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黒山パーフェクトチャンピオン
黒山健一が、2009年全日本選手権最終戦で勝利、同時に2009年全日本チャンピオンを決定した。チャンピオン争いのライバル小川友幸は3位。両者の間には、最終的に20ポイントの差が残った。
2位は野崎史高。SUGOで2勝を挙げている野崎だが、序盤こそ黒山をリードしたものの、中盤以降、追い上げが聞かず、逆に点差を離されての2位となった。
国際A級は野本佳章が2連勝。しかしポイントリーダーの藤巻耕太もしっかり2位に入ってタイトルを決定した。
国際B級は山本直樹がシリーズ全勝優勝で前回決定したチャンピオンに花を添えた。
エキシビション125は、中部の磯谷玲と関東の大上和輝の2名が参加。若者による125ccでの切磋琢磨は、まだ全国的ムーブメントにはなっていないが、歩みは遅いながら、一歩ずつ進化していると思いたい。
黒山健一は、今シーズン幾度も見せつけられた圧勝ぶりで、最終戦も見事な勝利を飾ってタイトル獲得に色を添えた。
しかし今回の黒山は、圧勝の中でも圧勝。数値的に見ても、黒山の4点に対し、2位の野崎は21点。その差、5倍にもなる圧倒ぶりだ。走りを見ていても、落ち着き払ったライディングといい、他を圧倒していたといっていい。
結果表を見れば、黒山の他には野崎が、全セクションをクリーンした実績を持っている(1ラップめに唯一5点となった第7セクションは3ラップ目にクリーンした)。しかしその余裕はといえば、数値以上に大きな差が見てとれた。
黒山の減点は、1ラップ目に2点、2ラップ目3ラップ目はそれぞれ1点。1ラップ目の2点は、わずかに焦ってしまって足を出してしまっての第6セクションでの2点。長くてドロドロ、どこで足が出てもおかしくないセクションだったから、失敗して2点というのはそれだけで黒山の調子のよさを現しているともいえた。
この第6セクションまでは、黒山と野崎がふたりだけすべてクリーンしてきていた。ここで野崎がクリーンして、トップは野崎、2点差で黒山が追う展開となったのだが、それもつかの間、次の第7セクションで野崎が絶壁を登りそこねて黒山がクリーン。これで1ラップ目の流れは黒山のものとなった。ここではまだ3点差だったけれど、戦いぶりを見ると、この3点差は限りなく大きな点差に思えた。黒山はほんの少し注意深く第6を走ればクリーンができそうだし、野崎が第7をクリーンできるかどうか、さらにいえば5点にならないかどうかは、2ラップ目を走ってみなければわからない……。
過去、黒山がこんな風に強そうに試合を進めたことは何度もある。そのまま勝利することもあったし、しかし途中からペースを崩して勝ちそこねることもあった。黒山といえど、完璧にミスを殺すことはできないし、そんなミスが出たときに、精神状態などを含めて、自分のペースを元に戻すのは並大抵のことではないようだ。
ところが今年は、そんなそぶりをまったく見せない黒山だった。開幕戦で小川に勝利を譲り、第2戦九州ではマシントラブルで薄氷の勝利だったが、第3戦近畿大会が中止になり、世界選手権もてぎへ出場して好結果をあげてから、黒山の走りが変わった。
「もてぎを走ってから、前半の調子悪さが吹っ切れた」
と黒山は振り返る。結果、ぎりぎりの勝利だった第2戦以降、最終戦まで負け知らずとなったが、特に最終戦の圧勝ぶりは見事だった。
最終戦の黒山は、10位に入って6ポイント獲得すれば、タイトルを獲得できる。黒山が全日本で10位に入ったことなどないから、多少調子が悪くてもふつうに走っていればそこまで順位が落ちることもないから、黒山にはタイトル獲得についての不安はなにもないということになる。しかし最終戦に向けての黒山は、どうしても勝ちたいという思いで臨んでいた。
「シリーズの1戦は、万が一負けると次の戦いまで悔しい思いをしなければいけない。でもそれが最終戦だと、シーズンオフの間、ずっと悔しい思いをしていなければいけない。シーズンオフを気分よく過ごすために、最終戦は絶対に勝ちたいと思った」
黒山は、最終戦SUGOで野崎に負けたことが2回ある。そこで負けても、タイトルは黒山のものとなり、失うものはほとんどなかったはずだが、しかしそこで、最終戦で負けることを充分に学習した黒山だった。
黒山を追撃すべきは、SUGOではやはり野崎。SUGOでの野崎は、やはりするどい走りが光っている。第5や第6など、みんなが5点をとり始めた難セクションも、持ち前のていねいな走りでクリーンをたたき出していった。しかし今回は、1ラップ目に唯一5点となった第6セクションが鬼門となった。結局ここは、3ラップ中2回まで5点となった。2ラップ目は、ほとんどクリーンで登りきったのだが、わずかに登る勢いが足りなかった。ダニエルで修正したところが、そこにはすでに足場がなく、一気に下まで叩き付けられてしまった。これで野崎は打撲傷も負ってしまって、痛みと戦いながら残るセクションを戦うことになってしまった。
さらに野崎にはトラブルも襲った。といっても野崎本人ではなく、マインダーのマシンにだった。マインダーのマシンが不調に陥っても、野崎のトライには影響がないかに思えるが、しかしマインダーがいなければ、トライはできない。マインダー号をなおしたり、不調で迅速に動けなくなったマインダーを待ったりして、持ち時間がなくなるという不運もあった。しかもこんな中、2ラップ目の第1セクションで5点となって、追撃も万事休すとなった。
しかしそれでも、野崎が黒山に次ぐ2位をキープするには充分だった。3位以下は野崎を追撃するどころではなく、誰が3位になるかで熾烈な戦いとなっていた。
序盤は、第1セクションで1点となった以降クリーンを続けた渋谷勲が好調だった。小川友幸は1点3点1点と、なかなかクリーンが出せないまま試合を進めている。前々回中国大会の前日に指を致命的に痛めてしまって、以後苦しい戦いを強いられている小川だが、この滑り出しの悪さは、必ずしも指の故障とは関係がないのではないかということだ。やはりトライアルにはメンタル面の影響が大きい。ここでなんとかもう1勝をという気負いが、あるいは逆の結果を導いていたのかもしれなかった。
「むしろ、ウォーミングアップでは乗れていて、それで期待してしまったところもあった」
と小川もちぐはぐな試合を振り返る。黒山が3回ともクリーンし、野崎が2回5点となった第6セクションでは、小川はクリーン3点5点と走るほどに調子を落としていった。ここは小川にすれば、絶対的な自信があるセクションだったという。それだけに、なんでこういうことになったか、シーズンオフにはじっくり対策を練りたいという。
小川友幸に4点差で表彰台を逃したのが渋谷勲。
「表彰台というか、もっと上を狙っていたので、4位という成績ではうれしくもなんともないです」
スコアを見れば、第5セクション以降の難セクション群で減点を増やしている。しかし本人はどのセクションもいける確証のあるセクションばかりで、ようやく少し納得いく走りができたのが、3ラップ目だった。
「マシンが300ccとなっていいセッティングも出てきた。もっといいところを狙っていたのに残念。ぼくはトライアルをしていたいから、来年走れるようだったらこのへんを課題としたい」
という渋谷だった。
このトップ4に置いていかれてしまった小川毅士は、この渋谷にさらに16点もの点差をつけられた。2ラップ目は10点だったからまずまずではあったが、3ラップ目にまた減点を増やして、表彰台争いからも遠い結果となった。
「いつもの課題ではあるが、実力をちゃんと発揮できずに結果を悪くしているというところが問題。真壁でいいところに行けたその流れで今年を戦いたかったが、いい流れで戦えなかったのは残念」
6位は田中善弘。2ストロークベータに乗ってから、国際A級デビュー時代の元気を取り戻して、さらに円熟したライディングを見せてくれている。
7位は尾西和博。尾西も、もっと上位が目指せていいライダーの一人。上位勢の壁は厚いし、若いライダーはどんどんあがってくるし、中堅クラスもうかうかしてはいらさない。
8位は今シーズン最上位。西元良太。9位柴田暁とはわずか1点差での8位だった。ポイントをもらえる最後の順位である10位は斎藤晶夫。ノーポイントの11位に三谷英明が入った。11人参加だと、毎回ひとりだけがノーポイントとなるのが、お気の毒(IASに限って、出場台数に関わらず10位にまでポイントが与えられる)。
■国際A級
野本佳章が2連勝。抜群にうまいのに、自ら崩れてしまって勝利を逃すことが多かった野本だが、これでいよいよ強さも本物になってきたか。
野本はIAクラスに昇格した緒戦で6位に入ってさっそく才能を知らしめたが、その後は思うように入賞ならず、しかし昨年は第2戦九州大会で初勝利をあげた。ところがその次の大会ではポイントすら獲得できないという浮き沈みの激しい戦いぶり。それがまた、野本のペースとして定着してしまう危惧すらあった。
今年も、5位4位とはじまったが、北海道で2位となると、中部大会で2勝目、さらに最終戦で3勝目。今シーズンは、ここまで毎回勝利者が異なっていて、2勝を挙げたのは野本ただ一人ということになる。
野本は、中部大会での勝利で、一躍チャンピオン争いのチャレンジャーに名乗りを上げていたが、最終的には5点差でランキング2位となった。野本は来シーズンの国際A級スーパークラス入りを決めている。国際B級もまたランキング2位で卒業した野本だが、本人はチャンピオンを逃した悔しさはあまり感じていないようで、それよりより高いステップに挑戦することの方が楽しみな様子だ。
その野本と同郷、群馬県の藤巻耕太は、2回続けて2位。今シーズンは優勝1回、2位3回で見事チャンピオンとなった。
B級デビューウィンを果たしたものの、けがで全戦を戦うことができずタイトルを獲得できないままA級昇格。2年目の挑戦でタイトルを獲得した。
チャンピオンとして、2勝目がぜひほしかったところだが、聞けば先週はインフルエンザで自宅隔離にあっていたという。練習不足でこの結果だから、まずまずの最終戦だった。藤巻の場合、タイトル争い的にはもっとも接戦で、この戦いで4位以内に入らなければタイトルを逃す可能性もあった。実際、その仮想敵である野本が優勝したので、5位に沈んでいたら土壇場での逆転劇を演出してしまうところだった。5位にはちょうど5点差。優勝とも5位とも5点差という、厳しい戦いの中で得たチャンピオンだった。藤巻も、来シーズンは国際A級スーパークラスに昇格する。
3位は来シーズンも国際A級での戦いを宣言したベテラン本多元治。そして4位には、若い滝口輝が入った。滝口はIA昇格が藤巻と同期。2年目の今年に、少しずつ本領を発揮し始めて、この最終戦では1ラップ目にトップという結果を残した。5位に小野貴史がはいり、小野はこれでシリーズランキング3位を獲得した。北海道での勝利、中国大会での3位と好調だった頃は、チャンピオンの可能性もあったのだが、中部で8位となったところで勢いも失速してしまったのが残念。8位には、青森の高橋由が入っている。高橋はIA初入賞だ。
■国際B級
中部大会でチャンピオンを決めていた山本直樹が、最終戦も勝利して有終の美を飾った。
とはいえ、けっして楽な勝利ではなく、2ラップ目までは今日は優勝は危ないという感じの戦い方だった。1ラップ目7位、2ラップ目6位、この時点で山本の減点は12点。1ラップ目のトップは紺野賢司の3点で、2ラップ目までのトップは藤原竜の7点だった。
とはいっても、勝負は1点2点を争う展開。2ラップ目の時点でトップに5点差。6位といっても、上位5人に対して5点以上点差を縮められれば、あるいは勝利のチャンスもある山本だった。
「クリーンできているのに、簡単なところでぽろぽろ足が出ている」
と、父親で往年のトップライダーである山本弘行さんは唇をかむ。調子が悪いときは、排気音を聞いているだけでわかるんだそうだが、そういう指摘をすると当のライダーが機嫌を壊すから、黙っているのだという。
本人に調子を聞くと「悪いです」とだけ答える。若いライダーから感想を聞くのは、とてもむずかしい。
さて3ラップ目、山本はなんとオールクリーンで帰ってきた。
「オールクリーンができたので、もしかしたら勝てたかなとは思ったけど、自信はなかったです」
という山本だが、しっかり勝利して、全勝優勝でチャンピオンという偉業を達成した。
■エキジビション125
エキジビション125クラスは2名の参加を得て、いつもの倍の盛り上がり。結果は磯谷が大神を5点引き離して勝利したが、結果を国際B級クラスにあてはめると、ふたりともまだまだポイント圏には遠い。国内A級ライダーだからそれでいいという見方もあるが、若手は一気にベテラン勢を突き抜けて、先のステップへ進んでほしい。
さて、来年のE125クラスは、どんな才能が現れるだろうか?
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