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ヴェルティゴチーム、始動する
1月30日、ヴェルティゴのチームの誕生が発表された。IAS柴田暁、IAS氏川湧雅、IA久岡孝二の3人がライダー、三谷知明が監督、三谷英明が副監督という布陣となる。
今回、日本に届いたのはヴェルティゴ・コンバット・カモ300。3台が到着して、さっそく梱包を解かれてお披露目となった。
ヴェルティゴのエンジンはインジェクション吸入。ホンダRTL、モンテッサCota4RTと異なり、このマシンはインジェクション作動用のバッテリーを持っている。バッテリーは006P型充電池(四角い積層9Vと同じ形状)でごく小さく、走行中は充電される。このバッテリーは、エアクリーナーボックス内に収納されている。
始動には若干の儀式がある。そのままキックペダルを降ろしてもかからない。まずキルスイッチを一度押す。するとインジケーターが点滅する。これが始動OK、インジェクションが作動を始めた合図だ。あとはキックを降ろすだけ。300ccだから、さすがに軽くはないが、きちんと踏み降ろして、ちょっとだけアクセルを開けることで(このへん、ホンダ製インジェクションとは作法がちがう)するりと始動する。
インジェクションのマッピングは、最初から4つ用意されている。マッピング切り替えボタンを押すことで、4つのマッピングが次々に切り替わる。マップ1でボタンを1度押せばマップ2に、2度でマップ3、3通せばマップ4だ。マッピングは、低速がパワフル、高速がパワフル、中速がパワフル、などそれぞれ性格を振ってあるのだが、まずはヴェルティゴ300ccの強力なパワーの印象が最も大きくて、マップの性格のちがいはいまひとつわからなかった。もっともわからないといっているのは素人だけで、ヴェルティゴに乗る3人はこの性格のちがいをきちんと把握していて、今からその使い分けを楽しみにしているふうだった。
操安性は素直。カタログスペック66kgの軽量マシンだが、どちらかというと軽い印象よりもしっとりした感じが強くて、ターンがしやすい好印象。操縦性としては、誰にでも乗れる親しみやすさを持っている。
エンジンの上、通常の燃料タンクの位置にはエアクリーナーボックスがある。2015年モデルまでのシェルコと同様で、容量が大きいのと空気の流れが直進的なので、エンジン特性には有利となる。それがゆえなのかどうか、エンジンパワーは強力だ。
この日はお店の前に擬似パドックをつくって、3台のうち1台を走らせてみたのだが、直線でひと開けした柴田が興奮して戻ってきて言うには「4速でまくれそうになった」。クラッチを使わずにアクセルを開けるだけでふわーっとフロントが浮いてきて、そこからさらにぐいぐいとフロントを持ち上げるパワーがわき出てくる。それを聞いた素人たちは(私だけですが)、ちょっとフロントがあがるくらいのところでそれ以上開けられなくなった。そのあたりでも、充分すぎるパワーを実感する。
スペインで量産試作車が披露されたときの印象では、エンジン特性はおとなしめ、ということだったので、その後マップのセッティングが変えられたのかもしれない。もう少し扱いやすい特性の方が乗りやすそうだが、マップの切り替えやセッティングの変更でどうにでもなるだろうから、第一印象のインパクトはパワフルなほうが印象的かもしれない。実際、素人から玄人まで、乗った全員がそのパワーにびっくりポンだった。



左)インジケーター部。水温警告、マップ切り替えボタン、マップインジケーターと並ぶ。/真ん中)エアクリーナー部分。すぐ後ろに給油キャップがしる。/右)セッティングツールを接続してインジェクションのセッティングをすることができる(写真はクリックすると大きくなります)。
そうそう。量産試作車と異なっている点といえば、タイヤがある。今回入荷したマシンには、ダンロップD803GPが装着されていた。先に発表になった2016年型シェルコもダンロップを装着していたが、日本で(小川友幸らが)開発したタイヤが、全世界のトライアルライダーに愛用される日も、そんなに遠くないかもしれない。
ミッションは6速。変速タッチはややかたい。まったくの新車だからということと、ポールラチェット式シフターの特性ではということだが、ライディング中にはシフトがかたい印象は受けないから、あえてニュートラルに入りにくくしている安全対策も効いているのかもしれない。
クラッチは、ガスガスやオッサ、JTGと同様のダイヤフラム式だが、134mmというクラッチ径は群を抜いている。さらに精度がいいこともピカイチで、ギヤが入っている状態でもクラッチを握ればするするマシンが動く。クラッチとは本来そういうものなのだろうが、ひきずるクラッチがあたりまえみたいになっている欧州トライアルマシン事情を思うと、このクラッチは秀逸だ(どのクラッチもていねいに精度を出せば切れのよいクラッチになるのだが、なかなかたいへん。工場出荷時からその状態が出ているのはすごい。とはいえ、ヴェルティゴも3台はちょっとずつ切れ味がちがったから、多少の個体差はありそうだ)。
燃料タンクは2.71リットルという公称値。こちらはシェルコの前モデルと異なり、リヤサスペンション周辺にタンクが収納されている。マシンの中心部にタンクを配置することで、重量配分的には有利となっているのではないだろうか。
燃料補給は、シート部分というかリヤフェンダーの付け根というか(燃料タンク後部でもないし)、横から見たときのシルエットで一番低くなっているところにあるふたを開けておこなう。
現状では、輸入元であるミタニでも、マシンの詳細についてはこれから現車を研究しておこなうことになるということで、メーカーからの公式アナウンスなどはあまりない状態だというが、第一印象として、マシンの基本的造作はしっかりしていて、手間とコストがかかっている印象は強い。
3台のマシンは、そのままライダーには渡らず、まずは試乗車として全国のトライアル場にでかけていくことになる。全日本開幕に向けて、少しでも早く乗り込みを始めたいところだろうが、今はまだマシンが届いたばかりで、スペアパーツなどもなにもないので、乗り込みはそれが届いてからになるという。
ヴェルティゴ乗り換えについて、大きな期待とともに不安を口にするのは柴田。柴田の場合、この10年、一貫してホンダ4ストロークに乗ってきた。未知のヴェルティゴの乗り味への不安というより、4ストロークから2ストロークへの乗り換えが心配のようだ。なので現在は、母上用のガスガスを280ccにして、それで2ストロークの訓練をしているという(ちなみに柴田母も元NAライダーである)。
いっぽう、若い氏川と久岡は、乗り換えの不安をほとんど口にしない。それよりも新しいマシンでの戦いに胸をふくらませている感じ。彼らはオートバイに乗り換えてからはずっとガスガスに乗ってきて、しかも1年ちょっとで80cc、125cc、280ccと乗り換えてきたから、マシンの変化もなんのその、なのかもしれない。それよりも、氏川の場合はIASの戦いに慣れることが重要な要素で、久岡の場合は去年やり残したIAでのトップ争いをやりとげることが大きな目標となる。
2015年の世界選手権では、ダビルの調子がイマイチだった。日本GPで見たヴェルティゴは、こもったような排気音を響かせていた。印象としては上が回らず高さのあるポイントで苦戦をしている感じだったのだが、今回実車を走らせてみて、その点をピント外れ、という結論に至っている。ダビルの不調の真相は不明なれど、ファハルドはXトライアルで自分のポジションをしっかりキープしている。4速からまくれそうになるほどのパワーは実感できたから、伸びないということはない。2ストロークのインジェクションという特殊性と、排気系も斬新だから、今までの尺度で排気音を判断してはいけない、ということらしい。
4つのマッピングが用意されているので、さらなるセッティングは必要なさそうだが、ミタニではセッティングツールもマシンといっしょに導入して、研究を始めている。なんでもセッティングツールを頼んだら、ツールがセットされたパソコンが送られてきたそうだ(ずいぶん高かったのはパソコン込みだったからだった!)。
シフトシャフトの下側にはセンサーらしきものがあって、どうやら各ギヤごとのセッティングが可能なのでは、という。あんまり深入りをするとわけがわからなくなりそうだが、すでにRTLのインジェクションで実績のあるミタニのこと、2ストロークのインジェクションのセッティングもいいものをまとめてくれるにちがいない。



左)チェンジペダル部分。すぐ下に、センサーらしきものが見える。/中)リンク。出っ張りはほとんどない。/右)ラジエターへの給水はこんな小さなところからおこなう。ジョッキでの給水は無理っぽい。(写真はクリックすると大きくなります)
ヴェルティゴ・コンバット・コモ・ワークス300(長い!)。お値段は税抜き105万円。100万円を超える高額マシンとなったが、仕様と工作精度はそれだけの価値ありの1台。すぐに所有欲を満たすか、全日本での活躍を待ってヴェルティゴ仲間になるか、そこが問題だ。