© トライアル自然山通信 All rights reserved.

化けるか、野崎。ぶっちぎり勝利の2018九州大会
野崎史高が、3年ぶりに勝利をおさめた。今回の野崎は、ライバルも舌を巻く絶好調でのぶっちぎり。2ラップを終えて、SSを待たずに勝利を決めた。
天気予報は雨だったが、雨はお昼ごろまではまったくといっていいほど降らず、雨が降る前に走り終えようとするライダーのペースは全体的に超早かった。しかしIASのトップクラスは雨もなんのその、じっくりセクションを見て試合を進め、雨の中、最小限点をマークして試合を終えている。表彰式は、大雨だった。
今回の野崎には、不安要素が多々あった。前回、近畿大会では岩にヒザを打ち付けて、なんとヒザのお皿が割れる(半月板損傷)の重傷を負っている。ギブスで固めるというお医者さんの勧めを振り切ってでかけた大阪のシティトライアルジャパンでは、しかしこれまたクラッシュ。手首の痛みを訴えて病院へ向かったのだが、手首は激しい打撲で、実はひじを脱臼していた。
そんなこんなでケガが続き、しかもまだ全快とはいいがたい。そんな中での九州大会だった。「ケガは大丈夫」とうそぶくも、大丈夫のわけがない。大丈夫というのは「すごく痛いけれど、痛いのをがまんすればちゃんと動くから、ライディングには影響がないはず」というトップライダー語を日本語に翻訳したものだ。あの人たちのケガに対する耐性は、想定外すぎる。
今シーズン、第1戦、第2戦と、小川友幸(ガッチ)の5点で試合が始まっている。今回、ガッチは第1を美しくクリーン。かと思いきや、今度は黒山が5点だ。丸いヒューム管から石垣に飛び移るむずかしい設定ではあったが、黒山の5点は意外だった。ここは野崎、ガッチ、柴田暁、小川毅士(毅士)の4人だけがクリーンしている。
しかし続く第2、第3で、ガッチは1点、1点と細かい減点を喫する。黒山も第2で1点。野崎、柴田、毅士がクリーンを続ける中、二大巨頭が減点を重ねていく。第5セクションは難セクションで、毅士も柴田も5点。ガッチは入口の岩飛びで失敗し、黒山はもがきながら押し出そうとしたがタイムオーバーで5点。こんな中、野崎がここを華麗にクリーンして、野崎が一気に単独トップに出た。この時点では、野崎が減点ゼロ、柴田と毅士が減点5、小川が7点、黒山が11点だ。
ただし、試合の序盤では、こういうことはたびたびある。それでも一日の戦いが終わると、上位に来るべき人がちゃんと上位に来ている。トライアルはいくつかのセクションを見るだけでは、結果は見えない。1日の戦い、すべてが勝負だ。
第6セクションは、野崎自らが鬼門としていたポイントだった。高いダム型が、その鬼門だった。ここで失敗したら、そのままずるずる減点を重ねてしまうかもしれない。そんな悪い予感もよぎったという。それがいつものパターンだからだ。しかし野崎は思い切りよくトライして、2点で抜けた。ガッチはクリーンしているからここだけを見れば完璧ではなかったのかもしれないが、結果的に、これが野崎に流れを呼び込んでくる。
1ラップ目第7セクション、野崎5点。ここは野崎以外のトップ5はみなクリーンだったから、この5点は痛い。近畿大会では1ラップ目の第8セクションでの5点で圧倒的リードに影が差した。
1ラップ目、第9セクションはトップグループが攻略に悩み、加えて早回りをしていたおかげで持ち時間もたっぷり。誰かが走るまで、誰もトライをしようとしない状況が20分近く続くことになった。この間、IAの2ラップ目が追いついてきてトライをし、さらには野本佳章を先頭に、IASのトップライダーもこれに追いついてきて、あっさりと抜いていく。持ち時間は同点の最後の最後にならなければ勝負の対象にはならないから、ここで急いでもあんまり得はないのだが、少なくともこの時点ではまだ雨は降っていなかったから、雨が降らないうちに先を急ぐ選択はあったはずだ。
ここで待っていたのは野崎、黒山、ガッチ、柴田、毅士、それに氏川政哉。今回の政哉は、トップグループにぴったりつくことで、なにかを盗もうという作戦らしい。
そうこうしているうち、2ラップ目のライダーが次々に追い抜いていき、それを見て少しコンディションをつかんだ面々は、毅士、氏川、柴田とトライして、みな5点、黒山が1点で抜け大拍手を受けたあと、野崎も抜けたと思いきやゲートマーカーを飛ばしていた。最後にトライしたガッチもマーカーを飛ばし、じっくりと待った甲斐があったのは黒山だけで、野崎には手痛い二つ目の5点となった。
しかし今日の野崎は、それでも1ラップ目のスコアを13点にまとめている。これに続くは柴田の15点で、黒山が16点、ガッチが17点、毅士が20点。ミスがないわけではない野崎が、それでも2位に2点差のトップにいる。期待は大きいが、試合はまだ1ラップが終わったばかり。近畿では2ラップ目の終盤までトップにいたのに最終的には3位だから、野崎の応援はどきどきしっぱなしだ。
2ラップ目、IASの半分を含む、ほとんどのライダーはゴールを済ませているから、いまやコースに残っているのは、10名に満たない。この頃から、いよいよ雨が本格的に降り始めて、コンディションは激化する恐れがあった。
2ラップ目、氏川が5点を連発、1ラップ目はクリーン2で9位につけていたのに、2ラップ目は2点と3点がひとつずつで最下位。トータルでも13位と、遅回りの代償を払ったような感じ。柴田と毅士も、それぞれ1ラップ目より減点を増やして、2ラップ目が厳しいコンディションになったのが結果からも見て取れる。
しかし、そんなコンディションの変化をものともしないのがトップ3だ。今回は野崎の調子のよさが光っていて、黒山とガッチは絶好調には見えなかった。それでもこの3人は、雨に濡れた2ラップ目、1ラップ目を上回るスコアをマークしている。たとえば、毅士の1ラップ目と2ラップ目を比べると20点と26点、柴田は15点と27点だが、ガッチは17点から14点に、黒山は16点から14点とわずかながら減点を減らしてきた。雨が降ってのコンディションの悪化と、1ラップ目に手応えをつかんだことの差し引きが、スコアになってくるのだろう。
そして、2ラップ目に最も光ったのが野崎だ。野崎の2ラップ目はたったの5点。難易度はまったくちがうが、野崎の5点は、全クラスを通じてもレディース西村の5点に次ぐ好スコアだ。5点は一つもない。
1ラップ目に失敗した第7は、なんとか2点で抜けきった。ここは黒山がクリーンと1点、ガッチが2ラップともクリーンだから、野崎が5点と2点というのはいい結果ではないのだが、ここが5点なら、あるいはこの日の野崎も近畿の二の舞いになっていたかもしれない。ここを2点にこらえた野崎は、1ラップ目にみんなといっしょに5点となった第9セクションもクリーンして、黒山らが2位争いを繰り広げるのを尻目に、12点差の圧倒的差をつけて2ラップを終えた。
このあとSSがふたつ残っているが、12点差ということは、すでに勝負はついている。黒山とガッチの2位争い、柴田と毅士の4位争い、藤原慎也、野本、吉良祐哉、久岡孝二の6位争いには逆転の可能性があり、勝負の興味はそちらに移っていった。
藤原はSS第1で5点となって万事休するも、SS第2を1点で抜け、3点3点だった野本とは結果同点、逆転を許さず、初めての6位を確定した。
柴田と毅士も、同じような戦いを見せた。柴田がSS第1の登り斜面で失敗、5点となると、毅士がここを1点で抜けた。これで両者は同点となり、勝負はSS第2に持ち越された。毅士が4位を得るには、ここをクリーンして柴田にプレッシャーを与えるしかない。足をついて抜けているライダーばかりだったふたつめのポイント、毅士はクリーンラインを狙ったが、失敗。柴田はここを確実に1点で抜けて、4点差で2戦続けて毅士を下して4位を得た。
そして黒山とガッチの2位争い。こちらは簡単に決着してしまった。ガッチがSS第1で失敗、豪快な登りにさしかかる前に戦線離脱してしまった。黒山はここを3点で抜けたあと、SS第2をガッチが1点で抜けるのを確認して、確実に1点で走って2位を得た。
最後のトライは野崎。すでに勝負は決まっていて、ここが5点でもクリーンでも結果は変わらないのだが、しかしこの日一番うまかった野崎は、SSでも最高にうまかった。誰もできなかったクリーンを、野崎だけがSS第1、SS第2ともに成し遂げて、この大会で圧倒的にうまかった姿を誇示して、戦いを終えたのだった(SS第1の出口では、あんまり調子がよくて、やらなくてもいいジャンプを見せて前転しそうになっていた。圧倒的に強い野崎にすれば、それも笑い話だ)。
野崎の勝利は2015年SUGO以来、約3年ぶり。前回の勝利は2ストロークのスコルパに乗りかえた最終戦で、今回はヤマハの4ストロークエンジンマシンに乗り換えての3戦目。SUGOで3勝、中国大会の原瀧山と九州大会のフィールド幸楽(山口県)で1勝ずつ、今回で野崎の全日本勝利は6となった。
これまでの野崎の勝利は、どちらかというとていねいな走りで神経戦を制す印象の強い野崎だったが、今回は難セクションを次々にクリアしてのぶっちぎり勝利。野崎の新しい勝ちパターンが見えてきた。勝つ実力を持っていながら勝ちあぐねるというのは、歴代のトップライダーによく見られたパターン。それがなにかのきっかけで、勝って当たり前の強い選手になる。それを「化ける」という。たとえばガッチが本格的に化けたのは2013年、世界選手権の藤波貴久は2003年だった。野崎もそろそろその時期が来ているのではないか。
次回北海道は欠場が決まっている黒山は、そこまでの3戦を全勝して、強さをアピールしたいと考えていた。残念ながら2戦目にしてその野望は崩れ、さらに今回も勝利は手に入らず。しかしこれで、ランキングトップのポジションを得ることができた。黒山、ガッチ、野崎、それぞれが2点差でひしめく現在のランキング争い。黒山は1戦抜けることでタイトル争いから事実上離脱するが、ガッチと野崎のタイトル争いが代わって注目のまな板に乗ることになった。
■国際A級
雨が降る前にと忙しい試合となった今回のIAは、ベテランたちの大接戦となった。1ラップ目のトップはIAS経験者の武井誠也。武井は、2ラップを通じて唯一一桁減点をマークしている。
これを追わんとしているのが、永久保恭平(同じくIAS経験者)と徳丸新伍。徳丸は宮崎県のライダーで、まだ勝利がない。地元九州の大会で初優勝を狙っていた。
2ラップ目、徳丸と永久保は減点11で同点。1ラップ目は永久保が1点差で徳丸を押さえていて、一方武井は3つの5点で後退。1点差で、永久保の勝利が決まった。
■レディース
勝負については、西村亜弥の勝利が揺るぎないこのクラス。毎回西村は、納得のいく完璧な戦いをめざしている。
今回、西村の1ラップ目は完璧だった。第7と第8で1点ずつ、あわせて2点が、西村の1ラップ目の減点のすべてだ。それでも、第8の減点はつかなくていい足つきだといい、オールクリーンもできると2ラップ目に入った。それが逆に、西村自身にプレッシャーとなって襲ってきた。
2ラップ目、減点は7点に増えてしまった。それが今回の心残り。それでも、2ラップとも一桁減点に抑えたことで、西村には満足のいく戦いとなった。
2位の小玉絵里加は43点。難セクションに果敢にトライして抜けていたが、西村にぶっちぎられるのはやむなし。その差はなかなか縮まらない。女子ライダーはそろってうまくなっているが、なにより西村がうまくなっていっているからだ。
山中玲美が家族の不幸があって突然の欠場で、今回は3名の参加で、3位は寺田智恵子。小玉に24点差だったが、去年はまったく歯が立たなかったセクションを抜けられたことで、納得の表彰台だった。
■国際B級
45名の参加によるIB。IA同様、こちらも1点を巡る大接戦となった。
雨が降る前に走りきろうと、ペースは早め。しかしリザルトを見ると、セクション飛ばしの10点を献上したライダーが何人もいる。急いでラップを回った結果、セクションを飛ばしてしまったとしたら、なんとももったいない。
勝利した和気聖司は、1ラップ目9点でトップ、2ラップ目は15点と減点を増やしたが、ぎりぎりで逃げ切って1点差で勝利した。
2位は関東の若手宮澤陽斗。1ラップ目の10位から、2ラップ目は堂々トップだった。
3位は、沖縄から全日本遠征を続ける冨名腰慶亮。開幕戦2位、第2戦8位と、安定感のある戦いっぷり。冨名腰は、ランキングトップの和気と、ポイント40点で同点となっている。