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黒山が対戦成績をタイに戻した北海道
7月19日、北海道上川郡和寒町わっさむサーキット。この17年間、変わらず開催されている会場で、しかしその試合内容は、いつもとはちがう大接戦となった。
勝利は黒山健一、2位に小川毅士が入り、ここまでランキングトップだった小川友幸は3位。これで黒山とガッチは対戦成績がまったく同じとなった。チャンピオン争いはここから仕切り直しとなる。
勝負は、最後の最後までもつれ込んだ。8セクション3ラップの後、2セクション用意されていたSS。乱れた加速ポイントからそそり立った岩に登る第1、オーバーハングの巨大U字溝に飛びつくというむずかしいポイントを超えていく第2。上位陣は自信があるというも、順位の変動はありそうなSSではあった。
SS第1では柴田暁が1点で通過、第2ではタイムオーバーにはなったが野本佳章が美しく走破して、トップグループがさらに美しくクリーンする姿が予想されたのだが、意外にトップライダーが苦戦してしまったSSとなった。
SS第1ではトップ4の全員が5点。ここでは勝負がつかなかった。そしてSS第2では、まず小川毅士がクリーン。あとに続くは野崎史高、黒山健一、そしてガッチの3人。
3ラップを終えた時点では黒山がトップ、2点差でガッチ、1点差で毅士、さらに6点差で野崎となっていた。SS第1で5点となった野崎はこの時点で表彰台のチャンスを失ったが、ほかの3名の順位はまだわからない。
野崎が5点になった後、黒山のトライ。黒山は毅士以上に美しい走りでここをクリーンした。ここまでトップだった黒山は、これで勝利を決めた。最後のガッチのトライは、ガッチの2位を決めるべきトライだったのだが、ガッチは最後の最後に失敗。2位の座は小川毅士のもとへと転がり込むことになった。
黒山は言う。
「今日は、トップの4人の誰が勝ってもおかしくない戦いだったと思います。その一方で、4人はそれぞれすっきりしない、もやもやした思いを残しているんじゃないでしょうか」
黒山もまた、トップ争いをしながらミスが連発してリードを広げるわけにはいかなかった。
トップにミスが出るのは第4セクションと第5セクション。いずれも、岩の並びと滑る登り斜面が鬼門の難セクションだった。とはいえ、ここを走破したライダーはいるし、クリーンも出ている。みんながいけるセクションは確実に行くのがトップライダーの務めだが、今日のトップライダーはそうはいかなかった。
黒山はこの二つのセクションで3つの5点を喫している。
「失敗したときには思い切り意気込んで向かいました。そしたら5点で、最後に、こんなんでいけるんかいなくらいにふらふらっと上がったら、なんてことなく上がりました。トライアル、むずかしくて、おもしろいもんですね」
トップライダーだけ失敗するセクションが、北海道には潜んでいた。
黒山は、これで全日本選手権通算80勝目。開幕戦関東大会で79勝をマークして、リーチがかかった状態で2戦お預けだった。ただし黒山自身は、80勝は特に意識していないという。
「強いて言えば3度のオールクリーン、初めてチャンピオンを決めたSUGOと、広島の灰塚ダムと、ヤマハエンジンに乗り換えて初めての真壁が思い出に残っています。でも昔の思い出より、最近の戦いのほうがひとつひとつの勝利が重要に感じられています。昔の勝利が簡単だったとは言わないですが、今はほんとに苦労して勝利をつかんでいます」
これでガッチと対戦成績をタイに戻した黒山(現在のランキングは、今回勝利した黒山がリーダーとなっている)。81勝目は次の中国大会となるのか、それとも……。タイトルの行方は残る3戦で決着することになった。
最後の最後で2位となったのが小川毅士だった。序盤、2ラップ目まではトップを守った毅士だったが、結果を見る限りでは、2ラップ目の第7セクションでの5点が痛かった。
毅士は最終SSを黒山がクリーンするのを見て、これなら小川さんもクリーンするにちがいない、そうなると自分は3位で決定だなと、パドックへ帰ろうとしたという。そうしたところ、ガッチが失敗するシーンが目に入った。ガッチの失敗で、2位の座が転がり込んだ毅士。今シーズン、苦戦に苦戦を重ね、2勝目はおろか、表彰台にすら上がれない戦いが続いていた。今回、一気に表彰台に上がったばかりか2位まで駒を進めた。2勝目をあげることはできなかったが、失敗を最小限に食い止める戦いっぷりは、そろそろトップライダーの貫録が感じられる。
毅士はSS第1で5点となっているが、5点となった直前にエンストして再始動している。実は手がつってしまって、クラッチ操作ができずにエンストをしてしまったという。最終SSでもつってしまうリスクはあったが、それならそれでしかたがないとひらきなおってトライした結果のクリーンだった。まず、結果オーライだ。
今回のガッチは、今年第2戦と第3戦で感じられた神がかったオーラが影を潜めていた。特にびっくりだったのは、1ラップ目の第8セクション、岩から岩へ飛び移る際に、フロントが上がらずそのまま転落してしまったことだ。
今回の戦い前に出たトラブルを解決しきれないままに北海道大会を迎えてしまったことで、必勝体制ではなかったことを打ち明ける。ガッチの乗るマシンはボウや藤波の乗るファクトリーマシンで、修理をするのもむずかしいところがある。どんなトラブルなのかはわからないし(優勝争いはできているわけだし)どれほどたいへんな作業が必要なのかも外野にはわからない部分だが、人知れず、ガッチは苦労のトライアルを続けていたのだった。
SSの2セクションは、ガッチの得意パターンだったという。この2セクションを落とし、今年初めての3位転落、2連勝したアドバンテージはあっという間に帳消しになって、ここからの3戦は振り出しに戻ってスタートすることになった。
野崎は、今回はあまりいいところがないまま26セクションを終えてしまった。とはいえ、SSが始まる時点では、まだ逆転優勝の可能性を残していて、今回は完全に4人によるトップ争いとなっていた。ランキングでも、トップ二人が勝ったり負けたりしているので、野崎とトップとのポイント差は12点。残り3戦で12点を詰めるのは至難だが、可能性の上では、毅士を含め、まだまだ誰がタイトルを獲得してもおかしくない2015年全日本選手権である。