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全日本開幕! 黒山健一はぶっちぎり
全日本選手権が開幕。2017年開幕戦は、例年通りの会場で、例年通りの時期の開催となった。3月12日、茨城県真壁トライアルランド。ぽかぽかとあたたかい春の日差しの中、各クラス熱戦が展開された。
IASは、フューエルインジェンクションの新型ファクトリーマシンに乗って3戦目となる黒山健一が圧勝。他をまったく寄せつけない強さを見せた。今回いい走りを見せたのは小川毅士。2ラップを終えて小川友幸(ガッチ)に2点差をつけていたが、ガッチは最後のSS第2で見事なクリーンを披露。大逆転で2位ガッチ、3位毅士となった。4位はカードを落として探すなどしているうちにペースを乱した野崎史高。5位に柴田暁。6位に斎藤晶夫が初入賞を果たした。
黒山の圧勝ぶりは見事だった。減点はあったし、本人も完璧とは評価しないが、ダイナミックで難度の高い設定の多かった今回、5点がひとつという素晴らしさ。黒山の5点は2ラップ目の第3セクションだったが、ここは黒山の1ラップ目の3点以外は全員が5点。さらに第9セクションでは黒山がクリーンと1点で抜けた以外はやはり全員が5点。まったくあぶなげのない走りで、マシンを乗り換えてからは負けなしの3連勝。ここ数年抜け出せずにいた不調のトンネルからは完全に脱せたようだ。
ガッチは、第1セクションから2点をついて微妙な出だし。第3、第5、第9で5点。第9ではマシンを大きく投げ飛ばし、ガッチ本人も足を痛めてしまう痛い5点となった。失敗する可能性の高いセクション設定ゆえ、当初は逆転のチャンスはあると踏んでいたものの、黒山のペースは安定し、逆にガッチは点数をまとめられず、最後の最後まで3位を守るという苦しい戦いになった。ときおり、エンジンの調子を伺うしぐさも見られた。ライダーの思い通りの動きではなかったのかもしれない。1ラップ目、ガッチの減点は24点にも及び、2位毅士に7点差、いろいろとハプニングのあった野崎にも5点差でしかない3位となった。
しかしガッチのSS第2の走りは見事だった。SS第1は走破するライダーも少なからずいて、トップグループはみなクリーンをしていたが、SS第2は急坂がきつすぎるのと地面がさくさくで、最初にトライした岡村将敏こそ3点だったが、以後は柴田まで全員5点。野崎が踏ん張って3点で上がり、次のトライ順がガッチだった。
ガッチのトライは、ライン的には野崎と同様。急坂を登ったところでいったん坂を真横にトラバースして、わずかに斜度がゆるくなったところで向きを変えて出口までふたたび上る。進もうとしたところにオブザーバーがいてあわてたものの、それでも足を出さずに出口までマシンを運んだ。
開幕戦のガッチは、全体にはガッチらしい神々しさが発揮されなかったものの、このSS第2は強烈だった。ガッチは今回の2位を「最低限の仕事」と評価する。最高が勝利で、最低が2位。要求される仕事内容は、極限まで高い。
このガッチのクリーンで、毅士には大きなプレッシャーを与えることになったガッチ。クリーン数は毅士の方が多いので、毅士はSS第2を2点までにまとめれば勝利することができるのだが、ガッチクリーンの大歓声の余韻が残る中でのトライは、厳しかった。
ふかふかの急斜面をトラバースする体勢に持っていくところまでは、毅士の走りはガッチ同様に美しく完璧に見えた。しかしトラバース中に前輪が数センチ、もしくは数ミリ単位で下を向いてしまい、ついでリヤが滑り落ち、その修正に足つき1回、そしてもう1回。2回までの足つきは順位を守れたはずなのだが、毅士は足をついたら負けだという決意でトライに臨んでいた。足を1回ついたところで負けたと思ってしまった。そしてさらにもう1回、2回足をついて、2位の座から滑り落ちてしまった。
1点差。わずか1点差で、毅士は開幕戦2位を失うことになった。しかし昨シーズンはついに4位から脱することができなかった毅士にとって、開幕戦から3位表彰台を得た結果は大きかった。土壇場で2位を失ったくやしさは小さくないが、ベストは尽くせた、5点はあっても、後悔しない走りはできた、と姿勢は前向きだった。毅士は、今回からアシスタントが宮崎航から山本将希に替わっている。宮崎はIASを走っていたライダーだから、その力量はピカイチだが、それがそのまま結果につながらないところが、トライアルの奥深いところでもありそうだ。
去年、何度か2位表彰台に立ち、いよいよ今年は表彰台の中央に復活かと期待された野崎史高は、しかし今回は4位に終わった。カラーリングはほぼそのままに、マシンをスコルパからシェルコに変え(同じメーカー、同じエンジンを使うマシンだが、フレーム周りがちょっとちがう)挑んだ開幕戦。今回の野崎には、いろいろなハプニングがあった。第3セクション、ガッチもマシンを御しきれずに登れなかったさくさくヒルクライムを、最後まで登りきってアウトしたもののタイムオーバー、そして続く第4セクションでは、なんとパンチカードがなくなるという大事件が発生した。預けたジャケットに入っているのではないか、ブーツにはさんでおいたものが足の裏にまで落ちているのではないか、あるいはトライ中に落としたのかと、すべてのライバルが第5セクションに向かった後も、野崎は第4セクションから移動できずにいた。結局、パンチカードはセクショントライ中に落としたようだったが、ざくざくの土の中に埋もれていて、それを探し出すのはちょっと苦労だったから、第5、第6と、野崎はライバルのペースに追いつくのに、ちょっと急がねばならなかった。そんなこんなが野崎の気持ちを乱していた。第5、第6、第7と、野崎は連続5点。この3セクション、勝利した黒山は2点、ガッチと毅士は5点だったから、ここだけで野崎は10点以上のビハインドをおったことになる。
第8セクションでは、こんなこともあった。がけを登った野崎は、少々飛び出しすぎてしまい、アシスタントの佐藤和人が、その場で倒れてしまった。着地した野崎に問題はなかったのだが、さて、ライン上にアシスタントが横たわっている。野崎は慎重にマシンを操作して、佐藤を(あまり)傷つけることなく、胴体上で前輪を回し、後輪で足を轢いてここを通過した。ルールではアシスタントがマシンにさわるお助け行為は5点となるが、この場合のアシスタントは障害物でしかない。これについての減点はつかなかったが、1ラップ目の野崎は、2位毅士に12点差の4位となった。5位の柴田にも2点差に迫られている。2ラップ目は復調したものの、毅士を逆転するチャンスはもはや残されていなかった。
5位の柴田は、特に序盤はいい走りを見せて、不調とはいえ野崎に食い下がっていたが、1ラップ中盤には輝きがにぶくなってしまい、得意のSSも5点ふたつで終了して試合を終えた。
6位の斉藤晶夫は、これが自身最上位。今年はアニキ田中善弘が参戦していない。斉藤は自分が田中の穴を埋めると宣言、今回の結果は、その決意の証明となった。今回は7位となった野本佳章は、斉藤に6点差。野本にさらに6点差で8位の吉良佑哉も1ラップ目は7位だった。6位までの入賞争いは、今年も厳しいものとなりそうだ。
ベテラン岡村将敏とルーキー久岡孝二の戦いも見事だった。久岡は2ラップ目に調子を上げてきており、このクラスのセクションに急激に慣れてきた印象もある。今回はSSで逆転されて10位だったが、今シーズンのこれからは期待ができる。
2ラップ目までで10位だった岡村と、14位砂田真彦までの点差は7点だった。この7点の間に、成田亮、磯谷玲が僅差で並んでいる。SSに残るための10位争いだ。IASでは、どこのポジション争いも厳しい。
●国際A級
2016年IBチャンピオンのルーキー氏川政哉や、一緒に昇格した同期の若手、そしてベテランライダーと、技術的にも顔ぶれ的にも興味深いポイントがあふれている国際A級クラス。
勝ったのはベテラン、本多元治だった。本多はここ数年、全日本選手権全戦には参戦していない。今年も、第2戦第3戦は欠場の予定という。デモンストレーションなどの仕事を優先しての参戦形態だが、出られる試合には全力で臨み、勝利を求める姿勢は誰よりも強い。
いっぽう、IBから昇格してきたルーキーは、10代の3人を含め、5人全員が顔をそろえた。結果、5人の中でポイントを獲得できたのは氏川政哉一人だったが、その氏川が本多に2点差まで迫って2位入賞を果たした。
氏川は昨シーズンにIAS参戦をしていた兄の氏川湧雅をアシスタントに、初めてのIAセクションに全力でぶつかった。氏川はIAセクションの攻略具合よりも、時間配分がうまくいかなかった点を残念がっていた。1ラップ目にいくつかのセクションで申告5点をし、さらにタイムオーバー減点が2点あった。これで1ラップ目の順位は4位。2ラップ目、氏川は5点一つで追い上げ、本多に2点差まで迫ったのだった。5点となった第2セクションは1ラップ目はクリーンをしているところだっただけに残念。2ラップ目の12点はトップのスコアだった。
今回は若いルーキーが百戦錬磨のベテランに惜敗したという構図だが、本多も氏川のポテンシャルは認めていて「勝てるうちに勝っておこうと思っていたので、勝ててよかった」と笑顔だった。
まだ開幕戦、シーズンを占うのは早計だが、本多が第2戦第3戦と欠場するのは決まっているから、氏川がランキングトップに躍り出る可能性は高い。と同時に、昨年氏川を苦しめた小林直樹は、本多と同じチームの先輩でもあった。氏川にとって、大ベテランの兄弟弟子ライダーは、目の上のたんこぶとなりそうだ。
3位と4位は平田兄弟。今回は弟の貴裕が3位、兄の雅裕が4位となった。その点差はたったの1点。兄弟は同じようなスタート時間で同じようなペースで試合を進めていたが、結果も非常にいつも非常に僅差。二人が同じような結果を残しつつ、毎年少しずつ結果が向上していく。今年はいよいよ表彰台の中央に手が届くかもしれない。それは、兄か、弟か?
5位の伏見佑貴は、初めての入賞という。ブランクは長かったが、才能あるライダーだけに、遅咲きライダーの今後が楽しみだ。
入賞の最後は永久保恭平。IASを経験後、去年からIAに復帰しているが、IAの戦い方は一筋縄ではいかない、ということだ。
●国際B級
開幕戦はベテランが強く、若手が経験を積んだ中盤戦になるとベテランの疲れが見えて勢力図が入れ替わるのが常というIBクラスの図式は、もうすっかり過去のものとなった。
今回6位までの表彰台に上ったのは、10代の若手ライダーばっかりだった。一番の経験者は、去年は不調だった倉持晃人。過去に3位までに入った経験があるのは、この中では倉持だけだ。そして3位の坂井以外はみな一桁ゼッケンをつけている。1年修業を積み、国際B級2年目でいよいよ実力を発揮しようという面々だ。2015年IBチャンピオンの山崎頌太がこのパターンだった。この中の誰かが、第2の山崎が現れるかもしれない。
15位までのポイント獲得圏を見ると、トライアル30年選手もがんばっている。自分のトライアル歴の半分くらいの年齢のライダーをライバルにしてがんばるベテラン勢の巻き返しも期待したいところだ。
●レディース
今年から、参加条件が変更されて、地方選手権に参戦経験のあるNB以上の女性が参加できることになったレディースクラス。
NA相当以上という去年の参加資格だと参加者は限定され、しかもこれから資格を持つライダーが生まれるのも、1年や2年ではない年月が必要になりそうという現状では、さらに枠を広げる必要があった。
そうはいえ、全日本選手権は、IASのトップクラスが走るセクションが設定されていて、いかにゲートで別規制をするといっても、根本的に走破がむずかしい、安全性が確保できない、という懸念もあった。
そのテストケースとしても今回の開幕戦は注目に値する1戦となった。集まったレディースは4名。去年は遠征のきつい北海道大会が参加者4名で、平均すると5人以上の参加はあったから、参加資格を広げたにもかかわらず参加者は減少した。
これについてMFJとトライアル委員会では、レディーストライアルの普及と定着は1年2年のスパンでは考えていないから、今回参加者が減ったことはまったく意に介していないという。10年もかかっていいのかという不安はあるが、まずは早いところ参加者10名をめざしたいところだ。
うれしいトピックとしては、日本女子唯一の国際A級ライダー(元。ライセンスは失効して現在はNA)萩原真理子が西村亜弥のアシスタントとなったことだ。知らない人もいるかもしれないけど、この二人は姉妹で、二人を含む日本チームが、トライアル・デ・ナシオンで優勝争いをした結果の2位入賞を果たしたことがあるトライアル・シスターだ。
真理子のトライアルライダー復帰を望む声は多く、今回のアシスタント赴任もそのための布石と感じる人は多いと思う。ただ真理子はモトクロス・エンデューロ時代にひざを痛めていて、現在も加療が必要な状態。大会に出場するには、少なくとも今は無理、ということだった。
さて試合は、予定通りチャンピオン西村亜弥が勝利。しかし第2セクションで、西村が3点のところ、今回から4ストロークのTYS250Fに乗り換えた小谷芙佐子が1点で抜けていて、西村は試合の流れに不安を感じたということがあったという。この日はセクションが厳しいという前評判だったのに、実は神経戦だったのではないかと疑いが生まれてしまったということだ。
ふだんの生活はいたってゆっくりのんびりなのに、オートバイに乗ると急いでしまうくせがあって、落ち着いた走りをするのが課題という西村だ。
西村は、今回からベータ300SS(スーパー・スムーズ)に乗り換えている。トップ向けの300に対し、このSSは乗りやすくエンジンもかけやすく、すごく楽にトライができるようになった、ということだった。その恩恵もあって、終わってみればダブルスコア以上の大差をつけているから、勝利するについては不安はないはずだが、西村ほどのライダーでも、常に自信たっぷりに走れているわけではない、ということだ。
2位は、マシンを乗り換えた小谷が入った。小谷は昨年中国選手権NAクラスチャンピオンを獲得してIBに昇格している。IB参戦とレディース参戦に悩んだ結果、レディースに参戦してきた。4ストロークマシンへの乗り換えは簡単ではないと思われるが、開幕戦では、まずよい結果が出た。
小玉絵里加は、去年も開幕戦で4位となっているが、その後調子を上げている。これが彼女の本調子ではないはずだ。寺田智恵子は、エスケープせずにトライできたこと、クリーンがあったことが収穫だったという。
ちなみに、全16セクションの寺田の平均減点は3.5点。クリーンと1点と2点が一つずつある。小玉のそれは2.9点、小谷は2.2点、西村は0.8点となる。今回のセクション設定で、NBのセクションをようやく走れるようになった女性ライダーが参加していたらとしたら、少なくともかなり過酷なことになっただろうことが想像される。
関東には女性ライダーが比較的多いから、自分が出ることになったときのことを考えて観戦していた人もいるのではないかと思うのだけど、せめてNBのポイントランカーくらいでないと、現在の設定では参加はむずかしそうだ。このクラスの発展は長い目で見るとしても、課題は多いような気がする。
●エキシビジョン125
IAS、IA、IB、LTRの4クラスは全日本選手権だが、こちらは併催。若手ライダーが、125ccマシンでIBラインを走れるというもの。日本の次世代のライダーを養成するためには、大きな意義のあるクラスだ。過去にもこれに参加してIBクラスのトップクラスへ登っていたライダーは少なくない。
今回は宮澤陽斗1名が参加した。減点81点クリーン3は、IBクラスのリザルトと照合すると42位相当。ほぼ真ん中くらいのポジションで悪くはない感じ。
TRGCで昇格してきたエリートライダーも、1年目は苦戦するライダーが少なくない。こういったクラスにもっと目が向けばよいのだけれど、エキシビジョンという扱いから、主催者本部も参加者も、あまり重視していない印象で、参加するほうもお試しで何度か限定という傾向が多いようだ。
レディースと同様に、こちらも正式種目にして若いものをきちんと育てる現場を育ててほしいという気もするのだが、それは地方選手権などの場でやりなさい、ということなのかもしれない。
ともあれ、陽斗くんには今後もがんばって欲しいと思う。減点数はともかく、クリーン3は上位陣にも匹敵するものだった。