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ベータEVO 4T
09年モデルで、最も注目を集めるべきマシンといったら、ベータEVOをおいてほかにない。限界までフレームを軽量化して、今までのオートバイというイメージから完全に脱皮した未来的フォルム。近年は、安定感や丈夫さとひきかえに、重量級の評を甘んじて受けていたベータが、その評価をもひっくりかえさんとする意欲作だ。
この、天下一品にスリムなEVOが最初に世の人々の前に姿を現したのは9月の世界選手権最終戦でのことだった。あのときのEVOは、実はブレーキもハリボテで、ひょっとしたらピストンも入ってないんじゃないかという状態だった。
でもまぁ、ヨーロッパのメーカーには、こういうのはよくあることで、というより、日本のメーカーなら、こういうハリボテを作ったときには徹底的にそれがばれないようにするもんだけど、ヨーロッパでは「これ、今乗せてもらうことはできないのか?」「乗せてあげたいけど、ほら、ブレーキだってこんな状態なんだぜ」「あー、それじゃだめだね」なんていう、いたって説得力ある説明を受けちゃったりする。
2ストロークのEVOが日本で試乗可能になったのは、スペインでの発表から2ヶ月ほどたった頃だった。この素早さは、ベータの伝統的お家芸ともいえる。素早い。前作REV-3のときも、プロトタイプがちらりと姿を見せたと思ったら、次にはもう市販されてみんなが乗っている。日本のメーカーだったら、念には念を入れてテストを繰り返した後に出荷が始まるが、国民性のちがいというかメーカーポリシーのちがいなのか、とにかくちがう。
11月に、日本に最初の2ストロークEVOが上陸したときには、4ストロークの日本入荷は1月末か2月になってからということだったが、まさかそのとおりのスケジュールで日本に入ってくるとは思わなかった。予定通りに事が進むとびっくりしてしまうというのは、ちょっとトライアル畑に長居しすぎて、ヨーロッパの人たちのスケジュール感覚が身についてしまったのかもしれない(苦笑)。
もともと、4ストロークモデルとて、2ストロークと同じく開発されたモデルだ。同じフレームを使い、すでにそれなりに実績を持っている4ストロークエンジンを搭載するのだから、それほど未知数は大きくない。
4ストロークモデルには250と300がある。一般ユーザ向けの250と、よりパワーの必要な選手権に参戦する人向けの大排気量モデルだ。今回は250と、来るシーズンに向けてニューマシンで練習を重ねる永久保恭平選手のマシンにちょっと乗せてもらうことができた。
EVOは、その圧倒的な軽量をアピールする外観からすると、軽さを感じさせない操縦性をもっている。もともとベータの操縦性は、正確な機械工作技術を感じさせるかっちりしたもので、どちらかというえば安定感の方が勝っている。軽い重たいは数字上のものが大きいけれども、ライダーが感じる軽さ重さは、実際の重量とは必ずしも一致しないことが多い。試乗車に軽い!と驚きの声を上げさせたかったら、軽さをアピールするマシン作りの道はある。でもそれが、乗りやすく戦闘力のあるマシンかどうかは、別の話だ。
ベータEVOは、その点、ベータが考える理想の重さ軽さを、伝統の操縦性によく生かしている。
基本的には、EVOの4ストロークはREV-3の4ストロークと同じものだが、その排気音の静けさは圧倒的だ。あまりに静かでメカニカルノイズの方が気になるほど。これなら、選手権の車検はもちろん、厳しい騒音規制にもパスしてしまうのではないかというくらいに静かだ。
反面、あまりに静かなので、パワフルな印象は少ない。排気音がうるさければパワーが出るというものではないが、感覚的には、もうちょっと音量があってもいいかもしれない。
もちろん、この印象は、ウルトラスムーズな出力特性ゆえのものでもある。SY250Fや2ストロークエンジンのように、高回転で突然パワーが出るものでなし、RTLのように低回転のパワーがありあまっている感じもない。アクセルを開けただけ前に出るという点では、このエンジンの右に出るものはないのではないか。
この特性は、250ccも300ccも共通したもので、300ccとはいえ、暴力的なパワーを発揮する印象ではない。
元気のいいマシンを求める若手ライダーにとっては、ちょっと物足りないインプレッションとなるかもしれないEVO 4Tだが、多くの一般ライダーには、ぜひ一度、このフラットでスムーズなベータ4ストロークを体験してみてほしい。
なお、同時に2ストロークの125ccも日本に入ってきた。REV-3の125ccは、これが125ccかとおもうほどに低速トルクがあったが、EVOではもう少し高回転型にシフトされているようで、125ccらしい低速域となっていた。それでもトルクたっぷりのベータ125の存在感はあいかわらずだ。