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小川友幸開幕2連勝
全日本選手権第2戦近畿大会。奈良県名阪スポーツランドで4月20日に開催。当日はときおり小雨が降る、たいへん寒い気候となったが、IASが8セクション3ラップにSSを2セクション、IAが8セクション3ラップ、IBが10セクション2ラップ、そして今回はかつて国際A級だった55歳以上のライダーによるオープントロフィークラスという承認クラスが新設された。元気な高齢者が増えている現代、若者の育成にはもっともっと力を入れてほしいと願う一方、こういうクラスの充実も必要になってくるのだろう。
大会は小川友幸が強さを発揮して2連勝。開幕戦から連勝を飾るのは、小川自身初めてということだ。そして2位には野崎史高。黒山健一は3位となり、昨シーズンとは異なるシーズン展開となりつつある。
国際A級は藤原慎也がこれも自身初めてとなる優勝を飾った。藤原にとって、そしてオッサにとって、初めての全日本での優勝である。2位は昨年負傷から復帰した小野貴史。3位に岡村将敏とベテラン勢が入った。
国際B級は、1位2位は開幕戦関東大会と同じ顔ぶれ。1位に久岡孝二、2位に氏川優雅。両者が1点差なのも開幕戦と動揺だ。3位はこれも初入賞初表彰台、橋口智彦が入った。
オープントロフィークラスは喜岡修。減点9は国際B級では3位相当。国際A級ライダーの面目躍如というところだった。
第1セクションは、国際A級と同じラインによる、いわば肩慣らし的セクション。IASの面々はいとも軽々とここをクリーンしていく。唯一小川毅士だけ、まさかの1点減点を献上したが、これはまぁご愛嬌みたいなものだ。
次の第2セクションでは、表情がきりっと変わった。ライン1本でそそり立った崖に挑んでいく。次々にたたき落ちていくIASライダーたち。しかしトップライダーには、ここは自信があった。セクションはむずかしくない。それどころか、本当に好調を維持できれば、オールクリーンもけっして不可能ではないと読まれていた。
ここでは野崎史高が早めにトライ。そして見事にクリーンをした。野崎のクリーンは美しかったが、彼らにしてみたら、これもクリーンして当然だったのかもしれない。
しかしその後にトライした小川友幸(ガッチ)5点。登りきったところで、マシンを先へ進められなくなった。5点になったその表情には、しかしまだ笑みがあった。行けて当然のセクションで失敗してしまったのは手痛いところだが、ミスは誰にでも出るものだから、まだまだ挽回のチャンスはいくらでもある。ここを黒山健一は1点で通過した。
第3セクションで野崎が1点をとり、黒山と野崎が同点になった。第3セクションは10人中7つのクリーンが出たセクションだったから、野崎のこの1点はちょっと意外だった。そして第4セクション。岩から崖への飛びつきは去年と同じラインだったが、雨でコンディションが変わっているのか、なかなかの難所になった。それでも田中善弘が3点、小川毅士が2点で抜けているから、攻略不能というセクションではなかったはずだ。
ところがここで野崎、ガッチと登れなかった。野崎は同点トップのアドバンテージを失い、ガッチは序盤にして二ケタの減点を背負うことになった。これは痛い。
最後にトライした黒山はここを1点で抜けた。第2でもここでも、クリーンは出ていないものの、確実に抜けて確実にリードを広げていく。序盤の黒山は、強さがしっかり復活していると思わせた。去年、2013年は小川友幸(ガッチ)と黒山の戦いは、常に大接戦だった。しかしガッチがワークスマシンに乗る前のこの名阪大会では、黒山はガッチに圧勝して開幕リードを飾っている。
しかし黒山のこの第4セクションのラインには、少々の疑惑があった。岩から飛びつくのが設定嬢の意思だったが、岩から降りて地表から崖に飛びつくラインもあった。そこには逆行禁止の黄色いマーカーがあった。岩から降りると、黄色いマーカーから後輪が出てしまう恐れがあって、ガッチは、前輪後輪問わず、黄色いマーカーからのはみ出しは5点であることを確認の上、このラインをあきらめている。黒山もそれを確認した上でこのラインを走った。はたして後輪は黄色いマーカーから出ているのか否か。しかしオブザーバーは、そこでの減点をとらなかった。
これはライバルから疑問の声が出て、主催側としては2ラップ以降は黒山のとったラインでは5点とする旨をライダーに通告したが、肝心の黒山の第4セクションのトライについては、ライバルチームからの抗議を待って判断を下すということになった。もし、勝負が数点差で幕を下ろせば、最後の勝負は抗議の結果で決着がつく可能性もある。
それでも黒山のスコアカードには、この時点では減点2とマークされている。野崎が6点、柴田暁が7点、毅士が8点、ガッチが10点だから、そのリードは固かった。
ところが黒山がおかしくなったのはそこからだ。第5セクション。ここも岩から岩へ飛ぶ設定のポイントがあったのだが、ここで黒山は一度岩から降りて、再び岩に登るラインを選んだ。一度落としてしまったフロントタイヤを、足をついて下に戻すのをきらって、そのままクリーンを狙ってのことだった。しかしその選択は裏目に出た。岩の上で方向転換する際に足を出すライダーはいても、岩飛びで失敗するライダーはいなかった。
ガッチはここを1点、野崎は3点。トップはいまだ黒山で7点、2位に毅士で8点、野崎9点、柴田10点、ガッチ11点と見事な接戦となった。1ラップの半分が終わってガッチが5位。しかしすでにガッチは、がまんのトライアルを始めていた。
第7セクションは、そそり立つ岩盤を登る難所だったが、ガッチ、野崎がクリーン。黒山は1点。毅士と柴田は5点となったので、このあたりから黒山8点、野崎9点、ガッチ11点とトップ3が固まってきた。
黒山の悪夢は、次の第8で5点となったことだ。手が外れ、手首を押さえているように見えた。あとできけば、故障などではなくまったく問題ないということだったが、5点となった事実は残る。これで黒山の減点は13点。ガッチは後半になってクリーン連発だから、黒山はガッチに抜かれて3番手に転落した。
1ラップ目、ガッチに2点差、9点でトップに立った野崎。野崎に4点差をつけられた黒山。4位以降は毅士が21点、柴田が23点と、優勝争いからは少し離された感じ。優勝争いは3ラップで10点台というのが前日の下見での予想だったから、時折雨がぱらつくとはいえ、1ラップ10点そこそこが優勝圏としてはぎりぎりの減点なのだろう。
その2ラップ目、いきなりの第2セクションで(第1セクションは全員クリーンだ)、黒山が5点となった。ファンもライバルチームもびっくりの5点だった。ガッチ、野崎はクリーンだから、黒山だけがさらに後退してしまった。
第3セクションで、またも野崎だけが1点減点をしたあとの第4セクションでは、仕切り直して攻略方法に悩むライダーの姿があった。
ここに登場したのが、次週の世界選手権のために帰国している藤波貴久だった。かつて同じ釜の飯を食った仲間たちが、セクション攻略について悩んでいる。そして先にトライしたのが野崎だった。スタートは野崎が一番早いからだ。しかし野崎は5点。トータル15点と、ガッチの逆転圏内まで減点を広げてしまった。
野崎の次のトライは、これもスタート順どおり黒山。黒山は最初の難所はスムーズにクリアしたものの、出口直前でタイヤをとられて減点を加えた。3点。野崎に対しては2点だけ点差を縮めたが、流れは黒山に向いてこない。
そして最後のガッチは、1回の足つきで難所を通過し、そのままセクションアウト。しかしこの足つきをオブザーバーは2点と採点した。納得はいかないが、減点2でもガッチはここでトップに躍り出た。ガッチ13点、野崎15点、黒山21点。流れが完全にガッチに向きはじめた。
ガッチは第7セクションで1点を失うが、これがこの日のガッチの最後の減点だった。以後、3ラップ目には神がかったライディングで全セクションをクリーン、逆転をもくろむ野崎と黒山の出ばなを完全にくじいてしまった。
3ラップが終わって、しかしまだ野崎には逆転優勝の可能性も残されていた。3ラップ目、野崎と黒山はともに3点でラップを終えた。これが本来あるべき減点なのだろうが、しかしこの日はここに至るまでの準備時間が長すぎた。ガッチ14点に対し、野崎は21点。残る2セクションのSSで、野崎が7点差をひっくり返せれば、野崎の優勝となる。ガッチにすれば、3点と3点でSSを抜ければ、優勝は決まる。黒山は、すでに勝利の権利を失っていた。しかし野崎と黒山は5点差で、2位争いにはまだ逆転のチャンスはあった。
第1セクションは10セクションを小変更したもので、後半の上りがきつくなっているが、トップライダーにとっては充分攻略可能だ。事実、田中善弘が3点となった他、トップ3はそろってクリーン。この時点で、野崎はもうガッチとの7点差をひっくり返せなくなった。ガッチの優勝が事実上決まった。
試合はあと1セクションを残している。これは第8セクションを小変更したものだが、コンクリートブロックへのアプローチがむずかしい2段となっている。それでもトップにとってはこれは行けて当然の設定だ。特に野崎と黒山にとっては、2位争いがかかった大事なセクションだ。もし野崎が5点で黒山がクリーンなら、クリーン数の差で黒山が2位となる。
SSは走行順が決まっている。スタート順だ。それはつまり開幕戦の順位の逆順ということになる。トップ3では、野崎が最初にトライする。なんと、5点だった。これで黒山には、がぜんチャンスができた。次のトライは黒山。しかし黒山もまた、5点だった。
これは誰も攻略することなく、最後のセクションが終了してしまうのかとも心配しつつ、最後のガッチのトライを見守る。ガッチにすれば、この最終セクションが5点でも、すでに勝負は決まっている。無理をしてクリーンをすることもない。でももちろん、自分の勝利は美しく飾りたい。
はたして、ガッチの最後のトライは、実に美しかった。すべてのポイントを完璧にクリアして、終わってみれば野崎にはダブルスコアに近い12点差、黒山にはダブルスコア以上の17点差をつけて開幕2連覇を飾ったのだった。
ランキングではトップガッチが40点、2位は野崎と黒山が分け合ってどちらも32点。まだまだ先は長いが、ガッチの自身初めての2年連続チャンピオンも、夢から現実に大きく近づいた名阪大会だった。