© トライアル自然山通信 All rights reserved.

黒山健一、快勝の2018開幕戦。ライバルは不調に沈む
2018年3月11日、全日本選手権開幕戦は、例年通り茨城県桜川市真壁トライアルランドで開催された。
セクション難度は高め。各クラスともアグレッシブな設定だったが、大きなけが人はなく大会は終了した。
IASの勝利は黒山健一。黒山はフレームが進化したFIエンジンのTYS250Fiに乗った。2位にはV6を目指す小川友幸。3位には昨年黒山が乗ったTYS250Fiに乗ることになった野崎史高がはいった。
IAは山崎頌太が初優勝、レディースは西村亜弥が圧勝、IBは中村道貴がこちらも初優勝を果たした。
今回は、第1セクションから難セクションが続いていた。第1セクション、クリーンをしたのは二人だけ。なんと小川友幸(ガッチ)、小川毅士(毅士)が5点となった。野崎史高が1点。クリーンをしたのは、黒山健一と柴田暁だけだった。
続く第2セクション、ここでもふたりの小川は5点となった。今度は野崎も5点。柴田が1点、黒山だけが2連続クリーンをして、序盤2セクションにして、黒山がガッチに10点差のリードを築くことになった。
今回のセクション群は、これまでに使われたことがないエリア、ラインが多く、走る側にも見る側にも新鮮な印象を与えていた。第3セクションには、身の丈の倍ほどもある大岩が出現。きっかけ石が接地されているからトップライダーにとっては攻略は容易だったかもしれないが、豪快さは抜群、そしてなかなかスリリングだ。このセクション、2ラップともにクリーンしたのは、ゼッケン1から3のトップ3と、ルーキーの氏川政哉の4人だけだった。
二人の小川はここで初クリーンをしたが、黒山も連続クリーンを続けている。次の第4では、黒山と二人の小川がクリーンをした。野崎、柴田が5点となって、勝負は早くも混とんとしてきた。第4セクションまでの減点を計算してみると、トップが黒山で減点ゼロ、2位柴田は減点8、ガッチと毅士が減点10、野崎11、野本佳章と岡村将敏が13点で続く。
今シーズンは、ヤマハに勢いがある。ファクトリーチーム契約が黒山健一一人というのは変わらないが、セカンドの野崎史高も今シーズンはTYS250Fi、フューエルインジェクションマシンに乗る。細かく見ると、黒山のマシンはフレームが進化した2018年モデル、野崎が乗るのは昨年黒山が乗ったモデルだ。この他、今年は久岡孝二がVictoryチーム入りをして同じくヤマハに乗る。久岡が乗るのはキャブレター仕様のTYS250Fだが、いずれ、3人ともFiに乗ることになるのだろう。ニューマシンを開発のためには、ひとりよりふたり、ふたりより3人、ライダーが多いほうがデータが多く得られて、進化が早いはず。参戦形態は3人それぞれちがうのだが、3人が同じマシンに乗ることになる日は、そんなに遠い日ではないだろう。
野崎は、しかし今回の大会直前まで、マシンが届かずにいた。エントリーをした際には野崎のマシンはシェルコとなっていたくらいで、Fiに乗ることになったのは本当に直前だったとのこと。以前乗っていたマシンの進化型とはいえ、全日本のトップを争うには、あまりに準備期間が短すぎた。それでも、野崎は果敢に新しい相棒を乗りこなしていく。1ラップ目、野崎は毅士に1点差で4位に甘んじていたが、今回の結果は、これが始まりとなるはずだ。
久岡は、IASに昇格してから、初めて10位以内を逃す結果となった。しかし今回は、17人中5人がオール5点という厳しい勝負(つまりエスケープして早く帰ってくれば、13位にはなれたという残念な結果)。あとひとつ、どこかを3点で抜けていれば結果はちがっていた。ヤマハブランドに乗る3人の2018年は、それぞれに楽しみだ。
さて、その後のセクションも難所続き。第5セクションは、結局誰一人として走破できず、2ラップを通じて全員が5点となった。第6も、1ラップ目は毅士が3点で抜けた以外は全員が5点。序盤、クリーンを連発して好調な滑り出しだった黒山も、結局4連続クリーンのあとは第9でクリーンしたのみで、他は細かい減点を繰り返して1ラップ目を終えている。それでも、2位のガッチにはダブルスコアで大差をつけている。
ガッチは、今回は足首を痛めていて手負いの参戦となっていた。負傷自体は回復に向かっていて、もう7割方なおっていというが、足首を守るために動きを制限しているので、それがライディングの精彩を欠くかたちとなって現れていた。序盤、第1、第2の連続5点は痛い結果となったが、それがなくても黒山には追いつかない計算だから、この日のガッチに勝利の権利はなかったのかもしれない。
逆に言えば、ガッチが3位以下に落ちる可能性も大いにあった。この日、なんとか実力を発揮したといえるのは上位陣では黒山だけで、ガッチを打ち破るべきライバルはみなそれぞれに調子に乗れないでいた。チャンピオン争いの鉄則は、勝てるときには勝ち、勝てないときには確実に2位を確保すること。その点、この日、勝つ権利のなかったガッチは、ライバルの不調に助けられて守るべき2位を確保した。その流れを生み出すのも、チャンピオンのパワーにほかならない。
3位争いは熾烈だった。毅士、野崎、柴田の1ラップ目は38、39、42とまず僅差。しかし2ラップ目、ゼッケン順、経験順に点数が離れ始めていく。野崎はマシンの完熟が足りないが、毅士は結婚を発表したばかり、柴田は昨年の2位から次はもう一つ上へと、意気込みは大きいが、それでうまくことを運ばせてくれるほど、トップ3の上位陣はお人よしではない。
こんな表を作ってみた。トップの5人の12セクション2ラップで、2ラップを通じてクリーンができたセクションの数、一度もクリーンができなかったセクションの数、そして一度も走破ができなかったセクションの数を並べてある。
Rider | 一度でも クリーンできた セクション数 |
一度も クリーンできなかった セクション数 |
一度も 走破できなかった セクション数 |
クリーン数 | 5点の数 |
---|---|---|---|---|---|
黒山 健一 | 10 | 2 | 1 | 12 | 5 |
小川 友幸 | 6 | 6 | 2 | 8 | 7 |
野崎 史高 | 3 | 9 | 4 | 5 | 10 |
小川 毅士 | 4 | 8 | 4 | 4 | 9 |
柴田 暁 | 3 | 9 | 5 | 3 | 15 |
野本 佳章 | 0 | 12 | 7 | 0 | 16 |
一度でもクリーンできたセクションと一度もクリーンできなかったセクションの数を足すと12になるのだが、黒山の走破性が際立っていることと、この表がほとんどリザルトの傾向と一致しているのがわかる。野崎と毅士については、毅士の方がスコアがいい面もある。これは今回の野崎が苦戦を強いられたということか、実は毅士は見た目や本人の印象よりも、もう少し調子がよかったのかもしれない。結果は、試合をまとめるのがうまい順に順位がついたわけだ。
12セクション2ラップを終えて、この時点で黒山はガッチに17点リード。勝負は決まった(正確にはまだリタイヤの可能性だってあるのだが)。ガッチと野崎の点差もまた17点。1位と2位は順位が確定的となった。
3位争いは、野崎と毅士が4点差で、ここには逆転の目がある。6位の野本佳章と7井岡村将敏は7点差で、ここも逆転の可能性はなくはない。岡村以降、10位までは4点の中に4人がひしめいているから、SSを抜けられれば順位をひっくり返すチャンスではあった。
しかし今回のSSは、通常セクションにも増してむずかしく険しかった。ヒルクライムは前人未到で、先に走る面々の不利は隠せない。走破の可能性は、やはりトップ5のトライ順になってからだった。SS第1のポイントは2本のヒルクライム。1本目をきれいに抜けた柴田は、しかし2本目につかまって5点。毅士、ガッチは、足をつきながらのトライになったが、見事マシンをアウトまで運んだ。ここで毅士との勝負がかかっている野崎は、さらに美しいトライっぷり。たった1点でここを抜けて、毅士との点差を6点に広げた。これで3位争いは事実上決着した。
SS第2では、柴田が最初に頂点まで走破。毅士、野崎、ガッチと5点になったあと(ガッチは出口まで1mでつかまった。本当に惜しかった)黒山が渾身のトライっぷりを見せた。下から上まで一気に駆け上がり、減点はたった1点だった。
2ラップ目にクリーンのできるところでふたつの5点を喫した黒山は、それゆえに今日の試合は満足いくものではないと語った。幸先のよい開幕戦勝利も、今日の勝負は今日で終わり、と喜びも控えめだ。そこには、昨年、開幕2連勝を飾りながらその後の流れをひっくり返され、ガッチにV5を許した苦い思い出を繰り返すまじという強い思いがあった。
2位のガッチはあやうかった序盤の戦いから、最後にはしっかり2位をキープできたことで、まずまずの戦果。次のラウンドでは負傷が完治する予定で、ガッチの巻き返しはそこから始まることになりそうだ。
いつもの定位置になった3位野崎、4位毅士、5位柴田は、定位置から脱出できなかったくやしさと、戦い方によっては定位置からも脱落しかねなかったから、この順位を得たのは安堵でもあった。定位置を打破して上位を目指したい面々だが、油断をすればその定位置さえおびやかされる戦いが繰り返されれば、きっと全体にレベルアップにつながっていくにちがいない。
野崎は乗り慣れないマシンで昨年と遜色ない走りを披露していたし、毅士、柴田も、うまくいったときの切れのある走りは見事だった。その切れは、一段と磨きがかかっているように思える。失敗されなければ結果はがらりとちがうはずだが、トライアルには失敗もまたつきもの。失敗をどう減らしていくか。そこが一番むずかしい。
6位は野本佳章。去年のランキング争いのライバルだった齊藤晶夫が今回は9位で、野本は単独6位での戦いとなったが、トップ5に迫る走りを見せるシーンもあったから、これからの戦いが楽しみだ。
7位は大金星、岡村将敏。毎年、真壁だけは10位以内の結果を残しているから、今回もがんばりたいと話していたが、それ以上のポジションを得て真壁の主の貫録を見せた。
8位の氏川政哉も、ルーキーながらにがんばった。きっかけから巨大な大岩に飛びつく第3セクションを2ラップともにクリーン。クリーン数だけで見れば、柴田に次ぐ6位ということになる。
本領発揮にはほど遠い齊藤が9位となり、第2から第4までを確実に抜け出た藤原慎也が10位となった。
ヤマハマシンで初めての全日本となった久岡が11位、ルーキー平田雅裕が12位。平田は第3セクションを3点で抜けた後の第4で負傷して、以降は申告5点ばかりだったのだが、この3点が効いて12位を得た。13位以降はオール5点で、試合時間だけで勝負が決まった。15位まではポイント獲得圏で16位以降は無得点だから、ルールとはいえ、試合時間だけで勝負がついてしまうのは不思議な印象だ。結果論だが、今日のセクションは走破不可能だと思ったら、第1セクションから全部申告5点のタイムレースを企て、それに勝利すれば上位につくことになる。今回は、たまたまの結果と思いたい。
■国際A級■
IAもセクション難度は高めだった。ただしIASとちがって、こちらはオール5点にはならず、おおむね勝負は減点数とクリーン数で決着した。同点の場合は、最後の最後は試合時間で決し、それでも同タイムの場合のみ同順位となるのだが、今回は下位にいたるまで同順位なしの結果となっている。
優勝争いは60点強の勝負となった。平均すると、1セクションあたり2.5点となるから、やはり難易度は高い。
1ラップ目のトップは、IA昇格2年目の武田呼人。一昨年IAチャンピオンになった久岡孝二(当時はチーム三谷)はIA昇格2年目での快挙だったから、同じく武田も先輩を追いたいところ。しかし武田は2ラップ目に7位。初優勝はお預けとなった。
代わって2ラップ目にトップスコアをマークしたのは大ベテランの本多元治。本多が2ラップ目にマークした27点は、この日のベストスコアだった。しかし本多は1ラップ目が6位。武田より10点多い40点で、この1ラップ目が響いて追い上げむなしく勝利はならなかった。
そして勝利は山崎頌太。2013年にGC大会で3位(1位は氏川湧雅、2位久岡孝二)となってIBに昇格した山崎は、2015年には7戦中6勝してIAに昇格した。IBでは1年目に苦戦をしたものの、2年目に真価を発揮した。そしてIAでは1年目、2年目と確実に上級クラスを自分のものにして、今年は3年目。その緒戦での勝利となった。
走りっぷりは完璧ではなかったと不本意な表情もあった山崎だが、絶好調でなくこの成績なら今シーズンは期待できる。
2位には、その山崎がGC大会で勝利した際にアシスタントを務めていた田中裕人。IASも走っていた技術派のベテランだが、久々の戦いでこのポジションはすごい。本多が3位、武田はポジションを落としたものの4位と、これまでの自己最上位を確保した。5位以降はベテランが続き、12位に池田蓮(2017年IA昇格)、13位に#01ルーキーゼッケンをつける山中悟史の若いライダーがはいっている。
■レディース■
参加は5名。残念ながら、昨年ランキング3位の小谷芙佐子が靭帯損傷の療養中で欠場、代わって昨年中部大会でデビューした山中玲美が加わっての顔ぶれだ。
今回のセクションはレディースにとっては難セクションで、第1セクションを3点で抜けたのは西村のみ。その西村もクリーン数はたったの4つで、3位以降はクリーンゼロだった。
2位は小玉絵里加。山中は小玉に16点差の3位表彰台に立った。山中と、4位佐々木淳子は3点差、佐々木と5位寺田智恵子は5点差。セクションをアウトした数は、西村が13(8セクション2ラップ=16)、小玉11に対し、山中4、佐々木4、寺田1(寺田の唯一の走破は1点だった)だった。
■国際B級■
このところ、GC大会で活躍した若手が開幕戦から本領を発揮するパターンが続いているが、今年もまた、GCで勝利した宮澤陽斗が1ラップ目にトップを奪った。宮澤は宗一音響ワイズベータチーム入りをして、IBチャンピオンを獲得した山崎頌太の弟分としてがんばる。今回の宮澤のゼッケンは68で、スタートはずいぶんと早い。そんな中、第1セクションでは早いトライをしてクリーン。その後、トップライダーにいたるまでここをクリーンしたのは宮澤を含めてたった二人だったことを思うと、宮澤の技が光る。
しかし2ラップ目、若い宮澤にちょっとほころびが出た。1ラップ目の倍近いスコアとなってしまって、初優勝はならず。それでも宮澤は6位にはいった。
代わって2ラップ目に4位からトップに浮上したのは、中村道貴だった。中村は、山崎頌太といっしょにGC大会を戦ってIBに昇格、なかなか全日本に集中する環境が作れずにいたが、今年はできる限り全戦に参加するという。2位とは2点差。同点となることを警戒して、最初から早回りをしていたという。
2位にはいったのは、沖縄からの冨名腰慶亮。3位はベテラン山森篤志、4位米田悟、5位小野田瑞希、6位宮澤陽斗と、入賞者は彩り豊かとなった。