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黒山健一、辛勝で開幕2連勝の全日本近畿大会
黒山健一、辛勝で開幕2連勝
終わってみれば、トップ3は大接戦だった。しかして結果は昨年終盤以降、ニューマシンに乗っている黒山健一が開幕2連勝。そして小川友幸が開幕戦に続いてSS第2で逆転して2位をキープした。今回の3位は野崎史高だった。野崎もまた、SSが始まるまでは勝利の可能性を持っていた。
とはいえ、今回の黒山は、真壁のようなぶっちぎりではなかった。ぶっちぎりかどうかは相手もあることで結果だけの問題かもしれないが、真壁の時に比べ、あれ?と思うような失点、失敗が散見された。試合の初っぱな、第1セクションでは狭いターンでフロントを回していく際に前輪でテープを切ってしまった。第3セクションでは美しいクリーンを見せてペースに乗るかと思わせるも、第6セクションでは(第4、第6はIB専用セクションで、第5はトップクラスにはクリーンセクションだった)最後の岩を登れずに転落。第10セクションではエンストで5点となった。
「人車ともにぶっちぎりもできる状態にあったのに、集中力を欠いたりして、それができなかった」
黒山は敗因を語るように振り返っている。第3で見せたような、黒山らしい目のさめるようなクリーンを、今回はほとんど見せてもらえなかった。滑り出しの第1セクションなど、他のみんながてこずるところを足つき梨で抜けていったのは見事だったが、テープを切って5点になってはその見事も絵空事だ。
しかし一方、黒山にはもうひとつ、直面すべき課題もあった。夏だ。去年のシーズン終盤にデビューしたニューマシンは、秋から冬にかけて熟成を進めてきたが、完成の域に達してからは、暑い環境を知らないままテストを続けている。夏になって気温が上がったとき、どんな状態になるか、どんな特性になるか、マシン的にもライダー的にも、まだまだ未知数がある。
それが今回出た。10年前、初めてDOHCエンジンを走らせた頃には夏場のオーバーヒートに悩まされたものだったが、今回はそんなトラブルとは異質のものだ。ただ、夏場には夏場のセッティングがあり、走らせ方がある。その実戦データが、黒山とこのマシンにはまだ充分ではない。
SSまでに2位に4点リードは、けっして充分な点差とは言えなかったが、しかし初体験の夏場といってもいいコンディションで、このスコアを維持した黒山は、まず、いい仕事をしたといえる。
これでヤマハのニューマシンはデビュー4連勝。ライバルのミスでの2勝、実力発揮で圧勝だった開幕戦、そして新しい課題を見つけながらの4勝目。ニューマシンを得た黒山は水を得た魚のように、着々と勝ち進んでいる。しかしそれでも黒山は、まだ二つ勝っただけ、と気を引き締める。このまま簡単に勝ち続けさせてもらえるとは思っていない。ライバルはあなどれないし、トライアルはそんなに簡単ではない。
開幕戦であわや3位というところで踏ん張ったチャンピオン小川友幸(ガッチ)は、今回もまた本調子とはいえなかった。
真壁の大クラッシュでは足首を痛めてそれはまだ完治とは言い難い。加えてテストやデモの仕事で、熊本へ行ったりスペインへ飛んだり、まったくもって忙しい。それで全日本参戦に影響はないのかと心配にもなるが、最近のガッチはそういう活動もまた、モチベーションにつなげているように見える。
それでも今回のガッチは、やはり本調子には見えなかった。黒山のようにテープを切ったりエンストしたりという失敗はないものの、足が出る。長めのセクションが多いから、最初から足をついてスピードを稼ぎ、タイムオーバーの5点になるより3点で抜けるという作戦をとったところもあったが、それはすべてではない。1ラップ目、全10セクションのうち、ガッチの3点は6つもあった。
3点6つ、5点二つ、クリーンと1点が一つずつ。これが1ラップ目のガッチのスコアで、これは黒山を2点上回っていた。黒山はクリーンこそ2個あったが、5点が5つもあったから、1ラップ目が終わったところでは1点差でガッチがトップにいたのだった。
しかしこの日のガッチは、これを勝ちパターンに持ち込めない。2ラップ目、持ち時間がぎりぎりになっていく中、ガッチはなかなかペースを取り戻せない。トップグループがあっさりクリーンしていく第5セクションでも、あわや前転というアクロバチックシーンを演じて2点となっている。時間がなくなって第11セクションは申告5点でパスしたものの、それでもタイムオーバー2点がついた。先行していた野崎はタイムオーバーがなく、これでガッチは3位となって10セクション2ラップの戦いを終えた。
トップの黒山まで5点差、2位の野崎とは1点差。2位逆転のチャンスはあるし、勝利の可能性もある点差だった。しかしSS第1を抜けたところで、ガッチの勝利は遠いものになった。黒山が5点にさえならなければ、ガッチがクリーンしても勝利を得る。逆に3点で抜けようと思えば、黒山にとってはむずかしいことではない。
一方ガッチは、限りなく低い可能性となった勝利のためにも、1点差で追うべき2位争いに勝利するためにも、SS第2をクリーンしなければいけなかった。SS第2は、いけるかいけないか、という設定ではなかったが、時間が厳しい。トライを見ていると、最後に時間がなくなってあわてて足をバタバタついたり、あげくに時間がなくなってアウトにたどりつけず5点、というパターンが多かった。
すぐ前で野崎が3点となるのを見たガッチは、計算上は1点の足月でここを抜ければ2位は得られることになる。しかしセクションに挑むガッチが目指すものは、クリーンしかなかった。
「完璧だった」
と自身が振り返るように、そのトライはパーフェクトだった。よどみなく、ミスなく、減点なし。最後の最後で、野崎を逆転して2点差での2位獲得だった。
2連敗。そしてライバルのニューマシン投入から数えると4連敗だ。タイトル獲得に向かっての懸念より、まずこの4戦、持てる実力を発揮できていないところをなんとかする必要がある。
前回4位と表彰台を逃した野崎史高は、今回も序盤は実力発揮にはほど遠かった。1ラップ目は3点と5点ばかり。クリーンはみんなクリーン(というわけでもないが)の第5と、もうひとつ第9、そして最終第12の3つだった。第12セクションのクリーンは見事だった。この時点で野崎の順位は小川毅士に1点差の4位だったが、ここから少しずつ野崎の順位は上向いていく。
2ラップ目、ガッチとの4点差を逆転して、野崎は2位を確保する。残るはSSの2セクションのみだが、ガッチとの点差はたったの1点だ。こういうシチュエーションでのガッチの強さは身にしみて知っているだけに、野崎にはちょっと分が悪いそうな感じ。
SS第1はクリーン。黒山が1点をついたので、野崎との点差は3点になった。SS第2次第では野崎勝利のチャンスもあるが、ガッチとの1点差は変わらず、最後まで厳しい戦いは続きそうだ。
誰もアウトができないSS第2。小川毅士も5点になって、暫定3位のガッチが見事なクリーンを見せる。これで野崎が2位を守るには、1点かクリーンで抜けなければいけない、という状況になった。
ていねいに、しかし急がなければ、時間が足りない。巨大岩から出口に向かうポイントは、つまずきやすくて複雑だった。ここでひっかかると、時間を一気に使ってしまう。そして野崎も、ここで時間を失って、出口に向かって1回、2回と足をつく。時間ぎりぎり、タイムオーバーにはならなかったが、野崎の減点は3。これで2位の座は、野崎からガッチへと移っていった。
しかし今回の野崎は、前回の4位から表彰台に戻り、なにより、最後まで優勝争いに加わっていたという満足感があった。結果としてはゼッケンと同じ3位ではあるが、優勝争いができなければ優勝も望めない。まずはここからがはじまりだ。
開幕戦で2位を逃して3位表彰台を得た小川毅士(以下毅士)は、ここで再び表彰台を獲得して野崎を突き放したいところ。そしてその野望は、1ラップ目まではなんとか達成しかけていた。
しかし2ラップ目は、4番の毅士に戻っていた。トップ3が減点数を減らしてきたのに対し、毅士はわずかながら減点を増やし、さらにタイムオーバー減点もあった。10セクション2ラップが終わって、3位との差が15点以上。今回の毅士に、表彰台の権利はなかった。さらにSSでは、トップにはクリーンセクションとなったSS第1で大クラッシュ。アンダーガードが岩に当たった瞬間に崖の下まで落ちていった。大きなダメージがなかったのが不幸中の幸いだったが、これで柴田には同点で追いつかれてしまった。SS第2は両者とも5点で、同点のまま試合は終了、クリーン数も同じで、1点が毅士ふたつ、柴田ひとつで、この1点の数の差でで毅士は4位を守ったのだった。
柴田は、1ラップ目序盤は好調。トップ争いにも加わっていた。試合が進むにつれて、定位置に落ち着いてしまうのは残念。1ラップ目序盤の走りが奇跡ではなければ、表彰台争いには加わっていたはずだった。
その4位争いからさらに15点ほど隔てて、6位争いは野本佳章と斉藤晶夫だった。開幕戦では斉藤が自身最上位の6位となったが、今回は4点差で野本の勝利となった。今回は7位となったが、今年になっての斉藤の成長は注目に値する。野本もうかしかしていられない。
8位は藤原慎也。藤原の最上位となった。このへんになると3点がいくつあるかという勝負になっていて、藤原と9位の成田亮は3点が二つ、10位の久岡と11位(10位以下はSSを走ることができない)の磯谷は3点が一つ、12位の砂田と13位の岡村はオール5点だった。なお今回、吉良佑哉は1週間前の練習中の負傷で欠場。次の九州までには復活すると宣言があったが、足の皮を大きく損傷する負傷だったようだ。
さて、次なる戦いは世界選手権日本大会のあと、これまた初めての会場となる九州大会となる。
■レディース
今回も参加者は4名。順位も、開幕戦と変わらなかった。
優勝の西村は、練習のしすぎでひじを痛め、痛みと戦いながらの大会参加となった。しかし開けてみると、今までで最も乗れていて、集中力もとぎれないいい戦いだったと振り返る。1ラップ目が1点と2点で3点、2ラップ目が1点。3ラップ目は、1回足をついてしまった最終セクションをクリーンして、ラップオールクリーンを目指したが、なんとその最終セクションで大転倒。痛めているひじと腰を強打して、痛みを引きずりながら表彰台に上がることになった。
順位は前回と同様ながら、2位小谷芙佐子と3位小玉絵里加は1点差。レディースの戦いは、競い合って着実にレベルアップしているようだ。
■国際A級
昨年、肩の脱臼で戦列を離脱し、復帰した最終戦でまた肩を脱臼し、手術と療養でライディングから離れていた武井誠也がこのクラスで復活。見事復帰第1戦を勝利で飾った。
武井は難セクションの10セクションが苦手で、ここを2ラップとも5点になるなどしたが、1ラップ目の減点はここだけ、2ラップ目もその他に5点が一つあるだけで、合計減点15、クリーン17で勝利した。
2位は村田慎示。今回からRTL300Rに乗り換えた。まだマシンに慣れきっていない状態で、ここまでスコアをまとめられたのはさすがというところ。武井とは同点だったが、クリーン数の差で2位となった。
3位は平田雅裕。開幕戦では弟の貴裕が先に表彰台に乗ったが、今回はアニキが表彰台をゲットした。この兄弟、今年の台風の目になるやもしれない。
4位は永久保恭平。トップからは5点差。難セクションも目立ったが、終わってみればなかなかの神経戦ということになった。
そして5位が、開幕戦を2位でスタートした氏川政哉。1ラップ目は10位と出遅れたが、2ラップ目に6点、このラップトップのスコアをマークして5位まで追い上げた。そして6位が、前回3位の平田弟の貴裕。
まだ2戦が終了しただけだが、ランキング争いがおもしろいことになっている。氏川と平田雅裕が28点で同点(氏川がトップで平田が2位)、3位は平田貴裕で25点。4位に村田24点、5位永久保23点と僅差で続いていて、6位が優勝1回と不参加という武井と本多元治。本多はこのあとも参加できない大会が決まっているが、武井はこのあとは全戦参加する予定ということで、そうなると、武井も含めて、今年のタイトル争いはたいへん激しいものになりそうだ。
■国際B級
開幕戦は、1位から6位までを10代の若手がずらりと独占したが、今回は近畿の怪童たちが表彰台上位をかっさらった。
優勝は塚本厚志。柴田暁や斉藤晶夫、萩原真理子(西村亜弥のアシスタントをやっている、女性唯一の元国際A級ライダー)と同期で国際B級を戦ったライダーで、しかしいまだ勝利がないという。全日本からは一時離れていて、2年前から近畿大会にだけ参加してきた。「勝つ」とみんなに宣言しての出場だったが、一昨年と去年は2位。そして今回、ようやくの1勝、これが塚本の初優勝だった。
2位は和田弘行。塚本が柴田や斉藤と同期なら、和田は山本昌也がチャンピオンだった時代に国際B級チャンピオンをとっている。二人の年齢を合わせると、90歳になるんだそうだ。
3位の表彰台は山中悟史。和田からすると、塚本が息子(ちょっと無理があるけど、ありえなくはない)、山中は孫という世代。そんな世代が一緒に戦えるところが、トライアルのすごいところだ。
すぽっと参戦の二人が上位2位を占めたから、ランキングトップは山中。前回一緒に表彰台に乗った10代仲間が今回はいまひとつだったので、山中は第2戦にしてランキング2位の倉持晃人(6位)に8点の点差をつけた。
■オープントロフィーとE125
エキジビジョン125はひとり、元国際A級ライダーによるオープントロフィーは4名の参加があった。
E125の清水寧郁は、難セクションの多かった国際B級セクションを果敢に走って、72点のスコアを残した。これは国際B級なら57位相当。マシンさばきは光っていただけに、また腕を磨いて、そのうち全日本の舞台で会える日が楽しみ。
オープントロフィーは、みなさん、さすがのスコア。国際A級の成績に当てはめると、みんな10位以内に入れるスコアをマークした。特に優勝の山地康智は3位相当の好成績だった。
国際A級ライダー、実戦やトップ争いからは離れていても、やはりあなどりがたし、なのである。