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5勝目と40勝目ならずだったヤマハ・デュオ
4月19日、全日本選手権近畿大会。優勝は小川友幸(ガッチ)。両脇を固めたのはいつものヤマハの二人だったが、今回は野崎史高が2位を勝ち取った。内容的には、野崎は勝ち負けての2位。黒山は3位を守ったという印象。近畿大会に限っては、強いガッチが戻ってきているが、この二人がこのままガッチの独走を許すわけがない。
開幕戦勝利で昨年の不調から完全脱却したかの黒山。この勢いでシーズンを戦えば、強すぎる黒山がふたたび見られるかもしれない。そして黒山は、今回勝てば、自身80勝目を飾ることになっていた。ここまでの79勝のうち、ベータでの勝利が40勝、ヤマハエンジンに乗るようになってからの勝利が39。あとひとつ勝つことで、ベータ時代とヤマハ時代が黒山のレースキャリアの半分ずつを占めることになる。
一方野崎史高は、開幕戦の3位表彰台はけっして満足のいくものではなかった。2ストロークの新しいマシンは、野崎のお気に入りのマシンだが、まだ圧倒的に乗り込みが足りない。乗り込んでいる最中にもファクトリーによる仕様変更があって、さらにポテンシャルが上がっている。仕様が変われば、また乗り込みが必要になる。野崎の開幕戦でのいくつかのミスは、新しいマシンとのコンビネーションゆえのものだったにちがいない。それだけに今回は、1ヶ月の乗り込み期間ののちの大会となる。乗り込み不足は、もはや言い訳にできない。野崎は、次に勝利すれば、自身5勝目の勝利ということになる。
序盤のトップは、野崎だった。オールクリーンも不可能ではない、というセクション設定ではあったが、実際にオールクリーンができるかどうかは別問題だ。4セクションまでのすべてをクリーンできたのは、野崎以外にはいなかった。
しかし野崎は、この日の戦いを「細かい減点が多かった」と自己評価する。第5セクションで、野崎は最後の滑るポイントに苦戦して3点。以後、1点、2点、3点と減点して、1ラップ目に9点を失っている。5点がひとつもない、というのは、この日の戦いではアドバンテージにならなかった。
第5セクションの3点で、トップはガッチの手に渡り、結局そのままトップの座が野崎に返ってくることはなかった。3ラップ目の最終セクションでガッチが5点となったので、その差は3点にまで縮まった。SSで、野崎の逆転優勝の可能性は充分にあった。
しかしてSS第1で野崎が1点、対してガッチはどちらのセクションもクリーンしたので、その差4点で野崎は2位におさまった。
「逆転の可能性はあったし、小川さんにプレッシャーをかけられたかなという思いはありますけど、3点差でつめよっているのでは小川さんが崩れるまでにはいかないですね。やっぱりリードしてないと」
と、野崎はこの日の戦いを見る。4点差で優勝を逃しての2位は、今シーズンのこれからを占う意味でも大きな意義があったが、次はライバルたちにどんなリードをとりながら戦えるかが、野崎の課題となる。
いっぽう、ヤマハの雄、黒山はこの日はいいところなしに終わった。開幕戦は完璧に近い戦いぶりを披露できて、この勢いならと思わせたものだったが、そうはうまく進まなかった。黒山自身の調子の好不調もあるだろうが、それだけライバルの安定感が増してきているということでもある。
それでも今回の黒山の敗退は、4つの5点にあった。黒山の減点から単純に20点を引くと、優勝した小川の減点と等しくなる。4つの5点のうち、最後の一つはクリーンでも5点でも3位が決定しているというモチベーションの上がらないところでのトライだったから、勝負の上での5点は3つ。どれもやさしいものではなかったが、ガッチや野崎のスコアを見れば、黒山ならクリーンしないほうがおかしいというセクションだった。ほんのわずか、運命の神様がスイッチを切り替えておけば、黒山がガッチと同点で優勝していた可能性は小さくない。
最初の5点は、第3セクションの最後の登りだった。わずかに登り足らず、マシンをアシスタントの二郎くんにつかんでもらって自身は落ちていくことになった。落ちた下での受け身は完璧だった。いったいなぜと思わせた序盤の5点劇だった。
続く第4セクション。入口をクリアした黒山は、時間がなくなる出口で足が出て、3点でアウトした。このふたつで、トップとは8点差がついてしまった。この時点では、小川毅士が3位、黒山は4位という暫定ポジションだ。
その後の第5セクションでも不運が起こった。岩から岩に飛び移るポイントで、黒山のエンジンはすとんと止まってしまった。すぐに再始動してセクションをアウトするも、採点は5点。エンジンが止まった瞬間、黒山のアンダーガードは岩にかかっていた。規則では、エンストをした際には再起動することで減点を免れることができるが、その場合はマシンが前進しているか、タイヤ以外のどこも接地していてはいけないということになっている。
このあたりの規則は理解も難解だし、まして一瞬の対処をしなければいけないのだから、ライダーもオブザーバーもむずかしい判断を強いられる。黒山はエンストした次の瞬間、マシンをさっと引き上げたのち、エンジンを再始動している。おそらくその瞬間、黒山はレギュレーションに沿った最善をおこなった。そのセクションにいたすべてのオブザーバーが黒山のここでの失敗について理解していたわけではないようだったから、黒山が減点の理由を質したのも最善の策だったと思われる。それでも採点は、やはりアンダーガードがかかってのエンストで、5点だった。
1ラップ目に大量14点(結果的には、この時点で3ラップを走ったガッチの減点を越えている)を失った黒山は、しかし2ラップ目には3点のベストスコアをマークした。この日のベストスコアは、トップ3がそれぞれ2ラップ目と3ラップ目にマークした3点だった。トップ3人は、実力的には3人ともが勝利の権利を持っていたということになる。
ところが3ラップ目に入って、黒山がまた細かい減点を重ねはじめた。そして第8セクションで、3度目の不運が襲った。セクションインする前、黒山はエンジンの調子を気にするようなしぐさを見せていた。あるいは黒山の望む状態とはちがう特性になっていたのかもしれない。
「今日はいくつか大きなミスがありました。すべてぼくのライディングミス」
と、黒山は言う。しかし3つ目の5点は、見ているものの目を疑わせる5点となった。
高いブロックに上り、ポンポンとブロックからブロックに飛び移り、さらに細い一本橋をわたった後、斜面を登り降りする第8セクション。そこは、ほんの1メートルに満たないすきまで、彼らにしてみたらあってないような空間だった。そこにねらったように、黒山はマシンを落としてしまった。他のライダーの走りを見ると、そこに隙間などないように通過してくる。ここで落ちるとは、黒山本人にもまったく想定外だったのではないだろうか。
この5点はこの日の黒山の決定打となった。80勝目はもちろん、開幕戦の快勝も帳消しとなり、チームメイトに2位の座をも奪われたことで、ランキングトップもガッチに奪われた。
しかしその差はまだわずかだ。今シーズンは、ガッチと黒山のどちらかの独り相撲でもなく、二人の一騎打ちになるのか、それに野崎がからんでくるのか、という巡り合わせになりそうだ。
外野とすれば、この戦いに2勝目を目指す小川毅士が参入してくるのを期待したいところ。今回の小川は、黒山の不調に乗じて表彰台に上るチャンスを見逃して、黒山の落ち込みを最小限にとどめる助けをすることになった。
そういう点では、今回の黒山は運に見放されたばかりではなかったということだ。
日本のトップ争いは、この1週間後、プレッシャーのない環境である世界選手権で、休む間なく繰り広げられていく。