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小川友幸の1勝で2016年が開幕
小川友幸が、幸先のいい一勝をあげた。1点をめぐる攻防の末、1点差の2位で12セクション2ラップを終了、SS第1をクリーンして逆転、そのままSS第2もクリーンして逃げ切った勝利だった。
2013年から連覇を続けている小川にとって、2016年は4連覇へのチャレンジ、そして今年は、小川自身が40歳を迎えるシーズンでもある。40歳の全日本IASチャンピオンはもちろん新記録。大きな記録に向かって、しかし小川自身はまだまだ自分自身の進化を感じている。
2位は黒山健一。マシンを大幅にモディファイし、スコルパTWENTYのスイングアームを使ってリンクサスとした2016年仕様のマシンはこれまでに増して好感触だが、小川友幸にはわずか2点届かなかった。
結果、ゼッケン順の3位となったのは野崎史高。野崎のマシンは昨年同様だが、今年はスコルパのブランドで走っている。前半、黒山、小川と相次いで5点となるのを尻目にクリーンを続け、トップを快走していたが、ふたつの5点でポジションを落としてしまった。優勝まで7点、2位まで5点。しかし黒山同様、走りの内容は悪くなかったということで、早く次の1勝がほしい野崎だ。ただ野崎にとって、真壁はあまり相性のいい会場ではない。それを考えると、この日の走りっぷりは悪くなかったようだ。
4位は、これもゼッケン順の小川毅士。トップとはダブルスコア以上の点差となってしまったから、勝利を目指す小川としては、ちょっとくやしい結果となった。
5位は小川毅士とチームメイトの田中善弘。小川友幸と同年代ながら、豪快なライディングスタイルが注目を集めている。小川毅士には離されたが、柴田暁には4点差でこのポジションを得た。
柴田暁は、今年からヴェルティゴを駆る。アイデア満載のニューマシンだが、柴田にとっては10年ぶりの2ストロークマシンでのトライアルに不安があった。ただし今回は、IAクラスと共通のセクションで12点を失った結果がそのまま現れての6位となった。
その柴田に2点差、惜しいところで7位に甘んじたのは野本佳章。SS第1(のセクションインわずかに手前)ではバックフリップも披露した。今シーズンの野本の成長が楽しみだ。8位は昨年IAチャンピオンとなってIAS入りをしてきた岡村将敏。40歳にしてのIAS返り咲きながら、きっちりとIASセクションを走破する実力を見せた。1ラップ目の6位から順位を落として9位となった加賀国光は、新しいシェルコの実力を実感している。加賀も、今後の活躍ののびが楽しみだ。10位は吉良祐哉。2年目のIAS。厳しいIASセクションを確実に攻略していく様子が楽しみだ。ポイントを獲得したのは10位の吉良までとなった。
今シーズンは16名が参加で、ポイント獲得レースは昨年にまして厳しいものとなった。わずか1点差でポイント獲得レースに敗れ11位となったのが成田亮。2ラップ目に追い上げたものの、届かなかった。斎藤晶夫、砂田真彦が12位、13位と続き、若きルーキー氏川湧雅が14位。IASセクションは厳しく、ぜんぜん走れず終わった、という感想だった。独自の活動を展開する藤原慎也は15位、3人目のルーキーの武井誠也が16位という結果だった。
セクションは緩急があって、毎年開催している会場なのに、新鮮な印象が強いという意見が多かった。150台に近い参加者を集め、極力渋滞なく走らせるため、コースは最大限に長くとられていた。ていねいにつくられたセクションとコースは、ライダーからも高評価だった。第1から第2、第3から第4までの観客移動が少し距離があったのと、プログラムにセクション配置図がなく、しかもシャトルバスで案内されたお客さんは本部ではなく12セクション前に案内されてしまうので、会場の様子がわからないまま観戦しなければいけなかった模様で、それがちょっと残念なところだった。
小川友幸の勝利は、苦戦の末に勝ち取ったものだった。最初の難所は第4セクションだった。黒山が5点となったここを1点で切り抜けた小川だったが、次の第5セクションでは5点となった。第5セクションは、結局クリーンが出なかった唯一のセクションとなった。この間、第4をクリーン、第5を3点で抜けた野崎が、試合のリーダーとなっていた。
その後、第8セクションで小川は再び5点となる。第8は、黒山が1点、野崎が2点で抜けているから、この5点は少々意外。それでも小川は、2個の5点とひとつの1点のみで1ラップを走りきって11点。黒山もまた、1ラップ目の減点は11点だった。野崎は第9で5点となり、さらに最終12セクションで3点となってトップの座を小川に譲って3位で2ラップ目に入った。しかしこの時点では、小川と野崎の点差は、わずか2点だった。
2ラップ目、トップ勢は12セクションをオールクリーンする勢いでトライを進めていく。2ラップ目の黒山には、5点も3点も2点もなく、鬼門の第5セクションもあと一歩でクリーンという素晴らしい走りを見せた。対して小川は、第5で2点をとったのみで、10セクションまでをクリーンし続けた。2ラップ目10セクションを終えた時点で、小川の総減点は13点、黒山は15点と、わずかながら小川がリードを持っていた。野崎はこの時点で22点だったから、勝利の可能性も残っているものの、逆転はちょっと厳しい戦況だ。
ところが11セクションと12セクションのふたつで、小川は3点を失ってしまった。特に11セクションは、IBからIASまでが共通ラインを走るセクションだ。この3点の失点で、小川のリードは一気に白紙となり、逆に黒山が1点リードで12セクション2ラップの戦いを終えることになった。残るはふたつのSS。
SSは、可能性などあるのか、というそそり立つヒルクライムセクションだったが、トップライダーには可能性が見えていたようだ。とはいえ、ちょっとした失敗で登りきれずに5点になってしまうものでもあり、油断はできない。つまりまだまだ逆転劇はありえるということだ。
SS第1は、小川毅士が初めて登頂に成功した。毅士3点、野崎1点。こうなると黒山と小川友幸にはクリーンの期待がかかってくる。インでまず壁を上り、一度降りて大岩に飛びつき、そこからヒルクライムに挑む。ヒルクライムは途中が段になっていて、そこで止まるか一気にいくかの判断がむずかしいところとなった。段差をなるべくなめるようにクリアして、スムーズに加速して最後の絶壁に挑むのが多くのライダーがチョイスした作戦だったが、しかし黒山は段差を登ったところでマシンを止めた。そのまま登るのに不安を感じたからだ。一度止まって、それでも登りきれるところはさすがに黒山だったが、しかしスコアは3点となった。わずか、勢いが足りなかった。
そして小川友幸。小川は完璧だった。段差をスムーズにクリアし、再加速もロスはわずか。見事、ただ一人クリーン。1点のビハインドは、逆に2点リードとなった。残るはSS第2、ただひとつ。
SS第2は、以前からSSとして使われているヒルクライムではあるが、出口が規制され、さらに最後に左ターンをしなければいけない設定で、難度は高い。それでも砂田真彦が3点で抜け、走破するライダーが続出するようになり、野本佳章が1点で抜けると、ここもトップライダーのクリーンへの期待が高まってきた。
野本のあと、田中善弘、柴田暁、そして小川毅士が次々に1点で抜ける。優勝はなくなったが、2位の可能性が残っている野崎は、セクションを完全に読み切ってクリーン。完璧だった。
つづく黒山は、小川の結果次第ではまだ優勝のチャンスもあるのだが、しかし失敗すれば野崎に2位の座を奪われる恐れもあった。実際、SS第1では3点となってしまっているから、まったく油断ができない。しかし黒山は、野崎同様、まったくすきのない完璧な走りでクリーン。2位以上の結果を決めて、小川のトライを見守ることになった。
2点差で、クリーン数では小川が優位に立っているので、小川が勝利をするには、SS第2を2点以内で抜ければいいことになる。しかし小川は、ここはクリーンか5点か、だと考えていた。つまり勝利を得るには、クリーン必須ということだ。
正確なライディングがいまひとつできなかった序盤の小川に対し、SSでの小川は見事のひとことだった。クリーン。SSでの大逆転で、小川友幸の開幕戦勝利が決まった。
去年の開幕戦では、勝利をとり逃している小川。今年は幸先がいい。しかし開幕をとってタイトルをとれなかった黒山は、去年の小川同様、第2戦から勝ち続けてタイトルをとりにいく構えだ。2016年も、このふたりのタイトル争いは厳しいものとなるにちがいない。
崩れる傾向の天気予報ではあったが、最後まで曇り空のまま、雨に降られずにスケジュールが終了できたのはラッキーだった。しかし3月中旬の真壁トライアルランドは、例年通り、雪こそ降らないけれど、寒い。気温が低く、つるつるに滑る岩はトライアルの醍醐味としても、お客さんにはもう少しだけあたたかい条件でトライアルを楽しんでほしいと思う。世界選手権でトライアルに出会って、次は全日本も見てみたいと思う新しいトライアルファンを、今のスケジュールではみすみす手放しているとしか思えない。
レディースクラスの新設やBSでの放送など、トライアルの盛り上がりが期待される今シーズン、選手はいいトライをしているのだから、机の上で調整ができる人たちにも、いいお仕事を期待したい。