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2ストTYSを走らせた野崎と表彰台を逃した毅士
3月8日、真壁トライアルランドでの全日本選手権開幕戦。優勝争いはともかく、6位までの表彰台は代わり映えのしないものとなった。3位はゼッケン3番の野崎史高、4位にゼッケン4番の小川毅士、5位にゼッケン5番の柴田暁、6位にゼッケン6番の田中善弘。しかし結果がいつもの通りだといえ、戦い方が通り一遍だったということではない。
野崎史高は、今回からTYS300Rと命名されたマシンに乗り換えている。シェルコ製エンジンを積んだスコルパSR300Rと同等のマシんで、これをヤマハのファクトリーが野崎用にパフォーマンスアップさせたものだ。
マシンの乗り換えは、昨年最終戦直後にテストライディングを行なって決定していたものだが、野崎とTYS300Rについてはヤマハからの発表はないままに開幕戦を迎えることになった。そしてまた、野崎がこのマシンを受け取ったのは、開幕戦のほんの数日前だったという。
マシンの乗り換えが決まってから、野崎はまずスタンダードの300Rで新しいマシンへの慣熟を始め、あわせてファクトリーがマシンに手を入れ始めた。そして野崎用に仕上げたマシンが届いたのが、ごく最近だった。
とはいえ、野崎がそれを問題にしているようには見えなかった。新しいマシンとの出会い、これまで9年間にわたってツインカムのハイパワーエンジンに乗ってきて、久々の2ストロークとなる。それでも野崎は、2ストロークの乗り味をすぐに思い出すことができた。そうなれば、軽量の2ストロークマシンを操るのは楽しい。早くも「ぼくには2ストロークが合っている」との発言も出た。
乗れっぷりもなかなかだった。第2セクションは、インの岩盤を登ったあと、サイコロ状の岩を超えていく設定だったが、野崎だけはインの岩盤からダイレクトにサイコロ岩の頂点まで飛び移った。自身のライディングとマシンに信頼を置いているからこそできる一発技だった。これ以外にもそこここで見せたアグレッシブな走りは、野崎とTYS300Rの可能性の大きさを予見させるものだった。
ただし野崎は、その直後にセクションテープを止めているクイを倒して5点となった。野崎のこういう失敗は、過去にはいやというほど見せられてきたが、最近はとんと少なくなった。今回は久々の失敗だった。しかしこれは悪い癖の再発ではなく、ライダーの思うよりマシンが走りすぎたからだった。ファクトリー仕様となった2ストロークエンジンの特性を、野崎はまだ完全には掌握しきっていないということだ。
今回はファクトリー仕様のTYS300Rとつきあいを始めたばかりの野崎の精いっぱいの結果だった。次の野崎は、きっとちがう結果を見せてくれるはずだ。
宗七音響というメインスポンサーを得たワイズ・ベータ・チーム。エースの小川毅士は、結果としていつもの通りの4位となった。2ラップ目には減点9、クリーン6と小川友幸、黒山に次ぐスコアをマークしていたから、今回は3位表彰台はほぼ確実だった。
しかし結果は野崎に3点差。敗因は、いくつかあった。まず、始まったばかりの第2セクション、インのサイコロ岩に登り損ねて5点となった。こんな失敗はよくあることだから、これひとつを敗因にするわけにはいかない。さらに毅士は、最終10セクションを申告5点としている。持ち時間がなくなってのいたしかたない処置だったが、10セクションはクリーンの可能性も大きかったから(2ラップ目の毅士は1点だった)ここでの5点は痛かった。
今回は各セクションでの渋滞が激しく、なかなか前に進めない。それを読んでいたのか、各ライダーともに第1セクションから早めのトライを心がけていたようだが、後半はますます早回りを余儀なくされた。小川友幸、黒山らは第5セクションあたりからさらに下見を短縮して先を急いだが、この流れに遅れたのが、毅士だった。毅士のタイムオーバーは、全ライダー中もっとも大きい5点。最終セクションの5点とタイムオーバーの5点は、試合をうまく運べなかったつけとなった。
しかし駄目押しとなったのは、イエローカードの5点だ。2ラップ目の第1セクションでアシスタントが石を動かしたということでペナルティを取られたものだ。石を動かしてはいけないのは規則なのでいたしかたないが、トライ待ちをしていた当の毅士はその現場を見ていない。ルールといえばそれまでなのだが、ライダー心理としては釈然としないまま、4位の結果に甘んじなければいけなかった。
というように、たらればをつぶしていけば少なくとも3位は確実だった今回の毅士。課題は多いが、初優勝以前の毅士のように、トップ争いにズルズル離されての4位と、今回の4位は内容がちがった。次は、ちがう結果を出す番だ。
柴田暁は、今年からアシスタントが代わった。これまで長くコンビを組んでいた田中裕人が、仕事の都合などで全戦参加がむずかしいということで、再びお父さんとのコンビに戻っている。
しかし柴田もまた、苦しい持ち時間には苦しめられた。柴田の場合は難度が高い第9セクションを申告5点でエスケープして、最終10セクションはクリーンができた。タイムオーバーは2点を献上することになったが、被害は最小限に食い止められたかもしれない。
しかしそれでも、もっと上手に回っていれば、という反省はあるし、そもそもどこもかしこもあんなに渋滞しているなんて、という予想外れもあったろう。
2ラップ目だけを見れば4位だし、SS第2を1点で抜けたのは見事だった。柴田にはまだ伸び代がある。その伸び代をうまく伸ばすことができないまま、ここ数年を過ごしてしまっているのが、柴田の大きな大きな課題だ。
1ラップ目、第4セクションまでトップを走ったのは黒山健一と、もうひとり、田中善弘だった。度胸の据わった攻めの姿勢と、ダイナミックなライディングは、少しも衰えることがない。
第5セクションは、とんがり岩をジャンプするように飛び越えるポイントが難所だったが、田中はここを大きく大きくジャンプして、5点となった。ある意味、田中らしい5点だった。
しかしその5点がはじまりだった。この頃から田中は渋滞に巻き込まれて、持ち時間はどんどん少なくなっていった。最後は申告5点を繰り返して、結局第5セクション以降の6セクションはすべて5点という不本意な結果になってしまった。
田中の爆発力は、おおいなる魅力を秘めている。結果も出してほしいが、結果がどうであれ、見逃せない存在が、田中善弘のダイナミックライディングだ。
表彰台を逃した7位以降には、まず成田亮が入った。第2セクションで華麗なマシンさばきを決めたのが印象的だった。
8位斎藤晶夫と9位野本佳章は1点差。そしてポイント獲得圏の最後の一席10位にはルーキーの砂田真彦が入った。されどポイント圏外となってしまった吉良祐哉(11位)とは同点、12位の藤原慎也とは1点差だから、ルーキー同士の争い、さらにはそこから誰がいつ飛び出してくるかも楽しみになってきた。
13位はシェルコに乗り換えたばかりの加賀国光。慣れたつもりで試合に臨んだが、やはりとっさのときのコントロールがシェルコ用になりきっていない。シェルコの加賀が本領を発揮するのは、次の大会以降になりそうだ。
最後の14位は佐藤優樹。2点がふたつだけであとは全部5点のスコアだったが、A級時代にこつこつと技術を磨き成績を上げてきた佐藤を思えば、今回の結果を見て、よりこれからの佐藤が楽しみになってきた。
次戦近畿大会は4月19日、もてぎの世界選手権の1週間前に、奈良県名阪スポーツランドで開催される。