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10年ぶり、野崎史高が最終戦のSUGOで勝利
11月1日、宮城県スポーツランドSUGO。今年も熾烈なチャンピオン争いが繰り広げられたが、最後に勝利をしたのは野崎史高だった。自身5勝目、SUGOでの勝利は10年ぶりのことだった。
これまでの野崎の勝利は4つ。そのうちのふたつがSUGOということで、野崎はSUGOが得意ということになっている。得意かどうかはともかく、気分がいいのはまちがいない。毎回、SUGOでの戦いでは、野崎が勝つかもしれないと、多くの人が思っている。小川友幸や黒山健一も、特にSUGOでは野崎を警戒する。
ところがその実、野崎がSUGOで勝利したのは、もう10年も前、2005年のことだ。その間、中国大会と九州大会(会場は下関だった)で勝利をしているが、10年で2勝だから、なかなか勝ちあぐんでいるという印象だった。それでもSUGOでの2勝がライバルや関係者に印象深いのは、それだけSUGOでの2回の勝利が印象深かったからだ。黒山健一が全勝をしようかというシーズンの最終戦に、当時世界を舞台に戦っていて日本はスポット参戦だった野崎が、最後にするっと勝ってしまった10年前のあのシーンは、今でも語りぐさの印象的シーンだったのだ。
今シーズン、野崎は10年ぶりに2ストロークマシンで戦っている。ヤマハの主力機種だった4ストロークのDOHCエンジンとは07年から9年の長きにわたって戦いをともにしてきた。今年から乗っているのは、ヤマハブランドとなったスコルパマシン。スコルパのエンジンをヤマハのチームが走らせる違和感は誰もが感じたものだが、ヤマハのトライアルへの情熱が、それだけ強いという証しでもある。
ヤマハ製のエンジンを積んだ純国産トライアルを望む声は多いけれど、ヤマハがスコルパとの連携で新しい道を模索するのはその現実的解決策でもある。
野崎にとっては、そんな外野の思いを与することなく、新しいチャンスで結果を残すのが唯一の仕事だった。倒すべきは2年連続チャンピオンの小川友幸であり、そしてチームメイトでヤマハ製エンジンを積んだマシンを継続して選んだ黒山健一だった。
軽量の2ストロークエンジンを手にして、野崎の希望は広がった。しかしそれでも、結果はなかなか出ない。10年に及ぶ4ストロークでの戦いから2ストロークへの乗り換え、さらに乗り慣れたところで開発が進み、またマシンへの完熟ミッションが立ちはだかるという、そんな繰り返しのシーズンだった。その間隙をつかれ、今シーズンは2度、表彰台を逃してしまった。トップを目指す野崎とすれば、3位が定位置となるのはなんとしても避けたい事態だったが、それはもちろん、4位になりたいわけではない。されど、小川毅士がどんどん強くなっている昨今、調子が悪くても3位と安心しているわけにはいかない。
2015年最終戦、背水の陣ともいうべき1戦だが、最終戦は野崎に限ったことではないが、2ストローク1年目の結果が、2位を1回獲得しただけのランキング3位では許されないし、チャンピオン争いからはやや距離を置かれ、ランキング3位の座を毅士に狙われているという、そんな状況での最終戦だった。
そして迎えた最終戦。スポーツランドSUGOには、10個のセクションが用意されていたが、国際A級(スーパーを含む)がトライするのは8個。これを3ラップと、スーパークラスは2個のスペシャルセクションにトライする。
セクションが簡単、という予測は、土曜日に下見をした時点からあった。だいたいトップライダーはセクションが簡単なのをきらう。行けるか行けないかという難セクションは、おもいきりトライができるが、セクションが簡単だと、1回の足つきが試合を決めるなんてことにもなりかねない。胃の痛くなるような戦いを強いられるわけだ。
オールクリーン勝負、とトップライダーは言うものの、とはいえ、本当にトップ争いがみなオールクリーンでゴールする、なんてことはまずありえない。今回で言えば全部で26セクション。そのどこかの一瞬で気の迷いがあったり油断があったり、あるいは不運があったりすれば、オールクリーンなど夢物語となる。結局勝つべきものが勝つリザルトができ上がるから「これじゃみんなクリーンばっかりだ」という下見でのライダーのセクション評は、大風呂敷と付されてしまうのがいつものことだった。
しかし今回はさすがにちょっとちがった。第1セクションは14人中10人がクリーンした。第2はちょっとややこしいところがあって、なんとここで小川友幸が1点を失って、オールクリーン勝負から脱落した。第1と第2の二つをクリーンしたのは野崎、黒山健一、小川毅士、そして田中善弘の4人となった。
第3以降はまたクリーン合戦で、1点を取ったら優勝は遠ざかり、しかし1点でおさえていれば上位入賞という戦況になってきた。今回は、第5セクションまでが簡単、第8から最終までは少しむずかしいとされていた。第5までの減点を見ると、野崎と黒山がオールクリーン、小川友幸、小川毅士、柴田暁が1点、田中善弘が5点で続いているという序列だった。5人が1点差の中にいるのは、やはり珍しい展開だ。
それでも8セクション以降、小川毅士と柴田には2点、3点と減点が出て、やはりトップ争いはいつもの3人となった。野崎と黒山がオールクリーンのまま1ラップ目を終え、小川友幸も1点のまま1ラップを走りきった。
2ラップ目は、すでに1度走っているセクションばかりだから、基本的には走り方はわかっている。ますますオールクリーンの可能性は高まる。もし足をつくとしたら、それは油断か不注意か、不慮のハプニングか、ということになる。
2ラップ目、野崎がミスをした。「簡単」といわれていた前半の5つのセクションを終えての第8セクション。わずか1点だったが、今日のセクション構成では、この1点は5点にも匹敵する。
2ラップ目、小川友幸と黒山は8セクションをすべてクリーンした。オールクリーンを維持している黒山が単独トップとなり、小川と野崎が1点で2位争いだ。小川毅士は9点、柴田は18点と、優勝争いからはちょっと遠ざかってしまった。
オールクリーンが黒山一人となって、このまま勝負が決まるかと思った3ラップ目。今度は黒山が第2セクションで1点。これでトップ3人が1点で勝利を争うことになった。
1点ひとつで同点ということは、1点も2点も3点も5点も同数だから、もしもこのまま(SSの減点も同じということだが)ゴールしたら、3ラップの競技時間が短い者の勝利となる。黒山ががぜんペースを上げて、野崎、小川友幸に先んじてトライ、3ラップ目を1点のままゴールした。
3ラップ目。オールクリーンは3人。野崎、小川友幸、そして柴田暁。柴田には残念ながら表彰台の権利は巡ってこなかったが、3人はみな1点。同点同クリーン数で3ラップの戦いを終えた。
そしてSS。SSはさらに難度が高められていたが、それでもトップの3人は、それぞれクリーンをして、順位はそのまま決まるのではないかと読んでいた。つまりゴール時間の差で、トップは黒山、2位に小川友幸、3位に野崎という順番だ。
SSの第1。野本が最後まで上りきるも、テープを切って5点。最初に頂点まで上がったのは柴田だった。そして小川毅士。この二人は3点。続いてトライした野崎は、ラインもばっちり決まってクリーン。
残る二人、黒山が先にトライ(SSのスタート順はこの日のスタート順と同様だ)。黒山らしい正確なトライで最後の登りにかかる。しかし最後の最後で、黒山の左手がハンドルから外れてしまった。万事休す。5点。
最後にトライした小川友幸は、黒山が手を外してしまったポイントで大きくラインを乱し、あわやという体勢になるも、強引にラインを修正してクリーンでSS第1を抜け出した。
黒山の勝利に黄信号がともったが、しかしまだ勝敗の行方はわからない。SS第2は、巨大タイヤとの戦いだった。最後に用意された2m級のタイヤが難関だ。とはいえ、藤原慎也が2点、加賀国光が1点と、攻略は不可能ではない模様。野本佳章、柴田暁、小川毅士も2点で抜けて、いよいよトップ3のクリーン劇が見られそうな状況になってきた。
今年の野崎は、SSで順位で失敗することが少なからずあった。前回中部大会では、SSの失敗で順位も落としている。黒山がSS第1で失敗したから、いまや勝敗は小川友幸と争うことになった。しかしSS第2で失敗し、黒山がクリーンをしたら、3位まで脱落する可能性だってある。すべて、ここの一発で決まる。
はたして野崎は、正確にマシンの向きを定めて、思い切りタイヤに飛びついた。それでもマシンは完全には上りきってくれなかった。滑り落ちるリスクを避けて1回の足つきでマシンを押し上げた野崎。これで、黒山には勝利して2位は確定だ。勝敗の行方は小川友幸のトライ次第となった。
そして黒山のトライ。黒山は、なんとここでも失敗。SS第1での失敗で3位は確定的となっていたが、これで黒山の3位が決まった。
最後の最後のトライとなった小川友幸がSS第2を1点以内だったら、勝利は小川友幸。2点以上なら野崎が今シーズン初勝利だ。野崎同様に正確なマシンコントロールでタイヤの上までマシンを箱んだ小川だったが、しかしわずかにリヤが流れて落下。直後には2点と判定されたが、後輪がセクション外のドラム缶(アシスタントがマシンを支えるために足場として用意されていたものらしい)に落ちてしまった。これは5点だ。ただし2点でも5点でも、結果は同じだった。小川が2点をとったところで、野崎のSUGOでの10年ぶりの勝利が決まった。
2ストロークマシンでの10年ぶりの勝利、SUGOでの10年ぶりの勝利、そして今シーズンの初勝利。1点をめぐる攻防は、総減点2点で、野崎が手中におさめた。今シーズン、3人目の勝者の誕生だ。