© トライアル自然山通信 All rights reserved.

小川友幸3連勝で5連覇に近づく
全日本選手権第5戦、北海道大会。今年もまた、海の日の三連休の日曜日、旭川から30分の上川郡和寒サーキットでの開催となった。結果は、意外なこととなった。優勝は小川友幸(以下ガッチ)。これでシリーズ3連勝。ガッチの勝利は意外ではないが、2位柴田暁、3位小川毅士(以下毅士)、4位黒山健一、5位野崎史高と、全体にリザルトは波乱含みのものとなった。
日曜日は雨。天気予報はそう伝えていたし、みんな雨が降るものだと思っていた。それで、セクションは雨仕様のやさしいものに修正された。濡れたわっさむは、ずるずるに滑ってすごいことになる。今回の第6セクションは、勝負どころとなった難セクションだが、ここがむずかしいのはどこからともなく水がわき出てくるからで、カンカンに晴れていても、ずるずるに滑る。雨が降ったら、全部のセクションかこの難セクションのようになってしまう可能性がある。
当日、最初のスタートが始まる頃には、まだ雨は降っていなかった。そればかりか、太陽も顔を見せている。北海道の各地域が大雨に見舞われるのは確かだったが、その雲は和寒地方を微妙に避けていて、もしかしたら雨は降らないんじゃないかという読みをする人もいた。もちろん、正規の定期予報はもう少し悲観的ではあった。
それでも、もしかすると雨が上がる前に試合を終えられるのではないかともくろんだライダーは少なくなかったはずだ。特にスタートの早いIBの面々には、それができる。今回のIASはIB、LTRに次ぐスタート順だから、IASもまた、雨が降る前に、2ラップを走り終えられるかもしれない。
「オールクリーン勝負になると思っていた。何人かのオールクリーンが出て、時間差での勝負になるかもしれないとさえ思った」
とガッチは言う。同点同クリーン、1点2点3点5点の数がすべて同じなら、競技時間が短いライダーが上位となる。オールクリーン同志なら、ともかく早くゴールしなければいけない。
とはいえ、ラップを急いで減点を増やしてしまったらなんにもならない。オールクリーン争いになるということは、究極の神経戦になるということだ。1回の足つきも、致命的な敗因となる可能性を秘めていた。
ところが試合の流れは、意外の方向に傾いていく。最初は第3セクションだった。誰も足を出さなかった第1セクションとはちがい、その他のセクションはちょっとしたミスも出る設定だった。とはいえ、第3は14人の参加者中、8人がクリーンしている。そこで、なんということか、野崎史高が5点になった。出口の、彼らからすればなんということはないだろうと思われる岩に引っかかっての5点だった。
もちろん、まだまだ先は長い。しかし1点を争う神経戦が予想される中、この序盤での5点は痛い。しかし波乱は野崎だけでは終わらない。
次の第4セクションは、険しい岩が入口と中盤と出口と、3ヶ所に待ちかまえている。この中盤の難所でのことだった。前タイヤを岩にそって降ろしていた黒山のハンドルが切れ込み、そのまま岩と岩にはさまるように倒れ込んでしまった。5点だ。
優勝候補のふたりが序盤にして5点。第4までをクリーンしているのは、ガッチ、柴田、そして毅士の3人だけとなった。
オールクリーンの可能性のある神経戦といいつつも、鬼門はあった。それが第5、第6だ。第5は複雑な岩山の頂上に置かれたヒューム管に斜めから飛び乗り、滑り落ちることなく出口へ飛び降りるポイントが難関だった。こうなると、いきなり5点が多い。斉藤晶夫が3点で抜けた他は、のきなみ5点だ。
こんな中、毅士、黒山とクリーンが出た。柴田の2点も素晴らしかった。しかしガッチは、ヒューム管出口のゲートマーカーを飛ばして5点となった。これでガッチと黒山は5点一つ同士の同点となったが、しかしこの日は毅士が0点、柴田が2点と、さらに好スコアをマークしているライダーがいた。
続く第6。はたしてここをクリーンできるライダーは現れるのか、クリーンできずとも、抜けられるライダーがいるのか。次々に5点になっていくライダーたち。黒山がなんとか3点で抜け出たが、野崎も柴田も、ガッチも5点になった。毅士はここを3点で抜け出たが、それが毅士の初めての減点だった。ここまでの減点が3点だから、暫定トップだ。2位が柴田の7点、次いで黒山の8点、ガッチは10点で4位。野崎は15点で、斉藤晶夫の10点、野本佳章の12点に続いて、7位から追い上げを強いられることになった。
第7セクション以降は、トップグループにとってはクリーンセクションだった。こんな中、第7で1点、第10で5点を取った斉藤が上位争いから滑り落ちたが、野本までの上位6人はみな第7以降をクリーンして、1ラップ目を終えている。斉藤はこの間で6点を失って、7位に転落だ。
雨はまだ降らない。しかし空は少しずつ暗くなってきていて、いつ降り出してもおかしくない感じになってきた。雨量はそれほどではない予定だが、降ればコンディションが激変することは明らかだから、2ラップ目は大急ぎだ。
そんな中で、毅士と柴田は上位を守ることができるか、黒山、ガッチ、野崎はどこまで追い上げができるか。あわただしい2ラップ目は、ランキング上位陣が若手を追うという展開で進んだ。
鬼門の第5、第6以外の8つのセクションは、クリーンをして当然。第4までをクリーンした5人のライダーが、この日の勝利を争う権利を得た。毅士、柴田、黒山、ガッチ、そして野崎だ。この日の野本は好調だったが、それでも第2で1点、第4で3点を失って、野崎に5位の座を奪われていた。それでもまだ野崎と野本の差は1点でしかない。
ひとつめの鬼門、第5セクション。ガッチに解説してもらうと、ここは一発勝負のセクションだということだ。斜めに飛び乗るのが丸いヒューム管だから、行き過ぎれば向こう側に前タイヤが落ちてしまう。足りなければヒューム管に乗り切らない。ぴたりと合わせたとしても、わずかな狂いで失点することになってしまう。それでも、5点になるよりは少ない減点で抜けるほうが、だんぜんいい。
柴田は、絶妙すぎたか、少し勢いが足りなかった。足をついて修正しようとしている間に、マシンはヒューム管から滑り落ちていった。ばっちり抜けていったのは、ガッチと、野崎だった。1ラップ目にただひとりドンピシャのライディングを披露した黒山は、ヒューム管の向こう側に前タイヤが落ちる勢いだったが、そのまま飛び降りてアウトした。しかしゲートマーカーに接触していた。5点だ。トップを守りたい毅士は、ヒューム管の上で足を出して修正し、確実に飛び降りた。1点。ガッチと野崎のクリーンは見事だったが、毅士の1点はそれ以上に見事だった。
鬼門の二つ目。第6へ来たときの減点は、トップが毅士で4点、ガッチが10点、柴田12点、黒山13点、野崎15点、野本21点、斉藤22点。毅士が一人で好調だが、さすがにトップライダーは接近戦となってきている。
第5を一発勝負と評したガッチによると、第6は技術でクリーンが勝ち取れるセクション、ということだった。しかし、持てる技術をきちんと発揮して入口から出口までを走りきるのは、やはり並大抵のことではないようだ。
毅士、柴田と5点になり、野崎が3点。そしてなんと黒山が最後の最後で5点となって万事休す。ここをクリーンしていったのは、ガッチ一人だった。
暫定トップは、いまだ毅士だ。しかしいまや、ガッチとの差はたった1点になっていた。柴田はガッチと7点差、さらに柴田に1点差で黒山だが、野崎が黒山と同点の4位争いに加わってきていた。
1ラップ目を振り返れば、この先最終セクションまでは減点をするセクションはない。しかしこの頃、雨が落ち始めた。
2ラップ目、第7から最終までの4セクションをすべてクリーンできたのは、4人だけだった。ガッチ、柴田、野崎、そして野本だ。
最初に雨の洗礼を受けたのが毅士だ。第9の、コンクリートブロックから岩を越える最後のポイント。このコンクリートが雨でつるつるに滑っていた。一度失敗して、ラインを移したものの、それでも登れず、毅士はここでトップの座をガッチに受け渡すことになった。
そして最終第10セクション。ここは最後にコンクリートに飛びつくポイントがある。
「あそこで落ちるとはまったく考えていなかった」
と毅士。雨がグリップを奪っていたのか、毅士に油断があったのか、それはわからない。最後の最後にそんないたずらをするのも、トライアルというものだ。
これでついさっきまでトップだった毅士は、一気に4位まで滑り落ちることになった。ほぼ試合の大半を支配していて、最後の二つでいつもの4位に転落だ。
しかし最終セクションの雨が涙雨となったのは、毅士だけではなかった。なんと黒山もここを攻略できなかった。黒山は、10セクション2ラップの戦いを5位で終えることになった。トップのガッチとは13点差。すでに勝利の権利はない。
優勝の可能性のあるのは4人。10点のガッチ、17点の柴田、18点の野崎、そして19点の毅士だ。毅士が優勝するには、SSのふたつをガッチが5点になっていただかなければいけない。23点の黒山は、2位になれる可能性はあれど、ちょっと非現実的だ。
SS第1はテクニカルだった。ポイントは最後の飛びつきだ。黒山は、ここへ来るまでに減点をしていて、さらに2点を追加してしまった。SSのトライ順は2ラップを終えた時点で暫定順位だ。黒山の次は、4位の毅士になる。毅士は、2ラップ目終盤の悪夢を振り払うように、美しいクリーンをしてみせた。これで、後続が5点になれば、毅士の上位進出の望みはまだ残っている。
毅士の次にトライをした暫定3位の野崎は、最後のポイントを登れず、5点。毅士19点に対して、野崎が23点となり、毅士は暫定3位に返り咲いた。
次のトライが柴田。柴田はもう何年も、5位が定位置になってしまっている。しかしいっぽう、SSでは見事な走りを披露することが少なくない。5位脱出のチャンスのある今回、柴田はSSをどう走るのか。
しかして、柴田もまた、毅士と同様に華麗なクリーンを見せた。これで、柴田の表彰台は確定した。トライを残しているのは、ガッチだけだ。
さすがにガッチは落ち着いていた。ところが中盤から最後のポイントにマシンを進めるほんの一瞬、斜面でグリップを失った。最後のポイントは美しく抜けたものの、減点は3点だ。リードは変わらずガッチだが、柴田との点差が4点になった。すなわち、最後のSSでの逆転劇もありえる。優勝の権利があるのは、ガッチと柴田のふたりだけだ。
最終SSは第10セクションを手直ししたもので、2m近いコンクリートブロックに駆け登らなければいけない設定になっていた。雨はあいかわらず降っている。雨の降った第10セクションでも登れなかったライダーがいるのに、これを攻略できるライダーが出てくるだろうか。
しかし、ここでも結果はちょっと意外なことになった。黒山を6点差で追うかたちとなっていた野本が、見事にこの絶壁コンクリートをクリア。登ってから足が出てしまったが、このコンディションの中、攻略が可能だという実績を作った。
しかし野本は、どちらかというと高さのあるポイントが得意だ。続くライダーに同じことができるかどうか。
続いたのは黒山だった。ここで5点となっても野本に逆転されることはないが、黒山としては5位のまま終わってはならない。しかし黒山が狙えるのは、2点差の野崎との4位争いを勝ち取ることだけだった。
黒山の勢いは、野本には少し届かなかったようだ。ブロックにアンダーガードをかけて、2度、3度とマシンを送り出して、ようやくここをクリアした。クリーン。
しかしこの黒山のクリーンが、SS第2の最初にして最後のクリーンになってしまった。毅士、柴田、そしてガッチまでもが、このコンクリートブロックを攻略できず、落ちてしまった。
最終SSでは、4位争いの野崎と黒山に順位の変動があった。クリーンをしていれば初優勝だった柴田は、それでも初めての2位を得た。柴田の表彰台は、2011年以来の6年ぶり2回目。前回は3位で、マシンはホンダRTLだった。そして会場は、やはりこのわっさむサーキットだったのだ。
「長かったー」
柴田は開口一番、この6年間を噛みしめるように絞り出した。2011年の3位以降、柴田といえば5位。たまに5位でなかったこともあるが、それは6位とか7位とかで、5位より上位は北海道での表彰台以外には、4位が1回あるだけだった。それも2013年のことで、もう4年前になる。
SS最終セクションでは4点差。柴田のあとにトライしたガッチはSS第2を落ちたから、もしもこれをクリーンしていれば柴田は一気に初優勝だったことになる。ちょっとくやしい結果となったが、今日のところは初めての2位で大喜びしておくことにした。次は初優勝が乞うご期待。今度はあんまり待つことなく、その瞬間が訪れますように。
SSをふたつとも失敗した野崎は、3位表彰台から5位まで滑り落ちてしまった。序盤の失敗から2ラップ目の最後には3位まで順位を戻したところはさすがだったが、最後の最後に悔し涙を流すことになってしまった。
毅士は、開幕戦以来の表彰台を獲得した。それはめでたい結果だったが、この日の毅士は試合のほとんどを圧倒的にリードしていながら、クリーンセクションで2連続5点があって自滅していった。野崎の失敗で最後に表彰台まで順位を戻したものの、大きなチャンスを逃したことになる。強いていえば、この悔しさが4位の定位置から脱却するきっかけになればと期待しておく。
今回の3位表彰台で、毅士はランキング3位の野崎に追いつき、同点で並んでいる。3位の入賞回数は野崎の方が多いので、同点なら野崎有利だが、前回のガッチvs黒山よろしく、野崎vs毅士のランキング争いも、ここへきて振り出しに戻った。さらにこの二人に8点差で、柴田もランキング3位争いの仲間入りをしそうな終盤戦がはじまろうとしている。
今回、もっともくやしい結果を持ち帰らなければいけなかったのが黒山ではなかったか。感想を聞きに行けば、本人は「こんなもんでしょう」と明るく振る舞うが、第4セクションでの最初の5点、第6セクションでのつんのめるようなあわや転倒の3点と、フロントに裏切られるような失敗が目立った黒山。2ラップ目の第6では、後輪のグリップを失って頭から岩に飛び込むという、まったくらしくない失敗も見せた。黒山も野崎のSSでの失敗で5位から4位に浮上したが、SS第1をクリーンしていれば、表彰台に乗れていたところだったが、ここで2点を失ったのも、黒山らしくなかった。
前回までで同点に追いつかれたランキング争いは、これで一気にガッチの7点リードとなった。残り2戦。黒山が2連勝しても、ガッチが2位を守ればタイトルはガッチのものになる計算。今回の一戦で黒山の自力優勝は消えさった。状況はまったくちがうが、残り2戦に向けての黒山は、去年と同じような戦況になってしまった。去年はニューマシンの登場という特効薬があった。今回は、ちょっと傷が深そうだ。
2連敗から3連勝のガッチは、結果的には最高の北海道大会となった。終盤までリーダーになれない戦いだったが、ここでがまんができるのがチャンピオンの証だ。本人はまだまだまったく油断していないが、気の早いガッチファンはタイトルに大手がかかったと喜んでいる。
これでシーズン3勝目。この4連覇を見ると、ガッチは3勝か4勝しかしていない。3連勝はまだ3度目。2013年最終戦から2014年開幕2連勝をしているので、シーズンをまたいでの3連勝はあるが、シーズン中の3連勝は、2006年以来、10年ぶりだ。このときの3連勝も、北海道で締めくくっている。勝負は最後の最後までわからないが、流れが一気にガッチに向いているのは明らかだ。
6位に入ったのは野本佳章。最終SSを上がったのは見事だったが、あと5点で野崎の上に入るところだった。ランキングでは斉藤に2点差の7位だが、この6位争いは、今シーズンの新しい興味となっている。
その斉藤は「今回は完敗」と負けを認めた。1ラップ目終盤までは野本と接戦だったが、1ラップ目最終セクションで5点になると、流れを取り戻せずに7位独走となってしまった。しかし第6セクションを2ラップともに抜け出たのは毅士と斉藤だけだった。難所を確実に攻略して成長中の斉藤、野本とのランキング争いも含め、終盤戦が楽しみだ。
今回、2度目の8位を獲得したのがルーキーの久岡孝二。このルーキーは、ここまで全戦でSSに進出している。まだまだIASセクションを克服しきってはいない感じだが、トップ10入りは確実にしている。IA昇格1年目でポイントをとりあぐねていたことを思うと、IASの1年目は収穫の大きい久岡だ。ランキング争いでも8位の成田に1点差に迫ってきた。
9位は成田亮。開幕戦こそ12位とSSに進出できずで残念だったが、その後は6位入賞を含んで10位以内に入り続けている。今回は2ラップ目の減点がちょっと大量で、久岡に1点差での9位となった。
SSに進出した最後の一人は藤原慎也。SSは今回が2回目の進出、これでランキングで吉良佑哉を抜いて10位にあがっている。
残るは10月の中部大会と東北大会。全日本選手権は、いよいよ終盤戦を迎える。