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日本トライアルもノーストップ?
2012年、FIMは世界選手権の採点ルールをノンストップにすることを決めた。トライアルは走り続けるべし。止まったら失敗、というルールだ。
これに対し、日本でもノンストップルールの採用が検討されている。はたして、日本のトライアルルールは、ノンストップになるのだろうか。
トライアルのルール変更は、MFJが招集するトライアル委員会で決定される。トライアル委員会はつい先ごろ開かれたばかりだが、なんらかのアナウンスがあるまでにはもう少し時間がかかりそうだ。その決定が、ノンストップルール採用なのかそうでないのか。もしノンストップになるとしたら、それがいつからなのかは、まだわからない。
当初、FIMはノンストップルールの採用を、3年間の実験期間とするとしていた。実験がいきなり世界選手権というのもすごい思いきりだが、注目をあびるところで実験をした方が、反響が大きいということかもしれない。本家が実験中なら、MFJほか各国団体はその結果を見てからでも遅くない気もするが、新しい流れは早く採用したほうがいいという考え方もあるだろう。
FIMトライアル委員長のティエリー・ミショーさん(フランス人・3度の世界チャンピオン)は、世界GPにはもちろん来日して大会を見守るが、ミショーさんはノンストップルールを広く普及したい代表格だ。
ノンストップルールというが、ざっとエディ・ルジャーン以前のトライアルには、そういう発想はなかった。セクションの中で停止するなんて、考え方としてもマシン性能としてもテクニックとしても、方向ちがいだったにちがいない。その後、ジョルディ・タレスが止まって飛び跳ねながら走るトライアルを世界のトップに押し上げ、トニー・ボウの圧倒的強さに至っている。
一方トライアル本来の、あるいは旧来のノンストップ式トライアルを守っているのはイギリスだ。SSDTがずいぶん前からノンストップルールを採用し、今では国内選手権もノンストップルールだ。日本でも、イーハトーブトライアルはノンストップルールで開催されている。
ノンストップルールのそのものに対して、ライダーの反応は賛否両論。イギリス人には違和感はないし、藤波貴久もノンストップルールでのトライアルには肯定的な感想を語っている。流れのとぎれないトライアルは、走っているほうも気持ちがいいのだろう。
対して、アダム・ラガはこのルールがお気に召さない。ラガ自身の走りのスタイルもあるのかもしれないが、理由としているのは採点だ。
「トライアルは、オブザーバーの採点と勝負をしているのではない」
と、ラガはぼやく。ライバルと技術を競ったり、難攻不落の地形と勝負するのではなく、オブザーバーの採点のくせをつかむのがトライアルの勝負の鍵を握るのはおかしいというのがラガの主張だ。採点に対する、いわば不信感はどんなルールでもあるものだが、停止を1点と定めた10数年前の時代には、この不信感がどんどん大きくなって、変わってセクションの走破タイムを設定するという現在のルールとなっていった。停止1点でももめるのに、停止5点になったらどうなるのだという思いは、ラガならずとも誰でも思う心配事だ。
もっともラガはオブザーバーの採点傾向を盗むのがじょうずで、ぎりぎりで減点をとられない走りをする。ラガが採点に不満をもらすときは、この読みに反する採点をされたときで、ラガの走りが減点対象かどうかという問題とはちがうだろうと思わせるシーンは多い。しかしそれでも、採点のむずかしさについては一抹の不安はある。
一方トニー・ボウも、ノンストップルールにはあまり賛成ではない。もともとこの数年のFIMのルール変更は、ボウいじめというべき背景がある。ボウがあんまり強いから、いろんなライダーが勝てるようにしたという理由づけである。スタート順を逆にしたのも勝者にハンディを与えるため、今年ボウが苦戦しているのは、ノンストップルールの賜物だとしたら、FIM的にはしてやったりなのかもしれない。
ストップが許されるトライアルは、極論をいえばやり直しができるトライアル。試走ができない、本番一回限りを潔しとするトライアルの本流からすると、止まって後輪を振り前輪を振り、位置を調整して次のポイントへ向かうトライアルは、正しくないトライアルなのかもしれない。
しかし世の中には、止まれないライダーも少なくない。ぴたり停止してマシンの位置を調整するテクニックを持ち合わせないから、流れのままにマシンを走らせる、昔ながらのライダーたち。こういった昔気質のライダーには復権のチャンスがあるかもしれないし、足をつきながら要所要所で止まりながらマシンを進めていた修業中ライダーにとっては、走り続けることで見えてくるものもあるかもしれない。
さて日本でのノンストップルール。早ければ2015年シーズンからという可能性も考えられたが、今の時点で発表がないということは、それはまずなさそう。とすると2016年からか。このルールは、トライアル全体に対する影響を考えてのことだから、採用となるなら、全日本だけということではなく、地方選手権も含め、MFJトライアルルールの変更となるにちがいない。
ルール変更に対する準備をするかしないかはそれぞれの判断。しかし少なくとも、ふだんの練習に「止まらない」という制限を加えることで得るものは少なくないはずだ。