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2017最終決戦は黒山健一が制す
2017年全日本選手権最終戦。会場はいつもの通りのスポーツランドSUGO。セクションも、だいたい去年と同じ。それでも戦いはいつも新しいドラマを見せてくれる。今年のSUGOは一日中雨が降っていた。観戦には厳しい条件だったが、おかげで、建築廃材がセクション構成物のほとんどという会場も、トライアルらしいマディコンディションとの戦いを演出してくれた。
晴れていれば、トップグループにとっては減点のごく少ない神経戦になっていただろう8セクション3ラップ。そんなに激しくはないものの、休むことなく降り続く雨で、コンディションは厳しくなっていた。それでも、降り続くことで、重たい泥が洗い流され、ライダーにとっては最悪の条件ではなさそうだ。
トップグループが減点をとるセクションは3つ。前半の第3セクションは、助走のないコンクリートブロックが鬼門となった。第8セクションは木の根の登りが難所だった。そして、走れば走るほど根っこが出てくる第9セクション。
このうち、第9セクションをクリーンしたのは、1ラップ目の小川友幸ただ一人だった。2ラップ目は、みんながもがいて木の根が浮き出て、とても厳しい登りになってしまっていた。黒山健一、野崎史高はアウトまでマシンを運んだもののタイムオーバー、3ラップ目はさすがにオンタイムでセクションアウトを果たした。一方、1ラップ目に見事なクリーンをした小川は、2ラップ目3ラップ目とここを抜け出ることができなかった。9セクションのみの減点を見てみると、黒山13点、野崎11点、小川10点で、結果順と逆のスコアになっているのがおもしろいが、このセクションが勝負を分けた感じではなさそうだ。
黒山は、第1セクションの大岩の下りで1点を失った。まだまだいくらでも取り返しはきくが、幸先よしとはいえない滑り出しだった。柴田暁はこのセクションでカードをはね飛ばして5点をもらう、たいへいな幕開けとなった。
最初の鬼門セクションとなった第3では、黒山、小川、そして小川毅士がクリーンした。野崎は1点。この時点で、ガッチ小川と毅士、二人の小川が減点ゼロ、黒山と野崎が1点で続いている。吉良祐哉の5点、これに続くは野本佳章6点、齊藤晶夫8点、岡村将敏10点、柴田暁11点となっている。第3を抜けたのはトップ4人だけだったが、2ラップ目以降にここを抜けられたのは、黒山と野崎、そして2ラップ目の柴田だけだった。
小川友幸の今回の敗因は、2ラップ目3ラップ目に第3を抜けられなかったことが大きい。1ラップ目はクリーンをしているものの、このセクションの攻略についてはいまひとつ確たる自信がなく、アプローチに迷いながらトライしていったという。ライダーの、そういう弱みが結果にダイレクトに出てくるところ、トライアルの奥深いところだ。
チャンピオン小川は、ここ数年、最終戦で勝利ができていない。タイトルは獲得し続けているから大局には影響がないのだが、シーズンの最後を負けで締めくくるのは、勝負師としてはおもしろくない。小川は今回3位となって、7回目5連覇の全日本チャンピオンとなったが、最終戦については4年連続で勝利を逃している。
今回、勝利に最も近い位置にいたのは、まちがいなく野崎だった。1ラップ目は小川友幸にわずか1点差のトップだったが、2ラップ目もトップをキープ。2位との差を5点として、安全圏ではないものの、野崎とSUGOの相性がいいことをあらためて見せつけていた。
この日の野崎は、大きな失敗なく戦いを続けていた。とあるセクションではテープが切れたりもしたが、オブザーバーの現認がないということで減点にはならなかった。実はそのテープは切れかかっていて、いつ切れるかと心配していたところ、野崎のトライ中に切れてしまった。風に吹かれて切れても不思議ではない感じだったし、あるいは発進の時に泥が飛んでテープを切ったのかもしれない。これなら減点にならない。野崎のタイヤがテープを切ったのなら5点だ。オブザーバーの視界の外でテープが切れたのなら、野崎のライディングによって直接切れたものではなさそうだが、勝てないときの野崎のパターンは、こんな状況で5点となって失速していく。今日の野崎は、流れも引き寄せている。
1ラップ目2ラップ目と5点になった第9セクションを3点で抜け、これが3ラップ目の初めての減点となった。黒山も、やはり3ラップ目の減点は第9が初めて。野崎も好調だが、黒山も終盤になって調子を上げてきている。それでも最終第10はトップライダーにとってはクリーンセクションだから、勝負はSSにもつれこんで、それでも野崎が逃げ切れる公算は高いと思われた。
ところが。
野崎は持ち時間が少なくなっていることに焦っていた。第8では、小川毅士が5点となってゲートマーカーが飛び散り、オブザーバーが崖の上まで這い上がって修復した。その間、野崎は気をもみながら待ち続けた。
野崎は黒山や小川友幸に先がけてトライしていたから、タイムオーバーとなるリスクは彼らと大差はなかったはずだが、彼らより先にスタートしているし数点のリードはタイムオーバーであっという間に帳消しになることを思うと、その焦りもうなずける。
「ぼくの焦りが、チーム全体の焦りになって、きちんとセクションが走れなかった。それで、減点を取るようなところではないところで前転してしまった」
最後の最後にきての波乱。黒山はもちろん最終セクションもクリーン。これで、野崎と黒山が19点で並んだ。小川はこの時点で31点だから、すでに小川の勝利はない。小川毅士は51点で、3位と4位はこの時点で順位が固まった。野崎と黒山のどちらかが勝ち、どちらかが2位になるはずだったのだが……。
減点が同一なら、クリーン数の多いほうが上位となる。クリーン数が同じなら1点の数、それも同じなら2点の数。もしも全部の減点が同数なら、競技時間の短いライダーが上位となる。これまでも、オールクリーン勝負だと想定される大会では、小川友幸などがそれを意識して早まわりをしていたこともあった。
今回の黒山と野崎は、同点のうえ、減点も同数だった。それならと競技時間を見てみると、なんとこれも同タイムだった。東北大会では、ゴールタイムの記録にタイムカード式の機械を使っている。競技役員が時間を読み上げて記録するのではないから、より客観性は高い。
同減点、それぞれの減点の数、競技時間が同じだった場合、それ以上順位を決める規則がない。規則がないのだから、もしもこのままSSでも勝負がつかなければ、優勝が二人となる可能性も出てきた。ただし暫定処置として、SSの走行順についてはくじ引きで決めることになり、SSでは黒山が先、野崎が一番最後を走ることになった。
ふたつあるSSは、どちらもむずかしいものだった。SS第1は第8セクションを手直ししたもので、SS第2は去年も使われた巨大タイヤを次々に攻略していくものだ。
SS第1は、最後のポイントまで届くライダーがごくわずか。そんな中、小川友幸が3点でここを抜けて、チャンピオンとしての意地を見せた。同時に、残る二人がよりよいスコアでここを抜ける期待も生まれる。
先に黒山。黒山は小川の抜けていった最後のポイントまで、スムーズにマシンを走らせてくるも、最後のポイントで突然マシンが下に向かってしまい、オブザーバーに衝突して止まった。オブザーバーの後ろにはお客さんもいたら、オブザーバーが身を挺して黒山を止めたかっこうで、黒山もまた、きっちりマシンをコントロールして、オブザーバーにあたるかあたらないかでマシンのスピードを殺してきた。失敗の5点ではあるが、見事な失敗ぶりだった。
続く野崎も5点。勝負はSS第2に持ち越された。
SS第2は濡れて滑るタイヤをどう越えていくかが肝だったが、最後に配置された直立したタイヤまで届かず、途中のタイヤで滑り落ちて5点となるライダーばかりだった。5点となった野本佳章がその後直立タイヤにトライしてクリアしていたから、去年の難関だった直立タイヤは、今年は置き石があって、充分走破可能な難度になっていた。しかし、そこまで到達しないのだから、しかたがない。
小川毅士、小川友幸と5点。優勝争いは決着がつかずかと見るものが思い始めた頃に黒山がトライする。果たして黒山は、プロローグのタイヤを越え(ここまでは誰でも越える)ふたつある難所のタイヤを美しくクリーンした。これは、初の走破とともに初クリーンかと思いきや、直立タイヤのアプローチでわずかにラインを乱して左にそれ、足を出してマシンをタイヤの上に引き上げて脱出した。1点。
惜しくもクリーンはならなかったが、それでも堂々たる1点。これは野崎には大きなプレッシャーだった。1点なら同点、単独トップに出るには、クリーン以外にはない。
「アプローチのラインも迷ったけど、健ちゃんのラインが結果的に正解だったのかもしれない」
と野崎はくやしがる。野崎は黒山や小川にSSで逆転されることも一度ならずあって、どこか苦手意識もあったのかもしれない。野崎の5点で、2017年最終戦は、劇的な逆転劇で黒山健一が4点リードで勝利となった。
「今日は、なんにもありません。調子がよかったわけでもなく、かといって悪かったわけでもなく。マシンがぼくの思った通りに、ふつうに走ってくれたという、それだけです」
黒山の勝利のコメントは淡々としていた。1年の最後の勝利はうれしいが、タイトルを逃しているのだから、満面の笑みというわけには行かない。
黒山は、中部大会で起用したマシンを引っ込め、北海道まで使っていた初代マシンを本番車に選んでいた。このマシンは、9月にヨーロッパに遠征に出かけ、トライアル・デ・ナシオンを走り、中部大会のあとに日本に帰ってきたものだ。
なにがちがうのかわからないが、こっちのマシンの方が調子がいいという。ほぼ同じパーツを使って、同じように組み上げたものの調子がちがうというのだから、奥は深く、むずかしい。
今回の黒山はぎりぎりの勝利だったが、マシンが走れば、まちがいなく優勝争いをするという確認ができたのは、タイトルを逃した2017年最後の収穫となった。
2017年シーズンは、結局小川友幸4勝、黒山健一3勝で幕を下ろした。小川は5連覇7回目のタイトルを獲得。しかし5連勝はできなかった。ランキング3位の野崎は今シーズンは未勝利。それでも後半戦の2戦は、完全に優勝争いの末の惜敗だった。勝利につながらなかったのは残念だった。
小川毅士は2度の3位表彰台があり、一時は野崎に同ポイントまで追いついたものの、最後は8ポイント離されてのランキング4位だった。
柴田暁は自身初の2位入賞があったが、最終戦は6位となってしまってのランキング5位。ただ、2位になった北海道以降、結果はともかく、走りに自信が見えてきたように思えるので、来たるシーズンを楽しみにしたい。
さてランキング6位争いは、今回の注目の戦いだった。野本と斎藤晶夫が、同ポイントで並んでの最終戦となったのだ。最終戦の野本は好調だった。1ラップ目にして、柴田に10点差の5位。その後差を縮められるも、同点クリーン差で5位入賞を果たした。斉藤は7位で、ランキング6位争いの決着も野本の勝利となったのだった。