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Honda・YAMAHAそれぞれの体制発表会で小川・黒山に聞く
2月、3月と、ホンダとヤマハが2017年のレース計画についての発表会を行った。全日本選手権に参戦する小川友幸と黒山健一も、もちろんこの核となるメンバー。発表会に合わせて、それぞれのライダーに2017年シーズンについてを聞いてみた。
2月13日(金)に東京都港区南青山のHonda ウエルカムプラザ青山で「2017年Honda国内モータースポーツ活動計画発表会」が行われた。国内で今シーズンを戦うHondaの二輪、四輪各選手の体制発表と、選手自身による2017シーズンの抱負が語られた。
「世界中のレースにチャレンジし、技術を世界の舞台で試し、磨き、楽しさと感動を共有してきた。パワーオブドリームがホンダの原動力。二輪では世界選手権でロード、モトクロス、トライアルの三冠を達成。一方四輪では悔しい結果、それを踏まえて各領域を見直し、集中して勝ちにこわだった体制を構築した」と冒頭で語ったのは、モータースポーツ部部長の山本雅史氏だ。
そしてHondaトライアル部門では昨年に4年連続全日本チャンピオン・V6を達成した小川友幸選手と、HRCクラブMITANI・チーム監督の三谷知明さんが登場。小川友幸選手は「去年は無事タイトルをとれました。今年は5連覇、V7を目指して全力で戦います」とあいさつした。
このあと小川選手には、個別に話を聞かせてもらった。
「開幕戦が近づくこの時期はいつも焦りますね。デモやスクールが続いたり、雪がふって練習もできなくなったり。でも、焦らず開幕戦に自分のピークを持っていけるように調整しているところです。
マシンは、今年用の新しいエンジンで、細かい仕様変更はあるものの大きな変更はありません。チームとスタッフも去年と同じ参戦体制です。トライアルスクール、全国各地そして海外イベントのデモンストレーションなど忙しさは年間通じで今年も同じです。
もちろん今年は5連覇目指してがんばります。去年は中部大会から2回続けて負けていて、ライバルは新しいエンジンで2連勝している。そこを崩していかなければと思っています。マシンやチーム体制について負ける要因はないと思っているので、開幕戦からきっちり優勝し、シリーズチャンピオンを勝ち取りたいと思います。今年もチャンピオンになれば、山本昌也さんの5連覇記録と並ぶことになりますからね。
目標は全戦全勝。今まで全勝したことがないですし。そして、どこかでオールクリーンしたいと思います。去年は勝ちを意識をしすぎて崩れた時期があったので、勝ちを意識しすぎないようにして、結果として全勝できればと思っています。
現役チャンピオンということで、勝って当たり前と見られたり、そう言われることで、プレッシャーがかかってくる。連覇は目標とは言っていますが、正直、連覇はむずしいことだとは思っています。
これまで自分自身がメンタルに弱いと思っていました。勝ちたい、がんばります、と言うだけで明確な目標が立てられず、勝負は「賭け」みたいなところもありました。しかし昨年は自分の弱点だったメンタルの部分を追い込み、そして結果を出せたことが、自信につながりました。
40歳を迎えましたが、体力的に落ちていることはないと思ってます。ダッシュのスピードは落ちているかもしれないですが、トライアルに関しての筋力や体力が落ちたと感じることはまったくないですね」
今年のHondaのレース発表では、ロードレースとモトクロスについて、世界で戦える若手ライダーの育成、輩出に向け、海外レースへの参戦サポートを進める「若手ライダー・ドライバーのトップカテゴリー参戦へ向けた取り組み」が紹介された。トライアルは残念ながらこれに該当しないのだが、その点について、小川選手と三谷知明監督に質問してみた。
――Hondaでは他のカテゴリーで海外レースへ参戦する若手を育てる考えがあるようですが、トライアルはどのようなチャンレンジをしていけばいいのでしょうか。現在も世界で通用する実力を持つ小川選手ですが、世界で通用する後進を育成するにはどんなことをすればいいのでしょうか?
「自転車トライアルを始めた小さい頃に、オートバイでプロになる意識があったわけではないですが、小さい頃からヨーロッパで世界トップの走りを見ていて、いずれ自分も世界のトップライダーになるんだとのレールが敷かれてました。それがとても大事なことだと思います。
自転車からバイクに転向した時も、世界最高峰の走りを見て、自分も同じように行けるものだと思っていた。そういうスタートによって、気持ちにもテクニック習得にも、勢いがつくと思う。
小さいときから世界の走りを見ておくこと。見学でもいいし、スポットで出場するもよし。自転車でもバイクでもいい。自転車で始めるなら、オートバイ転向のタイミングも大事ですね。ぼくは14歳でしたけれど、黒山健一選手、藤波貴久選手はもっと若い時に転向しています。世界選手権の規則では16歳となりますが、となると15歳までには、なんらかの形でヨーロッパを体験してくるのがベストですね。
ぼくらはブラック団というチームに所属することで、レールがあったのです。今はそのレールを作る人がいない。そこがむずしいところです。
そして夢。ぼくらの時代はジョルディ・タレスの全盛期、テクニックや勝負強さもすごかったけど、その存在が大きかった。パドックにはありえないくらいに大きなトラックとキャンピングカーで乗りつけ、自宅も豪邸。そういうのを小さい頃から見てきたから、トップライダーには憧れますよね。ああなりたいと思いますもんね(笑)
小さいうちに連れて行ってもらうことが大事ですけれど、時間も費用もかかるのでむずしいことだと思います。そして、本人がトライアルに対するしっかりとした夢を持ってないことにはただ行くだけになってしまう。
ブラック団は、親も夢をもっていたし、ぼくら子どもたちも夢をもっていた。明確な目標を持つこと。目標なしに、ただ見に行くだけでは、体験するだけではものにならないと思います」
同席しているチームMITANIの監督、三谷知明さんに若手育成について伺ってみた。
――三谷さんとしても、若手育成に力をいれていくのでしょうか?
「若手育成には力を入れているつもりで、これからも続けていきます。小川選手に続くトップライダーを育成したい。チームには、最強の小川選手がいますから、チーム員が積極的に小川選手と練習できる環境をつくりたいと思っています。しかし今後、小川選手を破る選手を輩出していけるのかは、今はまだむずしいところです。
まず自転車トライアルからスタートし、タイミングを見てオートバイに転向する方法を私自身は望んではいます。しかし、そのまま自転車トライアルで頂点を目指したいケースもあるでしょう。オートバイ転向は本人の希望もありますから、強制的にはできないと思ってます。
小川選手、そして藤波貴久選手が経験してきたような、若手が世界を見て学び、目標をもつ状況をつくるのは大事ですが、現実的にはとてもむずしい。私自身はショップを経営しながらチーム監督をやっていますから、そこまでには至らないのが現実です。でも、これからの日本のトライアルを盛り上げていく選手を育てるには、やらないとダメでしょうね。やらないと次は始まらないと思ってはおります」
◎
ホンダに続いて、3月3日金曜日。東京都中央区で「ヤマハ発動機モータースポーツ活動計画の発表会」が行われた。ロードレース、モトクロス、トライアルの各オフィシャルライダーが一堂に会し、ヤマハ発動機代表取締役副社長、木村隆昭らと間もなく始まるシーズンへの心意気が語った。
会場で時間をとってもらい、黒山健一選手に話を聞いた。
「開幕戦を優勝でシーズンインしたいですね。実は今まで、開幕戦に勝ちたいという意識がさほどありませんでした。ただ、勝ったり負けたりと不安定なことをここ数年続けていて、やっぱり勝って始まるほうが気分的にいいので、1位をとりにいきたいと思います。運に左右されるような試合ではなく、自分で勝ちとる試合をしたいです。
昨シーズンの途中から乗り換えたニューマシンは、オフのトレーニングでマップの変更などいろいろしましたが、基本的に昨年走ったままの仕様で見た目も変わらないです。サスペンションもエンジンもよりトライアルをしやすい仕様に仕上げました。チーム体制に変わりはありません。
ここのところチャンピオンを取れてないので、まず、タイトル奪還が目標ですね。新型マシンを用意してもらうにあたり、いろいろな人に助けていただいたので、お礼をかねての1位、チャンピオンをとりたいです。
新しいマシンに乗り換えてから、今までできなかったラインを選んだり、今までできなかった技ができるようになりました。おかげでぼく自身、またさらにトライアルがおもしろく楽しくなり、モチベーションも上がってます。去年乗り換えた直後の大会は、ほとんど乗り込みもなかった大会だった。あれから自分のなかで、このマシンはこんな動きをするのか、もっとこうしなければならないと勉強してきましたから、あの時よりはこのバイクのことを理解できています。
キャブからFIへの変化は、アクセルに対して素直に安定して反応してくれるところが素晴らしいです。それでもキャブの方がいい場合もあるんです。絶対的にインジェクションがいいキャブがダメということではないんです。
ここ数年、練習でもマシンのセッティングやトラブルに悩むことが多く、練習よりそっちに時間を費やすことが多かった。いまは修理やトラブルがずいぶん減りました。久しぶりに、練習に集中できている実感がありますし、そして久しぶりに自分の調子がとても上がっています。
インスタグラムやFBでぼくの見せ技を紹介していますが、新しいマシンは、ダニエルとかのトリッキーな技がとてもしやすいんです。実際に全日本などの競技に使うことはありませんけどね(笑)。
年齢的にも、あまり寄り道できない時期になってきました。しっかり結果を残そうと思います。体力的には昔にくらべて落ちてるとは思いますが、それを補う知恵が昔よりたくわえられているので、プラスマイナスでは、ちょっとプラスになっている気がしています。
年齢的には、アルベルト・カベスタニー選手はぼくの目標です。昔からずっと一緒に走ってきた同世代のライバルです。ライディングスタイルにも共感するものがある。カベスタニーはダニエルがとても得意なライダーですけど、ボウやラガとはちょっとちがう。基本的にオーソドックスな走りなんです。トニー・ボウはぼくよりも後の若い世代のライダーで、スタイルも乗り方もあまりにちがってしまうんです。メンタル的な目標で、憧れるのは藤波貴久の存在ですね。
今年は「はしゃがない」こと。「黙」をテーマ、なにも語らないというのを目標にしてます。人に伝えなければならない立場でもあるし、そういう機会も多いのですが、それによって自分が大きく左右される場合があります。まったく黙ってしまう必要はないのですけど、自分の世界に入って集中したいと。土曜日に会場に入ったら基本的に黙ろうと思ってます。あ、でもいろんなこと聞いてくださいね。それでいつもどおりペラペラしゃべっていたら、ああ、やっぱりこいつには無理だったんだなあと思ってください(笑)。
そして、木村治男監督にも聞きました。
「大きくは変わってないです。FIでは、性能は自由自在に作り変えられる。黒山選手のリクエストにこたえるべく、より調整している状況です。
パワーのカーブ、いままでのキャブとはぜんぜんちがう特性になってくるので、黒山選手がそれをうまく使えるようにとか。
キャブでは不安定なレスポンスがあるのですが、FIはそれがない。キャブは、場面によってついてくるかこないのか判断がむずかしいことがありました。しかしFIは必ずついてくるので、黒山選手の技術を安定して発揮できるようになったと思います。その安定感から、よりパワー感も引き出しています。
車体、フレームは変わってません。去年このマシンを作るときに苦労して出した仕様なんですが、黒山選手から、特に問題点が指摘されてない。黒山選手が「ふつうに乗れている」という意見が、私自身とてもうれしい評価です。これだけ特殊なレイアウトのオートバイなのに。
選手の力を常に発揮できるオートバイであり続けること。あわよくば選手の能力を助けられることが目標です。それができれば自ずと成績もついてくると考えています」