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小川友幸、奇跡的大逆転の2018近畿大会
2018年第2戦近畿大会は、4月15日、和歌山県の湯浅トライアルパークで開催された。天気予報は土曜日から日曜日にかけて春の嵐ということで、悪天候はやむなしという覚悟で当日を迎えた。
IASは2ラップ目の大逆転で小川友幸がシーズン初勝利。黒山は1点差で2位となった。3位は野崎史高、4位には柴田暁がはいっている。
夜半の嵐から、雨が残った今大会、IASのトップ争いは、見ごたえがあった。開幕戦のあと、黒山健一が北海道大会を欠場して電動マシンで世界選手権に参戦する発表があり、それを受けての初めての戦いとなった今回、黒山とすれば、タイトル争いからは事実上脱落したが、内容的に最強である実績を残しておきたい。一方小川は、黒山が北海道大会を欠場したから6連覇を達成できたという流れになるのは避けたい。そのためには、北海道までに黒山のポイントリードを奪い返して、逆にリードをとっておきたい。二人のお互いの意地が、どんな形で試合に影響してくるか。
主役は二人だけではない。これまで、全日本のトップ争いといえば小川と黒山の二人に絞られていたが、二人の戦況に変化があれば、他のライダーにもチャンスが出てくる可能性はある。たとえば黒山はタイトル争いから脱落して、気持ちにスキがあるかもしれない(もちろんそんなはずはないはずだが)。小川は絶対王者らしい戦い方をしようと、必要以上に気負っているかもしれない。そこに、野崎史高、小川毅士、柴田暁が割って入る目も出てくる。
そしてそのとおり、試合の序盤は、小川のつまずきから始まった。けっして簡単だったとは言えないが、第1セクションに続いて、何人かが抜けている第2セクションでも5点。次の第4セクションでは美しいクリーンが出たが、第5、第6と3点が続く。優勝争いは遠く、4位争い、もしくは5位争いの渦中でもがくチャンピオン。
こんな中、好調なのは野崎だ。序盤、試合の出だしこそ、毅士や柴田もいい調子を見せたのだが、そのペースを維持できない。野崎は第7セクションまで5点なしで、他を圧勝して試合を進めている。
黒山が北海道を留守にすることが決まって、ヤマハ陣営としては野崎に期待がかかっている。土曜日にヤマハのパドックの前を通りかかってミーティングをちょっと立ち聞きしていたら、黒山が全日本を休んで世界選手権に行く報告をしていて、不在の北海道では野崎が必ず勝つからみんなよろしくと話を締めくくっていた。チームとしてはあるべき挨拶だったろうが、野崎が北海道まで勝利を待つ必要はないのだ。
黒山の調子も悪くはなかったが、不慮のエンストなどもあって、第5、第6と5点を取ってしまった。小川ほどではないが、今日は野崎の勝ちパターン、黒山がなんとか2位を守って、小川は表彰台に滑り込めればラッキーという勝負になる気配が濃厚になってきた。小川を擁すチームの三谷知明監督も、今日はだめだなという表情だ。
とあるセクション、野崎のリヤタイヤがゲートマーカーをこすっていった。マーカーはわずかに曲がったが、オブザーバーには見えなかったようだ。負けパターンの時には、さわったように見える状況で5点を取られたりすることもある。人が採点するものだから、採点にもまぁいろいろある。このシーンを目撃してしまったとき、今日は野崎の勝ちパターンだなと確信した。しかし、試合はまだ先が長かった。
沢のセクション群が終わって、長いコースを走って第8セクションに到着。ここで野崎はこの日初めて5点を喫してしまった。これで黒山はつめよられたものの、いまだ野崎が2点リードしている。このあたりから、天気が回復してきて、晴れ間も見えるようになってきた。第10でのやはり足下をすくわれる登り斜面では、黒山が唯一3点で抜けるも、他はみな5点。これで野崎は黒山に追いつかれて同点になった。この時点で野崎と黒山は、小川には11点のアドバンテージを築いていた。
最終第11はほぼ全員5点。小川のみが3点で抜け、1ラップ目は黒山と野崎が19点でトップ、小川が28点、柴田が33点、毅士が35点。ダンゴの3位争いから、小川がわずかに抜き出していた。ここで野崎が足を強く打って負傷、以降、激痛に耐えながらの戦いとなってしまった。
2ラップ目、小川の追い上げは驚異だった。もともと、土曜日に下見をした小川は「雨でもラップ一桁出回らなければいけない設定」と読んでいた。だとすると、1ラップ目の28点はあり得ないほどに悪いのだが、黒山と野崎の19点もさほどいいスコアでもない。だとしても、ラップ一桁は可能性の問題で、必ず達成できる保証などどこにもない。
ところが2ラップ目の小川は、それを完璧にこなしていった。連続5点となった第1、第2はもちろん、沢のセクションはすべてクリーンし、1ラップ目に減点しやすかった山肌のゾーンでもクリーンを続けていく。
黒山は、第7セクションで痛恨のミス、グリップから手がすっぽ抜けて、5点になった。この日は厳しい難コースに、手をつったり足をつったりするライダーが続出したのだが、黒山の場合、これは持病だそう。それでもこんなふうに試合で手が外れたのは何年ぶりだろうというから、いつもいかに細心の注意を払ってセクションを走っているのかがわかる。
黒山と野崎のトップ争いは一進一退。黒山の第7での5点で、一時は野崎が4点のリードをとったが、次の第8セクションが野崎の鬼門だった。1ラップ目もここで調子を崩した。その思いがエンジンに伝わったろうか。4ストロークツインカムインジェクションエンジンは、野崎を第8の出口まで連れていってはくれなかった。
これで黒山がトップ、1点差で野崎となった。そしてここで小川が野崎に追いついた。トップ3人が、1点差だ。第9セクションで、黒山、野崎が1点、小川はここもクリーン。ついに小川が、この日初めて黒山と並んでトップに出た。もう試合もほとんど終わりかけている。ここまで小川の我慢はよくも続くものだ。
最後の最後、第11セクションで小川は2ラップ目初の1点を献上するも、これで2ラップが終了。黒山はここで2点となり、ついに小川は単独トップ。黒山に1点差でSSを待つことになった。
野崎は第10で5点。小川とは反対に、第8での失敗以降、野崎は我慢の糸が切れてしまった。最終第11でも5点になって、2ラップを終えた時点でトップの小川にちょうど10点差と、SSでの逆転もなくなってしまっていた。序盤の好調からギャップが激しい。
それでも、10セクション2ラップを50点以内でまとめたのはこの3人だけ。柴田は野崎に33点差の66点、毅士はその柴谷9点差で75点。野本佳章が86点、齊藤晶夫が89点、さらに氏川政哉が90点で続いている。
SSの設定場所は、去年とほぼ同じ。SS第1はもてぎの岩盤セクションのようなヒルクライムの上り下り。SS第2はぽんぽんと岩をさばいて最後に大岩に飛びつく設定。10人が思い思いに下見をする。今回は昨年九州大会以来、砂田真彦がSS進出。今年からヤマハ(ただしインジェクションではない)ツインカムエンジンに乗る久岡孝二は、最終セクションでパンチミスがあって7位から11位に急降下、ヤマハでのSS進出を逃してしまった。結果は残念だが、乗れっぷりは上がっているから、次はこのままではすまないはずだ。久岡と同点ながら10位でSS進出を果たしたのは(結果表にはないが、タイム差による)、翌週に通天閣でトライアル、City Trial Japan主催を控えている藤原慎也だ。
SS第1で気を吐いたのは齊藤だった。5点が続く中、最初にここを走破したばかりか、1点で抜けてしまった。野本と3点差を縮められるだろうかと言いつつ下見をしていた姿から一転、セクションをアウトした齊藤は「優勝したみたい」と冷やかされながら、その喜びを隠さなかった。ただし、次にトライした野本もSS第1を3点で抜け、いまだ野本が1点リードだ。
毅士がひとつめの岩盤でつっかかって5点、柴田が3点で抜けた後、トップ3人はきれいにここをクリーンしていった。小川と黒山の1点差の攻防は、まだ決着しない。
最後のSS第2。6位争いの齊藤は、SS第1に輪をかけて気合いがはいっていた。藤原が1点で走破していたから、あるいはという予感はあったものの、齊藤は見事がクリーン、野本にプレッシャーをかけて決着を待つ。
そして野本。すでに齊藤がクリーンを出しているので、ここまでクリーンゼロの野本は、1回足をついた時点で齊藤に6位の座を奪われる。これはやりにくい。結果、野本は2点。悪くない結果だが、齊藤のクリーンの前に、2点は7位転落を意味していた。
毅士の5位、柴田の4位、野崎の3位はすでに動かない。最後の勝負は小川と黒山のトップ争いだ。小川はクリーン数で黒山に勝っているので、黒山クリーン、小川1点なら小川が勝利する。
彼らにとっては難易度はそれほど高くないとはいえ、足がつけないプレッシャーはなかなか厳しい。先にトライするのは黒山。どちらもクリーンしなければ先がないとはいえ、黒山の方がやややりやすい気がする。そしてまず黒山がクリーン。小川のプレッシャーは最大となった。しかし2ラップ目を1点で走りきった小川には、そのプレッシャーもはねのけるパワーがあった。
いまだ、シーズン前の足首の負傷でベストなポジションがとれないままのトライを強いられている小川だが、不屈の精神がその逆境を克服させている。
わずか1点差。開幕戦で敗れた借りを返して、小川友幸は自力での6連覇を目指している。