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黒山健一、またまた勝利
全日本選手権第6戦中部大会は、10月11日に愛知県岡崎市キョウセイドライバーランドで開催された。
通常の12セクション2ラップを終えたあと、3セクションのスペシャルセクション(IASのみ)を催すなど、大会主催の意欲が強い中部地区。告知や動員も順調で、公式発表2400人のお客さんでにぎわった。
国際A級スーパークラスは黒山健一があぶなげない勝利。2位には指の不調をひきずる小川友幸。3位には復調傾向の渋谷勲が入った。
国際A級は野本佳章が自身2勝目。タイトル争いでリードする藤巻耕太は2位となった。3位は岡村将敏。
国際B級は山本直樹が順当勝ち。しかし試合終盤までは松岡一樹がトップを守っていて、薄氷の勝利だった。山本はこれでデビュー以来5連勝。
■国際A級スーパークラス
12セクションを2ラップ、そして国際A級スーパークラスのみ、その後に3セクションのスペシャルセクションをおこなうという中部大会ならではの取り組み。スペシャルセクションは、見た目にダイナミックな設定が特徴で、しかしここで逆転劇が起きることもある。まずは12セクション2ラップの、通常の競技が選手たちの最初の腕の見せどころとなる。
第1セクション、第2セクションと、どちらかというと細かいテクニックが必要な設定。野崎史高が第1で1点をつけば、黒山健一は第2で1点。渋谷勲はその両方で1点と、序盤は混戦模様が予想された。
こんな中、小川友幸とルーキー柴田暁は黒山とともに第1をクリーンした数少ないライダーだったが、第2で柴田は3点、小川は5点をとってしまった。第2セクションまでの時点では、黒山と野崎が1点、渋谷が2点、柴田が3点と小川友幸が5点で上位5人を占めていた。いつもとはちょっと並び順がちがう。
小川友幸は、前回中国大会の練習中に痛めている指に致命的なダメージをうけ、そればかりか、これまでも苦しいシーズンを送っていたことが明らかになった。中部大会、東北大会は大事をとって欠場する可能性も否定しなかった小川だが、テーピングを施してこの大会に参加。もちろん支障はあるが、トライには影響のない状態で大会に臨めたという。それでも、第2、第4で5点となるなど、やはり小川本来の走りとはなにかがちがうようだった。
一方、これでもかというほどに調子に乗れないのが小川毅士。調子は悪くなく、応援団もかけつけているというのに、スコアカードには5点と3点と1点が並び、9セクションを追えてクリーンがゼロ。ルーキーの柴田にこの時点では11点差と大差をつけられていた。
野崎史高も、また波に乗れない。第2セクションでは、ただ一人クリーンをたたき出して気を吐いたが、次の第3で5点をとると、2点5点と減点し始めて、黒山を楽にさせてしまった。
こんな中で、さすがに黒山は横綱相撲を見せる。しかし序盤は、本人にいわせれば集中ができていなくて、クリーンをしながらもいやな戦いだったと言う。1ラップ目の終盤あたりからはいきなり本来の走りができるようになって気分よいトライが戻ってきたという。ただし見ている限りは、前半から圧倒的強さを見せつけていた。傍から見える圧勝ぶりにもっていくために、黒山には黒山の苦労があるということなのだろう。
2ラップ目に入って、黒山の強さはますますきわだった。12セクションをたったの2点。2ラップあわせて10点は、2位小川友幸の1ラップの減点よりも少ない。完全なワンサイドゲームだった。黒山の12セクションでの5点は一つだけ。ヒルクライムの第9セクションで、スピードをのせられずにあがりきれなかったものだ。「完全にミス。2ラップ目にクリーンをしたので、まぁよしとします」とその失敗を認めている。試合結果に影響がなかったから、一つ二つの失敗は起こりうると余裕だ。
黒山のスペシャルセクションは、ひとつ5点があった。テープの外に飛び出して、本人も苦笑いの5点だった。実はひとつめのスペシャルセクションを終えたところで、黒山と小川友幸の点差は17点に広がっていた。残り二つを連続5点としたところで、黒山の勝利は確定している。どこかに、そんな安心感があったのかもしれない。「でも、恥ずかしかったですね」と、黒山は振り返った。
小川友幸は、序盤はともかく、最後は思うように動かない腕との戦いだった。痛めているのは指だが、その指をかばって動くから、腕が全体的に疲労してくる。「腕をつったりするのは今までにもあったが、いうことをきかないというのは初めての経験だった」と苦しい戦いを振り返る。2ラップ目後半から苦しくなり、スペシャルセクションのひとつめは、その最たる状況で迎えたのだという。
チャンピオンシップでの黒山とのポイント差は15点。黒山が10位でポイントを獲得すれば、小川が勝利してもタイトルは黒山へ渡る。ほぼ事実上、タイトル争いは決着したといっていい。
その小川友幸に、前回4ポイント差まで詰め寄ったのが野崎だった。しかし今回の野崎は4位。それも、5位の小川毅士と減点7点差まで迫られての4位だった。「キョウセイは苦手ですね。なにが苦手なのかわからないけど、結果を見ても、どうも苦手です」と、今回の野崎は、舞台を早く最終戦SUGOに移したいかの様子。SUGOは、野崎がこれまでに2度勝利した“特異な”会場だ。
小川友幸と野崎の選手権ポイント差は再び7点となった。7点という点差は、開幕戦で小川友幸が勝利し、野崎が4位になったときのポイント差そのまま。以後の4戦は、このふたりは完全にシーソーゲームをしているということになる。
小川友幸と野崎の間に割って入ったのが、渋谷勲だった。第6セクションまでは黒山に1点差で好調を維持していたから、あるいは勝利争いをする期待もあったのだが、ヒルクライムセクションで連続5点となってやや失速。小川友幸に2位の座を奪われてしまった。
それでも渋谷は「練習通りの走りができているし、マシンも自分にあったものができあがっている。いつも同じ顔ぶれを勝たせるのじゃなく、ぼくらがもっとがんばらないとね」と確実に感触をつかんでいる。
5位に入った小川毅士は、今回はさんざんだった。2ラップを終えた時点では、柴田暁と同点(手元の集計では、5点負けていると伝えられていたらしい)。柴田はチームメイトではあるが、ここで負けては具合が悪い。それで奮起したのがスペシャルセクションだった。この3セクションをクリーンしたのは、小川毅士、ひとりだけだった。時間ギリギリでみんながトライするスペシャルセクションでは、小川毅士は3分のタイムオーバーをもらってしまったが、それでも柴田を逆転するには充分な活躍だった。
毅士に負けはしたが、今回の柴田は見事だった。渋谷が登れなかったヒルクライムの第7セクションを登りきり、2ラップめにはクリーンすらした。トップライダーが足をついたり5点になっているところを抜けているというパターンは、今回の柴谷は珍しくなかった。
結局スペシャルセクションの派手な設定の前に6位となったが、IAS最年少のこのライダーは、もっとのびてくる可能性ありだ。
7位に尾西和博、8位に今回は(地元なのに)いつもの走破力を発揮できなかった田中善弘、9位に斎藤晶夫(勉強しすぎらしい)、10位に猛烈な早まわりだった三谷英明、11位に西元良太となった。
IASでは、10位までポイントが獲得。次回黒山は、5点とればタイトル確定。5点とは11位相当のポイントだが、11位ではポイントが与えられないから、完走しただけではタイトルはとれず、10位以上に入る必要があるということになる。もちろん黒山本人は、そんな低いレベルの目標については、まったく計算していないにちがいない。
■国際A級
いつも神経戦の国際A級。今回も優勝は2ラップを通じてたったの6点だった。勝ったのは野本佳章。1点が4つと2点が一つというパーフェクトな勝利だった。
野本は、どちらかというと、難セクションを独特のラインで駆け抜けていくというパターンが印象的だ。今回のセクションは、点数的には野本向きとはいえないのだが、それでも「ダイナミックでもあり、トライアルらしいむずかしいところもちゃんとあり、いいセクションでした」というとおり、結果的には、野本が楽しんで走れる設定になっていたようだ。
「本人はまったくそう思っていないんですけど、2ラップ目や3ラップ目になると、セクションをなめてしまうみたいな感じがあって、それで失敗することが多いんです。だから毎回新しいセクションに挑むような新鮮な気持ちで走れるようにすればいいんです」。そういう点では、2ラップという試合形態は、野本向きなのかもしれない。「今日は最初から、というかきのうのうちから勝ちを意識していました」と自信もあったようだ。これで2勝目。「ちょっと少ないですね」と3勝目に向けて思いを新たにする。
ランキングトップの藤巻耕太は今回は2位。順調にポイントを積み上げていて、最終戦SUGOで4位に入ればライバルの動向に関わらずタイトルを決定する。ただ、第2戦で勝利して以降、4位5位2位と勝利に逃げられているのがくやしいところだ。
優勝、そして2位と、前回まで藤巻を猛追していた小野貴史は、今回は8位と低迷してしまった。これで小野のタイトル獲得は絶望的に。かわって、ランキング3位には1戦を欠場し、今回も発熱と戦いながら走りきった小森文彦がランキング3位に浮上している。
若手の滝口輝が久々に11位で、九州の西和陽も九州以来、ベテラン村田慎示は開幕戦以来、そして藤原慎也は自身初のポイントを獲得している。














左上から、2位藤巻耕太、3位岡村将敏、4位小森文彦、5位成田亮、6位本多元治、7位寺澤慎也、8位小野貴史、9位徳丸新伍、10位宮崎航、11位滝口輝、12位佃大輔、13位村田慎示、14位藤原慎也、15位西和陽
■国際B級
開幕戦から負け知らず。山本直樹はまたしても勝利した。
とはいえ、楽な試合ではなかった。1ラップ目に3点3つとほんの少し減点が多かった山本は、2位で試合を折り返した。いつものペースなら、2ラップ目に確実に減点を減らして勝利を呼び込むのだが、第2、第4と5点となってしまって万事休す。チームミタニのチームメイト、関東の松岡一樹にリードをとられたまま、試合は終盤戦を迎えた。
ここで松岡が痛恨のミス。第9で5点となってしまったのだった。山本はここをクリーン。これで試合はひっくり返り、たった2点差ではあるが、山本の勝利が決まった。
それにしても、山本の落ち着きは目を瞠るものがある。途中でひっかかり、セクションの持ち時間が残り少なくなる中、マインダーのお父さん(山本弘之さん、かつてのトップライダー)が焦りを殺して10秒9秒と指示を出しても、ゆっくり確実にマシンを引き出し、残りコンマ何秒でセクションアウトしていく。「見ているこっちがあわててしまう。もっとあせろと言いたくなる」とお父さんもぼやき節。
山本と松岡、ふたりの若手ライダーは、しかしその乗り方のスタイルはまったくちがう。今風のライディングの松岡に対し、山本はクラシックなスタイルだ。お父さんの弘之選手は当時とすれば新しいタイプのライディングをしたもので、しかも山本は自転車トライアル出身なのだが、ライダーのスタイルの誕生は、なかなか秘密めいている。
3位は関東の佐藤優樹が初表彰台となった。前回初出場で3位となった宮本竜馬は(山本に輪をかけてクラシックなスタイルで走る)今回は9位となった。














左上から、2位松岡一樹、3位佐藤優樹、4位真田啓行、5位椎根弘守、6位紺野賢二、7位中田幸佑、8位新井佑典、9位宮本竜馬、10位橋口智彦、11位岩見秀一、12位大西貴、13位吉良祐哉、14位安岡護、15位平井賢志
■エキシビジョン125
13歳、磯谷玲が中国大会に続いて2回目の出場。前回は国際B級22位相当で、あとひとふんばりで国際B級のポイント獲得ができるところまできていた。今回は地元での大会とあって期待されたが、結果は54位相当とだいぶ落っこちてしまった(ちなみに、中国の大ベテラン河野選手にクリーン差で負け、唯一の女性ライダー長谷山選手に4点差で勝っている)。
まだまだ将来が楽しみな選手だから、今のうちに国際B級にもまれてほしいところ。
それにつけても、このクラスへの参加者がいつまでたってもたったひとりであること、それに対してのサポートがほとんど見られないことなど、日本の将来はどうなってしまうのだと、このクラスを見るといつも思います。よいコンセプトなんだから、しっかり育ててください。お願いします。