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開幕ダッシュはガッチ
2014年3月9日、茨城県桜川市真壁トライアルランドで、全日本選手権が開幕した。
国際Aスーパークラスでは、ゼッケン1をつけたディフェンディングチャンピオン小川友幸が2位黒山健一にダブルスコア以上の大差をつけて勝利。
国際A級は、本多元治がこれも2位吉良祐也(今回からJTGに乗る)にダブルスコアの差をつけて勝利した。
国際B級は、昨年のグランドチャンピオン大会で国際B級の昇格切符を手に入れ、今回がデビュー戦となった久岡孝二が1点差で勝利。2位は久岡とはチームメイトの氏川湧雅が入った。
小川友幸(ガッチ)の圧勝といってもいい試合だった。昨2013年は毎戦毎戦黒山健一との激しいトップ争いを展開、ふたりの実力はとても伯仲しているというのが衆目の一致するところだった。しかし今回、10セクションによる1ラップ目にして、ガッチの2点に対して黒山は14点。さらにタイムオーバー減点か4点もあるという絶望的な点差をつけられてしまっていた。
しかしガッチ本人は、この日の走りは納得がいくものではなかったという。ガッチは1ラップ目に2点、2ラップ目に9点の減点をしているが、その大小ではなく、思った通りのライディングができていなかったという意味らしい。減点をするのはもちろんだが、クリーンをしていてもしっくりとこない感覚だった。乗れていないということかもしれないが、大きな失敗をするわけではない。見ているほうには、ガッチは絶好調に見えた。
1ラップ目、ヤマハ勢の二人を押さえて2位につけたのは、小川毅士だった。毅士は今回から、昨年まで同じチームでライダーとして戦っていた宮崎航にアシスタントを願い、若いチームとして再出発した。
それが功を奏したか、去年までは(去年が悪すぎたという見方もあるが)あっけなく5点となっていたポイントポイントを、今回はしっかり抑えて走れていたように思う。ただし、ガッチ同様に、毅士も自身の評価はそれほど高くない。黒山健一、野崎史高の二人が減点をとりすぎただけ、というわけだ。
結果を見れば、2ラップ目にヤマハ勢二人の追撃をかわすことができず、最後には2位黒山に7点差をつけられてしまった。2ラップ目の黒山と野崎は好調を取り戻したが、奇跡的な好調というほどではない。日本のライダーの技術的には1ラップ目の小川、2ラップ目の黒山、野崎が標準的で、いかにこのレベルの技術を実戦で発揮できるかがテーマとなる。毅士の今シーズン、乞うご期待だ。
野崎史高もまた、なかなか実力を成績に反映できない。今回の痛手は、第3セクションでのエンスト5点だった。それも難度の高いポイントをクリーンして、あと3メートル、二つターンをすればアウトというところまできてのハプニングだった。
この失敗は、マシンの不調でも不運でもなく、ライダーの操作ミスだったと、野崎は言う。操作をまちがえれば、エンストはいつでもどこでも起きるから、それをコントロールできなかったのはライダーの失敗だったということだ。
それでも、2ラップ目の2点は見事だった。1ラップ目にガッチがすでに2点をマークしているし、黒山の2ラップ目は1点だから、特筆すべきリザルトではないかもしれないが、1ラップ目に大量減点をしてからの復調は、今シーズンの野崎に期待できるゆえんとなった。
SSの最終セクション、野崎は5点となった。続いてトライした黒山も5点。もしも野崎がクリーン、いや3点でここを抜け黒山が5点となっていたら、野崎は3位ではなく2位を獲得していた。でもそれは結果論。黒山が5点となるのがわかっていたら、野崎は足をつきながらでもこのセクションをアウトしたにちがいないのだが、SSのスタート順はゼッケンの大きい順だ。野崎は黒山のトライ結果が出る前にトライしなければいけない。なんとしてもクリーンをしなければいけないとトライした結果、野崎は最後のSSで5点となった。
「練習なら、100回やって100回クリーンできる」
と野崎は言う。トライアルとは、そんなむずかしさがある。
2013年のチャンピオンをガッチに奪われて、タイトル奪還、そのための先手必勝で臨んだ黒山健一だったが、この日の黒山は立ち上がりから足が出た。第2セクションで2点、第3で1点。もちろんどちらも難セクションなのだが、ライバルのガッチは第2をクリーンで抜けている。黒山のミスは大きなハンディとなった。
さらに第4では5点。ここもガッチはクリーンで抜けた。この失点が、この日の流れを決めてしまったといっていい。その後黒山は、むずかしいがけっして不可能ではない第7セクションでも5点となった。
黒山は、今回からダンロップユーザーとなっている。ダンロップを使っては、初めての実戦経験となる。それがなんらかの影響を与えているのか。
「ないとはいいませんが、それを承知でいいものを選んだのだから」
と意に介さない。仮に1ラップ目の不本意な減点がタイヤに起因するものだとしたら、2ラップ目のあわやオールクリーンの勢いもまた、タイヤのポテンシャルを証明するものにほかならない。
開幕戦を大差で勝利したガッチ。これまでガッチは3回の全日本チャンピオンとなっているが、二連覇の経験はまだない。ゼッケン1番をつけて参戦した最初のシーズンである2008年には、勝利すら得られなかった。チャンピオンとなっての開幕戦勝利も、今回が初めてだ。
これまでとはちがうガッチのチャンピオンシーズン。黒山がこのままおとなしくしているはずはない。もちろん野崎や毅士もだ。2014年、おもしろくなりそうだ。