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小川友幸、どたんばで野崎史高に逆転勝利
小川友幸がSSでの大逆転劇で3勝目、野崎史高は試合の大半をリードしながら残念2位。黒山健一が3位となったことで、小川は前回の敗北を取り返してタイトル争いは8点差に広がった。IAは小野貴史が2勝目、IBは小林直樹が2連勝。そしてレディースは西村亜弥が4連勝。
美しい渓谷のキャンプ場が舞台となった九州大会。今回のセクションは10セクションとふたつのSSが用意され、IAとIAS、IBとレディースがそれぞれ2つずつ専用セクションが設けられていたので、どのクラスも8セクション3ラップ、IASのみが加えてSSをふたつ、ということになる。
第1セクションは昨年ウォーミングアップに使用されたエリアで、ライダーは走り慣れているかと思いきや、意外に難セクションとなった。クリーンはなし、最高スコアは小川毅士(以下毅士)と柴田暁の1点で、野崎史高が2点、黒山健一と小川友幸(以下ガッチ。ちなみにガッチとは小川選手の愛称です)はそろって5点となった。黒山の5点はゲートマーカーの外を飛んでいったという判定で、ガッチは発進で滑って岩に登ったところで手が外れるという、ガッチらしからぬ失敗だった。
しかしその後のガッチは点数をよく抑えて、ひっかかりのない土の斜面での3点、岩や泥斜面を上り下りする第6で1点、つるりとした滑る大岩登りの第8で1点と、第1の5点以外を5点でまとめて1ラップ目はトップに出た。
1ラップ目、2位につけたのは出足のよかった柴田や毅士ではなく、野崎だった。野崎は第3の泥登りで5点となり、次の第5ではゲートにタイヤが触れたと5点の判定。ものすごい湿度と高い気温の中、暑さよりも腰の痛みがひどいと体調が今一つなのを訴えていたが、これにふたつの5点。トップ争いからは脱落かと思いきや、小川に5点差。毅士と同点で1ラップ目は2位ということになった。
毅士が2位、黒山がさらに2点差で4位、柴田が黒山に1点差で5位につける。6位の田中善弘が27点だから、柴田までの5人によるトップ争い、という感じだ。
2ラップ目、今度は小川が乱調だ。1ラップ目にクリーンした第5で5点、1点だった第8でも5点と、ふたつの5点を並べてしまった。第5で5点となった直後の第6では、クリーンを狙って逆に2点となってしまうという結果だった。
調子を上げたのが野崎だった。2ラップ目、野崎には5点がなし、3点ひとつと2点二つという美しいスコアで、この日のベストラップの7点をマークした。特に、誰一人クリーンができていなかった第8セクションを、ピタリピタリと決めてのクリーンは圧巻だった。ていねいで正確。野崎の野崎らしいところがばっちり出た場面だった。
黒山も、野崎に次ぐ10点をマーク。しかし2ラップを終えたところで黒山のトータルは27点となり、野崎の18点にはちょっと離されつつある。ガッチの25点とは2点差だから、2位争いが熾烈となりそうな状況だ。毅士は第1と第5での5点があり、トップ争いからは離されてしまっていた。
3ラップ目、ガッチが我慢強いトライを続けた。2ラップ目に5点だった第5と第8は、それぞれ1点と3点。トータルは9点で、悪くはなかった。野崎はガッチに2点劣る11点。3ラップをトータルすると、わずか1点だけ、野崎がガッチをリードしていた。
野崎33点、ガッチ34点、黒山は40点でSS。ここを乗り切れば、昨年の最終戦以来の野崎の勝利が決まる。1点差は油断ができないが、クリーンを狙うのは至難のSS第1のこと、2点、せめて3点で抜ければ、野崎の勝利に現実性が帯びてくる。
SS第1は、入口の大岩が注目の的だったが、本当の難所は出口の長い登りだった。4位が確定的となった毅士が最後の登りをうまく処理して2点で抜けたものの、後続が同じことをできる保証はなかった。ここまでに上っているのは藤原慎也、野本佳章、田中善弘の3人だけだ。
毅士の次のトライ順が野崎。野崎は最初の大岩への飛びつきでちょっとミスがあった。なんとかこらえながら次へ進むも、気持ちの焦りをおさえている余裕は失ってしまっていた。SSは通常セクションとちがって持ち時間が1分半。時間は余裕だったから、ゆっくり後輪の位置を確認して、気持ちを整えていてもよかったのだが、1分の走りになってしまったとくやしがる。
黒山が最後の登りで失速して5点とあったあと、満を持してガッチがトライする。SS第2は、恐るべき高さの壁登りが最後に控えていたが、トップライダーはここには自信があるようで、流れを変えるには、SS第1が最後のチャンスだった。ガッチがここで5点なら野崎の勝利がほぼ決まり、3点ならガッチの勝利がほぼ決まり、という流れ。
はたしてガッチは、正確に確実にマシンを進めていく。毅士のように華麗な脱出とはならなかったが、ざくざくの登り斜面をよく克服して、マシンをアウトまで押し出した。3点。
最終SS第2はショータイムだった。それでも4メートルといわれる絶壁を難なく登れたのは野本以降に限られていた(ただし野本は手前でゲートに触れて5点になっていた)。田中がここで野本をかわして6位に浮上、黒山は完調とは思えないエキゾーストノートを響かせながら絶壁を登りきった。そして野崎、ガッチも、次々にクリーン。
開幕戦に続く、SSでのガッチの逆転勝利。野崎は今シーズン初優勝が夢と消えて、しかし今シーズン初の2位入賞。表彰台では、悔しさがあふれる野崎に対し、やるべきことはやってベストは尽くせたと満足げな黒山の表情が対照的。もちろんガッチの笑顔は、満面だ。
■国際A級
なかなか僅差の戦いのIAだった。優勝した小野貴史は39点。10点以内に6人のライダーがひしめく。むずかしいセクションだったがまったく不可能ではなく、セクション設定の妙がこんな結果を呼んだのではないだろうか。
小野は、前回鳥取で6位。ランキングトップは維持したし、悪くはない結果だが、内容的には不安が大きかった。それで滑るところの対策を施し、練習も積んできた。その努力が見事実を結んだ勝利だった。
それでも、試合中にはライバルの点数の把握はできないし、僅差の勝負。いい調子で乗れているので、表彰台には乗れるのではないかという感触はあったが、優勝の実感はなかったという。
ランキング2位のベテラン村田慎示(ふたりとも、かつて藤波貴久、小川友幸、黒山健一と同じブラック団に所属していた)が2位となったため、ランキング争いも接戦だが、中盤での2勝目、小野は「とりあえずチャンピオンはとりたい」と目標を宣言した。
■国際B級
今シーズンからTRSとともに全日本復帰、開幕戦はトラブルでリタイヤしたものの中国大会で勝利、50歳にしてその実力はいまだ一戦級であることを照明した小林直樹が、3戦目の挑戦。今回も、若い逸材を引き離して勝利した。
小林は真剣に全日本に取り組んでいる。ライディングテクニックはもちろんだが、トライアルに取り組む姿勢、トレーニング、勝利を目指す戦い方、どれも真剣。クリーンが出せないセクションもあるにはあったが、どのセクションでもベストを尽くせたと自身の戦いっぷりを評価した。
9点差でまたも2位となった氏川政哉は、2ラップ目にこの日のベストラップをマークしながら、1ラップ目と3ラップ目にミスが出て勝利を逃している。ミスなく戦えれば負けないはずという思いが、よけいにくやしい。
中国大会で小林が勝利したときには、即時IAへの再昇格となるではないかといわれていたが、再昇格規定によると、小林の場合はこれに該当せず。シリーズを戦ってIAに昇格する必要があるとのことだった(第3戦のエントリーは4月の時点で受理されていたから、今回はIBでの出場が認められたという会釈もまちがいだった)。
小林がIBクラスを走って優勝していることについて、水を差すようなことを言う人もいるようで、しかも関係者からそんなことを言われたと小林はくやしがっていた。それがまた小林の発奮にもなったということだが、小林は降格申請をしてIBを走っているのではなく、欠格によるNAからの再出発をしてここに至っている。
未来のある若手ライダーには、学ばなければいけないことがたくさんある。強力なライバルの出現は、若手にとっても望むところだ。
「よし、キョウセイで勝負や」
ミスがあってくやしい氏川政哉にとって、小林は勝たなければいけない大目標であり、小林も、若手の挑戦を受けるのを楽しみにしている。
なおこの大会、九州の若手が大挙して出場、3人が初ポイントを獲得した。特に塩月匠は初出場で堂々3位。今後が楽しみな九州勢だ。
■レディース
今回もまた、西村亜弥が勝利を飾った。開幕4連勝。レディースは全7戦のうちの5戦の有効得点でランキングを争うので、次の北海道大会で3位以上に入れば初代全日本レディースチャンピオンを決めるということになった。
しかし西村は、今回の戦いに納得がいっていない。スコア的には、2ラップ目、二つの5点で減点を倍にしてしまったのがくやまれる。西村が二度5点となった最終10セクションはむずかしいセクションだったが、2位の小玉絵里加は二度3点、3位の小谷芙佐子は三度とも3点で抜けている。最終セクションだけで順位をつけると、今回のレディースはみな西村に勝っていたことになる。
優勝はもちろん、その先の高見を目指して参戦を続けている西村。今回は今シーズン、もっとも厳しい戦いだったと語っている。
それでも、かつて世界選手権で上位争いをしたときと比べても、いまのほうがうまくなっているのではともいう西村。まずは、次の北海道大会は納得のいく気持ちのいい戦いをしてタイトル決定に華を添えてほしい。
全日本第3戦九州大会は、本来なら5月15日の開催予定だった。4月下旬の熊本、大分の大地震の影響で、この日程に延期されての開催となったものだ。
延期を決めた時点で、すでにエントリーは締め切っていた。日程の変更で出場ができなくなった人もいたし、7月は2週間後に北海道大会もあるという列島縦断転戦月間となったことで、参加者の負担の大きいシリーズとなってしまったが、なにぶん震災ゆえの問題で、しかも開催地が熊本とあっては復興支援だと割り切るしかない。
同じ月に北海道と九州の開催は、特に無理やり休みを取ってやりくりしている庶民派ライダーにすれば苦しい参戦計画を強いられることになった。延期が決まったところで今シーズンは全6戦の有効ポイント制(レディースは全5戦の有効ポイント制となっている)とするなど緊急策もあったんじゃないかと思うのだが、九州大会が無事開催されたことがまずは一安心となった。
スタート直前まで雨、SS第2からまた雨という、天候も開催に味方してくれた。そしてなにより、被災したみなさんの少しでも早い立ち直りをお祈りしています。