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小川友幸の2位表彰台
3月8日、2015年全日本選手権開幕戦、真壁トライアルランドでの関東大会。
2年連続チャンピオンの小川友幸は、3連覇を狙うシーズンの開幕戦で2位を得た。ライバル黒山健一に一勝を許し、追い上げるポジションで2戦目以降を戦っていくことになった。
土曜日、プラクティスエリアで最後の調整をする小川は、落ち着いて、自信に満ちているように見えた。シーズンオフの状況を聞けば、デモンストレーションをはじめ、テストの仕事やいろいろな行事の日程がてんこ盛りで、練習しているヒマはなかったという。アシスタントを務める田中裕大は、土曜日にいっしょに練習したのが去年の最終戦のSUGO以来のことだという。
ライバルの黒山健一は毎日のように練習に精を出していたから、外野としては練習していないハンディは大きいのではないかと心配になってしまうが、それはそれ、トライアルに対してのモチベーションや自信は、別のところから湧き出しているようだった。
そして日曜日、IASのトップライダーにとっては軽い準備体操のような設定の第1セクションをクリーンしたあと、第2セクションで早くも試合の流れが見えてくるような一幕があった。
小川毅士が中盤の岩を登れずに5点、野崎史高はその岩を一気にジャンプして乗れているところを見せたものの、飛びすぎてセクションのクイを倒して5点。黒山健一が見事なクリーンを見せたあと、小川は確実に1点で抜けている。
続く第3セクションでは、黒山のクリーンに対して小川は2点。確実にセクションを走破してはいるものの、クリーンを続ける黒山とは、ちょっとずつ点が離れていく。
細かい減点は、この日の小川をずっと苦しめることになった。結果表を見ると一目瞭然だ。優勝した黒山は18個のクリーンをたたき出しているが、小川のそれはたったの9個でしかない。クリーン数でダブルスコア。これが、この日の黒山と小川の勝負の、ひとつの結果だった。
しかし小川は、10セクション2ラップの戦いで、ひとつの5点も取っていない。対する黒山には、1ラップ目2ラップ目、それぞれひとつずつの5点があった。これが、結果として黒山が、小川を突き放せない大きな理由だった。
いっぽうで、これほど細かい減点をとりながら試合を進めていく小川を見るのも、珍しかった。小川本人が「いまだかつてありえない」という試合運びだった。1ラップ目、8個のクリーンをとった黒山に次いで、小川は13点で2位。しかしわずか1点差で野崎史高が3位につけ、さらに野崎に1点差で小川毅士がおいかけてきていた。すべての技が完璧に決まるのが小川風だが、この日の小川は、少しずつタイミングを狂わせ、ラインを乱し、アクセルに迷いがあった。その迷いがほんのわずかだから、減点は1点2点と細かいものが多い。
野崎と小川毅士には、ふたつずつの5点があった。その両者と、5点が一つもない小川が接戦を演じている。これが、この日の小川の戦いぶりをよく現している。
2年連続チャンピオンとなり、今年勝利すれば3連覇。去年は開幕戦を勝利してチャンピオンに突き進んだ。初めてタイトルを獲得した2007年の翌年、2008年の小川は1勝もできずにシーズンを終えた。ゼッケン1番をつける重圧が、思うように実力を発揮させてくれなかった。そんな重圧を克服して、2014年には2連覇を達成。その調子で3連覇を、といきたいところが、3連覇には3連覇の重圧が待ちかまえていたようだ。
2ラップ目、小川の減点癖はなおらない。しかし第7第8と、黒山が5点3点の減点をとったことで、一時は同点に追いついた小川だった。この日はどのセクションもひどい渋滞があって、タイムオーバーの計算もしなければいけなかったから、各陣営も正確な点数把握ができずにいる。クリーン数で黒山が勝っているのは明らかだが、はたしてその点差はどうなのか。
雲をつかむように2ラップが終わり、はたして小川は黒山に2点差となっていた。あるかもしれなかった黒山にはタイムオーバーがなく、最後の3セクションを連続して1点減点となった小川が、その分だけ黒山より減点の多いスコアを残すことになった。しかしそれでも、この日のベストスコアをマークしたのは、2ラップ目の小川だったのだ。
黒山に2点の後れを取ってのSS。小川がふたつのSSをクリーンして、なお黒山が3点以上減点しないと、小川の勝利の目はない。SSの第1も第2も、あるいは3点以上の減点をする可能性のあるセクションに思えるも、黒山はここをふたつともクリーン。この時点で、小川の勝利はなくなった。
ゼッケン2番の黒山がトライを終えて、最後のライダーとなった小川は、もはやクリーンをもぎ取るモチベーションを失っていた。ここをクリーンでも5点でも、その成績が変わることがない。そんな気持ちの沈みようが、最後のトライに現れた。5点。
結果として黒山に対しての7点のビハインドは、それでもこの日の小川のトライ内容よりも接戦となっていたといえる。久々に切れ味のいいライディングを披露した黒山に対し、調子をあげられなかった小川が接戦の優勝争いをしたという結果は、今シーズンの流れが、黒山のものでも小川のものにもなっていない、という証しなのではないだろうか。