのむずかしさや細かいテクニックの正確性など、トライアルの総合力を試されるものが多かったように思う。5点になるのも簡単だが、3点で抜けるのはトップライダーにとってはむずかしくない。しかしクリーンをするには、たいへんな集中力を要求される。
こんな中、次々にセクションをクリーンしていったのが黒山だった。第4セクションまでは田中善弘がクリーンを続け、黒山と同点トップを守っていたが、第5セクションで田中が5点となると、もうライバルはいなくなったも同然になった。第6セクションの時点では、黒山が減点ゼロ、田中善弘が5点、小川友幸が6点、小川毅士が6点、柴田暁が8点、野崎が10点と、黒山の好調が際立ってきた。
しかし第7セクションで、黒山はまさかの5点。もちろんここも、クリーンを目指して走っていて、黒山がクリーンスルのは疑いがない印象だった。しかし結果はわずかのタイムオーバーで5点。小川友幸はここを1点で抜けたから、黒山と小川の点差は一気に2点に縮まった。後半、第9、第10と小川は2点1点と減点。もちろん黒山はここをクリーンして、1ラップ目は黒山8点に対し2位小川友幸が13点。きっちり5点のアドバンテージを築いた黒山だった。
黒山のマシンは、外観こそ去年までのマシンとほとんど変わらないが(ラジエターとアンダーガードのみにちがいを見ることができる)重量配分もエンジンの中身も、同じところがないくらいに手が入れられているという。「まるっきりちがうマシン」と黒山が言うそのちがいを外から感じることができないのは残念だが、黒山のオーラには去年までとは確実なちがいが感じられた。どこかびくびくしながらトライをしていた2014年型黒山健一に対し、2015年型黒山健一は自信に満ちあふれていた。
それだけ、黒山健一とヤマハ陣営はやるべきことをきっちりこなしてきた。マシンの見直し、練習、トレーニング。すべてをやったうえで臨んだ全日本選手権開幕戦だった。
2ラップ目、やはりクリーンを続ける黒山に対し、小川友幸は細かい減点が多い。小川が黒山に対してアドバンテージを持っているとすれば、5点がひとつもないということだった。2ラップ目第6セクション、黒山は最後のポイントで失敗。5点となってしまう。手前の難所の4段があまりにもうまく走れて、その調子で最後のポイントに挑む際、小川の使ったテクニックを試して見たくなったのだという。その結果が、失敗だった。
その後時間ぎりぎりの第8セクションで3点となった黒山は、減点したのはわずか4セクションのみという優秀さで10セクション2ラップを終えた。5点ふたつ、3点ふたつ。合わせて16点クリーン16。
しかし5点が一つもない小川友幸は、減点18点クリーン8と、黒山に2点差でくいついてきていた。
走りはまったく悪くない。クリーンの数でもダブルスコアだ。今日の黒山は完璧な復活劇を演じている。しかしその点差だけがたったの2点。SSの2セクションで、逆転される可能性はゼロではない。「今日ばかりはなんとしても勝たせてあげたかった。シーズン前にやった準備のいろいろ、この日の試合内容、すべて完璧に近い。これで勝てなかったら、黒山はいよいよ迷路から抜け出せなくなってしまう」と、ヤマハ・ファクトリーのトライアルチーム監督の木村治男さんは言う。黒山の実力を考えればSSで小川友幸に逆転される心配はほとんどないが、しかしなにが起こるかわからないのもトライアルだった。
SSのトライ順はスタート順。ゼッケン2番をつける黒山は、チャンピオン小川友幸に先がけてトライする。ここでふたつのセクションをクリーン。この時点で、小川友幸のスコアにかかわらず、黒山は優勝を決めた。見事な自力勝利だった。
2年連続でタイトルを逃している黒山だが、特に2014年は勝てない悪循環からの迷走が目立った黒山だった。その迷路から黒山は抜け出たのか。真壁での黒山の笑顔は、ホンモノだった。