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黒山健一、またも辛勝

10月13日、愛知県岡崎市キョウセイドライバーランド、2013年5戦目となる全日本選手権第6戦中部大会が開催された。
今シーズン、幾度も見られた黒山健一と小川友幸の一騎打ち。今回は中国大会と異なり、セクションの難度は高く見ごたえがある。お互いにミスや失敗を繰り返しながら、結果的に大接戦となった。
2ラップ目中盤、両者は同点に。ここからはミスのできないクリーン合戦と思いきや、ここで小川友幸に痛恨の失敗。それがそのまま試合結果となった。
5点差で迎えたSSでは、最後の最後に黒山にミスが出たものの、足を出してここをクリア。クリーンで勝利を決めることはできなかったが、最終戦に向けて終盤戦の戦いのひとつを制した。
国際A級はランキングトップの成田亮を1点差で抑えて岡村将敏が久々の勝利。国際B級は若い倉持俊輝が2連勝。チャンピオン獲得も具体的な目標になってきた。
10月になっても、まだまだ暑い愛知県岡崎市キョウセイドライバーランド。これまでキョウセイでの全日本は、教習用のコース外周路をパドックとして、エンデューロコース沿いの山の中にセクションが点在する構成だった。 今回、セクションはすべて外周路沿いに設けられ、パドックは教習コースのインフィールドに。パドックへのアクセスと観客にとって観戦しやすい設定が模索された結果。毎年、開催を重ねるたびに新たな試みが導入される中部大会は、全日本の未来像を占う意味でも希少な存在だ。 外周路に沿ったセクションということで、登りのパターンが多かった。昨年同様、新たに切り開いたセクションは地面がまたかたまりきっていないところも多く、難度を高めている。北海道、中国と、少ない減点での神経戦勝負が続いたが、こういう勝負はえてしてライダーには人気がない。今回は、少々の減点に一喜一憂することなく、思いきりトライができそうだ。
第1セクションは、上位陣はほぼクリーンで第2セクション。ここで小川友幸ガッチが1点。野崎史高が5点をとるセクションだから、1点はまずますの結果でもあるのだが、ここは小川毅士と黒山健一がクリーンしている。ここは田中善弘がクリーン、野本佳章が3点で抜けるなど、一部のライダー以外は全滅という設定ではなかった。IASでこういったセクションと出会えるのは貴重だ。
さて1点とはいえ、追う展開となったガッチ、それがなにかをひきづったのか、第3セクションは試合の最初の山場でもあった。
ポイントの配置、時間設定など、このセクションもよく考えられていた。目に見えるかたちで減点となって現れるのは、時間がぎりぎりとなる後半部分だ。ここも、柴田暁、毅士が3点で抜け、ギャラリーをわかせていた。

トップ争いにいまひとつついていけず。、くやしい3位の野崎史高
ところが、野崎、ガッチと5点になった。黒山は1点。ガッチの黒山に対するビハインドは6点になった。
「足をついていけば抜けられた。グリーンをしようと思ってがまんをしてしまった結果の5点だった」
ガッチが振り返る。こういうところでがまんができてクリーンが出れば、試合にいいリズムが出る。しかし5点になってしまうのなら、足をついてマシンを進めた方が結果がよかった。勝利をつかむ方法論はひとつではない。むずかしい。
さらに第4セクションでは、黒山、ガッチともに5点となった。処理のむずかしいセクションだったが、柴田がクリーン、野崎が2点で抜けているから、難攻不落というわけでもなかった。
今日の黒山とガッチは、どことなく原点のとりかたが不思議に見える。セクション設定の妙もあれど、ライバルが抜けたセクションは確実に走破するといういつものスタイルが影をひそめがちだ。
「なんだか、ものすごく緊張した」
黒山は言う。この1戦は、どちらが勝ってもチャンピオン争いは最終戦SUGOに持ち越されることになっていて、黒山とガッチが1位2位を分け合う限り、ここでの勝ち負けとは関係なく、最終戦に勝利したほうがタイトルを獲得する。チャンピオン争いの、そういう意味では、この1戦はそれほどの気負いなく戦えるはずの1戦なのだが、どうやらそれは建前のことで、当の本人たちは緊張感と戦っていた。それが、二人をして細かいミスを誘発させ、いつもとちがう雰囲気をかもし出していた。
それでも、二人を上回るスコアをマークできるライダーは現れない。2セクションから5セクションまで、黒山は7点、ガッチは3セクション4セクションと連続5点で11点(4セクションまでは柴田暁がガッチを上回っていたが、5セクションでガッチに並ばれた)、4点の点差が生じていた。
8セクションでは黒山が1点で3点差となるも、9セクションでガッチが1点で点差は元に戻り、しかし波乱は1ラップ目終盤に待っていた。
10セクション、ガッチが3点。あとからトライした黒山や野崎は、最後のポイントに向かうのに、ていねいな迂回ラインをとった。ガッチはここをダイレクトに挑み、失点した。これでトップ争いの点差は7点に広がった。
次の11セクションでは、ガッチが岩を越えたあとの処理を誤って2点、ところが黒山はこの岩を越えられずに5点。その差が三たび4点となった。
最終セクションは最後の3段がポイント。ガッチはきれいにクリーンをしたが、黒山は3段目で止まってしまった。これで1点を追加して、両者の点差は3点。この日のセクションはどこでも5点になれる設定だったから、まだまだ勝負はわからない。
2ラップ目、両者は2セクションをともに1点で抜け、1ラップ目に明暗のあった3セクションをクリーン、両者5点だった4セクションを黒山3点、ガッチ2点とした。点差はいまやたったの2点だ。
その後、がまんのトライでクリーンを続ける追うガッチに対し、黒山は6セクション、8セクションと1点ずつ失って、ついに同点。残るは4セクションとふたつのSS、合わせて6セクションだ。
しかし同点の緊張は長くは続かなかった。9セクションでガッチが1点、そして続く10セクション……。
ガッチのエンジンが、プスンと止まった。瞬間、オブザーバーは5点を宣告するが、マシンは動き続けていた。これは5点ではない。

小川友幸は、惜敗だった。最終戦はどうなる?
エンストでバランスを崩し足をつきながら「動いてる!」と訂正を求めてトライを続けるガッチ、オブザーバーはすぐ採点を修正しトライが続くが、これがガッチの集中力になんらかの影響を与えた可能性は否定できない。ガッチ自身、影響があったともなかったとも断言しない。明らかなのは、そのあとのポイントで、ガッチがバランスを乱して、岩の右側に落っこちてしまったことだ。
つい2セクション前まで同点だった点差は、いきなり6点となった。そして残るはSSを含み4セクションだ。
最終セクション、ガッチが1点をつけば、黒山は2点。点差は5点となって、二つのSSに入った。
SSひとつ目は沢とトリッキーな岩の組み合わせ。ここまでのクリーン数は両者同じだから、ここで黒山クリーン、ガッチ5点ならば、そこで勝負は決まる。ここでは手堅く、黒山、ガッチ、野崎、そして毅士、田中善弘とクリーン。トップ争いは5点差のまま。
SS二つ目、カッチが勝利を得るには、ガッチのクリーンは当然として、黒山が5点とならなければいけない(同点クリーン数ひとつの差でガッチの勝利となる)。対して黒山が勝利するには、黒山は5点にさえならなければいい。
ガッチのトライはクレーン。最後に黒山のトライとなった。SS二つ目は、そのデザインを一般公募としたアイデアセクションだ。大タイヤをウイリージャンプで越え、はしご状に組まれた丸太から落ちずにポンポンと越えて、最後はてっぺんまでヒルクライム。繊細なテクニックと豪快なライディングが合わせ見られる好設定だった。
丸太渡りのダニエルは、なかなかテクニカル。しかしさすがに、IASライダーはここをクリアしていく。難関は、頂上付近の最後の登り部分にあった。野崎がクリーン、そしてガッチもここはクリーン。まだわずかに可能性が残っているガッチの優勝の条件が、ここでのクリーンだった。しかしさらには、黒山が5点とならなければ、ガッチに勝利の目はない。
黒山は、緊張の中にも正確なライディングで、ぽんぽんと丸太のダニエルをこなしてきた。残るはヒルクライムだけ。DOHCエンジンのパワーなら、難なく登りきれるはず……。
1段登り、さらに2段、3段と登っていくこのポイント。2段目から3段目の加速で、黒山が一瞬失速した。そのまま登坂にかかる黒山。もしこれが登りきれなければ、勝者は逆転でガッチとなる。
それでも黒山には、3点で抜ければ勝利という余裕があった。クリーン必須なら、がまんを知られ、結果5点となる恐れもあったが、万一失敗があっても足つきで対処すれば勝利が手に入る。
黒山の加速は、充分とはいえなかった。頂点で勢いが足らず、マシンが勢いを止めかけるのを、足を出して引きずり上げた黒山。3勝目の勝利も引き上げられた瞬間だった。
3勝2敗。黒山はガッチに対して3点リードを築いた。第2戦九州大会、今年の最初の大会で1位と2位になって築いたリードと同じ点差だ。2013年の全日本トライアルは、1年間戦い、最後の最後で、また戦いが振り出しに戻ったことになる。
「今日勝っても負けても、勝負は最終戦次第ということはわかっていながら、ものすごく緊張した1戦でした。それで、へんな失敗もしてしまった。むしろチャンピオンがかかった最終戦は、こんなに緊張をしないで走れるんじゃないかと思います。SUGOは、なんとなくですけど、うまくいきそうな気がするんです」
今年、ずっと続いている接近戦を制した黒山は、2週間後の決戦を待ちかまえている。表彰台のガッチはこう語っている。
「毎回毎回、すごく疲れる戦いばかり。早く2週間後の戦いが終わってほしい」
2週間後、笑っているのは、さてどちらなのか。

ぎりぎりの勝利。黒山健一