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黒山健一、約1年ぶりに王道勝利
黒山健一が、全日本選手権第4戦中国大会で勝利した。2位小川友幸に13点差、強い黒山らしい見事な勝利だった。
開幕2連勝を飾った小川友幸に対し、これで一矢報いて1勝2敗。チャンピオン争いは3点差で黒山が小川を追う展開。中判から終盤にかけて、タイトル争いがしれつになり、目が離せない予感だ。
昼から雨が降るかもしれないという予報の鳥取県鳥取市鹿野のHIROスポーツランド。大きな岩、滑る斜面、トライアルのトライアルらしい魅力が満載の会場で、全クラスともに難易度は高めだった。
第3セクションまでをオールクリーンした小川友幸(以下ガッチ)と小川毅士(以下毅士)に対し、黒山は第2セクションで足が出て、ちょっと幸先が悪い出だし。それでもこの日の黒山は、勝利に対する執念が全身に漂う気合いの入り方で、弱みをまったく見せない。
対してガッチは、4セクション以降、ちょんちょんと足が出て、10セクションまで7セクション連続でクリーンなし。ちょっと雲行きが怪しい。
第7セクションで黒山、ガッチと二人そろってタイムオーバーで5点となり(ここは野崎史高が唯一3点で抜けている難セクションだった)、第8セクションでは滑る岩の攻略がむずかしく、ガッチの3点に対し、黒山は5点になった。そして迎えた第9セクションで、ちょっとした採点ハプニングがあった。トライ中にアシスタントの黒山二郎がゲートを蹴飛ばしてしまい修正が必要になったのだ。
今の全日本、アシスタントがセクションに手を加えるなどは厳格に禁止されている。置き石や地ならしなど、イエローカードの対象となって5点の追加ペナルティとなるきまりだ。今回のケースでは、故意ではなかったのは状況から明らかなのだが、オブザーバーはその判断に困ったらしく、とりあえず5点とパンチして本部に判断を預けることにしたようだ。黒山としては納得できないまま、5点のパンチをもらって先へ進んだ。これが5点ならトップをガッチに譲らなければいけないし、気分は落ち込む。しかし黒山は意に介さず、残る9セクション以降をすべてクリーンして、1ラップ目を終了した。この日の黒山の強さをかいま見た気がする。なお件の5点は、アシスタントの不正行為とはちがい、ペナルティの対象とはならないということで、スコアは5点からクリーンに、黒山のリードは結果としては揺るぎなかった。
2ラップ目、黒山が演じる勝利への仕上げは完璧だった。つるつるに滑る斜めの岩が鬼門となった第4セクションと第8セクションをそれぞれ3点でまとめて、他は1点二つというベストに近い走りっぷりだった。
しかしこのスコアは、必ずしもベストを狙ったものではなかった。5点となるのを避けて、自分から足をつきにいった結果が、このベストラップだったという。それはもちろん、このところ遠ざかっている、優勝の結果を得るためだ。
勝てなくなってしまい、迷路に迷い込んでしまったのかのような昨年後半からここまでの黒山。11回の全日本チャンピオン、世界選手権で4度の優勝経験を持つ最強の全日本ライダー。その黒山が勝利から逃げられているのは、ほんの少しのアンラッキーの積み重ねだった。今シーズンの開幕線では、最後の最後までトップを守りながら、SSでのワンミスで勝利を逃している。逆転負けは、このところの黒山のパターンになってしまっている。
ガッチのファクトリーRTLに対し、市販TYSベースのマシンでは不利がすぎるのではないかという声もある。しかしその組み合わせでガッチに対して負け知らずだった時代だってある。敗因がどこにあるのかを特定するのは、むずかしい。ガッチに対して黒山が優位に立つのは、ヤマハファクトリーの強いバックアップがあるところだ。今シーズン、ヤマハは黒山のマシンに大きく手を入れ、リヤサスをリンク装備としてきた。性能向上はもちろんだが、悩める黒山が、長いトンネルの出口を見つける一助になればというチームの思いも込められていた。
この日の黒山は、いつにも増して気合いの入った取り組みを見せ、勝利への方程式を一つずつ確実にこなしていった。滑る第8セクションを3点で抜けた黒山は、以後の4セクションをすべてクリーンして、12セクション2ラップを走り終えた。
この間、ガッチは第4、第8を1点で抜け、ポイントポイントでは黒山を上回る素晴らしいトライを見せたりもしていたが、どうも細かい減点が多く、追撃はままならない。
2ラップを終えてみると、黒山とガッチにはちょうど10点の点差があった。これからSSがふたつあるも、その両方で黒山が5点、ガッチがクリーンとしても、両者にはこの時点で5つのクリーン数差がある。すでに勝負はあった。残るSSを無事に走れば、黒山健一の久々の勝利が確定する。
SSは、ちょうど降り始めた雨の影響を受けて、いきなり難易度を増していた。SS第1は最後の岩登りを誰も克服できず、全員が5点。その手前の岩飛びのこなしなど、ギャラリーが沸く設定だったので、全員5点でもガッカリ感は少なかったが、それでも誰も出られないというのはちょっとさびしい。
最後の最後のSS第2。第3セクションを作り直したものだが、はるかにトリッキーになっている。コンディションも第3セクションとして走ったときよりはるかに厳しくなっているから、ここを抜けるのはSS第1にましてむずかしいのではないかと思われた。
はたしてことごとく5点。飛び出すようにしかけられている棒状のコンクリートブロックに、斜めに飛び移るポイントが最大の難所だ。5点連発の中、気を吐いたのはSS男、柴田暁だった。柴田はこの日の滑り出しを5点の連続として、田中善弘に次ぐ6位でSSに臨んでいた。柴田は実にうまいことブロックの端にフロントタイヤを引っかけてここをクリア。減点3点でSS第2を走破した初めてのライダーとなった。
ところがこの後、小川毅士、野崎史高と5点。そして黒山のトライ順だ。黒山は、コンクリートブロックに斜めに飛び移るラインではなく、真横から狙いを定めた。
「イチかバチか、のトライ」
と黒山はいう。すでに勝利は決まっているから、5点になって困ることはあまりない。そして横から攻めた黒山は、見事にブロックの上で向きを変えて、ここを走破。減点は2点だった。
最後のトライとなったガッチは、この黒山のラインを行くかと思いきや、高いリスクのそのラインは選ばなかった。他のみんなと同じラインでマシンを進め、それでも絶妙のマシンコントロールを見せながら、やはり5点。
最後は13点差での、黒山の勝利だった。黒山が勝利したのは、昨年の北海道大会以来。7月の北海道大会は第4戦、今回の中国大会は実質3戦目だがタイトルは第4戦。黒山の勝利は、ざっとほぼ1年ぶり、ということになる。
3戦1勝2敗。黒山はまだガッチに3点のリードを許しているが、3戦を終えた時点での3点差はまだあってないに等しい。ようやく勝てた黒山は、2016年タイトルの行方も実質振り出しに戻した。
7月の2連戦、九州と北海道が、今シーズンの行く手の鍵を握る重要な戦いとなりそうだ。