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08全日本最終戦は黒山
全日本選手権最終戦東北大会は、宮城県スポーツランドSUGOで、10月26日に開催された。
優勝は、IASが黒山健一、IAが本多元治、IBが上福浦明男。
年間チャンピオンはIASが黒山健一、IAが西元良太、IBが小野田理智。
試合の様子は自然山モバイルのレース速報で振り返ってください。
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黒山健一が完璧な走りを見せて、2008年の全日本選手権最終戦は始まった。この1年、黒山が完璧でなかったことはごく少ないが、この大会の完璧ぶりは、群を抜いている。
逆に、本来のライディングがまったくできずに減点を重ねてしまっているのが小川友幸だ。小川には計算上逆転チャンピオンとなる可能性も残っているが、現実的にそんな大逆転劇はありえない。それより、ゼッケン1をつける者として、なんとか1勝をしたいと考えて試合に臨んだ。タイトルを獲得した去年、そして惜しくも黒山に敗れたおととしと、勝利は黒山と分け合うことが多かった。今年のように、負けっぱなしというのは、この数年にはななかった事態だ。
小川には、からだの故障やマシンが完調でないなど、いくつかのハンディがあった。しかしそれは黒山にも同じことがいえる。黒山のTYS250Fは、だいぶ熟成が進んだとはいえ、本格的にヤマハ陣営がチューニングを始めたのは今年からで、ここへきてようやく機嫌よく走るようになってきた段階だ。加えて黒山も、今年は故障が多かった。今回も、指の脱臼をテーピングで押さえつけて走っている。みな、それぞれにハンディはある。
トップライダー同士の戦いが勝敗を決する要因は、ライディングテクニックそのものではなく、ほんの少しのメンタルコントロールだったりすることが多い。黒山は、昨年負けたことで(久しぶりに)勝ちたいという思いが切実なものとなった。小川は念願のチャンピオンを手にして、今はチャンピオンらしい走りをしようと躍起になっている。それがまた、小川のライディングをらしくないものにしていく。
1ラップめ、11セクションすべてをクリーンしてしまうのではないかと思わせるような快調ぶりを見せた黒山が、初めて失点したのは第9セクションだった。名物セクションにもなった、2メートル以上ある真直角の石垣を登る。しかしかつては難所中の難所だったこのポイントは、今ではトップライダーにとっては要注意だがクリーンが可能なポイントとなった。かわって鬼門は、このセクション後半の岩盤登りだ。
「前の日にセクション査察をしている山本昌也さんとここで会って“これ行けるやろか”と聞かれたんです。“誰かいくでしょう”と答えたんですが、失敗だったですかねぇ」
と振り返るのは黒山。結局このセクションは、岩盤に阻まれて、誰ひとりセクションをアウトできずに終わった。しかし、トップ争いをした黒山、小川、そして野崎史高の3人は、もうあと少しのところまで登っていたから、結局みな5点でも、見ているほうには最後まで緊張感が伝わるセクションとなった。
「きっかけがあるか、もう少し地面が乾けばいけるでしょうね。乾くほうが行ける可能性は大きいかな?」
その後、黒山は最終セクションで2点をついて、1ラップを終えた。1ラップを一桁減点で終えたのは、黒山ただひとりだ。
その黒山を6点差で追いかけるのは、小川ではなく野崎だった。大玉石をぴょんぴょんと選びながら登る3セクションで3点、亀の甲羅状の湿った岩盤を登る4セクションで1点、ふかふかの斜面を上り下りする5セクションで2点、一番遠いところにあったヒルクライムで1点と、1ラップ中盤の野崎には少なからず減点があった。それでも野崎には、5点が(みんな5点の第9以外は)なかった。最終セクションでの減点も1点。黒山にはほぼダブルスコアとなる点差をつけられたが、感触は悪くなかった。
一方小川は、第9を含んで3つの5点を喫した。「今日のガッチはおかしい」。トライを見守るライバルのマインダーも、口々に言う。そして残念ながら、今年の小川はこういう評価を受けることが、少なくない。
結局小川の1ラップめの減点は22点で、これは黒山の7点の3倍以上になる。はたしてここから追い上げはできるのかという心配より、気がつけば4位の渋谷勲が3点差に迫っている。さらに小川には、1ラップで2点のタイムオーバーがあった(タイムオーバーは、トップ3人が仲よく2点ずつもらうことになった)。ということは、渋谷との点差は、たった1点だ。チャンピオン、危うし。
4位争いは、25点の渋谷、27点の小川毅士、31点の田中太一の三つどもえ。この中では、田中太一が不調の中にいた。難所らしい難所ではことごとく失敗して、5点になる。ただひとつ、太一らしい繊細で大きなトライが見られたのは、最終11セクションだった。コンクリートブロックでわずかに滑って1点を失ったが、それ以外は完璧なトライ。これは、あとに続くライダーにも、大きな刺激を与えることになった。しかしそれ以外は6個の5点を並べてしまって勝機にはほど遠い。
渋谷は、あいかわらず4ストロークマシンとの相性を探っている。もともととぎすまされた感覚でマシンを走らせるライダーだから、自分の気持ちとマシンが一体になるには、もう少し時間がかかるかもしれない。
「1ラップめに小川さんと3点差と聞いたときにはいけるかなと思ったけど、だめですね。まだまだです」
途中参戦の2008年。09年の予定はまだ決まっていないということだが、来年の渋谷は、どんな装いで現れるだろうか。
その渋谷に、最終的には敗れたものの、試合中途では小川友幸に肉薄する戦いを見せたのが小川毅士。結果表を見ながら暗算してみると、試合当日の緊縛感がよみがえってくる。小川友幸の1ラップめの減点が22点。これにタイムオーバー減点2点を加えて24点。一方小川毅士は1ラップめの減点が27点、その差3点差。2ラップめ、第1、第2と両者クリーンしたあと、第3ではふたりとも1点。その後第4セクション、苔むした岩盤を1点で上がった毅士に対して、友幸が5点。ここで3点差は一気に逆転して、毅士が友幸に1点リードとなった。
ただし毅士の檜舞台もここまで。毅士はこの日、ラップ前半ではよい走りを見せるも、後半に5点が多かった。それが災いして友幸に差を広げられ、さらに終盤渋谷の追い上げをも許して5位に甘んじることになった。しかしレベルの高い全日本で、一時でも3位を走った実績は、意義は大きい。
「3位は実はねらっていた。でも最後には小川さんにはなされて、しかも渋谷くんにもやられて、よかったり悪かったり。うーん」
実は毅士は、この秋に関東に引っ越した。トライアルに打ち込むために環境を変えたという毅士。トライアルに打ち込むために関西に住んだ渋谷勲とともに、来シーズン注目の若手となる。
さてトップ争いは終盤戦。今日の小川友幸は、とても優勝が狙える走りっぷりではない。小川自身、途中で確実に3位をねらうことを念頭に走ったという。
一方、野崎のほうは、1ラップめを黒山に6点差で折り返した2ラップめの第1セクションで、痛恨の5点。ここは上位5名がほぼ毎回クリーンしたセクション(3ラップめの渋谷が1点をとった他は、野崎が5点をとったのみ)で、なんとももったいない5点だった。しかしその後の野崎は、全員5点の9セクション以外をすべてクリーンし、2ラップめを10点で終えた。第1セクションの5点がなければ、実質オールクリーンだったともいえる。
この間、黒山がわずかに調子を落とした。第4セクションの岩盤で失敗して5点、第8セクションで1点となったあと、最終セクションでもカードに触れて5点となったように見えた(これは実は3点だった)。黒山の最終セクションが5点とすると、この時点で両者は同点。さぁ残る3ラップめの、がまん大会だ。野崎は1ラップめに小さな失点を重ねているから、クリーン数の勝負になると、黒山が優位だ。野崎が勝利するには、1点でもいいから黒山を上回る必要がある。
両者の、譲れない戦いが始まった。黒山のタイトルは、ここまでくればもうほぼ決まったも同然だが、最終戦の勝利に向けて、黒山は一歩も引かない。一方野崎は、もしここで勝利を得て、小川が3位以下に落ちれば、ランキングも2位に浮上することになる。
完璧なライディングが続いた黒山の1ラップめと同じスコアが、今度は黒山と野崎、ふたりのスコアカードに並んだ。第1から第8まで、すべてクリーン。そして第9セクション。ここを抜けられれば、勝負は決まったも同然となる。
「絶対上がれるぞ」
マインダーの声にすいこまれるようにセクションインした野崎。しかし最後の登りは、やはりきつかった。5点。
最後の最後に、黒山が第9セクションの走破なるか。固唾をのんで見守るギャラリーの前で、やはり最後の難関が登れない。ついに9セクションは未踏の難セクションとなり、トップ争いの緊張はさらに続くことになった。
10セクションは二人ともクリーン、そして勝負は、最後の11セクションで決せられることになった。
先にトライしたのは野崎。野崎は1ラップめに1点、2ラップめにクリーンを出して、もちろん3ラップめもクリーンする気満々。黒山はここを2点、3点と失点しているから、先を走ってクリーンすれば、黒山に与えるプレッシャーも少なくないはずだ。
しかし。野崎は、自分が選んだらインにマシンを進められなかった。足をついてなんとか5点は回避するも、クリーン狙いのライディングが3点になってしまった。
これで黒山は(同点だったとして)3点で抜ければ勝利を決められることになる。もちろん黒山とてクリーンができるならクリーンをして有終の美を飾りたいところだが、やはりここは難セクションだった。野崎と同じように足を使ってマシンを送り出し、3点。
勝てる試合だった。しかも、最終セクションは、クリーンできる自信があった。野崎は黒山のトライを、じっと見守っていた。そしてここを3点で抜けて、笑顔とともにタイムコントロールに降りてくる黒山に握手を求められ、ちょっとだけ笑顔を見せた。
あとで、黒山の減点が、野崎陣営の手元の計算より2点少ないことがわかった。つまり黒山は、野崎が最終セクションで3点になった時点で、勝利を決めていたということになる。もし、野崎が最終をクリーンしていれば、黒山は最終セクションを2点以内で通過しなければいけなくなり、結果はちがったものになっていたかもしれない。
31点と33点。わずかの差で、黒山がシーズン6勝目の有終の美を飾った。野崎はシリーズ2勝めとSUGOでの3勝目をマークできず。しかし、勝ちにからむ試合が展開できたのは、野崎には大きな収穫だったにちがいない。
「1勝し、ランキングでも2位にはなれなかったが小川選手にはなされずに最後まで戦えたので、悪くないシーズンだったとは思うが、今は最終戦の最終セクションで優勝を逃したことが、なによりくやしい」
試合後、野崎のくやしさは、しばらくおさまりそうになかった。
■国際A級
全日本選手権の3つのカテゴリーの中で、唯一すでにチャンピオンが決定しているのが国際A級。4勝を挙げている強さもさることながら、その安定感は抜群。ムラの多かった数年前の西元とは、はっきり別人の風格が、今年の全日本では光っていた。
しかしその西元も、タイトルを決めた中部大会では4位。今年2回めの4位で、もちろん悪くない結果だが、3連勝のあとの優勝決定戦と考えると、ぜひ勝ちたかったところだ。最終戦は、西元が自分のタイトル獲得に色を添えるための、大事な最終戦だった。
今シーズンの西元の集中力の高さは群を抜いている。1ラップめの西元は、5点が3つをとりながら、あくまでも自分のペースを崩さなかった。
「今日は自分のトライに集中したかった」
西元は周囲を気にすることなく、ひとりで先回りしてトライを進める。それで、1ラップめは23点をマークしてトップに立った。
西元は2ラップめも1ラップめと同じようなラップで回ってくる。今年学んだ、勝ちパターンで、自分の気持ちをきちんとコントロールしている。ところが。
3ラップめ、それまで2回ともクリーンをしていた第1セクションで2点を失うと、西元のスコアがわずかに乱れ始めた。といっても、ほんの少し。第5と第6は、ふかふかの泥の登りで5点の多いセクション。西元はここで計6個の5点をとっているが、特に第6は全員5点だから、これが大きな問題になるとは思えなかった。
しかし伏兵はいた。本多元治。ベテラン勢の中でもストイックなトライアル道をいくひとり。常に上位にからんでくる実力者だが、このところ勝利がない。その本多が、抜群の走りっぷりを見せたのが、3ラップめのことだった。
西元が3ラップとも5点になった第5セクションをクリーンし、5点ふたつ、3点ひとつ、2点ふたつでゴール。このラップ、やや乱れを生じたとはいえ、西元は25点で終えた。1ラップ23点、2ラップが22点だから、大乱調というほどではない。西元陣営にすれば、ちょっとミスしちゃったけど、そのまま逃げ切れるのではないかという期待もあった。ところが本多は、3ラップめをたった15点で上がった。その差3点、西元は自身のチャンピオンを勝利で祝うことができなかった。
「勝つつもりで走っていて、ところが3ラップめにちょっと乱れてしまって、そしたら本多さんがすごいいい成績で回ってきて、負けちゃいました。でも本多さんもこれまで目標にしてきたひとりなので、その本多さんとこういう戦いをして負けるなら、それも本望かなと思います」
いつものように、淡々と自身のトライアルを語る西元だった。
本多元治、2004年以来、4年ぶりの勝利だった。
■国際B級
復帰組ふたりが勝利を独占した2008年シーズン、途中、上福浦が失速して、小野田が3連勝してシーズンの動向を決定づけたところでの最終戦。小野田はここで、12位に入ればタイトル決定だから、万が一はあっても、事実上チャンピオンは決まったようなものだった。
第1セクション。岩を越えてから、実は難所は最後の登り。朝露でつるつる滑る。B級のほとんどが、急斜面をさけてS字ターンをしながら登っていくのだが、S字で失速して登れなくなってしまう選手が多かった。小野田も、ここで5点となっている。
最後にトライしたのが上福浦。上福浦は、S字をきらってまっすぐ登った。ちょっといやらしい岩があるのだが、それよりもターンで失速するのを回避するラインだ。これが見事に決まって、B級唯一のクリーンをたたき出す。これが、というわけではないのだろうが、これがこの日のB級争いの、印象的なシーンだった。
1ラップめトップは上福浦。減点15。以下、前間が減点16、木下が減点18と続き、小野田は減点19で4位につけた。小野田は3ラップめに12点をたたき出すも、その差わずか1点で勝利を逃した。
上福浦はこれで3勝目。上福浦3勝、小野田4勝の2008年シーズンだった。
なお2007年にエキシビション125に参戦し、第6戦中部で突然2位に入った松岡一樹は、今回も5位に入った。1ラップめにトップだった中部大会とは一変、今回は1ラップめに26点という大外しをみせるが、なんと2ラップめにこの日のベストラップである9点をマーク。5位に進出した。
国際A級昇格のかかったランキング上位8名は、小野田、上福浦、前間、松浦、中山、木下、荒木、大田。
ランキング8位の大田は39点、9位樋上は38点、さらに10位の安岡が36点と、昇格をかけたボーダーラインでは、厳しい戦いが繰り広げられていたのだ。
■エキシビション125
国際B級以前の若いライダーが、125ccを駆ることでB級と同じラインを走るエキシビション125。去年は松岡一樹が参戦して修行を積んだが、今年は松岡の後輩にあたる大神和輝が参戦している。
国際B級とセクションはいっしょだから、その実力ははかりやすい(ただし誰よりもスタートは早いから、ハンディがちょっとある)。今回はB級では35位相当。1年先輩の松岡は全日本でも頭角を現し始めた。次に出てくるのは、この顔だ。