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小川友幸2015年終盤戦で2連勝
SSの最終セクションを1点で抜け、前回中国大会に続いて2連勝を決めた小川友幸(ガッチ)だったが、その表情に笑顔はなかった。
「クリーンして終わりたかった、後味が悪いなぁ」
黒山建一とのポイント差を6点に広げ、3連覇に向けて明るい材料を作った2年連続チャンピオンの、これが勝利の第一声だった。
対して、ガッチの直前にSS最終セクションをトライした黒山は、柴田暁や野崎史高が苦戦した2段のタイヤを華麗にクリーンして、セクションアウトと同時にガッツポーズが出た。ここだけ見れば、優勝したのが黒山で、ガッチは負けて悔しさをあらわにしているようにさえ思える。
ガッチは最終SSを走るに際し、最初のタイヤ、ふたつめの2段のタイヤ、みっつめのタイヤと最後の170cmステアと、すべてのステップを全部フロントをつって走り抜けようと考えていた。そしてそれができる実力を、ガッチとRTL260Fは備えていた。
ところがSSに入る前、ガッチにもたられたのは、その時点で優勝が決まっていないかもしれないという情報だった。実際には、ガッチは11点。野崎と黒山はすでにトライを終えていて、野崎21点、黒山19点でゴールしていたから、ガッチの優勝は決まっていたのだが、SS第1を終えた時点では2位が野崎で16点、黒山は19点で3位だった。おそらくはここで野崎と黒山の減点がこんがらがって、黒山を16点として伝わったようだ。この場合、ガッチが最終SSで5点になると21点。クリーン数はガッチと野崎が等しく、黒山は3つばかり多い。同点なら勝利を逃すおそれもある、と考えてしまった。
ガッチが思い描いた美しい走りは、失敗すると5点になる。先にクリーンをした黒山は、結果的にはクリーンをして逆転2位を手に入れたが、失敗すれば3位のままで、うしなうものは多くなかった。ガッチの場合は、失敗すれば勝利を失うとされていたから、ここで美しい走りを披露するのは、いささか冒険だった。
ガッチは確実に抜ける戦法をとった。それが、2段タイヤでの1回の足つきにつながった。勝負の流れとしては悪くない。しかしふたりの表情を見ると、笑顔で試合を終えられたのは黒山だった。
もちろん黒山の苦境は変わらない。対戦成績をタイに戻した北海道大会からはガッチの2連勝。残り1戦でランキングポイント6点差。黒山がチャンピオンをとるには、まず黒山はなんとしても勝たなければならず、さらにガッチが4位以下に落ちる必要がある。3位なら、1点差でガッチのタイトルが決定する。
こんな状況で、少なくとも表面上の黒山に、焦りなどは感じられない。
「チャンピオン争いが苦しいというのはそのとおり。でもチャンピオン争いより、まず最終戦での勝利を目指します」
と黒山。チャンピオン獲得のためには最終戦の勝利は絶対条件なのだが、黒山の勝ちたいという願いは必ずしもチャンピオンへのこだわりではない。チャンピオンがとれたにしろとれなかったにしろ、来るシーズンのために、気持ちのいいシーズンオフとする必要がある。最終戦で負けてもんもんとした数ヶ月を過ごすわけにはいかないのだ。それはちょうど、今回のガッチが、最終SSで1回足をついたばっかりに、最終戦までの3週間を、ちょっと悔しい思いで過ごさなければいけなくなったのとおんなじ状況だ。
しかしガッチがやや不満げにゴールしたのは、SSでの失点だけが理由ではない。第2セクションで1点を失い、黒山に対して追い上げを余儀なくされたこと、2ラップ目にオールクリーンを目指したところが、第8、第9、第10と細かいミスを続けてしまったことなど、いくつか不本意なところがあった。
もちろん不本意なのはガッチに連勝を許した黒山や、野崎、小川毅士も同様だ。黒山は2ラップとも第8セクションまではすべてきれいにクリーンしていながら、残る4セクションで減点を重ねてしまった。競技が8セクション+SSだったら、黒山がぶっちぎりで勝利をおさめていたはずだった。去年、黒山はこの中部大会で4位となって、タイトル争いの不利を決定的にしてしまった。このとき失敗をしたのが、今日の第9セクション以降だった。
「練習だったら、問題なくクリーンができると思います。でも苦手意識というか、そんな思いを持ってトライしてしまった結果がこの失敗です」
黒山が最初に失点をしたのは第9セクション。難所にさしかかる手前のヒルクライムで失敗。はじき返されて5点となったように見える失敗だった。ところが黒山はここでトライをあきらめなかった。はじき返されて落ちながらもマシンをコントロールし、着地した岩の上で向きを変え、誰もアプローチしなかった、誰も下見をしていないラインからマシンを坂の上まで押し上げた。3点減点となってしまったものの、執念で5点を回避した瞬間だった。しかし黒山のこの執念もここまで。第10、第12と5点となって、トップとの点差は致命的になってしまった。
黒山のこの日の真骨頂は、第8までをただ一人オールクリーンしたことと、SSの2セクションのクリーンだった。特にSSの第2は、最後の170cmの真直角が、去年はまったく歯が立たなかった。今年はその不安を払拭すべく、1年かけてマシンと腕に磨きをかけてきた。1年間の成果はきちんと残すことができた。結果は2位だったが、黒山の笑顔のわけはそんなところにもあった。
野崎は、2ラップ目第2セクションの5点と、SS第2の5点が痛かった。SS第2は黒山との2位争いに、自ら決着をつけてしまったかたちとなった。しかし試合の流れとしては、第2セクションでの5点が痛かった。セクションタイムの読みまちがいで、時間が足りなくなってしまっての5点だったが、この5点を差し引いてしまうと、野崎は最後までガッチとトップ争いをしていた計算となる。1点のつもりが2点という減点もいくつかあったが、そういった残念の積み重ねが、野崎を表彰台の頂点から遠ざけている。
毅士は、序盤はトップだった。1ラップ目が終わった時点でも、ガッチと同点ながら、クリーン数差でトップを守っていると伝えられた。ところが毅士は、1ラップ目の11セクションで5点になっていた。これがパンチミスでクリーンとされて、それでトップと伝えられていたのだった。
集計はそのまま進んでいたが、結局毅士陣営から、パンチミスが申告されて、自ら減点を5点増やす(というか正しくなっただけだが)結果となった。問題の11セクションは対岸の9セクションや10セクション、あるいは本部からも遠目で見えるところにあって、きちと申告すべきであるというのが毅士陣営の決断だった。ライダーに有利なミスがされた場合、それが修正されることはほとんどないが、今回はチームの決断が潔かったといえる。もっとも、この5点がクリーンであっても、毅士は2ラップ目に4個の5点を取ってしまっていて、結果的に毅士の成績は4位で変わりはなかった。
今回の5位は田中善弘。けっして満足のいく走りっぷりではなかったようだが、柴田に2点差。柴田暁はSS第1を1点で走りきったが、田中との点差を挽回することはできなかった。
7位の野本佳章は、SS第2を1点で切り抜けたところが光っていた。野本までが、12セクション2ラップとSSの2セクションを二桁減点でまとめている。
8位は加賀国光、9位は2ラップ目に追い上げのきいた成田亮、第1セクションで焼き付いたマシンを修復、その後は雨が止んでもカッパを脱ぐヒマも惜しんで追い上げた吉良祐哉が10位で、ポイントを獲得した。
藤原慎也は指を負傷してリタイヤかと思われたが、そのまま試合を続行して12位で完走した。11位が砂田真彦、13位が佐藤優樹。10位から13位までは3点差だった。