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強い黒山健一、復活の原瀧山
2014年9月7日、全日本選手権第5戦中国大会は、5年ぶりに岡山県高梁市原瀧山トライアルパークへやってきた。そして勝利をしたのは、昨年中部大会以来苦しい戦いを続けていた黒山健一だった。
前日夕方の激しい雨で、コースコンディションは一変、セクション設定を変更して臨んだ当日だったが、セクションはもちろんだが、1周してくるのも厳しいサバイバルなコンディション。それでも時間が経つごとに路面は乾いてきて、コンディションの変化を読むのもポイントとなった。
初の全日本2連覇に向けて順調に戦い進んでいる小川友幸は、黒山に4点差の2位に甘んじた。
3位は小川毅士がはいって九州大会に次いで2度目の表彰台獲得。1ラップ目にトップだった野崎史高は2ラップ目に調子を崩して4位まで後退した。
タイトル争いは小川友幸が黒山健一に12点リード。勝負は最後の最後までわからないとはいいながら、黒山が2連勝、小川友幸が連続3位入賞なら小川の2連覇達成というポイント差だから、小川友幸にはかなり有利な展開だ。
ここまで5戦を戦って、小川友幸3勝、黒山と野崎が1勝ずつ。黒山と野崎は、同時に1回ずつの4位があって、小川友幸を追いきれない要因となっている。
第1セクション、入口の国際A級とも共通のポイントで前輪を落としてしまい、あげくにくいを倒してしまって5点となった黒山。開幕戦から続く不調からは、まだ立ち直れていないのではないかと、だれしもが思ったのではないだろうか。実は黒山自身も、そういった不安と戦っていた。続く第2セクションも5点、つまり、この時点では最下位だ。
第3セクションで3点となり、さらに第4セクションでは全ライダー中唯一となる3点で走破。このあたりから、少しずつ黒山らしさが復活してきた。トップを走るのは小川友幸ではなく、野崎史高。みなが5点となるところを確実に抜けてくる走破力が、この日の野崎の強みとなっていた。
勝負の前半のポイントは、第5セクションだったのではないだろうか。つるつるに滑る斜面からの大岩。黒山が中央突破でこの岩を攻略した。1点。小川友幸は左から攻めて失敗。野崎は右から攻めて攻略成功。黒山と同じく1点だった。この時点で黒山は、トップ野崎に5点差まで迫っていた。
5年前、野崎はこの原瀧山で優勝している。野崎がここで勝利して、チャンピオン争いは小川に挑む野崎という図式になるのか。その場合、黒山が2位に入れば、野崎と小川のポイント差は5点差まで縮まることになる。
第6から第8までは、勝負は動かなかった。第6はトップグループは全員クリーン、第7は前日の大雨でコース移動に苦労が過ぎるということでキャンセルとなり、第8は全員が5点だった。
そして第9セクション。黒山は大岩の直登を避けて回り込むラインで、ゲートマーカーにタイヤを接触させてしまった。5点。野崎と小川はここを2点で通過していたので、黒山と小川の戦いは、再び小川が2位に出た。黒山とすれば痛恨の5点だったが、しかし小川は小川で、ライバルが5点を取った好機に2点減点だったことが悔やまれていた。
10セクションからは、日当たりのよい岩場のセクションとなる。このエリアでは、クリーンが多かった。結果を見ると、1ラップ目の10セクションから12セクションでは、黒山、小川友幸、小川毅士、野本佳章が3連発クリーンを果たしている。
野崎は、11セクションでラインをわずかに外して5点となっていた。しかしこれでもまだ、野崎にはリードが残っていた。野崎が1点差でトップ、小川友幸が2位、2位と2点差で黒山健一、さらに5点差で小川毅士という序列で1ラップ目が終わっている。
2ラップ目の第1セクション。黒山はここを当然のようにクリーンした。続く第2セクション、1ラップ目には野崎一人が3点で抜けたセクションだが、今度は黒山だけがここをクリーンした。表彰式でマイクを向けられた小川友幸が、神がかったライディングだったと称賛したクリーンだった。これが、黒山の勝ちパターンを決定づけた。
しかし黒山自身は、この日の勝利のきっかけは、その前の第1セクションだったと語った。斜度もなく、クリーンして当たり前のセクションだが、ライダーのメンタリティは、こんなところで決まるって来るものかもしれない。
いっぽう第2セクションでは、1ラップ目に唯一ここを抜け出ていた野崎が5点となった。これでトップは黒山となり、2位は小川友幸でその差は1点。野崎はさらに1点差で3位に後退した。実は野崎は、手足がつってしまって、思うようなライディングができなくなっていた。思わぬ暑さに、いつものドリンクではなく、凍っていた別のドリンクを飲んで戦っていたのがいけなかったのかもしれないと教えてくれた。
この第2から、第3、第4と黒山のライディングは見事だった。どちらも黒山は1点で通過。小川はどちらも3点だったから、この3セクションの間に黒山は小川に7点ものリードをとって、いまや5点差で試合をリードする立場となった。
野崎のライディングは、1ラップ目とは一転した。しかも今度は、小川毅士が挽回してきて、調子を崩した野崎を追いつめ、そして抜き去った。2ラップ目が終わったとき、野崎は小川毅士に2点差で4位となっていた。
トップ争いは、10セクションで黒山が1点を失った。黒山は、世界選手権インドア大会の負傷で、手首に古傷を持っているのだが、ちょっと力を入れた瞬間にハンドルから手が離れ、思わず足をついてこれを切り抜けたのだ。手首が万全でないのはもう慣れっこだが、このときはちょっと気を抜いてハンドルを握ってしまったという。ともあれこれで、黒山は小川友幸へのリードを4点として、2ラップを終えた。残るはSSの2セクションのみだ。
SSは10セクションと12セクションが、難度を変えられて用意されていた。
SSの難度は高く、ダイナミックで見どころたっぷりだったが、優勝争いをしている二人にはクリーンセクションだった。結局2ラップ目の4点差がそのまま、二人の勝負を決めた。
2点差の4位でSSに挑んだ野崎は、SSを3点と5点で、逆転どころか4位を自ら決定づけるような結果となった。野崎はここまでランキング2位だったが、これも黒山と交替。小川友幸が黒山に対して12点差でランキングトップをいくという構図になった。残り2戦。黒山が連勝しても、小川は連続3位でタイトルを決定できる計算となる。
「計算上は可能性があるといっても、今年のチャンピオンは小川さんで決まりというのはまずまちがいない。でも、あと2戦を連勝して、小川さんと勝ち星で並ぶことはできる。ぼくと小川さんとが3勝ずつでチャンピオンは小川さんで、史くんが1勝と、せめてそんな2014年シーズンにしたいと思います」
自力ではタイトル獲得が不可能になったいま、肩の力の抜けた状態のほうが、結果がついてくるのかもしれない。強い黒山は、ようやく第5戦にして、立ち上がった。